英国の資産運用会社シュローダーは「新型コロナ危機による影響にもかかわらず、世界の平均気温上昇は3.9度」をテーマにしたレポートを発表した。同社が2017年に独自に策定した脱炭素社会の実現に向けた取組みの進捗を示す「気温上昇予測ダッシュボード」に基づく分析。シュローダーの日本法人シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社が9月9日に発表した日本語版を要約する。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウン(都市封鎖)によって世界中の空と陸の輸送が大幅に制限された結果、炭素排出量も大幅に削減された。しかし、シュローダーのサステナブル投資グローバル・ヘッドのアンドリュー・ハワード氏は「2020年第2四半期の指標分析によると、現状のままでは世界の平均気温は3.9度上昇し、この数字はパリ協定で合意された目標値のおよそ2倍に相当する」と指摘。そのうえで「炭素排出量が大幅に削減されたとはいえ、気候変動がもたらす脅威には、より積極的な政策、よりスピーディーな資本配分の見直し、より強力な金銭的インセンティブが特に求められる」と促している。

気温上昇予測ダッシュボードは、2015年に合意されたパリ協定目標の達成に向けた各国政府と企業の取り組みの進捗について投資家に情報提供するツールだ。パリ協定は、今世紀中の世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して2度未満に抑えることを目指す。同ダッシュボードはシュローダーのサステナビリティ・チームによって開発され、同社が気候変動に影響すると考える主要な12の要素による気温上昇の予測値で構成されている。

ハワード氏は「世界の長期的平均気温上昇予測が3.9度という数字は前四半期から変わっていない」とする。仮にロックダウンの方針が続けば、世界のエネルギー需要、炭素排出量ともに減少する可能性があり、これは世界経済のマイナス成長に繋がる。これについて、「コロナ危機と同じように壊滅的で、さらに長期的影響を気候変動危機によって被らないようにするためには、構造的変化のさらなる強化が必要だ」とハワード氏は主張する。

20年第2四半期にはプラス要因とマイナス要因の均衡が見られる。プラス要因は炭素価格の上昇と化石燃料への資本投資の縮小、マイナス要因は化石燃料の生産増、再生可能エネルギーの成長鈍化である。一方、レポートは「足元の逆風と将来の機会が両立し拮抗する状況」を挙げる。具体例は電気自動車の販売台数減と内燃機関自動車に対する取り組みだ。20年の電気自動車販売台数は急激に落ち込み、世界全体の既存自動車からの転換ペースを遅らせているが、水準としては自動車産業全体の縮小率のおよそ半分に過ぎない。ハワード氏は「今後は内燃機関自動車の廃止に乗り出す政府が増加し、これが将来的な電気自動車の普及加速の基盤になる」との見方を示す。こうした状況は、気温上昇予測ダッシュボードの多くの指標に共通に見られるという。

レポートは「こうした均衡関係が最終的にどう解決されるかは現時点では明らかではないが、新型コロナ危機が社会全体の変化の推進に政治的リーダーシップが重要と浮き彫りにした。現在観測されるいくつかの早期の指標からは、政治的リーダーシップの発揮に関して楽観的見通しを持ってもいいという示唆がうかがえる」と結んでいる。

【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「HEDGE GUIDE」からの転載記事となります。