武田薬品工業は8月4日、AI(人工知能)を活用した新たな医薬品の需要予測モデルを構築し、日本の製造・供給部門で運用を開始したと発表した。高精度な予測を通じて在庫を最適化し、安定供給を強化するとともに、有効期限切れによる医薬品廃棄の削減を目指す。
同社によると、この取り組みは製薬企業として国内でいち早いものだ。従来の需要予測は、過去の販売実績に基づく統計と担当者の知見を組み合わせて行われてきた。これに対し、新たに導入されたAIモデルは、膨大なデータの中から非線形な傾向や複雑な相関関係を捉えることが可能で、より高精度かつ網羅的な予測を実現する。
医薬品のサプライチェーンは、感染症の流行や治療法の変更などによる急激な需要変動に加え、厳格な品質管理や有効期限が定められているため、在庫管理が極めて重要だ。需要を過剰に見積もれば有効期限切れによる廃棄が発生し、過小に見積もれば患者に必要な薬を届けられない欠品リスクが生じる。今回のAIモデルは、予測データに人の経験や知見も加味して最終判断を下す仕組みとなっており、需要予測の更新頻度と生産計画への反映における柔軟性を高め、急な需要変動にも迅速に対応できる体制を構築する。
この取り組みは、同社がグローバルで推進するサプライチェーンにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環に位置づけられる。当面は、AIが学習可能な十分な過去データがあり、出荷頻度の高い製品を対象に運用を開始し、今後データの蓄積に応じて対象製品群を拡大していく計画だ。
在庫の最適化は、医薬品の安定供給を強化するだけでなく、これまで課題となっていた製造済み医薬品の廃棄削減や、それに伴うキャッシュフローの改善といった、環境・財務両面での効果が期待される。
同社のグローバル マニュファクチャリング & サプライ ジャパンでサプライチェーン部長を務める吉成 友宏氏は、「当社は今後も、需要予測の精度向上と業務の継続的な効率化を進める。これにより、必要な医薬品を必要な時に確実に患者へ届けるという使命を果たしていく」と述べた。
【プレスリリース】医薬品の安定供給の強化を見据えた製造・供給部門におけるAI需要予測の開始について
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