国際機関の世界経済フォーラム(WEF)は去る9月22日、「ステークホルダー資本主義の進捗を測定~持続可能な価値創造のための共通の指標と一貫した報告を目指して~」と題した報告書を発表した。「人」「繁栄」「プラネット」「ガバナンスの原則」をテーマに、企業が業種や地域を問わず報告できる普遍的な環境・社会・ガバナンス(ESG)の指標と開示・報告の枠組みなどを盛り込んでいる。
「新型コロナウイルス感染拡大により悪化した社会不安、経済的不平等、人種的不公平は、企業、政府、標準化団体、NGOからの包括的で世界的に認められた企業報告制度への要求を加速させた」とWEFは今春から9月までのパンデミックの影響について述べる。「企業は主要な報告書の中で、一連の指標をすべて報告することが奨励されている。報告書では、特定の測定基準が実現可能でない、関連性がない、直ちに実施することが困難な場合は、『開示または説明』を推奨している。また、各企業が独自の『ダイナミック・マテリアリティ』の考え方を適用し、自社の事業やステークホルダーにとって重要であると判断されるものについて報告することも推奨する。
指標は、「人」「繁栄」「プラネット」「ガバナンスの原則」の4つを柱に、以下のように定義している。「人」は、企業の公平性と従業員の待遇を反映する。指標には、多様性の報告、賃金格差、安全衛生などが含まれる。「プラネット」は自然環境への企業の依存度と影響を反映している。この柱の測定基準には、温室効果ガスの排出量、土地の保護、水の使用が含まれる。「繁栄」は企業が地域社会の財政状況にどのような影響を与えているかを反映する。指標には、雇用と富の創出、納税額、研究開発費などを含む。「ガバナンスの原則」は企業の目的、戦略および説明責任を反映。リスクと倫理的行動を測定する基準が含まれている。
報告書は、今年1月に世界のトップ120社の一部の企業が、今後より多くの企業での採用が進むようユニバーサルな指標と開示を支持したことを受けての発表。同月に開催されたWEF年次総会2020ではインターナショナル・ビジネス評議会の120名のメンバーがESG指標を強く支持、一部の企業は直ちにESG指標を報告書に組み入れる動きを示した。
WEFの創設者・会長のクラウス・シュワブ氏は「ステークホルダー資本主義を測定可能なものにする、まさに有言実行の時。企業が環境および社会的責任を測定するだけでなく、報告することを受け入れることは、経済の歴史に大きな変化をもたらす」とコメントしている。
ESG指標と開示については、バンク・オブ・アメリカ、デロイト、EY、KPMG、PwCと共同で、企業、投資家、基準設定者、NGO、国際機関とのオープンな協議プロセスを反映。一貫性のある包括的かつグローバルな企業報告システムに向け、既存の開示・報告の枠組みをセットで提供するよう設計されているという。
WEFは、並行して、「インパクト・マネジメント・プロジェクト」と協力。5つの主要な独立したグローバル・フレームワークと標準設定者(CDP、CDSB、GRI、IRC、SASB)を結集し、「発表された共通の指標を補完するものとして機能する、包括的な企業報告システムと意思表示に向けた作業を行っている」と明らかにした。
バンク・オブ・アメリカの最高経営責任者(CEO)でインターナショナル・ビジネス評議会の議長でもあるブライアン・モイニハン氏は「企業は株主に大きなリターンを提供すると同時に、重要な社会的優先事項に取り組まなければならない。これらの指標は、投資家やその他のステークホルダーに明快さを提供し、SDGsの進展に向けた資本の連携を確実なものにする。これこそステークホルダー資本主義の実践」と期待を込める。
なお、WEFは「ダボス会議」の通称で知られる年次総会を、21年は場所をスイス東部ダボスでなく中部ルツェルンとビュルゲンシュトックに移し、5月18~21日に開催すると発表。新型コロナウイルスの流行を考慮した。
【参照リリース】世界経済フォーラム「ステークホルダー資本主義の進捗を測定するために ー 世界のトップ企業がユニバーサルなESG報告に向け行動」