世界経済フォーラム(WEF)の森林経済プログラムのコミュニティリードであるStephanie Burrell 氏はこのほど、持続可能な木材が建設資材に適する理由についての考察を発表した。
持続可能な方法で管理された森林から調達された木材を使用した建物は、気候変動対策として役立ち、森林への投資を促進すると同時に、建設業界にCO2吸収源を創出するとしている。持続可能な木材が世界で主要な建設資材の一つになるべき理由5つを以下のように示した。
1.木材は大量の炭素を蓄える
樹木は大気から炭素を吸収し、炭素の多くは伐採・加工され建物の部品として使用されたあとも、木質バイオマス内に保存される。部品が寿命を迎え、別の長寿命製品にリサイクルされた場合も、炭素は構造内に保存され続ける。
2000トンのCO2を排出するコンクリートと鋼材でつくられた従来の建物と同等の大きさの木造建築は、同量の炭素を貯蔵する可能性がある。木造建築は、炭素集約型の材料の代替により炭素排出量を削減することで環境に好影響を与えるだけでなく、持続可能で適切に管理された森林からの木材の需要を生み出し、森林管理の資金と野生生物の生息地を提供する。
2.木材は、優れた耐久性と耐火性を備える
最新の製造工程では、木材を組み合わせて圧縮することで、非常に強度の高いマスティンバーに加工できる。現在、コンクリートや鋼材など、炭素を排出する耐久性の高い建設資材の代わりに、さまざまな種類のマスティンバーが使用されている。マスティンバーの優れた耐火性や耐震性も証明されている。
3.木造建築は、建設と維持が簡単で費用対効果が高い
木材は軽量で現場で組み立てられるため、コンクリートや鋼材より取り扱いや建設が簡単だ。人工木材は環境配慮型でない代替品と比較して短時間で容易に製造でき、より健康的・安全・快適な作業環境を創出するため、費用対効果も高い。将来的には、コンクリートや鋼材より安価になる可能性もある。
NPOの独Bauhaus EarthのInnovation Labs所長で米Grey Organschi Architectureのプリンシパル兼パートナーであるAlan Organschi 氏は、「コンクリートと鋼材でできた建物の市場規模はマスティンバー産業にはまだ存在しませんが、6~12階建ての建物などでは、コンクリートと鋼材でできた建物の経済性に近づいています。これは、木材のように軽量で加工しやすい材料を使用することで、少人数の作業者が軽量な工具と負荷の少ない機器を使って、事前に製造された木製部品を現場で組み立てられるからです。これらの新しい生物由来の材料システムの潜在的な費用対効果を適切に評価するには、建設の全工程を考察する必要があります」と述べている。
木材は金属・ガラス・コンクリートよりも効果的な断熱材であることから、木造建築は冷暖房の需要を抑え、エネルギーとコストの効率も向上する。
4.木造建築は雇用を創出し、経済を後押しする
持続可能な森林管理から加工・建設までの工程で、地元で調達された持続可能な木材を使用すると、雇用が生まれ地域経済に利益がもたらされる。
いくつかの国や地方自治体は、建設に木材を使用することの環境的・経済的影響を認識し、すべての新しい建物の一部を木材で建設することを義務付ける政策の導入を開始した。フランスでは現在、すべての新しい公共建物に50%以上の木材を使用することが義務付けられている。アムステルダムでは2025年から、新築住宅建設に木材または生物由来の材料を20%使用する必要がある。
今後、木材の建設資材としての重要性が高まるにつれて、世界中のマスティンバーサプライチェーンの活性化が予測される。今日最も一般的に使用されているクロス・ラミネーテッド・ティンバー(CLT)製造工場が増えると考えられるが、CLT製造工場は気候に配慮した方法で展開しなくてはならない。ネットゼロを保証する森林経済の概念に沿って、CLT製造工場への持続可能な木材の供給を需要に比例して拡大する必要がある。木材バリューチェーンの吸収・貯蔵・代替機能全体に包括的な炭素対策を適用し、森林資源の劣化につながる需要を回避するためのツールが必要だ。
5.木造建築は、より健康的な生活環境と労働環境を実現する
人は自然とのつながりを好み、木造建築で生活したり働いたりすることが、快適さと居心地の良さを高め、仕事の効率と創造性に好影響を与えるという研究結果が報告されている。
世界経済フォーラムのオープンイノベーションプラットフォームであるUpLinkと国際的な金融サービスグループの加マニュライフは、「持続可能な森林経済チャレンジ」を開始した。同チャレンジでは、持続可能な森林管理のための革新的で産業規模のモデルを提供するスタートアップを募集している。詳細はこちらから。
【参照サイト】5 reasons why sustainable timber must become a core global building material
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