技術開発と未来の市場を育む「意識変容」。株式会社アシックスはこの両輪でフットウェアのサーキュラーエコノミー実現に挑んでいる。スニーカーのような複合素材製品のリサイクルには技術的な壁だけでなく、生活者の「これはゴミだ」という認識の壁もある。こうした本質的な課題に対し同社が選んだ一手が、成城学園初等学校の小学2年生に向けた体験型ワークショップの開催。子どもたちの心に「モノは変身する」という種をまき、循環が当たり前となる社会を育てようという試みだ。
遊びから学ぶ「資源をゴミにしない」ための協力
授業の導入はグラウンドから始まった。「サーキュラー・バルーン・チャレンジ」という、体を使ったアクティビティである。
ルールはシンプルで、5つのチームに分かれ、風船を地面に落とさないよう協力してゴールまで運ぶ。ここで風船は「大切な資源」に見立てられており、「地面に落とすことは、ゴミとして廃棄すること」を意味する。
風船を追いかけながら、子どもたちが「落とすな!」「気をつけて!」「落としたらゴミになっちゃうよ!」とチームで声を掛け合う。遊びを通じて、資源を循環させ続ける(風船を落とさずにゴールまでつないでいく)ためには、一人ではなく周囲との協力が不可欠であることを体感している様子が見られた。

物語で伝える「ゴミ」が「資源」に変身するための循環
身体を動かした後は、屋内の多目的ホール「つながるーむ」へと場所を移し、物語を通じた学習と資源循環のワークショップが行われた。

サーキュラーエコノミー推進部の奥津翼氏がオリジナルの紙芝居を使って子どもたちに資源循環の仕組みを紹介。ボロボロになり本来なら廃棄される運命にあった靴が、「サーキュラー・チェンジの魔法」によって「資源のかけら」へと姿を変え、再び誰かの役に立つというストーリーである。
「使い終わった靴は、ゴミ箱行きかな? それとも……?」
奥津氏の問いかけに、子どもたちは真剣に紙芝居を見つめる。難しい経済用語を「魔法」や「変身」という言葉に置き換えることで、子どもでも無理なく物質が形を変えて循環する様子を学ぶことができていた。
「変身の素」に触れて、何が作れるか考える
紙芝居の後は、実際に子どもたちが資源循環について考えるワークショップが行われた。はじめに、サーキュラーエコノミー推進部 部長の村岡秀俊氏が、子どもたちに、スニーカーが細かく粉砕された後のカラフルな粒や繊維状の綿のような素材を実物を見せながら紹介。

「これが、みんなが履いている靴が変身した姿の『変身の素』だよ」
村岡氏がそう言うと、子どもたちは一斉に素材に注目。実際に手を伸ばし、「え、これが靴だったの?」「なんかふわふわしてる!」「本当だ、靴の匂いがするかも!」と声が上がった。視覚、触覚、そして嗅覚で「元靴」であることを確認した後に「この素材から何が作れるか」という問いに向き合った。
ここからは5つのグループに分かれ、「この『変身の素』を使って、どんな新しいものが作れるか」というテーマについてグループでアイデアを出し合う。各机の上には、粉砕されたチップや繊維素材の実物と色鉛筆、画用紙が広げられた。最初は素材を観察していた子どもたちも、実際に素材に触り、友だちと話し合ううちに具体的なアイデアが出はじめた。
「このふわふわ、ぬいぐるみに使えるんじゃない?」
「こっちの硬い粒は、スマホカバーにできそう!」
「食品サンプルのチョコレートみたいに見えるよ」
「これ何に見える?」「もっとこんなの作れそう!」
互いに意見を交わしながら、画用紙にカラフルな絵と文字でアイデアが書き込まれていく。子どもたちの自由な発想力で、既存の製品カテゴリーにとらわれない用途のアイデアが次々と生まれていた。

家具から食品サンプルまで、自由な発想で広がる循環のアイデア
ワークショップ後には、各グループによるアイデアの発表が行われた。あるグループは、素材の柔らかさに着目し、「ソファー」「クッション」「ベッド」といった家具類を提案。別のグループからは、カラフルなチップをパフェやソフトクリームのトッピングに見立てた「食品サンプル」という案も出た。さらに、「太陽のまくら」というネーミングや、「ヒゲの仮装に使える」といった、大人では思いつかないユニークなアイデアも登場し会場からは拍手が送られた。
「家」や「テント」、「ツリーハウス」など建築資材としての活用を提案する声も上がった。スニーカーの廃材から生まれた資源が子どもたちの発想により、都市や生活空間全体へと広がっていく。そんな未来の可能性を感じさせる場面だった。
技術開発と次世代教育で「複合素材の壁」に挑む

イベント終了後、村岡氏は取材に応じ、この取り組みの背景にある産業的な課題と戦略的意図について語った。
「靴のリサイクルが進まない最大の理由は、ゴムや樹脂、繊維が強固に接着された『複合素材の塊』だからです。我々はこの課題に対し、欧州で『NEOCURVE(ネオカーブ)』という循環型シューズを発売し、技術的な解を提示しました」
NEOCURVEは、廃棄予定のシューズを粉砕・洗浄し、再びシューズの原料として活用する水平リサイクル(Shoe-to-Shoe)を実現した製品だ。開発にあたっては、欧州の著名なデザインチームと協業し、リサイクル素材特有の「つぶつぶ感」をあえて隠さず、テクスチャとして活かすデザイン戦略を取ったそうだ。
「技術的にはリサイクル材を50%混ぜることも可能ですが、耐久性や品質とのバランスを考慮し、現在はパーツ単位で約20%の混合率としています。しかし、サーキュラーエコノミーの実現にはこうした技術だけでなく、使い手である生活者の意識変容が不可欠だと考えています」
また、村岡氏は、今回のワークショップで見せた子どもたちの反応について、次のように述べた。

「子どもたちの『靴が家の壁になるかも』という自由な発想は、我々が陥りがちな思考の枠を広げてくれます。何より、幼少期に『モノは変身する』という原体験を持つことが、将来的に循環型製品が当たり前に選ばれる市場の土壌を作ると確信しています。今後はケミカルリサイクル技術の導入なども視野に入れながら、循環が特別なことではなく『標準機能』になる未来を目指していきます」
編集後記
技術開発だけではサーキュラーエコノミーは完結しない。アシックスの今回の取り組みは、製品の作り手だけでなく、使い手である生活者の意識と行動が伴って初めて循環の輪が完成するという、本質的な課題へのアプローチだ。子どもたちの心にまかれた「モノは変身する」という種が、将来、循環型社会を支える大きな力へと育っていく。今回の授業からは、すぐには成果が見えなくとも次世代に託すという企業の覚悟が伝わってきた。
(取材・撮影・編集/和田みどり)
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