気候危機や資源制約といった地球規模の課題が顕在化するなか、日本においても「サーキュラーエコノミー(循環経済)」という概念が徐々に浸透しつつあり、ここ数年で企業や人々の関心も「サーキュラーエコノミーとは何か?(WHAT)」という問いからそれを「どのように実践するのか?(HOW)」の問いへと移りつつある。
サーキュラーエコノミーの概念を素材や製品、サービスやビジネスモデル、システム全体へと実装する手法は「サーキュラーデザイン」と呼ばれている。その具体的なアイデアや実践を共有し、インスピレーションを与え合う場として進化を遂げているのが、クリエイティブな循環型のビジネスモデルやサーキュラーデザイン実践を表彰する国際的なアワード「crQlr Awards(サーキュラーアワード)」だ。
FabCafe Globalと株式会社ロフトワークが主催し、今年で3回目を迎える本アワードでは「直線型ではなく循環型の評価を行う」「名声ではなく行動のためのアワード」「グローバル視点を獲得できる」の3つの点を大切にしており、審査基準を下記の通り公表している。
- クリエイティブであるか?サーキュラーエコノミーへの洞察があるか? For People
- 資源循環だけでなく、環境に対してポジティブな影響を与えられているか? For Planet
- サーキュラーエコノミーを目指す社会、企業の課題に対し、解決策を示しているか? For Profit
今年集まった141の応募プロジェクトのほとんどが、私たちの暮らしに直結するアイデアや斬新でクリエイティブなアイデアに溢れていた。マテリアル、製品とサービス、アート、教育、まちづくり、仕組みなどさまざまな視点から提案されたプロジェクトの中で最終的に特別賞に選ばれたのは以下の3つのプロジェクトだ。
シー・ベジタブル・サーキュレーション
合同会社シーベジタブルは、磯焼けにより減少しつつある海藻を採取して研究しながら、環境負荷の少ない陸上栽培と海面栽培によって蘇らせ、海藻の新しい食べ方の提案を行っている。海藻採取・分類の専門家、藻類の種苗生産の研究者、水質や栄養分析の専門家など、多くの専門家が分野を横断して海藻の基礎研究から栽培技術の確立まで取り組んでいる。
プロジェクト詳細:https://crqlr.com/crqlr-awards/2023/winners/sea-vegetable-circulation/
ギルティ・フレイバー
写真の作品は、アイスクリームの風味付けに20ミリグラムのPETプラスチック廃棄物を使用した食品サンプルである。これは、人間の体を「プラスチックを分解できる機械」として捉え、他の生物たちが地球中に溢れたプラスチックの分解に順応している中、人間はどう適応できるかを問うアート作品である。アイスクリームが施錠された冷蔵庫に入っている理由は、現在私たちがマイクロプラスチックですでに食してしまっている成分と類似した成分でアイスクリームがつくられているにもかかわらず、新たな技術、成分として安全性の検証をする必要があるという滑稽さを表現している。食品のシステムや政治の急速な変革がいかに重要かをアート作品で訴えかけているのだ。
プロジェクト詳細:https://crqlr.com/crqlr-awards/2023/winners/guilty-flavours/
森林循環‧林業創生・リウッド
REWOODは「地方創生」を通して「森林残材のサーキュラーエコノミーモデルをいかに推進するか」を探求する台湾発のプロジェクト。地方創生と循環型生産の持続可能な発展を支える、優れたビジネスモデルの創造を目指している。森林残材を使ったバイオ炭や木酢液の製造、森林保全局などと連携により、800万ドルをこえる付加価値を生み出している。
プロジェクト詳細:https://crqlr.com/crqlr-awards/2023/winners/rewood/
話を聞いた審査員
数多くのエントリーがあった中で、世界のサーキュラーデザインの第一線で活躍する審査員が何を基準に入賞作品を選び、またどんなプロジェクトに刺激を受け、そしてこれからのサーキュラーエコノミーに何を期待するのか、座談会の場で審査員の思いを聞いた。「日本でサーキュラーエコノミーのビジネスに取り組んでいるが、システムやインフラのデザインについて課題を持っている」という企業や、「より拡張性のある循環型ビジネスの開発や展開を目指している」という方に読んでいただきたい内容だ。
座談会に参加したのはデンマーク・IKEAイノベーションラボ「SPACE10」の共同創業者ギオム・シャルニー-ブリュネさん、株式会社大阪鉛錫精錬所代表取締役社長の廣末 幸子さん、台湾嘉義市文化局局長のルーシー・ルーさん。三者三様の専門を持つお三方のcrQlr Awardsへの想いについて、主催のFabCafe Globalからケルシー・スチュワートさんをファシリテーターに、今回のアワードを振り返る。
審査員:ギオム・シャルニー-ブリュネ
2021年に審査員として参加後、2度目の参加。15年に渡り、大企業が変化を予測し新しい解決策を発展させていくための支援を行なってきた。2015年にコペンハーゲンに移り、SPACE10を共同設立してからは、ストラテジー&ディベロップメント・ディレクターとして、IKEAと協力しながら、世界中の才能ある人々との幅広いネットワークを活用し、デザイン、ビジネス、持続可能性の交差地点で活動している。
審査員:廣末 幸子
高度経済成長期の渦中、アートとサイエンスの世界が滲み混ざる空間で活動。人間の健康における環境の役割を提唱するべく、DIY Open Scienceを通して、グローバル連携を推進。現在は、大阪鉛錫精錬所の4代目社長として、鉛・超硬再生の未来に挑戦している。
審査員:ルーシー・ ルー
台湾嘉義市の文化的・創造的景観において重要な地位に就き、同市の文化局長として、芸術的方向性を形成する重要な役割を担う。Taiwan Design Expo ’21のチーフ・キュレーターを務め、嘉義市にて革新的で魅力的な展覧会の企画を主導した。現在は、Taiwan Design Allianceの副事務総長として、台湾のデザイン界におけるコラボレーションと卓越性の醸成に尽力するほか、デザイン・コンサルティングの分野においても、Demeter Design Consultant Co., Ltd.のディレクターとしてリーダーシップを取っている。*crQlr Awardsに自治体政府から人を招待するのは初めて。
ファシリテーター:ケルシー・スチュワート
crQlr Awards チェアマン/ Loftwork Sustainability Executive。2017年にLoftworkとFabCafeに入社。FabCafe Chief Community Officerとして、FabCafe Global Networkのまとめ役を務め、世界各地のFabCafeのローカルクリエイティブコミュニティの育成と、それらのコミュニティとグローバルネットワークを繋いでいる。加えて、持続可能な開発目標の短期的な解決を目指した2日間のデザインソンである「Global Goals Jam(GGJ)」の東京開催の主催者でもあり、本イベントを過去に東京、バンコク、香港の複数都市で企画・実施した。
キーワードは「インフラ」「フロー」「創意工夫」
Q. 過去最多となる140以上もの応募作品がある中で、審査基準としていたものは?
ギオム・シャルニー-ブリュネさん「サーキュラーエコノミーに不可欠となる柱、3つのP(People、Planet、Profit)に加え、私個人の審査基準としては以下の3点に重点を置きました。それは、インフラ、フロー、創意工夫です。
サーキュラーエコノミーで成功するためには、原料の収集から加工、再販、再利用までのスムーズな流れを可能にする効率的なインフラが極めて重要です。ですから、どんな資源や機械、運輸、そして人々が、持続可能で拡大可能性を持つために必要か?そしてそれが現実的か?以前は不足していた新しいタイプの地元インフラを構築するか?もしくは、公的機関が提供する既存のインフラを、新しい価値をもたらすために賢く利用しているか?といったところを重視しました。特に、既存のシステムの中でインフラの欠如のために廃棄や焼却に回ってしまう資源を活用するインフラの構築には、ワクワクさせられます。
?フローの面では、モノや素材の面に加え、関係者全員に対する確な価値提案を含んでいるプロジェクトを高く評価しました。具体的には、材料が効率良く、地元で調達・収集・転換・再販できるかといったことに加え、すべての利害関係者が時間が経つ中でより関わりたいと感じられるのに十分な価値を提供しているプロジェクトです。
創意工夫、あるいはオリジナリティも私が重視する基準のひとつです。その製品やプロジェクトは本当に必要とされているものか?サーキュラーエコノミーに意外性や革新性をもたらしているか?もしくは、既存の方法を、大幅に改善するものなのか?といったことです。
また、『スケーラビリティ(拡張可能性)』について簡単に述べると、インフラ、フロー、創意工夫を包含する拡大可能な解決策は、市場に適合し、より広範な影響力を持ちます。プロジェクトの拡張可能性は、そのプロジェクト全体の成功に寄与し、さらなる投資を呼び込み、そのインパクトを増大させることができます」
廣末幸子さん「私は、32年間アメリカ合衆国やスイスでバイオメディカルエンジニアとして経験を積み、遺伝子治療などの分野に携わり、現在は鉛錫のリサイクル会社にて4代目社長をしています。長年、『芸術が科学の発展にどのように影響してきたか』に関心を持ち、過去にアートと科学のフェスティバルなどの活動にも積極的に関わってきました。審査にあたり、私たちの健康に直接関わる『環境』の側面とビジネスを成り立たせるための『循環』の側面を重要視しました。加えて、ソーシャルデザインや歴史的側面を考慮し、地域に根ざした作品・活動であるかに注目しました」
ルーシー・ルーさん「私は、台湾嘉義市で市政府文化局長として100年前に建てられた日本式木造建造物を活かしたサーキュラーエコノミープロジェクトに取り組んでいます。また、行政側からサーキュラーエコノミー促進に関わっている経歴から、サービス、製品、デザイン、マテリアル、システムなどの側面から『独自のエコシステムを生み出すプロジェクトかどうか』を重視しました。また市政府の立場から循環経済促進にインフラの重要性を感じていて、ギオムさんが先に話した『隙のないインフラかどうか』という審査項目には賛成です。加えて、現在携わっている地方創生の視点から、『日本の伝統技術で文化を復興させる』といったような活動がより目に留まりました」
感銘を受けたのは、予想を超えたコラボレーション
Q. 選考過程でインスピレーションを受けたことはありますか?
廣末幸子さん「異なる視点や文化的背景から生まれたアイデアやビジネスモデル、予想外のコラボレーション、多様性に感銘を受けました。読んでいて本当に楽しませてもらいました。同じ資源的でも、似ているようで、違う角度から展開しているものに新しい気づきをもらいました。また、研究畑出身で製造業に携わっている私にとって、このcrQlr Awardsに応募している多くの方たちがアイデアを実際に具体的な行動に移していることが、新鮮でした」
ギオム・シャルニー-ブリュネさん「『予想外のコラボレーション』については特に同感です。また、審査員として重要なのは、応募作品の本質を見極めることだと思います。美しいビジュアルや文章で素晴らしく見えるプロジェクトもありますが、本質を見極めるには、プロジェクトの内容を少し掘り下げる必要があり、私はそのプロセスを楽しませてもらっています。
特に日本発のプロジェクト『シー・ベジタブル・サーキュレーション』には一番ワクワクしました。シーベジタブルの紹介ビデオを見ると、プロジェクトを通し、地元の人々が天職を見つけたことが伝わってきます。陸と海、研究チーム、そして地元の高齢者も共創していて、さらに科学者や生物学者、シェフなど協力してレシピを開発・公開するなど、協力体制が良くできています。プロジェクトとして、目的を持った価値提案のフローが見えました」
ルーシー・ルーさん「私は3つのプロジェクトから感銘を受けました。1つ目は、持続可能な社会をつくる『くらしのサス活 Circular Action』です。マンションの共用部分に設置したボックスに集められた不用品を再流通させる仕組みで、新しいものを売って利益を得るのではなく、居住者のリサイクル・リユースがマンションの管理組合の収入源にもなるシステムデザインに感銘を受けました。
2つ目は、『シー・ベジタブル・サーキュレーション』です。このプロジェクトは、人にとっての利益である雇用機会を提供するだけでなく、環境にとっての利益である海の回復にも力をいれている点が素晴らしいと思っています。
3つ目のプロジェクトは、台湾発の森林循環・再生プロジェクト、『リウッド』です。単に製品を売ろうとするのではなく、サーキュラーエコノミーに人々の営みが交じり合っている点がいいです。また、政府と団結し、問題を共有し、一緒に取り組むことでwin-winの状況を作り出しています。行政で働くデザイナーである私から見て、複雑なサーキュラーエコノミーを総合的に捉えるのは難しいですが、今回の応募者の多くが、自分のプロジェクトだけに焦点を当てるのではなく、システム全体として考えているのが印象的でした」
crQlr Awardsを助け合いのきっかけにしたい
Q.これらの入賞者とサーキュラー・エコノミーの未来をどう考えますか?
ギオム・シャルニー-ブリュネさん「まず、応募作品の成熟度と質の高まりが、未来に希望を与えてくれると感じました。そして、将来、サーキュラーエコノミーがあらゆるところに普及し、資本主義経済の対極にある異質なものであるかのように語られることさえなくなり、サーキュラーエコノミーが理想の経済と捉えられるようになってほしいです。
また提案の質の高さにもかかわらず、選ばれなかった素晴らしいプロジェクトがたくさんありますが、それらのプロジェクトにはぜひインパクトを拡大するためのフローや適材(人材、マテリアル、手段など)を見つけてほしいです。たとえば、このcrQlr Awardsで過去にImpossible materialという非常に小さな会社がケンブリッジの研究室から2名で参加していました。受賞には至りませんでしたが、アワード開催後に投資案件として十分に価値あるプロジェクトとなり、IKEAが最初の投資ラウンドでマイナー投資家となりました。このように小さなプロジェクトが、適切なサポートを得てサーキュラーエコノミーを加速させていってほしいです」
廣末幸子さん「さまざまなプロジェクトに多くの共通点があると感じました。crQlrアワードが互いに学び合えるコミュニティを構築するプラットフォームになれたら、と思っています。何かを変えるということは、文化的なムーブメントを起こす必要があり、そのためには、ビジネスパーソンやアーティストなど、さまざまな人々が必要になってくると思います。私は、crQlr Awardsの応募者が、サーキュラーエコノミーというテーマで互いと繋がる手段としても捉えてくれるといいなと思います」
ルーシー・ルーさん「ギオムさんが言ったように、サーキュラーエコノミーがこれからの経済を語る上で、もはや型破りな経済として語られなくなれば良いなと私も思います。また、木材産業に関連するプロジェクトも多く見られました。嘉義市としては、木材産業に関連する全てのプロジェクトとの意見交換をしたいと思ってます」
ギオム・シャルニー-ブリュネさん「何十年もの間、私たちはモノの消費と廃棄を前提にデザインしてきましたが、製品やサービスの循環を前提としたデザインは、サーキュラーエコノミーの大きな促進剤となると思います。
例えば、今回の入賞事例であるMATRは、マットレス(特にホテル用)のサーキュラーエコノミーを実現しています。マットレスは心理的な要因から、リサイクルや再利用が非常に難しいです。長年にわたり、マットレスは人々の快適さを最大化するよう設計されており、環境への悪影響が増大しました。
しかし、いまそのビジネスモデルは変わりつつあり、MATRは回収を前提とし、新たにマットレスを再生させています。さらに、MATRは原料フローを自社で確保しており、簡単に交換できるようなモジュール設計を採用しているため、張替えコストが低く抑えられているのです。改修コストが低ければ低いほど、最終顧客にとっての価格は安くなり、それが迅速な導入につながります。
私は、サーキュラーエコノミームーブメントとは、小さな変化の積み重ねで大きな変化をもたらすものであり、それはデザインから始まると確信しています」
廣末幸子さん「MATRのビジネスモデル、いいですよね。ギオムさんと同感です。ビジネスモデルの時間軸や素材の循環がうまく設計されているなど、よく考えられているなと思いました」
変革の時代に求められる、システム視点でつながりを捉える力
Q. 日本でサーキュラーエコノミーを前進させるにはどうしたら良いでしょうか?
廣末幸子さん「日本には江戸時代から循環システムがありました。法的、歴史的・社会的、地理的、利益的側面など、多くの側面があり、一言でこうしたらいいとは言いにくいです。
社会が既に動き始めているように、資源のトレーサビリティは重要です。私たちひとりひとりがそのモノを構成する一つ一つの資源がどこからどのくらいのエネルギーをかけて、誰の手を経て来て、どこでどのように捨てられ、分解されるのかを知ると世の中が変わっていくと思います。また、どこまで何が繋がっているのかをシステムとして捉え、一つ先、上下左右、過去と未来、360度を見渡すことで生まれる思いがけないコラボレーションとパートナーシップこそが、サーキュラーエコノミーが日本に根付く鍵だ思います。自分の考え方をもった、日本にいる若い人たちからは好奇心と色々なものを繋げていく行動力を感じており、とても希望を持っています」
ギオム・シャルニー-ブリュネさん「サーキュラーエコノミーの日本での具体的な状況については、この10年で私が見てきたことについてお話しさせてください。
10年前、私たちがSPACE10としてスタートした頃は、まさに“気づき”の時代でした。私たちは皆、ハンバーガー1個が4,000リットルの水を必要とし、自重の100倍以上のCO2を排出しているといったTrue Cost(真の代償)に気付き始めた頃でした。しかし、世界的にはその事実は反映されておらず、当時は環境や社会への影響は考慮されていませんでした。
しかし、今日の私たちの世代は、経済の無駄な設計がなにをもたらすのか、完全に認識できていると感じます。そして今、「抜本的な変革」の時代に突入しています。考え方を変えるには時間がかかりますが、物事が変わり始めると波及効果が起こり、デザイナーはサーキュラーエコノミーのためのデザインを始めるかもしれませんし、投資家は投資に興味を持つかもしれません。最終的には、双方にとっての利益を生み出せる。そうなれば、きっといろいろな変革が起こると思います」
ルーシー・ルーさん「私が日頃ウォッチしている木材関連の循環経済の観点から日本の住宅を見てみると、日本の伝統的な木造建築はコンクリートで新築するよりも二酸化炭素排出量が少ないという研究結果が出ています。また、木造建築を基盤とすることで、文化の保存にもつながります。台湾と日本の間で学びあい、アイデアを交換できたらと思っています」
今年のポイントは「新しい関係性のデザイン」。FabCafe Globalとロフトワークの視点
座談会直後、ファシリテーターを務めたケルシー・スチュワートさんに、crQlr Awardsのこれまで3年間と今後の展望について伺った。
Q. まずは今日の座談会を振り返ってどう感じますか?
今回の特別賞のキーワードにも通じることですが、「新しい関係性のデザイン」を考えさせられました。「関係」という言葉には本当にさまざまな意味があります。「漁師と海苔を売りたい人との関係」なのか、「家具職人を夢見る地元台湾の人と、そうでなければ廃棄物になってしまう木材を提供してくれる街との関係」なのか、「消費者と携帯電話会社との関係」なのか。
「関係性のデザイン」とは、さまざまに翻訳され、表現され、活性化され得る言葉です。FabCafeやロフトワークが行っているのは、コミュニティをつくり、関係性を活性化させることです。crQlr Awardsを通してコミュニティを活性化させ、長期的なインパクトをもたらすエコシステムを作っていけたらと思っています。
Q. この3年間を振り返って思うことはありますか。
crQlr Awardsを始めた最初の年は、ほとんどすべての活動はオンラインで行われました。FabCafe Tokyoで少人数でサミットを開催し、オンライン配信を行いながら人を集めました。非常に素晴らしい取り組みで、3年間のうち最も多くの応募があった年でしたが、一方で、オンラインで実施しただけに、コミュニティとして形に残る成果を生み出すのは難しかったです。もちろんコロナ禍で、オンラインで人々とつながる方法について多くのイノベーションが起こりましたが、サーキュラーエコノミーでは、まだ物理的な課題について議論することが必要です。製品やサービスについて話すことはできますが、結局のところ、私たちがごみ捨て場で目にする廃棄物やリサイクルされるバッテリーは、非常に物理的なものだからです。
この3年間を振り返ってみると、まず第一に、パンデミックの影響で混乱したサプライチェーンが新しいwin-winの状況を見つけるために考える時間を持てたのが良かったと思います。第二に、コロナが終息したので、今まで以上に私たちは互いの距離を縮めようとしています。東京だけでなく、バンコクやバルセロナでも展示会が開催されます。人々を引き寄せ、同じテーブルに座って、お互いの課題や価値提案について語り合いたいと思っています。
Q.今年のcrQlr Awardsは過去2回の開催とどう変わりましたか。
今年、大きく変わったのは、FabCafe Tokyo内で展示を行うようになったことです。また、すでにさまざまな種類のコミュニティを立ち上げています。サステナビリティに取り組んでいるところもあれば、そうでないところもありますが、今年は展示を主催し、日本、バンコク、バルセロナで受賞プロジェクトの接点づくりをすることは、私たちにとって新たなチャレンジです。
また、FabCafe Tokyoでの展示は、いつでもみにくることが可能です。そして、今年はエキシビション・ツアーも開催する予定です。このツアーでは、個々の製品、crQlr Awards、パートナーの紹介だけでなく、一緒にテーブルに座って情報を咀嚼し、互いに紹介し合うことで、サーキュラーエコノミーへの次の一歩を踏み出すパートナーを見つけられるかもしれません。
サーキュラーデザインの対象は、ビジネスモデルへ
Q. 今後、どんな視点が大切になってくると思いますか?
先ほど、ビジネスモデルの多様性についての話が出ました。私にとっては、これはとても重要な点です。アップサイクルの世界では、再利用、堆肥化、リサイクルなどによって、廃棄物に新たな価値を見出したと言えます。そして、その廃棄物をどのように利用するかといったアイデアを持っていれば素晴らしいですが、そこからどのようにビジネスを作るか、あるいはこの課題からどのようにwin-winの状況を作り出すか、より大きなスケールで捉えることは、もっと重要です。このcrQlr Awardsでは、このような視点で考える人が増えてきています。
循環型ビジネス・モデルを見て、消費者として参加するのか、ビジネス・パートナーとして参加するのか、あるいはフィードバックや質問をする人として参加するのか、自分がどこに参加できるかをより多くの人に考えてほしいのです。今回のアワードも単に受賞者に注目するだけでなく、彼らのビジネスモデルについて考え、あなた自身がそれにどう参加できるかを考えてほしいなと思っています。
Q. crQlr Awardsの今後の挑戦・展望を教えてください。
crQlr Awardsでは、デザインによって、一般の人々、専門家、そしてその中間にいるすべての人々が感動し、刺激を受け、気づきを得られるような多様なプロジェクトを歓迎しています。一方で、共通言語を作り、使いこなすにはまだ多くの課題があります。なぜなら、新しい言語を作れば作るほど、それに付随する新しいテクノロジーがあるからです。そこで私が期待しているのは、コミュニティをまとめ、炭素クレジットやデジタル・パスポート、あるいは政府による新政策の準備など、さまざまなことを話し合えるようになること。2022年は、crQlr Awardsに関わった審査員や受賞者、コロンビア大の学生などが上勝町で学びあうツアーを実施し活発に議論しました。こうした交流の場を広げていきたいです。
編集後記
今年で3回目の開催となったcrQlr Awards。審査員には世界のサーキュラーデザインの第一線で活躍する専門家が名を連ねる。今回、その審査員の方々の座談会に参加するという貴重な機会をもらった。座談会では今後の日本のサーキュラーエコノミーの発展において重要な鍵となるキーワードが数多くちりばめられていたが、中でも印象的だったのは、審査員のギオムさんがおっしゃった「小さな行動一つ一つが大きな変化をもたらす」という言葉だ。
今回受賞作品として選ばれたプロジェクトもそうでないものも、新たな循環型の経済・社会システムへの移行に向けてそれぞれの場所で大きな役割を果たしており、その一つ一つの実践の積み重ねが全体のエコシステムを形成し、システム変革へとつながっていくのだ。
また、今回の座談会からは、サーキュラーデザインの対象を目に見える素材やプロダクトからそれらを取り巻くビジネスモデル、システム全体へと拡張し、システムに関わるステークホルダー全員にwin-winの価値がもたらされるような関係性のデザインを実現することの重要性を改めて感じさせられた。
日本においてもここ数年でサーキュラーエコノミーにフォーカスした製品やサービスが徐々に増えつつあるが、それらを持続的に提供するための経済性を伴ったビジネスモデルや関わるパートナー、ステークホルダーに恩恵をもたらすシステムやインフラのデザインについては課題を持っているという企業も多いのではないだろうか。
より拡張性のある循環型ビジネスの開発や展開を目指している方は、ぜひ今回のcrQlr Awardsの作品を見ながら、そのヒントを見つけていただきたい。そして来年はぜひ自らアワードに応募し、サーキュラーエコノミーへの移行に向けた一つの小さな変化を作っていただければ幸いだ。
また、2024年3月1日から24日まで、渋谷FabCafe Tokyoで循環型経済における「新しい関係性のデザイン」をテーマにした展示会「crQlr Awards Exhibition: New Relationship Design」を開催する。crQlr Awards 2023の特別賞を受賞したプロジェクトを中心に、展示やプロジェクトの紹介、期間中には審査員と受賞者が集うオンライントークイベントなども予定しているのでぜひ注目してほしい。(詳細はこちら)