国内初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表しゼロ・ウェイストに取り組む町、徳島県上勝町。ゼロ・ウェイストや葉っぱビジネスなど、これまで町の取り組みが国内外で注目されてきた。そんな上勝町で2020年5月にオープンした、廃棄物分別回収施設と住民のコミュニティ施設、体験型宿泊施設が一帯になった「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」(以下、WHY)が話題になっている。過日行われたオンラインツアーからその全貌を紐解いていこう。
上勝町の歩み
これまでの上勝町の歩みについて簡単に触れておきたい。説明するのは、株式会社BIG EYE COMPANY CEO(Chief Environmental Officer)の大塚桃奈さんだ。同社は、町の公共施設であるWHYの管理・運営を担う。同社がWHY誕生の際に未来を担うリーダー(CEO)を募集したところ、大塚さんが新卒で就任することになった。
左が株式会社BIG EYE COMPANY CEO 大塚桃奈さん
「上勝町は、徳島市から車で40分のところにあります。100m-700mに位置する中山間地域で、86%は森で覆われる山村地帯です。2020年6月時点で1494人の人口で、その約半分を高齢者が占め、過疎化が進んでいます。そんな上勝町の日比ヶ谷というエリアには田んぼがあったのですが、そこでは廃棄物処理として野焼きが行われていました。そして、1998年に小型焼却炉2基が設置され、(問題だった)野焼きから解放されました。(その後2001年、ダイオキシン規制に加えて、財源の制約によって焼却を減らすために小型焼却炉2基とも廃炉になり、ごみの35分別が始まった。)それからは、焼却炉を利用・新設するのではなく、徹底的に焼却を減らす取り組みを独自で行ってきました。その後、ゼロ・ウェイスト運動を推進するポール・コネット博士(アメリカ・セントローレンス大学教授)の勧めを受け、2003年に日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を発表したのです。
2020年までに焼却・埋め立てごみをゼロにするという目標を掲げ、今は13種類・45分別の分別活動を実施しています。2018年にリサイクル率80%を達成したのですが、残りの20%という数字は、町民だけの力では成し遂げられません。ごみの種類によってはリサイクルに高い費用がかかるものもあったり、そもそもリサイクルが難しいものがあったりします。そのため、生産者やリサイクル業者などとのパートナーシップが重要です。WHYは、この(残り20%という)問題を解決するきっかけを与える役割を果たしたいと考えています」
WHYが目指す「ごみから学ぶ」
WHYのコンセプトは、「ごみから学ぶ」だ。そのコンセプトをもとに、2つの目的をもって誕生した。2つの目的について、大塚さんはこう説明する。
「まず1つ目は、ごみの焼却埋め立てゼロを目指し、サーキュラーエコノミーのプラットフォームを作ることです。上勝町が当初掲げていた2020年のゼロ・ウェイスト目標であるリサイクル率100%は達成できませんでした。その理由は、まず高齢化に伴う使い捨ておむつや生理用品が増加したことが挙げられます。また、使い捨てカイロや使い捨て塗料、化粧品、長靴などの塩化ビニール、お菓子に入っている乾燥剤、素材が複雑に混ざったかばんや靴については、リサイクル技術が確立されていないものやコストがかかるものです。そのため、消費者と生産者双方にアプローチをしなければなりません。
例えば、上勝町は花王株式会社がタッグを組み、詰め替え用パウチを同社が回収して再生樹脂ブロックに生まれ変わらせる取り組みを行っています。それを子どもたちの遊具としてWHYで使っています。これは素材の種類ごとに分別回収しているから実現可能なのです。このような上勝の強みを生かして、さまざまな企業と連携して課題に取り組んでいきたいと考えています。
2つ目は、生産者と消費者、町内外の人々が出会い、交流し、つながる場所を作ることです。上勝町では、過疎化が進んでいます。町には高校がなく、町外へ転出することが少なくありません。そのため、地域に関わる人々を増やす必要性が高まっています」
すべてがデザイン。廃材から再生へ
WHYの施設の形状は上からみると「?」マークになっている。「?」の上の部分がごみ分別回収施設や、後ほど紹介する「くるくるショップ」、コインランドリー、ラボ機能、交流ホールなどを併せ持ち、「?」の「・」の部分は宿泊施設「HOTEL WHY」にあたる。
上空から見たWHY
考えに考え尽くされたWHYのデザインは、ハード・ソフト両面で循環が意図されたものだ。建築設計を担当した中村拓志&NAP建築設計事務所の中村拓志さんは、設計に際して住民が主体となることに重きを置いたという。
中村さんはこう話す。「ごみ関連の施設は、一般的にはなるべく存在を消すように設計されます。上勝町にいたってはごみ収集車がなく、生ごみはコンポストで、それ以外のごみは45分別されています。そういう意味ではこの分別回収施設は、町民が常に集う、開かれた町のコミュニティになるでしょう。全てがオープンで目に見える形に作ることを意図しました」
その反面、ごみというプライベートなものを扱う施設であるため、プライバシーにも配慮しているという。
「世界中から上勝の取り組みを見学する方が多いので、外周側に視察導線を確保しています。視察者がぐるっと回って戻った時に、内側で分別している町民と出会うコミュニティ機能があるように設計しました」と中村さんは強調した。
建材についてもいかにサーキュラーになるかが意図されている。例えば、丸太の使い方。丸太には上勝町の杉が活用され、角材に製材することなくそのまま丸太として使われている。丸太を太鼓落としにし、材を2つの材で挟み込むことで、接合部を1本のボルトだけで接合できる。そのため、町の業者でもメンテナンスを行うことができ、解体時の分別も簡単にできるのだという。まさに維持・メンテナンスによる長寿命化が意図されると同時に、解体時のことまで考えられているサーキュラーデザインだ。
さらに、利用される建具も工夫が凝らされている。「WHYを愛してもらえる仕掛け作りが必要だと感じたため、町の広報紙や説明会で特定の廃材を募集しました。1500人程度の人口の町にも関わらず、700枚もの建具が集まりました。一つひとつ採寸して補修しながら、今までの設計プロセスとは真逆のプロセスを踏みました。通常は、設計を書いた後にカタログから部材を選び、どこかから部材が調達されます。でも今回は、最初から部材(廃材)があって、どの部分なら当てはまるだろうという設計プロセスを経たのです。そしてこれが面白いと感じました」と中村さんは語る。設計ありきでなく、廃材ありき。これまでとは全く違うプロセスである。
「ゴミ分別所」と「ホテル」が共存できるわけ
WHYの案内図
ゴミ分別所とホテルがなぜ共存できるか。最大の理由は、ここには生ごみがないからであろう。1994年、ごみの3割を占めるのが生ごみだということがわかり、翌年、自宅での堆肥化を推進するために町は電動生ごみ処理機への補助金の拠出を始めた。その結果、普及率はほぼ100%になり、WHYのごみ分別所でも生ごみが回収されていない。生ごみの匂いがなく、衛生面も担保されているため、ホテルを隣接させることができる理由にもなっている。
分別表示
生ごみ以外のごみも45分別に分けられる。それぞれの分別には上写真のように、「入」や「出」というお金の出入りを示した表記やリサイクル先、何に再生されるかが表示されている。これにより、分別回収することで上勝町にお金が入ってくるのか、あるいは出ていくのか、そしてどこで何に生まれ変わるのかがわかる。自分の行為がどのくらい町に貢献できているかがわかることで、継続する動機にもなっている。
さらに、1回の持ち込みにつき種類ごとに住民に「ちりつもポイント」が加算される。貯まったポイントは、環境に配慮された日用品と交換することができるという、より個人的メリットのあるインセンティブが用意されている。
WHYのサーキュラーな仕掛け
ここからは、写真を中心にWHYのサーキュラーな仕掛けを見ていこう。
上空から見たWHY。住民の導線は内周。視察導線は外周。
WHYを外周の山側から見た写真。芝生は子どもたちが遊べる広場でもある。自然が豊かな上勝町だが、公園がないということで設けられたそうだ。写真中の窓枠は住民から集めた建具からできている。また、あえて雨樋がない屋根にしており、カーテンのように雨が流れ落ちるその先には、住民から集めた瓦が敷き詰められている。
くるくるショップ。オフライン版の不要物譲渡プラットフォームともいえる。町民のみだが、町で不要になったものを持ち込むことができ、町内外問わず訪問者が持ち帰りが可能。もちろん全て無料だ。重さで取引量を管理する。なお、右前はHOTEL WHYの受付だ。受付台には、一升瓶ケースを活用。床にはくるくるショップに集まった陶器が敷き詰められている。
HOTEL WHYの外観。燃料に使う薪がデザインとしてホテルに同化している。
ホテルの扉。全部で4部屋。
客室は2階建てになっており、景色を見ながら読書をしたりくつろいだりできる。
客室の1階部分。真柱(左前)は町内の檜を使って調達。廃材をなるべく出さないようにするため、枝をそのまま残している。カーテンは、テキスタイルデザイナーの方からもらったものを町内の工房でパッチワークにして使っている。
朝食は、上勝町でごみゼロに取り組むマイクロブリュワリー「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」から配達。
循環を意図した仕掛けは上記にとどまらない。例えば、ホテルでよく残ってしまう石鹸を使う分だけセルフで切り分ける体験も用意している。その石鹸自体も石鹸一筋65年の「無添加石鹸本舗」だ。そしてバスアメニティーは、ニュージランド発の「ecostore」を使っている。マイ歯ブラシを忘れることもあるが、なるべくプラスチックを使っていない竹歯ブラシなどが有料で販売されている。また、チェックイン時のウェルカムドリンクは、日本初のコールドプレスジュース専門店「SUNSHINE JUICE」のもの。量りで分けられるサービスコーヒーはサステナビリティに取り組むTADE GG農園の豆をローストする「Little Darilng Coffee Roasters」から調達している。
ゼロ・ウェイストの理念に共感した企業に月極めで貸し出すサテライトオフィス。
WHYが問いかけるもの
そもそもWHYという名前の由来は何だろうか。ここまでお読みいただければもうおわかりかもしれない。プロジェクトメンバーの一般社団法人地職住推進機構の田中達也さんはWHYの名前の由来について、「ごみの問題は企業・行政・消費者、全ての人が責任を持っています。WHYは現代の消費社会に対して、上勝から疑問を投げかけるという意図があります。なぜそれを買うのか、なぜ作るのか、なぜ売るのか、なぜ捨てるのか。これらをここから考えるきっかけとなる場所を目指しているのです」と説明した。
実はWHYの滞在後にも宿泊者がアクションに繋げられるような仕掛けも用意しているのだ。チェックイン時に施設の案内ツアーを、チェックアウト時には分別体験をしてもらう。「ごみを自分ごととして、『なぜ(WHY)ごみを捨てるのだろう』という疑問を、滞在中や滞在後にも感じていただきたいと思っています」と大塚さんは話す。
サーキュラーエコノミーの視点から
「すでにあるもの」から設計する
業界に限らず、「あるものから設計する」ということがサーキュラーエコノミーでは大きな役割を果たす。今回のWHYで使われた建具の例もその一例だ。建具ありきでデザインする。これまでの設計のあり方を大きく変えるプロセスだったと中村さんも話している。
今回集められた建具は、もともとWHYに使われることを想定されていなかった。一方、WHYで使われた長寿命化や解体時のことが考えられた丸太の例のように、サーキュラーエコノミーへの移行が進むと「すでにあるもの」というのは、あらかじめ「次の用途が考えられて設計するもの」に変わる可能性がある。これからは、後利用として何かに使われることを想定してモノがデザインされていくのではないだろうか。いずれにしても、サーキュラーエコノミーでは、デザインのあり方が大きく変わることを示唆してくれる。
生産者と生活者を巻き込んだアプローチ
上勝町のリサイクル率実績80%は、上勝町が出した一つの解だと大塚さんは話す。ゼロ・ウェイスト運動が始まった時に生まれた住民は、分別がさも当たり前のように日常のなかに溶け込んでいる。そのため分別はある種の文化になっていると考えられる。上勝町の驚異の実績は、この文化によるところが大きい。
しかし、楽しんで実施できるといっても取り組みの比重が消費者である住民に置かれていることは否めない。やはり生産者や製造者など供給側にもアプローチをする必要がある。上勝町は、花王との詰め替えパウチの再資源化プロジェクトの事例のように、供給側を巻き込んで、上流工程であるデザインからアプローチし始めた。まさに3Rからサーキュラーエコノミーへの転換していく場面だ。そのため、WHYはシステム全体を転換させる象徴としての可能性を秘めている。
次世代の子どもたちを意識した施設
なぜサーキュラーエコノミーに取り組むのか。それは、自分たちの地域、社会、経済、そして環境を持続可能なものにするためである。ここ10年、20年の話ではなく、2050年や2100年、もしかするとさらに先の未来を見据えなければならない。それがサーキュラーエコノミーに取り組む理由である。その意味でいかに次世代の子どもたちに持続可能な社会を受け継いでいける環境を整えるかが一つの目標となる。
WHYが果たしたい役割として、プロジェクトメンバーの一般社団法人地職住推進機構の田中達也さんは期待を込めて次のように語る。
「WHYが環境を学ぶ場になっていくことを願っています。行政や企業、特に子ども達の学びの場として機能してほしい、そう考えています。上勝町の子どもたちは生まれた頃から分別しているので、当たり前すぎて特別なこととしては捉えていません。自分たちの故郷に誇りを持って、さらには発信者になってほしいのです」
最後に
サーキュラーエコノミーのオフライン版プラットフォームになることを目指すWHY。ハード・ソフト両面の設計にこだわり、地域内外で交流しながらさらなる循環を目指す。その巻き込むプレイヤーは、大手企業にまで及び、上流からシステムを変えていくアプローチはサーキュラーエコノミー型の取り組みそのものである。上勝町は長年ゼロ・ウェイストに挑戦してきたが、挑戦してきたからこそ見えてきた課題を的確に捉え、むしろさらに課題へのアプローチをスケール感をもって取り組んでいる。今回のWHYの取り組みと目指す方向は、「上勝だからできるのでは」という考えに陥ることなく、上勝町から何を学んで自地域で実践していくのかを私たちに問いかけている。
WHYプロジェクトメンバー
- ブランディング ・ クリエイティブプロダクション ・ エクスペリエンスデザイン : 株式会社トランジットジェネラルオフィス
- 建築設計 : 中村拓志&NAP建築設計事務所
- ファニチャーデザイン : Wrap 建築設計事務所
- コミュニケーションライブラリー監修 : BACH
- 事業スキームアドバイザー : 株式会社トーンアンドマター
- 地域コーディネーター : 一般社団法人 地職住推進機構
- 運営主体 : 株式会社 BIG EYE COMPANY(ビッグアイ カンパニー)
【参考】上勝町ゼロ・ウェイストセンター
【参考】上勝町公式ページ
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※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」の記事の改変版です。