ちょっと背伸びをして買った服に袖を通すと、自然と背筋が伸び、気持ちのほうまでシャキンとしているのに気づく。
新しい服を買ったときは、新しい自分に出会えるような気がして、心が弾むものだ。丁寧に服を選ぶこと、そしてそれを身に纏うことは、人生に彩りを与えてくれる。
「安いから」「なんとなく今の服に飽きたから」という理由であまり吟味せずに買ったファストファッションも、「新しいモノを手に入れた」というつかの間の喜びを与えてはくれるだろう。だが、その喜びはどれくらいの時間持続しているだろうか?
今回は、私たち消費者の衣服への向き合い方、そしてファッション業界に疑問を投げかける、とあるショップをご紹介したい。
オランダ・アムステルダムにあるLENAファッションライブラリーは、さまざまなテイストの洋服を貸し出すレンタルベースのファッションストアだ。もともと古着のオンラインショップを運営していたアンジェラ、ダイアナ、エライザのジェンセン3姉妹と、その友人スザンヌが立ち上げた、いわば「洋服版の図書館」である。
編集部は、アムステルダムの西側・ヨルダーン地区でも代表的な通りの一つウェスターストリート(Westerstraat)に位置するLENAの店舗を訪ねてきた。
凝ったデザインのニットやカラフルな柄ブラウス、シルエットが美しいブラックドレスやスポーティーなパンツなど、様々なテイストの洋服が所狭しと並ぶ店内。雑多でありながらも統一感があり、どこか洗練された雰囲気を感じさせる。ヴィンテージものや地元のデザイナーが手掛けた最新アイテムが入り混じるこれらのコレクションは、すべてLENAの「司書(スタッフ)」たちが製品のデザイン・クオリティ・エコレベルにこだわってキュレーションしたものだという。
創業者の4人はファッションが好きだからこそ、ファッション業界の「環境を破壊してでも安く大量に生産する」システムや人々の「気軽に買い、飽きたらすぐに捨てる」消費スタイルを変えなくてはいけないと考えていた。そこで思いついたのが、レンタルをベースとしたシステムだったのだ。
服1枚1枚のライフスパンを伸ばすことができれば、価値ある資源を無駄にせずにすみ、廃棄処分による温室効果ガスの放出を抑えることができる。また、レンタルシステムを通して、消費者は自身の消費行動を見つめなおすことになる。「少ない服でも十分にお洒落ができる」ことを知り、本当に気に入ったものだけを手元において、長く愛用するようになっていく。こうして多くの人々の行動が変わっていけば、ファッションチェーンにも気づきをもたらすことができる。最終的には生産される服の量を減らすことも可能になると、LENAは考えているのだ。
「LENAを利用する理由も使い方も人によってそれぞれ違うんです」と教えてくれたのは、創業者の1人であるエライザさん。
「いろんな服を着たい」「自分では買わないようなテイストの服に挑戦してみたい」と店を訪れるお洒落好きのお客さんたち。「新たな服を買うよりも借りるほうがサステナブルだ」と知った上でLENAを訪ねる人もいれば、購入する前にアイテムを試せるからという理由で利用を決める人もいるという。
「『冬になったらコートを借りて、その他の季節はワードローブを開けておく』という使い方をしている人もいますよ」と彼女は微笑む。
また、店ではクリーニングサービスを実施しているため、レンタルした衣服をそのままの状態で返却することも可能なのだという。
「店舗には、環境負荷の少ない洗濯機を導入しているんです。洋服は天然成分100%の洗剤で洗いあげ、私たちが丁寧にケアします。お洒落着は自宅でのケアが難しいことも多いですが、アフターケアサービスがあるので、気軽に利用してほしいですね」とエライザさん。
LENAでは、地域のブランドやデザイナーからも服を仕入れており、それと同時に彼らにタイムレスなスタイルでハイクオリティの「長く着ることができる服」をつくるよう促すことも大切にしているそうだ。
そんなLENAの目標は、店舗を増やすことでも、レンタル数を増やすことでもない。ファッションだけではなく様々な業界で「借りる」システムをスタンダードにしていくこと、そして自分たちがそのお手本になることこそが目標なのだとエライザさんは言う。
OWN LESS LIVE MORE
──たくさんのものを持つより、豊かに生きよう
これは、LENAのホームページに書かれている言葉だ。お洒落をするために地球を犠牲にする必要はない。かといって、お洒落に着飾ることを一切あきらめる必要もない。LENAファッションライブラリーは、「地球と自分に心地よいバランスで楽しめるお洒落の形を探すこと」こそが重要であること、そしてそれが可能だということを人々に示してくれているのだ。
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。