Sponsored by Asia Pacific Circular Economy Roundtable & Hotspot
デジタル化が進みAIが台頭する中、ますます需要が増えると予想される半導体。一方で半導体に必要な重要鉱物・貴金属は有限であり、採掘し続けることはできない。多くの資源と同様、デジタル社会を生きる私たちは、鉱物をめぐっても循環型の利用へと迅速に舵を切る必要に迫られている。
台湾は、その半導体製造において世界的に大きなシェアを占める。その主軸となるのがTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)。自社で半導体の開発・販売は行わずメーカーが設計した半導体チップを製造する、半導体業界初の専業ファウンドリである。2021年には熊本に子会社「JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社)」を設立し、日本国内での半導体製造も進めている。
そんな世界有数の半導体産業を持つ台湾で開催された、循環経済のカンファレンス「Asia Pacific Circular Economy Roundtable & Hotspot(以下、APCER)」。ここでは、デジタル化に後押しされ急成長する半導体やバッテリーをめぐる資源の循環のあり方が各所で議論された。本記事で、台湾そしてアジアから立ちあがろうとするハイテク分野の循環経済についての議論の一端をレポートする。
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見えない場所の廃棄物をなくす。半導体工場で実現したクローズド・ループ
半導体の製造においては、現状として廃プラスチックや廃油、廃薬品といった廃棄物が生じている(※)。その一つが、使用済みのイソプロピルアルコール(IPA)という液体。洗濯機のチップ製造に1キロのIPAを使うと仮定すると、高性能なAIのチップ製造には10キロのIPAを使用する試算になるという。
つまりAI需要が高まるほどIPAの消費量も急増する。しかし、使用後のIPAは従来、焼却処分されたり、塗装など別の工業用途に転用されたりするにとどまっていたそうだ。
そんな中、IPAのクローズド・ループの実現を試みたのが台湾のLCYケミカルだ。同社は、半導体メーカーが使用した水分の入り混じったIPAを回収・精製し、再び半導体製造に使用できる高純度な品質に戻してメーカーに再び供給している。混在していた水分は、同社の生産プロセスで利用することで無駄をなくしているとのこと。
この技術は、半導体大手TSMCでも採用され、使用済みIPAを実際に回収しているという。半導体分野で大きなシェアを占める台湾だからこそ、製造ラインにおける廃棄削減は大きな影響をもたらすだろう。
今後、LCYケミカルはアメリカや韓国を視野に他の半導体メーカーにもこの取り組みを拡大していく計画とのことだ。生活者の視点からは見えにくいが、製造段階でも着実に循環型の資源利用が実現しつつある。


安全な再利用のカギは「透明性」。リチウムバッテリー循環の課題と可能性
半導体と共に使用されることも多く、デジタル化によって同様に需要が高まっているのがリチウムバッテリー。リチウムは重要鉱物の一つであり、蓄電池の原料としてコバルトやニッケルと並んで欠かせない資源だ。
このリチウムバッテリーについて16年にわたって研究に携わるのが、カール・ワン氏。試験、検査、認証サービスを提供する第三者機関・UL SolutionsのR&Dディレクターを務めている。
バッテリーのライフサイクル(採掘、精製、製造、使用、廃棄)においては、児童労働や環境汚染といった課題が残る。これらを解消するために循環型への移行が必要であるとして、同氏は3つのアプローチを示した。
使用済みバッテリーから資源を回収する「リサイクル」、バッテリーパックやモジュール、単位での交換や「リペア」、そして劣化したバッテリーを他の用途で再利用する「リパーパス」だ。例えば、電気自動車(EV)などで使用されるバッテリーは、交換時期を迎えてもまだ十分な容量が残っていることが多く、他の用途で活用する余地がある。

しかしカール氏は、未だこれら3つのアプローチが進まない背景として透明性の不足を指摘する。それぞれのバッテリーの設計や原料、品質について共有できる情報がなくては、安心して再利用することが難しいためだ。そこで、これらの情報を記録・追跡する「バッテリーパスポート」が、トレーサビリティを確保し循環を支えるツールとして期待されている。
EUでは、バッテリー規則によりバッテリーパスポートの導入が間もなく義務化され、デジタル製品パスポート(DPP)の開発も進んでいる。台湾でもDPPの協議が進む中、カール氏はバッテリーの再利用に向けても「まだ手遅れではない」として規制の整備を呼びかけた。
デジタル化と共に需要が高まる、バッテリー。その技術開発のスピードは速く、製品の仕様が絶えず変化することも、資源の循環を困難にしているという。どんなに効率の良いシステムが確立されても、すぐに仕様が変わってしまえば再びシステムを変更しなくてはならない。業界として共通ルールに合意できるか否かも一つの課題となっているようだ。
都市鉱山から実践を。市民と企業が連携する電子廃棄物回収の仕組み
このように半導体やバッテリーは、各地で現代社会を支える。その後、役目を終えると電子廃棄物として鉱物が都市に残ることから、それらを有効に活用すべく都市を「都市鉱山(Urban Mine)」と捉える動きがすでに続いてきた。しかし、この概念は理解していても、その重要鉱物を含む電子廃棄物を確実に回収・リサイクルするためのスキームは未だ模索段階だ。
インドにも支社を持つアメリカの非営利組織・Pyxera Global(ピクセラ・グローバル)は、電子廃棄物を回収するための仕組み作りを進めている。同組織は「循環型サプライチェーン連合」を主導し、複数のパイロットプロジェクトを実施した。
一つは、アメリカで配送会社のFedExと協業した循環型物流の取り組み。FedExは「配送後の空の輸送便を有効活用できないか」という問題意識を持っていた。そこで、配送を終えたFedExが顧客から使用済みのノートパソコンを無料で回収し、修理を担うパートナー組織に届け、修理・再生する枠組みが実現した。修理できないものは重要鉱物を抽出することで資源を回収できたそうだ。


もう一つは、支社のあるインドでのコミュニティ協働の取り組みだ。インドでは、廃棄物回収によって生計を立てるインフォーマルセクターの人々が回収システムの要であるのが現状だという。彼らは廃棄物のことを熟知している一方、公的な身分証明がないなど社会的に不安定な立場に追いやられていた。そこで同社は、廃棄物回収で生計を立てる人々が運営主体となる協同組合「Pride Cooperative」を設立。より価値の高い廃棄物へのアクセスを可能にし、労働環境と収入の向上にも寄与した。
最後に、講演を行ったPyxera GlobalのRajesh氏は「No more prototype(これ以上プロトタイプはいらない)」と強調。実験的に証明されたシステムを、いかに実社会に落とし込んでいくのか。この実装の壁の乗り越え方が次なる一歩のカギを握ることが垣間見えた。
編集後記
スマートフォン、パソコン、家電、電気自動車……私たちの生活から切り離せないハイテク産業。その便利さの裏側で多くの資源が消費されているのが現状だ。ただし需要の高まりとともに、資源を有効に使用するべく製造や使用後の取り組みが立ち上がってきた。APCERで触れたのはその一端に過ぎないが、そこには確かに、同じ課題意識を持って循環を実現しようと奮闘する人々の姿があった。
また、テクノロジー分野のサーキュラーエコノミーは技術的な議論に閉じやすいものの、そこにも必ず手を動かし足を運ぶ人の存在がある。APCERの一部セッションにおいてこの社会的側面を含む視点が取り入れられていたことは、今後のアジア太平洋におけるサーキュラーエコノミーのナラティブに少なからず影響を与えるはずだ。
台湾を筆頭に、日本も渦中にある半導体分野。その急激な成長に遅れをとらず、資源の循環や無駄のない利用を私たちは実現できるだろうか。作り手と使い手、両者が当事者としてプロトタイプを超えた実装に踏み込むべき時季に来ているはずだ。
【参照サイト】台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー (TSMC)
【参照サイト】Japan Advanced Semiconductor Manufacturing|JASM
【参照サイト】Electronic Materials: IPA and DMK for Semiconductors | LCY
【参照サイト】FedEx and Pyxera Global test circular logistics model for electronic waste|FedEx
【参照サイト】バッテリーメタルの安定供給確保に向けた方向性|経済産業省





