2月末に始まった米国によるイランへの攻撃とそれに伴うイランの報復攻撃は、欧州にもすでに多角的な影響を与えている。ロシア・ウクライナ問題は解決の糸口は見えず、状況は泥沼化しつつある。EU加盟国間の分断化を図るロシアは、戦争のみならず、SNSなどを用いた偽情報の拡散やエネルギー供給管理の巧みな操作などにより、EU域内の政治・社会的な混乱を煽動していることは、EU機関でも周知の事実と受け止められている。

2017年以降のトランプ政権の誕生と、その後の政権復帰は、国際関係に大きな変化をもたらした。長年EUと同じ政治イデオロギーを共有する同盟国とみなされてきた米国は近年、EUに対して輸出管理や制裁措置の導入・見直しを高頻度で行い、その動きは政治的・経済的な不確実性と脅威の要因になりつつある。加えて、政府の後ろ盾を担保にした中国企業の攻勢的な欧州市場への進出は、多数の事業セクターにおける欧州企業の競争力を弱体化させている。

こうしたなか、欧州委員会の研究機関であるJRC(共同研究センター)が2025年に発表したレポート「欧州の戦略的自律における循環性の役割:The Role of Circularity in European Strategic Autonomy」では、近年の地政学的緊張と産業界の競争が世界で激化する時代における循環性の役割を分析する。本稿ではその内容をもとに、循環経済がEUの伝統的価値に基づく自律性とレジリエンスの維持および経済安全保障にどのように貢献するか、考察する。

EUが直面する脅威

EUにおける啓蒙主義に由来する価値観は、法の支配、人権、民主主義に反映され、EUがこれまでその維持に努めてきたものである。こうした価値観は、EUが策定する政策・規制にも着実に反映されて続けており、近年のEU政策の中核を成す気候変動対策や循環経済政策の根底にもその概念が浸透している。

しかし、近年の米国の政治・経済・軍事上のスタンスは、EUが重視する価値に大きく反するものだ。特にその軍事行動に関しては、国際秩序からの逸脱ともいえ国際法における合法性も問われるものである。にもかかわらずEUの政治家は、米国との全面的な対立は避けざるをえないという難しい立場に置かれている。米国との関係性における大きなシフト加え、中国やロシアからの経済・軍事的安全保障上の脅威もEUに重大な影響を与えている。戦争に伴う移民問題、エネルギー価格の高騰、長引くインフレによる経済危機は、欧州の一般市民の関心を防衛力強化や移民排斥を掲げる極右勢力へと傾けつつある。

本レポートは、この現状が伝統的な啓蒙思想に基づきこれまでに積み上げられてきたEUの価値観を揺るがすものとして、大きな懸念事項であると認識する。そのうえで、EUの価値存続には、市民の包括的な安全保障を確保することが必須であるとする。安全保障とは、軍事のみならず、経済・社会安全保障を示しており、具体的には、EU産業の競争力維持とそのための戦略的な自律性の確保である。そしてこの安全保障確保に大きな役割を担うのが、循環経済の実践であることを強調する。

では、経済安全保障に貢献する循環経済の役割とは何か?レポートは、EUの現在の脆弱部分に触れつつ、循環性がその改善にどのように適用できるのかについて分析する。

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