衣類の新規生産を抑え、寿命を延ばし、かつ収益の増大を目指すために必要なデザイン戦略、サーキュラーファッションが持つビジネス機会の可能性、法制度やガイドライン整備の国内外での進捗についてこれまでの記事で概説した。本記事では、サーキュラーファッションを促進するビジネスの例と、それらが抱える課題について概説する。
1. 製品の寿命を延ばし、新品の生産・購入を抑制するビジネス例
長寿命設計
素材や製品を生産する段階から、製品寿命を長く維持できることを念頭に置いて素材や技術を開発・活用する。長寿命を実現する素材・製品の一例としては、加水分解に強く、10年間の使用に相当する耐久性・高対候性を持つことが特徴の東レ製TORAIN™「WOVEN + LAMINATION」構造を起用した、アメリカのハンティング・ギアのブランドKUIU のジャケットが挙げられる。
修理・リメイク
メーカーによる自社製品の修理サービスの提供に加え、サードパーティ修理業者、利用者自身で衣類を修理できるようにするための修理に関する情報や道具・パーツの提供、修理・リメイクを専門とするサービス業者などがある。アウトドア企業のパタゴニアは、自社製品をかなり過去に発売されたものまで修理対応できるよう部品を揃え、簡単な修理であれば利用者自身が対応できるよう、修理キットの販売や方法をホームページで公開するなどしている。同じくアウトドア製品を展開するゴールドウインは、発送となる場合の発送料も含めて自社ブランド製品の修理代を2023年1月より無料とした。
これらのサービスは製品の寿命を延ばすと同時に、顧客とブランドとが関わる時間を延ばし関係を強化することにもつながる例といえる。
課題としては、修理費用が新品購入を抑えるものとなっておらず、その場合修理が普及しづらい現状がある。
レンタル・サブスクリプション
日常着のサブスクリプションや、着用機会の少ない特別な目的のための衣服のレンタルサービスなどがある。通勤着のサブスクリプションサービスを展開するエアークローゼットは、同社が取り扱うすべての洋服を焼却・埋め⽴て処分せずに再利用・再販・リサイクルし、⾐服廃棄ゼロを実現したと発表した。他にも、冠婚葬祭用フォーマルウェア、パーティドレス、登山服などのレンタルサービスなどは、着用機会の少ない衣服の購入を抑制する一例である。
課題としては、レンタルサービスの対象外になったレンタルアップ品のその後の扱い(ライフサイクル全体)が不透明である点、レンタルに伴う洗濯や輸送などから発生するエネルギーが増え、環境負荷が増大するケースがあることなどが挙げられる。
二次流通サービス
フリマアプリなどの二次流通サービスの浸透は、不用品の廃棄や新品購入の抑制に貢献しうるといえる。また、メーカーによる二次流通として、自社製品を回収し、そのまま再販、あるいはリメイクや染色など手を加えて再販される例も増えてきている。
課題としては、二次流通できること(売ればいい、安く買える)が過剰消費につながる可能性があることや、二次流通品の売上による利益が生産者に還元される仕組みが整備されていない場合が多い現状がある。また、自社製品の二次流通品を扱っているブランドでも、主軸の事業として新品を販売している場合、結局は新品を売らないと事業として成立しないというジレンマを抱える。
シェア・寄付
使わなくなった衣類を別の人に譲る方法としてだけではなく、衣服をシェアする場を地域交流のイベントにしていたり、衣服を提供する替わりに別の何か(本など)、他の人が提供したものを受け取るなどコミュニティの活性化に活用されている例が増えてきている。不要になった衣類を着てくれる次の人の顔が見えることは、衣服を介したつながりの醸成に役立つ一例だろう。
この記事は、Circular Economy Hub 会員専用記事となります。