Circular Economy Hubでは、Circular Economy Hub Partnersの一般社団法人サステイナビリティ技術設計機構が主催するオンライン・コラム討論の「談論風爽」のレポートをお届けしている。談論風爽では、コラマーと呼ぶ話題提供者が、まず10分間話題や意見を提供。それをもとにオンライン参加者とコラマーが約20分の意見交換を行う形式だ。サーキュラーエコノミーや持続可能な社会、脱炭素など、サステナビリティに関する話題が提供されている。Circular Economy Hubでは、サーキュラーエコノミーに関する回をピックアップしてお届けしていく。
第2回のテーマは、梅田靖氏による「CE*はなぜEcoDesign指令に向かうのか」。(*CE・・・サーキュラーエコノミーの略)
- テーマ:「CEはなぜEcoDesign指令に向かうのか」
- 話題提供者:梅田 靖 氏(東京大学 大学院工学系研究科附属人工物工学研究センター 教授)
話題提供パート:「CEはなぜEcoDesign指令に向かうのか」
梅田氏:
サーキュラーエコノミー(以下、CE)はもともと、リマクファクチャリングやリファービッシュを中心に、価値の高いリサイクルにモノを所有しないビジネスを組み合わせて、ヨーロッパ域内の競争力の強化を実現しようというEUの政策です。2020年に入り、EUのサーキュラーエコノミー政策は気候変動対策と相まって一層加速していると感じています。中でも、製品の設計をコントロールするための枠組みの設計に力をいれていくようです。
狭義でのEcoDesign(以下、エコデザイン)とは、分解性やリサイクル性を向上させるための製品設計における小改良のことを指すことが多いのですが、本来は製品のライフサイクルと回収システム、社会制度などあらゆる人工物を環境に配慮して設計することを意味しています。
当日の様子(資料:梅田氏作成)
そこで、下記に本日の問題提起を挙げます。
製品自体にエコデザインを施すだけでは、CEの実現にはつながらないのではないでしょうか。デザインや設計を行うメーカーへの規制は一般消費者への規制に比べて単純なものです。具体的な規制策や目標数値の設定がしやすい点は政策として重要である一方、先に述べたように「社会制度などのあらゆる人工物を」環境配慮型にしていく必要があります。そのため、製品設計だけではなく、製品ライフサイクルを含めた規制や制度設計が重要となってくるのではないでしょうか。
話題提供後の参加者同士による討議の中心ポイント
参加者の大多数がものづくりに関わる立場であったため、梅田氏の問題提起における重要ポイントの一つ「製品ライフサイクル設計」に言及する声が多く寄せられた。下記、参加者から提供された意見を紹介する。
- これまではエコデザインを取り入れるための方法や技術について多く語られてきたが、これからは、リユース設計が施された製品を実際にリユースして新たな製品を生み出すという次のフェーズに入っていくのではないか。
- エコデザインに関して、メーカーと消費者の間に認識の相違があることを感じている。企業としての環境配慮や社会貢献が求められている一方、製品の売り場ではリサイクル製品の需要よりもバージン製品の需要が圧倒的に高い。この溝を社会全体として埋めていく必要があるだろう。
- 国によるメーカーを対象とする規制は進んでいる面があるが、ユーザー・消費者の製品選びに対する規制が追いついていないのが日本の現状だ。個人の環境意識や道徳に委ねるだけではなく、国として明確な指標を定めるなど消費者へのアプローチも行うべきだ。
- ものづくりを担う人々は、意識的にCEの視点を持つことが重要である。社会現象としての「脱プラスチック」とか環境分野での認証取得とかで意識が止まっていてはいけない。それらの取り組みをCEの概念に当てはめた上で、自身がCE実現に向けた活動に取り組んでいるのだということを理解して、ものづくりを行っていきたい。
- これまでの企業の環境貢献には、例えば公害問題への対応が挙げられる。しかしそれは地球のための行動というよりも、社会から問われる企業の責任を最低限に抑えるための経営におけるリスクヘッジの一環でしかなかったかもしれない。今後はCEの観点に立って「地球社会のための環境経営」に意識をシフトしていきたい。
編集後記
今回の議論の中で筆者が特に注目した点が、エコデザインに対するメーカーとユーザーの意識の乖離だ。社会全体として環境貢献に取り組んでいこうという流れがあるにもかかわらず、まだまだリサイクル製品よりもバージン製品に高い需要があるという矛盾は議論されるべき課題だろう。国からの規制を受けてエコデザイン導入に取り組まざるを得ない一方、その製品に需要がないため利益が見込めないという経営面でのジレンマに悩まされている企業もあるかもしれない。
また、製品のユーザーがエコデザインの施された製品を選ぶだけではなく、使い終わった製品の回収・リユースに協力しやすいよう消費者の視点に立った仕組みを構築することも、CEの観点においては必要不可欠な要素だ。
エコデザインを最大限生かすため、どのようにしてメーカーとユーザーの足並みを揃えていくのか。国・メーカー・ユーザーなどの立場に関わらず、全員が早急に取り組むべき喫緊の課題である。