株式会社日立製作所のHitachi circular designチームは5月16日、修理・保守作業をストリーミング配信する新しいプラットフォーム「なおスト」を発表した。このサービスは、これまで専門家の領域とされ、一般の目に触れる機会の少なかった修理作業をエンターテイメントとして提供し、修理をより身近な存在にすることを通じて、循環型社会の実現に貢献することを目指す。
近年、欧米を中心に「修理する権利」への関心が高まりを見せる一方で、日本国内の修理・保守業界は、低賃金や重労働に起因する人材不足といった深刻な課題に直面している。日立製作所は、2023年から2024年にかけて武蔵野美術大学と共同研究を行い、サーキュラーエコノミー実現に向けた企業の社会貢献のあり方を検討する中で、メーカーとしてのノウハウを活かせる修理分野に着目した。
調査を進める中で、修理業界が抱える課題の背景には、修理という行為そのものへの社会的な理解や評価の低さが存在することが明らかになった。プロの修理・保守作業者は、高度な技術、知識、判断力、さらには体力や応用力を駆使して作業にあたっているが、その実態が知られる機会は少ない。この点に着目し、修理作業の様子を可視化することで、修理への関心を喚起し、業界課題の解決にも繋げられると考えた。
「なおスト」は、修理・保守作業の様子をストリーミング配信するプラットフォームだ。単に作業を中継するだけでなく、視聴者が楽しめるよう工夫されている。映像解析技術を活用し、作業工程や使用されている部品名などをテロップとして映像内に自動で追加表示する。また、手元を映すカメラ、作業者全体を映すカメラ、作業者の一人称視点を映すカメラの3点を設置し、作業内容やシーンに応じて切り替えることで、臨場感あふれる映像を提供する。視聴者は、従来のコメント機能の代わりに絵文字ボタンを通じてリアクションを送ることができ、作業の妨げにならない範囲でゆるやかな双方向性を実現した。
2025年3月には、東京都港区のパブリックスペースSHIBAURA HOUSEにて、一般の人々が見守る中、公開収録形式でのストリーミング配信を実施した。当日は小型扇風機や電動コーヒーグラインダー、カセットプレーヤーといった小型家電、さらにはスマートフォンのバッテリー交換作業などが実演され、多くの来場者やメディアの関心を集めた。
日立製作所は今後、「なおスト」で撮影した映像を、参照しやすいようにショート動画形式でアーカイブ化することを計画している。これにより、様々な製品の修理事例やノウハウがインターネット上に蓄積され、一般の人々が修理に関心を持つきっかけとなるだけでなく、実際に修理を試みる際の参考資料としても活用できると期待される。
また、修理作業者の持つ高い技術力や専門知識への理解が深まり、作業に対する適正な評価にも繋がることを目指す。将来的には、保守・修理専門業者による自社ブランディングや人材獲得のツールとして、また教育機関における修理教育の教材としての活用も想定している。
「なおスト」の機材一式はスーツケース一つに収まり、様々な修理・保守現場へ出張して配信が可能だ。この取り組みを通じて、製品が壊れた際には廃棄や買い替えだけでなく、「修理する」という選択肢が当たり前となる社会に貢献していく方針だ。
【note記事】“なおす”のストリーミング配信プラットフォーム「なおスト」はじめます!
【関連記事】日立と積水化学、再生材マーケットプレイスシステムの実証を完了。2025年度中の事業化目指す
【関連記事】日立ハイテク、リチウムイオン電池の性能劣化や余寿命を瞬時に評価する手法を開発。再利用・再製造の効率向上を促進
【関連記事】「日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ」設立。循環型経済の実現を目指す
