住友化学は6月12日、バイオマス原料由来のモノマーを使用した液晶ポリマー(LCP)の量産技術を確立したと発表した。2026年度中の顧客認定を経て、2027年度からの供給開始を目指す。今回の技術確立は、高機能材料であるスーパーエンジニアリングプラスチックの領域で、化石資源への依存を低減し、持続可能な製品供給を実現する重要な一歩となる。
LCPは、スーパーエンジニアリングプラスチックの一種であり、卓越した耐熱性、流動性、寸法安定性、難燃性を特徴とする高機能樹脂だ。これらの特性から、5G通信に対応するスマートフォンやPCなどの精密電子機器の小型・薄肉化部品、自動車の電装部品、OA機器など、要求性能が高い分野で不可欠な材料として広く採用されている。しかし、従来その原料の多くは化石資源に由来しており、サプライチェーン全体での脱炭素化やサステナビリティへの移行が大きな課題となっていた。
今回、住友化学が確立した技術の核心は、バイオマス原料由来のモノマーからLCPを製造する点にある。さらに、その製造プロセスにおいて「セグリゲーション」方式を採用したことが特筆される。セグリゲーション方式とは、バイオマス由来の原料と化石由来の原料を、製造から製品化までの全工程で物理的に完全に分離して管理する手法だ。これにより、完成した製品のバイオマス含有量を明確に証明し、顧客に対して保証することが可能になる。
近年、バイオマスプラスチックの普及において「マスバランス」方式も広く採用されている。これは、製造工程でバイオマス原料と化石原料を混合投入し、投入したバイオマス原料の量に応じて、生産された製品の一部にバイオマス由来の特性を割り当てる会計上の手法だ。既存の設備を活用しやすく、サプライチェーン全体の移行を促進する利点がある一方で、個々の製品に物理的にバイオマス由来の分子が含まれているかは保証されない。住友化学は、バイオマス含有量の透明性を求める顧客ニーズに応えるためセグリゲーション方式を確立すると同時に、マスバランス方式にも対応できる体制を整え、顧客の多様な要求に柔軟に対応していく考えだ。
この技術革新の背景には、合成生物学(シンセティック・バイオロジー)の活用がある。合成生物学は、バイオテクノロジーとデジタルテクノロジーを融合させ、生物の機能を設計・改変することで、有用な物質を生産する技術分野だ。住友化学は、総合化学メーカーとして長年培ってきた化学合成技術とこの先進的な合成生物学を組み合わせることで、従来の化学合成だけでは製造が困難だった高機能製品の開発や、製造プロセスの省エネルギー化を推進している。
今回のバイオLCPの量産技術確立は、同社のこうした戦略を具現化する成果だ。高機能材料の分野でバイオマスへの転換を進めることは、製品のライフサイクル全体での環境負荷低減に直結する。住友化学は今後、循環型社会の実現に向けた技術開発と、サステナビリティを軸とした新たな事業領域の開拓をさらに加速させていく方針だ。
【プレスリリース】バイオマス原料を使用したスーパーエンプラの量産技術を確立 ~LCP事業拡大へ向け、バイオものづくりによる新製品を投入~
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