現時点で、鉄鋼は永久にリサイクルされていない。例えば、自動車から回収された上質な鉄鋼のほとんどは低価格の資源にダウンサイクルされ、建物やインフラなどそこまで上質でなくても良い資源として再利用される。業者は実際に回収する鉄鋼の品質を知らないため、質の異なる鉄鋼を混ぜて質の低いリサイクル素材を製造する。

※この記事は、2021年8月27日、オンラインメディアGreenBiz上に掲載されたRémy Le Moigne氏による記事を許諾を得て筆者が翻訳しています。元記事はCirculate Newsに掲載されたものです。

回収する資源や製品について限られた情報しか持ち合わせていないのは、鉄鋼のリサイクル業者に留まらない。多くの場合、プラスチックリサイクル業者も、処理する資源に含まれる化学物質を有害物質が含まれているか否かも含めて正確に理解してはいない。修理技術者は、電子機器分解のためのガイドラインにアクセスできない場合が多いだろう。再製造業者は電子エンジンの稼働時間がわからないため、「可〜良好」状態まで回復して取り扱うことができるのか、リサイクルすべきなのか決めることができない。

経済の中で製品の価値をできるだけ長く保つためには、製品の設計、内容物、状態についての情報が欠かせない。これら情報によって、寿命を終えた製品は改めて価値ある資源に変換されるのだから。イドリス・J・アベルカン氏が著書「waste + knowledge = asset」の中で述べたように、サーキュラーエコノミーへと移行すると、成り立つ式は「ごみ=資源」ではなく、「ごみ+情報=資源」となる。

デジタル技術の活用

今日、様々なデジタル技術によって情報が製品に追随することが可能になった。これらの技術により、私たちは製品を識別子、そのライフサイクルを通してデータを取得・保存・共有・分析できる。

製品を識別・追跡するための技術には、印をつけるタイプと埋め込むタイプの2種類がある。印にも、蛍光マーカーやウォーターマークなどの物理的な印、RFID(Radio Frequency IDentification)やプリンテッド・エレクトロニクスなどの電子的な印、化学トレーサーやDNAマーカーなどの生物的な印などがある。例えばP&Gは、デジタルウォーターマーク(電子透かし)と呼ばれる技術を試験導入している。デジタルウォーターマークとは消費財包装容器の表面を覆う切手程度の大きさのコードで、廃棄物の分別ラインに設置された標準的な高解像度カメラで検出・解読することが可能だ。また、オフィス家具メーカーのAhrendは、QRコードを使用して、PaaSとして取り扱う家具ラインアップの製品を識別する。

製品を特定するとまず、その製品の設計、状態、位置などのデータを取得し、様々な技術を使って情報を更新することが可能になる。データ取得技術には、センサーやコンピュータービジョンがある。例えば、ZenRoboticsのロボットは、コンピュータ・ビジョン技術を用いて、消費者が使用した後複数が混ざった資源を識別・分別できる。データ伝達技術としてはWi-Fiや携帯電話・移動体データ通信、Bluetooth、無線などがある。建設機械メーカーのコマツは、衛星通信を利用して機械の状態や位置情報を収集している。データの保存・共有技術としてはクラウド、デジタルプラットフォーム、分散型台帳技術(DLT)、ビッグデータなどが挙げられる。ドイツ本社の鉄鋼・工業製品メーカーのティッセンクルップは、世界中13万台のエレベータの運転データを収集してクラウドに保存し、状態を監視している。

そして最後に、人工知能(AI)などのデータ分析技術のおかげで、これらの大量のデータの取り込みと活用が可能になる。例えば、IT企業のOptoroは、AIを使ったソリューションを提供し、小売業者やブランドが返品や余剰在庫を管理・処理し、最も価値の高いチャネルを通じて販売できるよう支援する。ノルウェーに本社を置く先進的な回収・分別機のメーカーであるトムラは、カメラ、近赤外分光法、エックス線、レーザーなどからの画像やデータを人工知能で解析することで、最も高い価値を保つ最適な使用用途を導き出し、それに応じて廃棄物を分別する。

すでに多くの企業がデジタル技術を活用して製品の情報を管理している。一方で、これらの情報はバリューチェーンの中でほとんど共有されておらず、その結果、関係者が製品についての重要なデータにアクセスできない状態になっている。例えば、タイヤのライフサイクルを延ばすために、メーカーはタイヤに圧力や温度を測定するセンサーを搭載しているが、リサイクルの効率化や新品タイヤへの再生ゴムの使用率の向上に役立つ情報を回収業者や加工業者と共有していない。このように資源を価値化するための機会がないため、欧州では使用済みタイヤや中古タイヤの50%以上をそのまま輸出してしまっている。情報技術は、サーキュラーエコノミーへの移行を実現にする重要な要素だが、バリューチェーン全体でのデータ共有も重要なのだ。

バリューチェーン上でデータを標準化・共有せよ

バリューチェーン上でデータを交換するためには、関係者同士がある共通の言語を使用することに合意する必要がある。例えば、H&M、Target、I:COなどのファッション業界の複数企業は、共通のプロトコル「Circularity ID」を使用して衣料品のライフサイクルに関する情報を共有することに合意している。フランスでは、標準規格を策定する組織であるGS1と、包装容器についての拡大生産者責任に取り組む組織Citeoが、ブランド企業ら(フランス)と協力して、消費者の分別方法など、包装に関連する情報交換を支援。さらにルクセンブルク経済省主導で国際的な大手業界企業が支援する「Circularity Dataset Standardization Initiative」は、製品のサーキュラリティに関するデータを伝達するため、正式な基準を確立することを目指し活動する。また、ドイツでは、業界横断のコンソーシアムR-Cycleが、国際的な規格GS1に基づいてリサイクル可能なパッケージをバリューチェーン全体でシームレスに文書化するための、開かれた世界規模で適用可能な追跡のための規格策定に取り組む。

製品パスポートは、共通のプロトコルを確立し、製品の出どころや、耐久性、構成物、再利用・修理・解体の可能性、使用済み製品の取り扱いに関する情報共有を可能にする大きな解決策となる。例えば、デンマークに本社を置く海運のマースクラインは、サプライヤーと共同で「Cradle to Cradleパスポート」を開発した。このパスポートには、自社の船舶の製造に使用された資源、その場所、正しく分解してリサイクル・廃棄する方法が記載されている。マースクラインはこのパスポートにより、使用済み船舶の価値が10%向上すると試算している。欧州委員会は、一部の例外を除き、すべての電池(産業用・自動車用・電気自動車用・ポータブル用)にバッテリーパスポートを付与しなければならないと明記した新たな立法案を発表した。これにより、使用済み電池を二次利用する事業者は十分な情報に基づいたビジネス上の意思決定を行うことができる。バッテリーの分別工程やオペレーションの安全衛生状態が改善され、さらにはリサイクル可能な箇所の純度を高めることにさえつながるだろう。

多くのパスポートは製品レベルの設計だが、資源レベルで設計されたパスポートの例もある。例えば、国際的な鉄鋼企業SSABはSmartSteel 1.0という追跡ツールを提供する。このツールは鉄鋼自体にデジタルアイデンティティを付与するものだ。識別機で製品をスキャンすることで、利用者は資源特性を調べたり、証明書をダウンロードしたりできる。

データが標準化されれば、関係者はデジタルプラットフォーム上で交換を行うことができるようになる。例えば、電子・電気機器製造者のためのオンラインプラットフォームInformation for Recyclers Platform (I4R)を使えば、関係者は機器についての情報をリサイクル業者と共有し、欧州の法令を遵守することができる。複数の大手自動車企業は、使用済み自動車とその材料のリサイクルを促進するため、産業内で多用される資源の情報を取り扱う世界規模のグローバルなデータリポジトリ「インターナショナル・マテリアル・データ・システム」を設立した。

多くのデジタルプラットフォームは二次資源の取り引きを可能にする。このようなマーケットプレイスでは、二次資源のサプライヤーとバイヤーは互いをオンラインプラットフォーム上で見つけることができる。さらには市場流動性を高め、リサイクル業者とその顧客に需給の安定性を提供するだろう。マーケットプレイスは特定の資源に特化したものが多く、プラスチック(Scrapo)、テキスタイル(Nona Source)、建材(Backacia)、金属(Metalshub)、有機的資源(Organix)などが挙げられるが、一方で複数資源を同時に取り扱う(Recykal)ものもある。「持続可能な開発のための世界経済人会議 (WBCSD)」は、こうしたマーケットプレイスは100以上あり、そのほとんどが自治体や地域レベルで運用されているものの、その多くが一定数以上のサプライヤーや利用者を集めることができずにいると結論づけた。こうした事業者は「作れば利用者は増えるだろう」といった楽観的予測を立てているが、多数の購入者・販売者を惹きつけることが必要不可欠なものの、それには巨額の投資が必要となる。

ステークホルダーは多くの場合、民間企業が単独で運営するプラットフォーム上で情報を開示することに抵抗感を示すだろう。暗号通貨やブロックチェーンなどに代表される分散型台帳技術はこうした不安を払拭するひとつの解決策となるはずだ。分散型台帳ネットワークは、ネットワークのメンバー間で共有・複製・同期されるデータベースの一種だ。例えばフランスでは、有機性資源の生産者・運搬車・農家らがブロックチェーンを用いてその有機バリューチェーン上の情報を共有。有機性資源のバリューチェーン全体の透明性を担保し、生産された堆肥のトレーサビリティを実現する。

化学バリューチェーンに携わる多くの企業はブロックチェーン技術によって化学物質、特にプラスチックのトレーサビリティを、そのライフサイクルを通して高めるための実験を行っている。三井化学と日本IBMは、モノマーやポリマーなどが原材料から製品製造・販売・使用・リサイクルされるに至るまでライフサイクルを通したトレーサビリティ確立・向上を目指して、ブロックチェーン技術を用いた資源循環プラットフォーム構築に取り組む。オーストリアの石油化学企業Borealisは、ドイツのプラスチック企業Covestro、Domo Chemicals、サーキュライズ、ポルシェとともに、ブロックチェーン・トレーサビリティ・プロジェクトを立ち上げた。ベルギー本社の大手化学メーカーSolvayは、Chemchainとの提携により、バリューチェーン全体で製品を追跡するためブロックチェーン技術のテストを開始している。

ブロックチェーンは、消費者とのデータ共有にも利用できる。Royal Aupingは、Provenanceが提供するブロックチェーン技術を用いて、同社のマットレスに使用されるすべての素材を記載したプロダクトパスポートを作成した。このパスポートは、マットレスのラベル付けられたNFC(近距離無線通信)チップをスマートフォンでスキャンすることで見ることができ、買い物客は店頭でも自宅でも閲覧することが可能だ。

メリットが環境コストによってオフセットされることのないように

デジタル技術はサーキュラーエコノミーへの移行のための機会を提供するが、解決策だけでなく、環境負担ももたらす。実際に、デジタル技術は資源枯渇の原因となっている。1995年から2015年の間に、デジタル機器のマテリアルフットプリントは4倍になった。レアメタルや希土類元素など、デジタル機器に使われる原材料の採取によって、土地の劣化、水不足、生物多様性の損失など、深刻な環境破壊が引き起こされる。また、これらデジタル機器は大量の廃棄物の原因となる。例えば3kgのノートパソコンを製造すると、1,200kgの廃棄物が発生するのだ。これらの製品は更新の周期が短く、よってこの理由からも大量の廃棄を生み出す原因となる。さらに、ある推計によると、デジタル技術は世界の温室効果ガス排出量の3.7%を占める。フランスでは、2040年までにデジタル技術が温室効果ガス総排出量の7%を占めるまでに拡大するとみられる。そして注目すべきなのは、過去50年間、デジタル技術の発展とCO2排出量の増加が一致している点だ。

デジタル技術の環境コストは、もたらされるメリットで相殺できるという考え方は、現時点では確証がない。つまり産業界は、新しいデジタル技術に投資する前に、技術のライフサイクルを通した負の影響が、期待されるメリットを相殺しないことを検証しなければならないのだ。

まずはロードマップをつくるところから

私たちは、サーキュラーエコノミーへの移行を避けて通ることはできない。資源や製品のフローをデジタル化することは、サーキュラーエコノミー移行を大きく促進することだ。したがって、企業、産業、政府は、次のような重要な質問に答えるために、デジタルロードマップを構築することから始めるべきだろう。

サーキュラーエコノミーの戦略の実行を妨げる情報ギャップは何だろう?情報ギャップを解消するためには、バリューチェーン上のどのステークホルダーから情報を提供してもらう必要があるだろう?情報ギャップを解消するためのデジタルソリューションは何だろう?これらのデジタル技術の環境コストは、もたらされるメリットによって相殺されるのだろうか?どのようなオープンデータ・フォーマットを採用すべきだろうか?

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