諸外国における使い捨てプラスチック(SUP)禁止、プラスチック汚染を終わらせるための国際条約に向けた交渉、プラスチック資源循環法施行後の動向・・・。国内外でのプラスチックのサーキュラリティをめぐる動きが本格化しているように見える。しかし、プラスチックの大量生産・大量廃棄に基づかない持続可能な循環型システム構築には、大規模な資金と社会システム変革に向けた行動が圧倒的に足りていないのが現実だ。

米国非営利団体のピュー慈善信託と英国環境シンクタンクのシステミックがまとめたプラごみに関する報告書「Breaking the Plastic Wave」によると、海洋へのプラスチックごみの年間流出量は、何も対策が施されなければ2040年に2016年比で約3倍になる。その反面、既存技術だけでもプラスチックのサーキュラリティ向上に向けた施策を実行するだけで、今後20年で最大80%削減できるという。

同報告書はシステム変革には6000億ドルの投資が必要だとしているが、一つの鍵となるのは、プラスチックのバリューチェーン全体で構成される集団による行動だとされる。

この集団行動の鍵となるプラスチック関連のアライアンスやプラットフォームとして、エレン・マッカーサー財団が主導するPlastics Pactや世界経済フォーラムのThe Global Plastic Action Partnership、欧州委員会によるCircular Plastics Alliance、国内ではCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)などが挙げられる。

そのうちの一つ、廃棄プラスチック問題の解決に取り組む団体「Alliance to End Plastic Waste(廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス、以下AEPW)」 は、プラスチックのサーキュラリティ向上に向けた実践的な支援を実施する国際NPO法人である。プラスチックのバリューチェーン全体から約80社が参加(うち日本企業は5社)、資金調達規模は12億ドルに達し、現在49のプロジェクトに資金提供・プロジェクト支援が実施されている。国連機関・開発銀行・政府・市民社会などとも連携しながら、廃棄プラスチックを無くす活動にバリューチェーン全体で取り組む。AEPW日本の穴田武秀氏に、同団体の活動意義やプラスチックのサーキュラリティ向上に向けた鍵について聞いた。

プラスチック廃棄物は管理可能であることを実証

穴田氏はAEPWを「ドゥタンク(DoTank)」と表現する。プラットフォーム内の資金や技術、知見を総動員してプラ管理の実践的な取り組み支援に注力する「実際に行動する団体」ということだ。会員のCEOなどのトップマネジメントが自ら役員となり運営する、「事務局任せではない」体制を敷く。

Alliance to End Plastic Waste 日本 穴田武秀氏

AEPWは次の2つの目的を掲げる。

  1. プラスチック廃棄物問題が解決可能な課題であることを実証する
  2. プラスチックのサーキュラーエコノミーを可能にするモデルを開発し、リスクを取り除き、提案する

上記2つの目的のもと、資金や技術の提供を通じたパートナーシップを形成していくプラットフォームとしての役割を担う。選定したプロジェクトへの資金提供に加え、会員企業が持つ知見・技術・ネットワークを駆使し、多面的にプロジェクトを支援することでプロジェクトの発展とリスク回避に取り組む。そのうえで他地域で水平展開や拡大できるように成功事例を増やす。

「団体内部では『キャタライゼーション』という言葉を使っています。私たち単独では十分なプラスチック廃棄物の量を環境から取り除くことは不可能です。私たちは商業的に運用可能な廃棄物管理ソリューションを実証し、他の人々や組織の投資で世界中でその解決策が展開されることによって、規模の拡大を促し永続的なインパクトをもたらすことが必要だと考えています。プラスチック管理をビジネスとして進めることによる触媒作用を起こすことで、資金・技術などのリソースが集まってくることを目標としています」と穴田氏は話す。

システム全体で取り組む

AEPWはプラットフォームだからこそできる「システムでの取り組み」を重視する。「一般的に、課題解決に対し、個社としては次の3つのアプローチが取られています。1つ目は、個社でできること。2つ目は、個社を中心に複数社の連携でできること。3つ目にシステム・面でできること。3つ目が、AEPWが価値を発揮できる点です。たとえば、ある会員企業は海外で起こっているプラスチックの外部不経済について、自社のポートフォリオでは対応できないためAEPWに加入していると、加入の意義を説明されていらっしゃいます」

ネットワーク、それもグローバルなネットワークがAEPWの強みだといえる。

6つのサーキュラリティギャップ解消に注力

AEPWは下流におけるアプローチを主眼にしているのではない。むしろ、システム全体でサーキュラリティ向上を図る。その象徴とも言えるのが、AEPWの4つの資金提供戦略分野(インフラ、イノベーション、教育・啓蒙、クリーンアップ)、と4つのプロジェクト選定クライテリア(Sustainable、Scalable、Catalytic、Circular)だ。さらに、プラスチックのサーキュラーエコノミー構築における6つのサーキュラリティギャップの解消に貢献できるかどうかが、プロジェクト選定の基準となっている。6つのギャップは以下の通り。(カッコ内の数字の出典はAEPW

  1. 量のギャップ(リサイクル樹脂の需要に対して供給が追いついていない。廃棄物管理システム構築が不可欠:30億人が適切な廃棄物管理システムにアクセスできていない)
  2. 質のギャップ(現在の技術では多様なプラスチックを回収・分別・リサイクルできない。1200億ドルの価値が喪失している)
  3. 適正な価格ギャップ(高いインフラ構築コスト、変動する再生プラスチック市場、バージンプラの低価格:5100億ドルのプラスチック回収コスト(2021-2040))
  4. 設計のギャップ(リサイクルしやすい設計:プラスチックの54%はリサイクル可能)
  5. データギャップ(ローカル・グローバルにおけるプラスチックバリューチェーンの信頼できるデータが不足している。世界の71%の国々で国家的な廃棄物関連の情報システムが欠如)
  6. 優先順位の調整ギャップ(問題に対する優先順位が国ごとに異なる。175の国々がプラスチック汚染を終わらせるための国際条約に向けた交渉開始に合意)

加えて、3R(Reduce,Reuse,Recycle)という視点からのプロジェクトも資金提供のポートフォリオに含まれる。「例えば、使い捨てプラなど減らせるものは減らそうというアプローチも我々の活動に含まれています」と穴田氏。

国内での活動は?

グローバル(現在30カ国以上)で活動するAEPWだが、当然ながら地域で課題が変わる。

例えば、開発途上国においては収集や分別といった分野に重点を置く必要があり、日本のような先進国では、サーキュラリティとリサイクル、設計などの分野に重点を置いたプロジェクトを推進し、よりサーキュラーエコノミーの実現を促進する。

世界を9つのエリア(Regional Task Group、以下RTG)に分けて、RTGごとに固有のボトルネック(問題点)を分析・決定・プロジェクト提案していく。現在は世界で49のプロジェクトを支援しているが、国内でも精力的に活動している。今回は、国内での活動に絞って話を聞いた。

世界7都市で展開する、スタートアップ支援プログラム「End Plastic Waste Innovation Platform」

プラスチックのサーキュラリティ向上をビジネスで実現することに取り組むスタートアップ企業をPlug and Play社と共同で支援。2020年以来、7拠点(シリコンバレー、パリ、シンガポール、上海、サンパウロ、ヨハネスブルグ、東京)で、スタートアップ3000社以上を評価、60社以上を支援した(2022年6月時点)。他展開およびスケールアップの可能性やライフサイクルアセスメント(LCA)なども勘案し、総合的に評価する。

日本でも2022年6月にプログラムを開始した。150社からの応募があり、スタートアップ11社を採択。うち、レコテック株式会社と株式会社カマンの2社(後述)には資金提供も行う。

「時代をブレイクスルーするスタートアップならではの魅力があるため、彼らを支援する意義があると捉えて活動の柱の一つとしています。支援を決める際に、基準はもちろんありますが、とにかくワクワクするようなプロジェクトを選考したい、そういう想いもあります」と穴田氏は話す。

2社の概要は次のとおり。

株式会社カマン(持ち帰り容器の廃棄削減を目的としたリユース容器のシェアリングサービス)

出典:株式会社カマン

持ち帰り容器ごみを削減するリユース容器シェアリングサービス「Megloo(メグルー)」を提供する。鎌倉駅周辺から開始し、東京都台東区や目黒区飲食店、静岡県袋井市など全国へ展開。また鈴鹿サーキットや渋谷区などでの実証実験を実施する。

利用者側

無料でリユース可能容器を利用でき、使用後は対象店舗に返却する。使い捨て容器をごみとして捨てる罪悪感がなくなることがメリットとして挙げられる。ユーザーの利便性も向上させるべく、LINE公式アカウントなどを利用する。

飲食店側

リユース可能容器を店舗間で共有することでテイクアウト容器の費用を削減できる。さらに、密閉性や保湿性が高い容器で提供できるため、機能価値も高められる。

リユース容器の普及にあたり、従来容器と比較して価格面と行動面のギャップの解消が鍵となるが、場所と場面に適切に応じた形でMeglooはこれらのギャップ解消に努める。生活形態の革新につながることも期待される。

AEPWの創設メンバーである三井化学株式会社は、食品グレードの生物由来材料で作られたリユース容器の開発において、同社を支援する。さらに、会員各社はオフィスビルでの展開をサポートしているところだ。

同社代表取締役の善積真吾氏はAEPWからの支援について、こう話す。

「Meglooは、実証実験フェーズから、いかに持続可能な事業に発展させていくか挑戦しているところです。より多くのお客様に使って頂けるサー ビスを開発するには、様々な経営資源が必要です。AEPWからの支援のおかげで、私たちはビジネス展開を加速させて、日本中の街、イベント会場、オフィスで循環型経済の構築を後押しすることができます」

レコテック株式会社(資源循環トレーサビリティプラットフォーム『POOL』)

出典:レコテック株式会社

静脈サプライチェーンを可視化し、都市資源の発生から製造業者への供給まで情報を一括管理するためのデジタルプラットフォーム「POOL」を開発。都市資源の把握や工場稼働率・物流の最適化につながるとしている。POOLでトレースできたPCR材は「POOL樹脂」として付加価値をつけた資源として生まれ変わる。

POOL樹脂は、廃プラスチック処理にかかるCO2排出回避・排出元での高度分別によるリサイクル工程における工程の省略・動静脈一体物流による回収効率化などの効果が見られたという。使われたプラスチックが「何が、どこから排出され、どこにあるか」がトレースされることで、高まる良質なPCR材需要に応えられることや静脈物流の効率化や育成にもつながることが期待される。なお、化石燃料由来のPE樹脂やPP樹脂と比較して、最大77%のCO2削減効果(バイオプラスチック樹脂比で72%のCO2削減効果)があると発表している。

AEPWからの資金提供により、レコテック株式会社は全国に事業ネットワークを拡大することを目指す。会員企業の三菱ケミカル株式会社は、新しいフィルムやプラスチック製品の製造に使用する高品質のリサイクル樹脂を生産するべく、使用済みプラスチック包装(資材)の回収に関する協業を進めているところだ。

同社サーキュラリティデザイナーの大村拓輝氏は、「日本でのリサイクル樹脂市場育成に向けて、AEPWさんと連携しながら、国内ブランドだけでなく海外ブランドも巻き込んで行動していきたいと考えています」と話す。

その他:環境省・日本財団との連携や啓蒙活動など

環境省・日本財団共同事業の海ごみゼロアワードへの協賛、日本語の「もったいない」の大切さを伝える絵本「もったいないばあさん」アニメ化・6言語に翻訳し海外展開、国内ウェビナー等の開催など、啓蒙活動も精力的に行う。

日本のプラスチックのサーキュラリティに向けた課題は?

グローバルにネットワークを構築するAEPWだからこそ、日本における課題を俯瞰して特定できる。穴田氏は国内のプラスチックのサーキュラーリティ向上に向けた幾多の課題のうち、次の2点を強調した。いずれもグローバル動向を踏まえた重要な指摘だ。

1. リサイクル樹脂の市場が立ち上がっていないこと

「リサイクル樹脂の品質や供給量の不安定さにより、ブランドオーナーが使いづらく、市場が立ち上がっていないことを大きな課題と捉えています。この問題を解決するのが、レコテックさんのような技術ではないでしょうか。使用済みプラスチックが本当にリサイクルに回るのかという信頼性も担保される必要があります」

2. アクションプランの必要性と日本における方向性

「市場を育てていくには目標だけではなくアクションプランが必要です。1とも関連しますが、アクションプランによって需要に見立てがつけば市場が育ってくるように思います。さらに、日本ではEUのように規制型でもなければ、アメリカのような大企業主導型でもなく、その間にあるのではないかと捉えております。そのなかで、我々のような団体は、産業を疲弊させずに活力を維持させながら、静脈を含めた産業を支援していけるよう活動してまいります」

編集後記

真のプラスチックのサーキュラリティ向上に向けては、大量生産・大量消費・大量廃棄からの脱却を図り、資源の価値を最大限高めたうえで循環させ、品質・安全性等を担保しながら優先順位に沿って新たな資源の投入量を縮小させることが求められる。これには、プラスチックのライフサイクル全体でのサーキュラリティ向上に加え、不必要なプラスチックの排除、リユースシステムの構築等によるリプレース、非可食バイオマスを中心としたバイオプラスチックなど再生可能な原材料の技術開発・商用化などの優先順位に沿った多角的なアプローチ、さらには消費・投資のあり方の変容も必要となる。そのために、企業はビジネスとしての持続可能性も担保しながら適切な移行が求められるが、AEPWは上述のとおりドゥタンクとして実践的な支援を行う。

一方で、プラスチック製造・排出側の参画は上流における取り組みが軽視されることにつながらないかという懸念や、加盟企業の投資余力に見合ったさらなる活動資金積み上げの奨励などを例として、外部団体からの客観的な声も聞かれる。

こういった外部からの意見に対し穴田氏は、「プラスチック自体が問題ではありません。何十億もの人々が、いまだ日常生活において、新鮮で健康な食品の入手、衛生や公衆衛生・現代的なコミュニケーション・交通システム・インフラ、そして雇用の面でプラスチックに依存しています。そして、環境負荷の少ない、実用的で費用対効果の高い代替品がない限り、プラスチックは現代社会で使われ続けるのです。そのためにも、プラスチック廃棄物課題は取り組まなければならない問題です。プラスチックメーカーも参加して、サーキュラリティをバリューチェーン全体で高めていくことが重要だと考えます。また、代替可能な素材がある場合は予期せぬ結果を招かないよう、科学的根拠を検証した上で推進していくことが正しいと思います。適切な事実を共有し、こういったお声を出していただける組織とも一緒に活動していきたいと考えています」と話す。

プラスチックのサーキュラリティ向上に向けては、需要側の変化と同時に、プラスチック製造側の関与による上流を含めたバリューチェーン全体での変革が不可欠だ。焦点は、先に述べた真のプラスチックサーキュラリティ向上に向け「移行をどのように実現していくか」であろう。穴田氏が「ビジネスとして解決しなければうまくいかない」と話すとおり、需要側の意識改革だけではこの問題の解決に程遠い。すべてのステークホルダーが参画することは理にかなう。資金提供支援も含め、グローバルかつ地に足をつけて実践的支援を実施するAEPW。今後、さらなる資金調達を通じたプロジェクト支援に期待したい。

【参照】Alliance to End Plastic Waste 公式ウェブサイト
【参照】Breaking the Plastic Wave: Top Findings for Preventing Plastic Pollution