EUは現在、サーキュラーエコノミーへの移行を牽引しようと数々の政策・規制を打ち出している。一方で、EU加盟各国全てがその速度に足並みを揃えているわけではなく、それぞれの国の政治・社会・文化・経済・産業事情により、取り組み状況には格差が見られるのが現実である。

オーストリアでは、2022年12月に「サーキュラーエコノミー戦略」が連邦政府により可決され、初の国家レベルにおけるサーキュラーエコノミー政策が策定された。EUでは、2016年を皮切りに2020年までにすでに12カ国が国家レベルでの戦略を採択しており、比較的遅い策定であった。特にオーストリアは、80年代に廃棄物管理のインフラを他国に先駆けて整備した国であることを考えれば、この遅れは少し意外とも言える。一方で、国内政策の遅れに対し、オーストリア国内の産業界におけるサーキュラーエコノミーの認識や動向はどうなのだろうか?すでに整備されて長い廃棄物管理事業の反応は?

今回編集部では、サーキュラーエコノミーフォーラム・オーストリア(以下CEFA)へ取材、産業界の現状とサーキュラーエコノミー戦略の業界への影響などについて、同組織の事務局長であるKarin Huber-Heim氏へ話を伺った。

ウィーンに拠点を置くCEFAは、サーキュラーエコノミー推進組織の一つである。2020年にサーキュラーエコノミーの政策面のコンサルティングを担うCircular Futures や研究機関などの組織を集結し設立された。以来NGOとして、サーキュラーエコノミーへの移行を目指す事業者間のネットワーク構築を担っている。

設立以降多数の組織や事業関係者がCEFAの活動に興味を持ち協力を申し出たため、この数年で急成長しているという。欧州・アフリカ・南米 38カ国にパートナーを持ち、最近ではアジア諸国との協力関係構築にも注力している。CEFAの調査結果によると、国内では多数の産業界や機関がサーキュラーエコノミーへの取り組みへ興味を示しているが、あらゆる部門において知識が圧倒的に不足していることが判明した。そのためCEFAでは、多分野にまたがる企業・団体を対象に、サーキュラーエコノミーにおける知識・技術における最新情報を提供するプラットフォームとして活動している。

サーキュラーエコノミー推進への障壁は廃棄物管理インフラがすでに整っていること

Q:オーストリアの産業界では、サーキュラーエコノミーへの移行において、これまでにどのような取り組みが実施されてきたのでしょうか?

A:現状としては、サーキュラーエコノミーに関する多数の議論がなされている段階でしょうか。オーストリア国内では、サーキュラーエコノミーという用語は過去10年間すでに使用されており、決して新しいものではありません。

ただし、この用語は廃棄物管理に対して使用されていました。オーストリアでは、国内の廃棄物産業のインフラは非常に整っています。ところが、それゆえに包括的な(現在EUが定義づけるところの)サーキュラーエコノミーを推進する上で、この事実が障壁の一つとなっていることが判明しました。産業界だけでなく一般市民も廃棄物管理の現状に満足しており、新しいサーキュラーエコノミーへ移行するニーズを感じていないからです。廃棄物の分別は最適化されており、焼却される廃棄物は熱エネルギーとして還元されています。つまり、国内大多数の人たちの考えは、オーストリアでは「サーキュラーエコノミー」はすでに実践されており、廃棄物はエネルギーとして循環しているということなのです。そのため、原料価値や資源の保存という面はまだ注目されていないのが現状です。

オーストリアは、産業や技術においても良いスタート地点にいると思います。しかしながら、まだ始まったばかりと言って良いでしょう。ただ、廃棄物処理業は、サーキュラーエコノミーへの取り組みにおいては、協力よりもむしろバリアとなっているのです。これは、彼らの事業モデルに大きな転換が必要になることが理由です。

リサイクルはサーキュラーエコノミーにおいて非常に重要な役割を担っています。しかしその一方で、障壁になることも事実です。リサイクル部門への過剰な注力は、再びリサイクルの必要なシステムを構築することになるからです。必要なのは、初期段階でリサイクルよりもっとエネルギー消費の少ないループを閉じるシステムを構築することなのです。

文化的な側面も大きく影響

Q:サーキュラーエコノミーへの移行において、オーストリアにおける産業の強みは何でしょうか?現状では障壁となりつつも、やはり廃棄物産業は大きな強みなのでは?

A:もちろんです。廃棄物産業には大きな潜在性があります。現状を変換するということにとどまらず、技術の輸出における潜在性も高いと思います。一方で問題は人々の精神構造です。例えば、オランダはEU内でもサーキュラーエコノミーの取り組みが非常に進んでいます。オランダ人は新しいものが好きで、実験的なことを率先して行うからだと思います。我々オーストリア人は、物事がうまく運んでいる時は、現状を変えることに全く興味を示しません。この特徴は、産業界にも大きく反映されており、「現状がうまくいっているから変える気はない」という態度があちこちに見られるのです。

しかしながら一般的な傾向に対し、異なる考えを持つ国内事業者も存在しており、それゆえにこうした企業は目立つ存在です。我々が支援することで、このような企業が成長することに大きな期待をかけています。一方で、過去3年におけるパンデミックの影響により、資源やエネルギーへの依存とそれゆえの自国における脆弱性を認識することにもなりました。こうした経験を通して、考え方を変える企業も出てきたことも事実です。その結果、新たな道としてサーキュラーエコノミーへの移行を考えるようにもなっています。

Q:現在オーストリアで国内のサーキュラーエコノミーを牽引する産業分野は?

A:牽引している産業分野としては、プラスチック産業があげられます。これには、プラスチックは海洋汚染問題などでメディアへの露出が大きいこともありますが。例えば、プラスチック国際大手Borealis(本拠ウィーン)は、欧州でサーキュラーエコノミー政策が発表される以前から、サーキュラーデザイン戦略やサーキュラーエコノミー戦略を掲げていました。同社はグローバルに事業を展開しています。メインの事業はBtoBですが、最終ユーザーはサステナブルでサーキュラーな製品を望む消費者です。

次に金属やスチールがあります。これには脱炭素への取り組みや二次原料の必要性が背景にあります。そのため、この部門はサーキュラーエコノミーへの移行への必要性をすでに認識しており、取り組みも事業へ反映されています。

容器梱包部門でも取り組みは始まっています。これは紙・プラスチック・金属など全素材に当てはまります。背景には、NGOによるキャンペーンに伴う消費者の認識の高さがあります。

テキスタイルでは、レーヨン大手のレンチングが業界を牽引していますね。

スタートアップの例もあります。Refurbedという会社は、電子機器のリファービッシュ・リユース品を販売するオンラインショップで、欧州内で多くの顧客をつかみ急成長しています。現在はテキスタイル市場への進出を検討しており試験プロジェクトを実施しています。

逆に全くと言っていいほど動きのない産業が農業です。これには農業はすでにサーキュラーでサステナブルであるという自負を持っていることが理由となっています。しかしながら測定データを見ると決してそうではありません。今後の大きな課題です。

EUという大きな傘の効果に期待

Q:2022年12月にオーストリア連邦政府によるサーキュラーエコノミー政策が採択されました。当初の予定よりかなり遅れたと聞いています。主な理由は何でしょうか?

A:これはあまり知られていない事実なのですが、背景を説明します。オーストリア連邦政府与党は、保守党と緑の政党という連立政党です。サーキュラーエコノミー戦略が初めに提案された時期には、保守党は収賄をめぐるスキャンダルが明るみに出ました。最終的にクルツ首相は辞任に追い込まれ、次期首相が引き継ぎましたが、その後事実の追及に伴い、保守党は裁判などの問題に直面することになりました。結果的に保守党の人気は大きく後退しました。そのため、連立パートナーである緑の政党による提案の多くも内容に関わらず反対されるという憂き目に遭うことになり、可決に至らなかったのです。

サーキュラーエコノミー戦略自体は非常に適切なものであり、内容が問題になったのではありません。単に政治的な理由からです。EU域内では、オランダ・フィンランドに続いて、オーストリアは具体的な(資源消費の)削減数値目標を戦略の中で設置した三番目の国です。この戦略が最大限に機能するよう我々も尽力する所存です。ただ、この戦略には詳細なロードマップがありません。ロードマップに関しても政治家の間で合意に達していないからです。残念ながら、現在の野党や連立パートナーの任期が続く限り目立った動きはないと思われます。

次の選挙では、右翼党同士あるいは社会民主党と右翼党による連立政府が誕生する可能性が高いと言われています。現在欧州内で勢力を増している右翼政党は非常に保守的なアジェンダを掲げており、グリーンディールを政策から外してしまう可能性があります。オーストリアの社会民主党に至っては、環境・気候変動・サーキュラーエコノミーに関する際立った政策立案もなく、焦点にも入れていません。当組織は、政治政党へもサーキュラーエコノミーへの移行の重要性と大きな潜在機会について示し理解を得られるよう働きかけていく所存です。

Q:しかしながら、EUレベルではサーキュラーエコノミーの推進ツールとなる規制が多数導入されており、多くが加盟各国に直接拘束力のある規制となっています。いづれにしても政府はEU規制への対応を迫られるのでは?

A:確かにそうです。国内政治は視野が狭いのですが、我々はEUの政策については非常に満足しています。EUレベルでは、政治家ではなく多数の専門家がサーキュラーエコノミーに取り組んでいます。サーキュラーエコノミー移行はEU政策の主要項目です。

特に現在EUレベルにおける基金の多くが、気候変動対策やサーキュラーエコノミーへの移行へ紐付いています。そのため、EUから資金面での支援を受けようとするなら、サーキュラーエコノミーへの取り組みが重要なポイントとなります。例えば、国内の商工会議所は非常に保守的で、サーキュラーエコノミーへの移行へも積極的ではありませんでした。しかし今では同組織のプログラムへサーキュラーエコノミーを一体化しつつあります。そうしなければEUからの支援が受けられないからです。我々はこうした状況をポジティブに捉えています。結局のところ資金は力でもあります。

Q:戦略策定に伴う産業界の影響についてはどうでしょうか?

A:リニアではなく循環型へ移行、資源消費の削減とより多くの二次原料の使用というシステムへの転換については、まだ様子見あるいは理解できていない状態です。経済性の問題もあります。いくつかの企業はすでに二次原料市場の形成を開始してはいますが、ほとんどの企業が現在は混乱しており「どこからはじめたら良いのか」と右往左往している状態といえます。

国内のサーキュラーエコノミーは産業界が牽引

Q:サーキュラーエコノミーの推進状況について、欧州内の他国との比較では現在のオーストリアはどのあたりにいるのでしょうか?

A:現在のオーストリアの立ち位置は、そうですね、牽引者ではありませんが、最下位でもなく中間にいるといったところです。前にも申し上げましたが、オーストリアは有利なスタート地点に立っています。問題は、ここからどのようなスピードでスタートを切るかです。私自身は国内の政治にあまり期待していません。サーキュラーエコノミーは、国内の主要産業が牽引していくと確信しています。循環型への移行の必要性を把握している企業リーダーは、これが非常に大きな事業機会であることも理解しています。数はまだ多くありませんが、こうした企業はすでに取り組みを開始しています。産業界の現状を見るにつけ、企業が炭素中立でリジェネラティブなサーキュラーエコノミーへオーストリアを牽引してくれるとものと信じています。

編集後記

オーストリアは、他のEU諸国ではまだ廃棄物の分別の概念も浸透していなかった時期から、廃棄物管理インフラが整備された。そのため国民や産業界にはその自負があるようだ。だが、それゆえに、新しい概念としてのサーキュラーエコノミー推進の障壁となっているというHuber-Heim氏の話は非常に興味深い。

ここに暮らして、オーストリア人は一般的にとても環境保全意識の高い人々であると感じるが、それだけで概念の転換を行うのは容易ではないようだ。サーキュラーエコノミーの推進には、政策・規制による牽引は不可欠のように思えるが、そこには政治が入り込むため、実際には科学・経済的根拠に基づく必要性だけでは物事は進まない。

また国民の反応は、その国々の社会的規範や文化・伝統的な要素にも関わってくる。しかしこれもEUの一つの姿である。EUという一つの傘の下には言語・文化・習慣が異なる人々がいる。加えて、社会・経済における格差は東と西では非常に大きい。全ての国がEU政策に関して足並みをそろえるのは不可能に近いように思われる。だがそれをまとめようとする傘の存在は非常に大きいと感じる。一国の方向が傘の外へ逸脱しはじめた場合、それが協議であれ、資金であれ、制裁であれ、傘の中に戻そうとするいくつかの機能がEUには存在するのだ。

冒頭の写真は、CEFA提供

【参考】サーキュラーエコノミーフォーラム・オーストリア公式ウェブサイト:https://www.circulareconomyforum.at/