ファッション業界では衣類循環化の動きが加速しているなかで、企業のサーキュラーファッションの実現には、製品ライフサイクルのあらゆる側面にアプローチする必要がある。その際、これまで享受してきた快適性やデザイン性を損ねてしまうと、サーキュラーファッションがメインストリーム化していかないジレンマがある。このジレンマに立ち向かうべく、原料やデザインにおいてさまざまな技術が開発されている。そのなかでも、これまで合成繊維でのみ可能にしてきた「抗菌防臭」「抗ウイルス」「撥水」などの機能性を天然繊維でも付与できる世界初の技術がある。その技術を開発したhap株式会社代表取締役社長の鈴木素(すずき もと)さんを取材した。

hap株式会社 代表取締役 鈴木素さん

COVEROSS®︎とは?

COVEROSS®️とは、天然繊維でも機能性を付与することのできる快適多機能性素材。世界初の技術で海外から多くの引き合いもあるという。光触媒による技術と掛け合わせることで、撥水・防臭・防水など10の機能を持たせることができ、耐久性も高まりより長く服が着られるようになる。まずはこのCOVEROSS®️について、鈴木さんに詳しくお聞きした。

鈴木さん:

私たちの技術を一言でいうと、様々な繊維にありとあらゆる10の機能性をくっつけられるというものです。

例えば、表側に撥水、裏側に汗を吸収する機能を分けて付けることもできます。そうすることで汚れにくくなり、耐久性が増します。他にも、汗のシミが見えないようにしたりUVカットの機能を持たせたりと、いろんな機能をカスタマイズすることができます。綿のような天然繊維でも機能性を打ち出すことができる世界初の技術です。

表面に撥水、中面に吸水機能を付与する(COVEROSS®️公式ウェブサイトより)

撥水性を付与した天然繊維

他にも一例を挙げましょう。我々は、100%落ち綿を使ったデニムメーカーとも提携しています。欧州の技術で、落ち綿を糸にすることができるようになってきました。落ち綿は捨てられる運命にあるので、水が使われておりません。加工工場もレーザー加工機等を導入することで加工工程で90%以上水を削減し、さらに排水をリサイクルしてしるので素材も加工もエコです。これに血行促進を促すヘルスケア機能、触媒による消臭等のクリーン機能性を入れています。

落ち綿を使った再生デニムにCOVEROSS®️を付与(hap株式会社公式ウェブサイトより)

これらはほんの一例ですが、今年は扱う素材の約90%をサステナブルな原料にし、その製品をもっと広めていきたいと考えています。いずれはサステナビリティをデフォルトにしないといけないと思っています。

Meaningful continuity 

COVEROSS®️によって再生素材などにも機能性を付与できるため、この技術はサーキュラーファッションへの移行を支援するものとなるだろう。直近の製品事例をご紹介する。

2020年7月、ファッションブランドのナノ・ユニバース、服から服を作る日本環境設計が運営するBRING、そしてこのCOVEROSS®️の三社が共同で、自然環境に配慮した新レーベル「Meaningful continuity」の販売を開始した。

鈴木さん:

このレーベルの3割以上は、日本環境設計様の工場で服からリサイクルした再生素材を使っています。そこにCOVEROSS®️の機能性(清潔性・通気性など)、そしてファッション性を兼ね備えた、BRING史上初の、機能性を施した再生素材を開発しました。一部店舗に回収箱を設置していて、回収した衣類から新しいものを作るサイクルの構築に努めています。また、このプロジェクトを通じて、トレンドではなく文化を作りたいと考えているため、三者が販売促進に力を入れるという体制で取り組んでいます。文化を作るのはやはり単独では難しく、三者の協働によってサーキュラー型ファッションを推し進めています。


サーキュラーエコノミーにたどり着くまで

機能性や快適性とサステナビリティを両立させることで、サーキュラーファッションを追求している鈴木さんだが、サーキュラーエコノミーにたどり着くまでどのような経緯を歩んできたのだろうか。

鈴木さん:

もともと私は、繊維の商社に7年間いました。生地や製品をデニムメーカーに提供していましたが、当時、多くの工場では化学薬品を吸い込むような劣悪な環境だったことを記憶しています。その後、2006年にhap株式会社を創業しました。2011年3月11日の東日本大震災後の「絆」と言われていた頃から、売り上げや従業員数も増え、このサステナビリティ事業に取り組み始めました。その頃、私がいつも学んでいる「師匠」と仰ぐ方からの言葉が衝撃的だったのです。「子どもに着させたいものは、恥ずかしくない製品を作ること。自分が作った商品が恥ずかしいと思ってしまうような商品は作るな」というものでした。これが私の事業に対する見方大きなターニングポイントとなりました。

また、北欧に訪問したときに、サステナビリティや素材については必ず問われます。私は、一から勉強してさまざまな薬品を改良していたので、それが今形になってきていると感じています。

telaketjuの加盟

鈴木さんがしきりに強調していたのはヨーロッパの商習慣やサステナブルファッションの浸透度である。サステナビリティを追求していなければ、取引拡大は難しいといっても過言ではないという。そこで、hapは環境負荷を低くする研究の促進や素材の普及という観点から、フィンランドのtelaketjuというサーキュラーエコノミーも推進する環境団体に加盟している。

鈴木さん:

telaketjuは、フィンランドのテキスタイルのサーキュラーエコノミー団体です。2016年からtelaketjuのあるトゥルク市が市をあげて、洋服を回収して新しい服を作る活動を行っていました。当社は、このtelaketjuに唯一の日本企業として加盟し、アパレル産業から「地球環境負荷を低減する研究」と「健康寿命を伸ばす研究」を加盟企業や大学・研究機関と業界横断的に進めています。

初めはCOVEROSS®️はアップサイクル、すなわち捨てられるはずの洋服の再生から活動が始まりました。現在はそれ以外にも、プラスチックや壁などに機能性をくっつけるような業界を超えた研究や、回収した服を分別して、ニ次流通(中古)製品への機能性付与(アップサイクル)をする研究、健康寿命を延ばすため、AIセンサーなどを活用した技術開発、一着で冬でも夏でも高山でも過ごせるというような服の開発など、幅広く取り組んでいます。

そして、2019年秋にはフィンランドに開発拠点をオープンするに至りました。テクノロジーの発展によって、大量生産大量消費社会からの脱却が図れる可能性があると感じているため、北欧を中心としたさまざまなサステナビリティに取り組む企業との提携を加速しています。

telaketjuネットワーク COVEROSS®は左上のKUUMERIとの取組で展開している

このほかにも、セルロース関連のサステナブル研究開発の「FinCERRES」や合成生物学を研究する合成生物学「Synbio Power HOUSE」とも共同で取り組みを進めている。

パートナーシップ

COVEROSS®️は様々な機能性を素材に付与できるという特徴から、ありとあらゆる企業とパートナーシップを構築できる。先述したナノ・ユニバースや日本環境設計以外にも、多くの海外のサステナブルブランドと共同展開している。どんなブランドとどのような提携をしているのだろうか。ここでは2例をご紹介いただいた。

鈴木さん:

PURE WASTE:

フィンランドのPURE WASTEは、製造工程で出る端材を100%リサイクルして服に仕立て直すというエシカルブランドです。製造工程で裁断したあと、色別に分け、それを解いて糸にする。糸は染めずにそのまま使う、この企業のポリシーには感銘を受けます。このブランドはほとんどの(北欧の)会社の制服に使われているほど浸透しています。

同社によると、Tシャツには約2800リットルの水を使うのですが、約2700リットル減らしたのが同社のTシャツの特徴です。これにCOVEROSS®️の抗菌性や撥水性を付与したり、冷たく感じられるような機能も入れることで、30℃を超える日もあるフィンランドの気候に対応していきます。

レンチング:

オーストリアのレンチング社が展開する、木から作ったセルロース繊維のTENCELL™️ともテストマーケティングを行っています。具体的には、TENCELL™️に機能性を備えたマスクなどを作ろうとしています。

テンセル™️×COVEROSSマスクの機能性(COVEROSS公式ウェブサイトより)

日本の文化

北欧やヨーロッパのサステナブルファッションのメインストリーム化については目を見張るものがあるが、日本ではどうだろうか。日本にも、もともと伝統と文化に裏打ちされた持続可能なファッション文化があるはずだ。鈴木さんにこの点について質問を投げかけた。

鈴木さん:

日本でもサステナビリティやSDGsに取り組まないといけないと思っている人は多いと感じます。ただ、アパレル業界のSDGsの浸透についてはまだまだこれから、という段階だと感じています。

私は、自分の子どもに何を着させたいのかを考えたとき、誇れるものづくりを追求するのであれば、それは「サステナブル」だと思っています。このような、人に対しての清らかさや愛などは本来日本文化が培ってきたものです。サステナビリティやSDGsは、海外から入ってきているので、少しわかりにくいのかもしれません。

日本の文化を大事にしていくというほうがわかりやすいのではないでしょうか。トレンドも必要ですが、この日本の文化的側面も分けて考えていく必要があります。例えば、着物だと代々受け継がれて、大切に扱われます。そういうブランドをみんなが作っていくことが、サステナビリティの認識を国内に広げるきっかけになるのだと思います。

COVEROSS®️

ウィズコロナ・ポストコロナを見据えたファッションの未来:

新型コロナウイルス感染症拡大により、世界規模でファッション業界が大打撃を受けている。ウィズコロナ・ポストコロナを迎えている今、ファッションの未来を考える好機でもある。この点について、鈴木さんはこのように言及する。

鈴木さん:

今のファッション業界は服を作りすぎています。価値あるものを安く売り、消費者もそれに慣れ親しんでいます。服の値段しか問われない文化が作られてしまっているのです。しっかり研究開発に予算を投じて、サステナブルな素材の利用割合を増やしていく必要があります。モノを大量に作らなくても生き残れる方法を考えていく時代に入ったといえるのではないでしょうか。そうなれば、原料生産からしっかりと考えるので、結果的にエコになると思います。

アパレル業界が厳しい環境に置かれている今、これまでのやり方では全く通用しません。30年間といった長い期間ずっとそのブランドを買っていただけるような作り方や顧客との接し方をする必要があります。そのため、軸がしっかりしているブランドが生き残れるのではないかと思います。そして、ブランドを変えるタイミングは、今しかありません。

サステナブルファッションにもさまざまな種類があります。例えば、海洋廃棄物や漁網からできた洋服、森(のセルロースなど)からできた服、服から服。サステナブル素材を詳細に選択する時代になってきています。ちなみに、北欧では綿は使いたくないというブランドが多くなっているのです。その理由は、綿生産に大量の水を使うからと考えているからのようです。したがって、計画伐採で森林破壊をしない方法でセルロースを作る方向に動きが増加しています。

サーキュラーエコノミーについて

最後に鈴木さんから見たファッション分野のサーキュラーエコノミーへの移行についてお伺いした。

鈴木さん:

今後は、バージン素材を使わない製品がどんどん増えていくでしょう。代替肉の開発のように、ファッションもそのような従来使っていた原料とは別の代替素材を開発するようになるでしょう。

また、テクノロジーが人の環境問題を解決するはずだと思ってます。例えば、ある商品の素材がどの地域のどの植物から由来したものかがQRコードでわかっていくようなイメージを持っています。技術的には不可能ではないので、やると決めれば実現できる話だと思います。

ヨーロッパは今、サーキュラーエコノミーは必ず考慮すべきテーマで標準装備です。全商品に関連しています。そのうえで、例えばファッションがセンサーにつながり、データで管理するなど最新のテクノロジーが活用されていきます。想像できないようなスピードで進んでいくのではないでしょうか。先ほどお伝えした温度が調節できる服ができると、天変地異が起こるかもしれません。このようにテクノロジーが服を大きく変える可能性を感じています。

私は、世の中にとって必要なものを正しい価格で提供していくことを追求していきたいと考えています。その意味で、地球環境に配慮された素材を耐久性を付与して提供したいので、サーキュラーエコノミーを追求する会社と提携していく予定です。

サーキュラーエコノミーの視点から

hapはその技術力から、ファッション領域にとどまらないさまざまな活動を行っている。その根幹にあるのは、サステナビリティ、そしてサーキュラーエコノミーの概念である。ここでは、3つの視点からサーキュラーエコノミーを見ていく。

デザインの視点

COVEROSS®️は、天然繊維でも機能性を付加することができ、快適性が増すと同時に耐久性も増す。具体的には、サステナブルな素材(COTTON USA・レンチングファイバー・落ち綿100%リサイクル、再生ポリエステル糸など)に機能性を持たせることが可能になった。再生素材にもバージン素材同様の機能を付与できることから、再生素材の促進につながる。すなわち、循環型素材や環境負荷の低いサステナブル素材から製品にすることを支援する役割を果たすだろう。

テクノロジーがサーキュラーエコノミーを加速させる

鈴木さんがしきりに強調していたのが、テクノロジーである。素材のトレーサビリティー・耐久性のある素材開発、環境負荷の可視化、そして今回は触れなかったが排水を循環させる洗濯機など、今後のテクノロジーが循環化の「イネイブラー(可能にさせるもの)」がファッションの世界でも活用されていく。COVEROSS®︎自体もテクノロジーの結晶である。

パートナーシップ

COVEROSS®️という最先端の技術を保有することにより、どんなブランドとも提携できる状態になっている。ご紹介したナノ・ユニバースや日本環境設計、レンチング社、PURE WASTEなど、昨今では素材メーカーやアパレルブランドとの協働がどんどん進んでいる。しかも、同社はサーキュラーエコノミーを追求している会社のみと提携する方針である。今後はフィンランドを拠点に世界のサステナブルアパレルブランドとのさまざまなプロジェクトが行われていくだろう。

終わりに

サーキュラーファッションの進化は急加速している。鈴木さんが言及したように、循環型素材といっても、森から、海から、端材から、オーガニックコットンからなどと多様化している。素材を循環型にするか否かではなく、数ある選択肢のなかから、どんな循環型素材を使うかが今後の焦点になるだろう。

そして、その循環型素材を使う際に大切なのは、既存の商品とデザイン・耐久性などの面で同等の質を担保することである。そのため、COVEROSS®️のようなテクノロジーが重要となる。テクノロジーの進化によって、たった10年でファッションが大きく変わるかもしれない。COVEROSS®️を展開するhap株式会社が今後どんなテクノロジーを開発して各メーカーとの協働を進めていくか、注目していきたい。

【参考】COVEROSS®️公式ウェブサイト
【参考】hap株式会社公式ウェブサイト