ベルギーに拠点を置く欧州環境局(European Environmental Bureau : 以下EEB)は、1974年に創立された環境組織を束ねる欧州最大のネットワークである。EU加盟国を中心に35カ国から市民社会団体170組織を会員に持ち、現在もその数は増え続け、個人会員と支援者では3000万人となっている。運営は、欧州連合とその加盟国および国際機関や財団からの寄付によって行われている。

EEBは、サーキュラーエコノミーをはじめとして、気候変動・生物多様性・水・大気・土壌・化学物質による公害・産業・エネルギー・農業・製品設計・廃棄物発生抑止に関わる政策など、広範囲にわたる環境問題に取り組んでいる。調査活動や報告書の作成をはじめ、EU ・加盟国政府・自治体の各レベルに対し問題提起を行うことで政治家の喚起を促し、問題解決に向けた政策・規制の必要性を訴えている。

EEBの活動の焦点は、主にEUとその政策決定過程であるが、国連やOECDレベルなど、より広い地域における政策にも関わっている。また、EUの拡大に伴い、同組織は東ヨーロッパにおける環境保護団体との協力を推進し、これらの組織がそれぞれの国内の環境政策を強化するため、EU法規制を適用するよう支援も行っている。

同組織の強みは、扱う環境政策問題の数の多さでは欧州唯一の統括組織であることである。そのため、欧州の環境問題における動きを一体化させ、EUや国際社会における政策過程において、それぞれの声を大きく反映させることが可能である。欧州におけるEEBのような環境保護組織の社会的・政治的な影響力は大きく、そのことは欧州委員会による政策・規制決定への過程で公開諮問会や特別諮問会において、市民団体が意見表明する場が設けられていることにも明らかである。

今回、EEBにおける政策統括・サーキュラーエコノミー部門を率いるStéphane ARDITI氏(冒頭写真)に話を聞いた。取材では、2021年のサーキュラーエコノミー分野における同組織の取り組みプログラムについて、方法論やその根底理論から政策レベルや産業界におけるサーキュラーエコノミー推進の障壁などについて伺った。

2021年、EEBがサーキュラーエコノミー分野で目指すもの

EEB主催のイベントの様子(2020年1月 提供:EEB)

Q. EEBの2021年における活動プログラム※において、サーキュラーエコノミー部門は、次の主要3項目を重点項目として掲げています。

  1. 生産政策および廃棄物発生抑止により、資源利用を削減する
  2. 新しい製品および消費モデルを推進する
  3. サーキュラーエコノミーと他の環境問題やSDGsとの接点への働きかけ

具体的にはどのような活動を行っているのでしょうか。

必要な政策・規制の要請

1の「生産政策および廃棄物発生抑止により資源利用を削減する」について、まず当組織の活動手段という観点からお話しします。2015年にEUが発表した循環型経済行動計画が公表される前に、EUには廃棄物を管理する「廃棄物政策」がありました。加えて、製品を焦点にした「生産政策」も存在しており、これを具体化したのがエコデザインとエコラベルです。これらは、生産政策に組み込まれ、その後のサーキュラーエコノミー政策の土台となったものです。

この項目では、資源利用の削減に重点を置いています。主要目的は、GDP成長に関わらず、とにかくいかに資源の利用を減らしていくかということです。これまでに構築された廃棄物管理の基盤となる廃棄物政策には、リサイクル目標や廃棄物目標という、廃棄物処理基準が存在します。しかし、EUレベルでは、廃棄物の「発生抑止目標」の設定がありません。当組織は、現在この目標の設定を主張しています。加盟国レベルでは、すでに廃棄物の発生抑止目標を設置している国もありますが、EUレベルで廃棄物の削減に大きく貢献する目標設定が必要です。加えて、「再利用目標」の必要性も主張しています。例えば、2030年までに容器包装(プラスチック)については、リサイクルおよび再利用可能な製品以外は禁止すべきだという主張の中で、今日すでに存在するリサイクル目標の数値とは別に、容器包装における「廃棄発生抑止目標」を設定することを強調しています。

生産政策についての我々の主張は、製品寿命の具体的な数値を設定することです。電子・電気機器だけでなく、家具や衣類なども、より長く使用できるよう生産する必要があります。例えば、最低5年の製品寿命が保証され、その間は、性能、修理、ソフトウェアの更新なども保証される。製品に内蔵されている電池も取り外しを可能にし、解体も容易な設計に。また、分離できない異種のプラスチックを混合しないことなどです。このように詳細に踏み込んだ内容の措置の遂行を要請しています。

政策・規制と経済モデル導入による混合手法

次に、2の「新しい製品および消費モデルを推進する」は、「需要」に焦点を当てたものです。消費者へ何を提供できるかという考えに基づきます。当組織が行なった調査では、消費者側は長寿命製品を求めており、循環型への「準備」ができているという結果が出ています。しかし、理想と現実にはギャップがあるのも事実です。理論では循環型の経済モデルに賛同していても、新製品の広告に惑わされてしまう。また「流行遅れ」にならないという社会的なプレッシャーもあります。従って、ここでは消費者の需要をどのように満たすことができるのかに視点を置いています。持続可能な取り組みが、利便性において劣り、価格インセンティブが低いものであれば、消費者に興味を持たせることは難しい。

では、どのように対応するのか。可能な限りの情報を提供し、警告を発し、消費者の認識を高めていくことがまずすべきことです。十分な知識を得ることができれば、消費者の行動は変わります。もう一つは、事業における循環型経済モデルの推進です。例えば、携帯電話のリースシステムです。リースシステムが普及すれば、一定期間使用した製品を返却するというシステムが定着します。現在もすでにリースシステムは存在しますが、市場は非常に小さい。我々の消費行動はまだまだリニア型です。

この点での取り組みは、政策と公共認識を一体化させるというものです。我々が主張するのは、消費者需要と循環型モデルの「妥協策」です。消費者への啓蒙に加え、事業における「競争」が、持続可能な取り組みへの「環境」を作りだすのです。例えば、アパレル産業では、一年に4回の新作発表がありますが、これを例えば2回にする。買った洋服を売る、交換することで、新製品ではない「新しい洋服」を入手する。

消費者の行動を変えるには、警告だけでなくインセンティブも必要です。例えば、服の修理にかかる付加価値税を免除する、このような組み合わせを我々はここで主張しているのです。

サーキュラーエコノミーの持つ接点とその例示の必要性

最後に3の「サーキュラーエコノミーと他の環境問題やSDGsとの接点への働きかけ」は、単にサーキュラーエコノミーの目標を提示するだけでは、人々を動かすには足りない、或いはその重要性を十分に理解してもらえない可能性もあるという考えに基づくものです。

これまでに我々は、それぞれの取り組みが交差する接点に気づきました。資源利用を削減することにより、炭素排出も削減できる。つまりサーキュラーエコノミーの推進によって気候変動の取り組みにも貢献できる。これが「接点」の一例です。

また、この点は、「サーキュラーエコノミーへの移行は、富のより平等な分配を実現する」という、我々が発信するナラティブでもあります。我々の社会では、富は一点に集中しています。我々西側諸国は最富裕層に属し、エネルギー・炭素・資源などの国民一人あたりの消費量は、アフリカ、インド、南米などの国々に比べ、はるかに高い。サーキュラーエコノミーへの移行が、富をもたらすものでないなら、その「変換」を新興国や途上国で推進することは難しい。循環型モデルがより高価なもので、そのため手元に何も残らないというのであれば、誰も興味を示さない。そのため、どのように富の分配を行なっていくかという問題にも取り組む必要があります。

その一つに機会の創造があります。例えば、1トンの原料があるとします。その原料をいかにして最適化するか、一製品について言えば、できるだけ長くその寿命を維持する、故障すれば修理する、使用済みになれば、リサイクルする。「1トンの原料」自体には変わりありませんが、この中で、製品の管理、修理、リサイクル、再構築などにおける新雇用機会を創造する。つまり、同じ量の原料に対し、より多くの雇用機会を作るということです。

雇用機会の創出は、より多くを生産するという、これまでのリニア型経済モデルではなく限られた原料の利用を最適化することで行う。富の分配への可能性を、限られた投入量を最適化し、より多くの経済・雇用機会を最大限に生み出すという考えのもと、具体的に説明していく。そして、これは、サーキュラーエコノミーの事業モデルを、教育機会、男女平等機会、富の分配などのSDGへの取り組みへ紐づけることでもあります。

サーキュラーエコノミー推進における多数の障壁

Q. サーキュラーエコノミー政策をEUレベルで推進するにあたり、これまでに明らかになった障壁は?

障壁は多数ありますが、主要なものをいくつか挙げます。現在、我々のいる社会は、ほとんどのシステムがリニア型経済モデルに基づいて動いています。サーキュラーエコノミーの推進は、このモデルを変えようというものです。そのため、リニアモデルから利益を享受している人たちは、このモデル変更には意欲を示さない。既存構造からの反発です。

2つ目は、我々が「雇用損失への恐れ」と呼んでいる、人々の懸念です。循環型モデルへの移行は、新しい雇用機会を作り出しますが、一方ではそれによって雇用機会を失う可能性を考える人にとっては、その懸念を直ちに払拭するものではない。例えば、循環型モデルにより、洗濯機の生産が減れば、職を失う人がでる。修理やメンテナンスで新雇用が生まれても、失った職を次の日から補う保証はない。

政府が事業モデルの変更が行おうとしても、雇用損失の懸念があれば、自治体は地域の経済を守ろうとして、反発する可能性もあります。

3つ目は、おそらく日本についても同様だと思いますが、欧州における「成長モデル」の存在です。サーキュラーエコノミーは、必ずしもこの「成長モデル」への大いなる貢献を行うものではなく、それゆえGDPの成長を保証するものでもない。GDPがマイナスになれば、政府にとっては税金の減少にもつながります。再利用やリサイクルは、「脱成長」として否定的に捉えられることがしばしばあり、障壁の一つになっています。

4つ目は、未だ存在する過剰消費習慣です。しかし、消費習慣は、広告や販促メッセージなどによって強制的に植え付けられたものです。そのため、この「メッセージ」を少しずつ変えることにより習慣も変えることができるはずです。しかしながら、短期的には、まだ障壁となっています。若者は最新のiPhoneが欲しがります。流行の製品を持つことが一つのステータスでもあります。それを5年間同じ製品を使えというのは難しい。ただ、この点については、私個人的には、この傾向は減少しつつあると感じており、長期的には変換が可能だと思っています。

行動のタイミング

Q. EEBの働きかけについて、EU政策・規制策定や改定のどの過程で行動を起こすのが最も効果的なのでしょうか。

早ければ早いほど高い効果が期待できます。EEBは、政策が具体化する前の段階でも行動を起こします。将来的に必要と思われる政策について具体化し、政策決定機関へ提示を行います。例えば、当組織が、廃棄プラスチックによる海洋汚染やマイクロプラスチック問題における取り組み運動を開始したのは、現行の欧州プラスチック戦略が発表される前でした。我々が声を上げ続けたことによって、政治家も動き始め、最終的に欧州委員会による施策となりました。

我々の活動は、まず、問題を公共に提起していくというものでもあります。問題提起を行うことが可能となれば、EUの政策策定機関である欧州委員会へ向け、なぜ政策が必要なのか説得を試みます。こういった働きかけは、EUレベルだけに留まらず、加盟各国の政府レベルでも行います。それは、EUレベルにおける政策が策定される前に、各国の政府レベルでの政策を導入することも可能だからです。同様に、地方自治体に対しても働きかけを行います。これは、一定の措置設定には自治体が権限を持っている場合があるからです。また、メディアへのアピールも非常に重要です。

一旦政策・規制が施行されれば、その状況観察や評価も行います。従って、問題提起から始まり、政策過程を観察し、意見表明や調整への要請、施行後の評価活動まで10年越しの非常に長い道のりです。

EEBのような団体の活動環境が整う欧州

Q. EUレベルにおいて、EEBはどの程度の影響力を持つのでしょうか?

加盟国レベルでは国によって差はありますが、少なくともEUレベルでは、市民社会団体が声を上げる環境が整っているといっていいでしょう。何らかの問題提起を行なった場合、一定の政治家からの反応は必ず得られます。欧州委員会の政策決定過程においても、公開諮問やワークショップなど、我々のような組織が意見表明する場が与えられています。これは非常に重要なことです。しかし実際は、危機的状況への取り組み要請について、我々が声を弱めないこと、引き下がらないこともあります。我々は、決して地上のパラダイスの創造を提案しているのではないのです。今、皆が危機的状況下にいるのです。このまま行動を起こさなければ、取り返しのつかないことなる。瀬戸際に立っているゆえの行動なのです。

産業界の反応に対して

Q. 規制や政策決定の過程において、産業部門(業界団体など)は、しばしば経済的な影響の観点からロビー活動を行いますが、EEBの主張と衝突を招く場合、どのように対応するのでしょうか。

保守的なロビーは常に存在します。欧州でも日本でもおそらく同様でしょう。問題は、事業者が競合からの差別化を行い、かつ事業を維持継続していける新たな「競争の場」をどのように作っていくかということです。それが叶えば、我々と事業者は、同じ方向性を共有することが可能になります。もちろん、容易なことではありません。産業部門にとっては、大きな挑戦でもあります。

産業部門における事業モデルの変換に際し、市場にモデルが多数存在し、そのため厳しい競争に直面することになれば、産業界は意欲を示さないでしょう。公共政策ができるのは、競争の方向性を一つにしその後押しをすることです。そうすれば、持続可能な事業モデルへ初めに移行した「先駆者」が、その反対側にいるリニア型モデルで安価な製品を提供し続ける競合に直面することもないのです。

そこでは、製品基準も非常に重要となります。修理可能な洗濯機と、修理できない洗濯機が同時に市場に出回っていれば、修理可能な洗濯機を作る業者は、競走に不利になります。これを、規制により、市場に出回る洗濯機を全て修理可能にすれば、全ての業者へ公平な競走環境を提供することができます。産業部門によって違いはありますが、多くの場合、そうすることによって保守的なロビー活動を「緩和」することが可能だと思います。

政策が整っている産業部門では、そうでない部門との比較において、移行への意欲が明らかに高まります。EUレベルでの一例は、家電におけるエネルギー効率基準です。この部門では、規制管理が整っており、家電メーカーは規制を製品の製造や販売戦略へ一体化しています。一方で、建築材などサステナビリティにおける取り組みに関しては、まだ規制整備が整っていない部門があります。このような産業部門は、事業モデルの変換には懸念があり、意欲的な姿勢を示しません。それゆえ、公共政策の整備が必要なのです。

取材協力:Stéphane ARDITI氏, Director for Policy Integration and Circular Economy The European Environmental Bureau

Stéphane ARDITI氏プロフィール

欧州環境局(以下EEB)で政策統合・サーキュラーエコノミー部署の部長を務める。EEBに加わる前は、フランスと英国において、自動車・航空産業部門のコンサルタントを務める。フランスにおいては、建物のエネルギー効率や持続可能な政策開発評価に関する学術研究にも協力。フランスで、哲学および環境管理を学ぶ。

※  EEB Work Programme 2021

【参照サイト】EEB