動静脈連携の必要性が叫ばれて久しいが、動静脈間のパイプを太くすることはサーキュラーエコノミー移行における重要な要素であるとして、改めて注目が集まる。双方にとって、環境・社会への貢献と自社ビジネスの拡大を両立させながら、「互いに高め合うことのできる」エコシステムの構築を図ることにつながる。

石川県金沢市にある自動車リサイクル大手の会宝産業株式会社は、まさにその実現に向けて邁進する企業である。今回、「動静脈連携」「エコシステム構築」「中小企業のサーキュラーエコノミー構築の方法」「循環型ビジネスモデル構築」といった観点からヒントを得るべく同社を訪問した。

会宝産業の事業とこれから

1969年に創業した会宝産業は、使用済み自動車を解体し資源として再生することを生業とする。直接または市場を介して中古車を買い取り、鉄・非鉄金属・アルミ・銅・プラチナ・パラジウムを抽出し、各専門リサイクル業者に販売する事業を展開。売上比率は国内3割・海外7割と、圧倒的に海外の売上比率が高い。今では世界90カ国とのネットワークを築き、国内の高品質な部品を海外へ輸出している。その屋台骨の一つとなっているのが、後述するKRAシステムといわれる自動車リサイクル総合管理システムだ。同システムは、中古車仕入れから解体・部品管理・販売までの流れを追跡・可視化するツールで、品質確保と適正価格での販売に貢献する。

同社は売上を伸ばしながら環境へ貢献する企業として注目されてきた。例として、2017年にSDGsビジネスアワード2017「エコシステム賞」を受賞、同年にUNDP(国連開発計画)が主導するビジネス行動要請(BCtA)に日本の中小企業・静脈産業として初めて加盟が承認され、2018年にジャパンSDGsアワードの副本部長賞を受賞した。

最近では、同社の強みを活かしながら中核事業の周辺ともいえる領域で次々と新しい試みを行う。ELV(使用済み自動車)由来のオイルを使った農業、ELVを原料とした漁礁を設置しCO2排出量吸収源として藻場を再生する取り組み、ELVからオフィスチェアやカバンなどへのアップサイクル、循環型社会に向けた構築のヒントを体得するカードゲーム(株式会社LODUと共同)などだ。こうした新規ビジネスを生み出すために重要な社内風土づくりにも励む。その中核となる取り組みが、2030年の会宝産業の理想的な姿をバックキャスティング思考でアクションに移していく「KAIHO2030プロジェクト」。循環型社会への転換点を迎えるなか、同社は一人ひとりの社員の力によってさらに変貌を遂げようとしている。

同社では1日約40台処理される。基本は受注生産

ループの大小を活用するとともに、海外のルール整備に貢献

海外売上比率7割の要因は?

先述の通り、同社の海外売上高比率は7割だ。同社海外事業部課長の鈴木大詩さんは、「日本車は適切にメンテナンスすれば40万~50万キロメートル走ることが可能。ただ、日本の場合は車検制度があり、まだまだ走れる状態の車が多いが、経済の原理により廃車となる。そのため、高品質で利用できる中古部品が多い」と話す。

海外事業部課長 鈴木大詩さん

もともと、「解体屋」として営んでいた同社は、1991年にクウェート人バイヤーが来訪し20トンのエンジンやサスペンションなど1台分(約20キログラム)を同量の鉄くずの3倍の値段で買い取ったことで、海外に目を向けた。「解体屋」から「自動車リサイクル業」へ脱皮する転機となった。

現在、UAE・千葉四街道・インターネット上で自動車中古部品のオークションを運営している。特にUAEではオークションに集まる3000社の販売業者により、世界中の自動車中古部品が売買され、各国市場へ流れていく。オークションを運営する理由は、車体部品の適正な相場ができることで、良質な部品に相応する適正な価格設定を促すという考えからだ。他方で、国内における調達価格に関してもグローバル相場を把握しておくことで、適正化を図るための交渉材料ともなる。

サーキュラーエコノミーを実現していくには、大小さまざまなループを活用しビジネスとして成り立たせることが重要だ。各国間の業界慣習の違いや規制ギャップなどを活用することで、国内では満たされない中古品・部品等の需要の受け皿となりうる。その際に、国内外の価格ギャップを乗り越える適切な価格設定と、それができる環境をいかに創れるかが重要だということが、同社の取り組みからもわかる。

海外のルール整備に貢献

しかし、上記の視点だけでは、処理インフラが未整備である国であれば中古品等をその市場へ「押し付け」てしまうことにもなりかねない。これは廃プラスチックや古着、電子廃棄物などにおいて見られてきた光景だ。

鈴木さんは、「世界で使用済み自動車が与える悪影響は大きい。売れる金属類以外のプラスチック・ゴム・ガラスなどは野焼き、オイルも垂れ流しになっている国もある。盗難車両も資源ロスの一因になっている。こういった国々でのリサイクル業界においては労働安全規制が整備されておらず、貧困層が従事する状態になっているため、技術指導を行い産業を育成していくことが大事だ」と話す。

そこで、ブラジル・インド・UAE・マレーシア・インドなどでの教育機会の提供や国際リサイクル教育センター(International Recycling Education Center : IREC)を同社内に設立することを通じて、海外で正しく資源が循環されていくことに同社は貢献する。インドでは2020年に現地リサイクル事業を本格開始し事業化につなげている。

IRECの寮も整備

さらに目を見張るのは、インド・ブラジル・ケニア等各国で法整備に向けて助言するなどして、正しくELVが処理されるようなシステムづくりに貢献していることだ。法整備を促すのは、環境対策への投資をせずに中古車部品売買が成り立ってしまうため、同社にとってメリットが小さくなるという事情もある。

「たとえば、環境中にオイルを垂れ流しする事業者に対して、我々は環境対策を加味して車を調達・販売している。この状況だと我々は市場には入っていけないため、規制が整っている国で活動が可能となる」と鈴木さん。「世界の車の後始末」をミッションに掲げる同社にとって、それが正しいルールのもと実施されることは、ビジネス機会にもなるのだ。

ループの大小を利用するという視点だけにとどまらず、ループ自体の健全性向上を促すシステム構築に貢献することで、この分野におけるパイそのものを大きくしているともいえそうだ。

自らルールを策定し活用する。輸出用中古車エンジンの規格

JRSで評価された結果を示すタグ(写真提供:会宝産業)

自らルールも策定し活用する。輸出用中古車エンジンには劣悪品などが存在し、公正な競争が保たれていない。そこで、同社は2010年、輸出用中古車エンジンの品質を6項目で評価する「Japan Reuse Standard(JRS)」を策定した。2013年10月にはJRSをベースに英国規格協会のPAS777として発行され、JRSへの関心が高まったという。なお、PASではなく現在は企業による規格として運用している。

JRS策定の理由は、日本から輸出される中古車エンジンは品質が高いにも関わらず、これを評価する物差しがなく、顧客はリスクを考慮して低価格で製品を購入することが慣行となっていた。品質を重視する海外顧客は多かったため、結果的にJRS普及により中南米やロシア向け売上高は増加した。さらに、JRS遵守に向けたノウハウを同業他社(後述のRUMアライアンス加盟企業)とも共有しJRSラベル発行も増やしていったという。今後、品質志向が高まる国が多くなるにつれ、JRSの効力は威力を増すと同社は見込んでいる。

同社のJRSは、自ら標準を作っていくことで市場を健全に拡大させていくと同時に、高品質な製品を供給できる公平な環境を生み出すことで、動脈へのパイプを太くすることにもつながっているのではないだろうか。

同業他社との協業は業界全体を発展させる

海外だけではない。国内の同業他社とも共創領域で協業することで業界の発展、ひいてはサーキュラーエコノミーへの貢献へつなげる。2003年には業界として顧客へ効率的に製品を供給することを目的に、NPO法人RUMアライアンスを設立した。リサイクルの標準化や品質向上、人材育成を目的としている。

さらに、冒頭述べたKRAシステムは、車両の入庫から解体部品の管理・販売までの一連の流れを情報化し同業他社と共有することを目的とするツールとして機能する。同システムでは、1台の車体から取り外される最大50点以上の部品をRFIDタグで管理する。掲載される情報は、車オーナー・走行距離・事故詳細・車両写真・部品単位の原価按分など多岐にわたる。過去の販売データをもとに販売価格が予測され、1品あたりの粗利など実績分析もできるシステムである。

KRAシステムを構築した理由は2つあるという。1つは、品質の高い日本の中古車や中古部品に個社で需要に応えるにはハードルが高く、国内の業界全体で対応する必要があるという理由だ。同システムを利用する98社が参加するKRA(会宝リサイクラーズアライアンス)とともに在庫や部品情報を共有することで、需要がある分野で強みを持つ企業が対応できるようにする。

もう一つは、販売先に信頼感を持って買い取ってほしいという理由だ「たとえば、このライトがどの車のライトか、どのくらいの走行距離を走った車体の部品なのかというように、トレーサビリティが不明なことがリユースに向けた障害となる。そのうえで、安心して値付けされ取引できるような仕組みを構築した」と鈴木さんは説明する。中古車や中古部品と情報を紐づけていくことで、モノの価値を高め、結果的に同社の売上に貢献している。

動静脈連携の肝は?

KRAシステムやJRSなどの共通の物差しは動静脈連携を促す強力なツールとなりうるが、実際動脈側とのコミュニケーションも図っている最中だという。解体や部品抽出などから得られた知見を設計段階から活かせば、リユース・リサイクル性を高めた自動車を製造することにつながる。

「例えば、車にあるボルトは持ち上げて解体しているが、その際に車の重心がかかる箇所にフォークリフトの爪を入れて持ち上げないと重心がずれてしまう。ただ、重心にねじがあると我々は困る。車ごとに違うとそれぞれ設備も必要になることもあり、メーカーさんで統一できればよいといった話など、我々から情報を提供することはできる」と鈴木さんは語る。

「やはり、お互いが会話して最適解を見つけていくしかない。経済原理で成り立たないとリサイクルはできないので、制度設計が重要になるのでは。動脈・静脈側の制度設計を一緒に作っていけることが重要なのではないか。たとえば、LCAにおいても循環性を高めた設計をすることで、メーカーが工夫した貢献分と静脈側の貢献分をどう按分するかなど、みんながウィンウィンになれる仕組みが必要だ」と続ける。

鈴木さんの言葉からは、静脈側が蓄積してきた情報を共有し動脈側の設計等に活かすといったようなコミュニケーションは緒に就いたところだという印象を受ける。もとをたどれば、同社創業者で現取締役会長である近藤典彦さんは、自動車解体業を動脈産業に匹敵する規模にできないかを考えてきたという。その鍵となるのは静脈側も巻き込んだコミュニケーションなのであろう。その意味では、サーキュラーエコノミーへの移行が既定路線化するなかで、静脈に注目が集まる今がチャンスだといえる。

5Sは基本

編集後記:システム思考を活用する

自動車を巡る環境は大きく変化してきた。同社は、「解体屋」から「自動車リサイクル業」そして「循環産業の担い手」へと進化を遂げてきたが、「解体屋」にとどまるだけでは売上増にはつながらず、変化に対応できなかっただろう。そこには、KRSシステムや同業他社との協業、規格策定など、自ら環境を整備することで適正な市場を作り出すというパイオニア精神がある。モノに情報を付与することで高い品質が適正に評価されればされるほど、部品の価値が相対的に高まり、結果的に循環性向上へ貢献していく構図が生まれている。

このような未来や大局を見据えた戦略を策定する原動力はどこにあるのだろうか。サーキュラーエコノミーを実現していくにはシステム思考が重要であると言われるが、それを意識していようとしていまいと、同社にはまさにシステム思考が根付いていると見受けられる。どんなステークホルダーと連携しエコシステムを構築していくか、どんなシステムがあれば業界全体が発展しひいては自社にも恩恵として返ってくるか、どういった市場環境があればよいのか、こういった問いに答えた先に現在の環境があるといえるのかもしれない。サーキュラーエコノミーの実現に向けて動静脈連携が叫ばれている今、同社から学べることは多い。

【参照】