ファッション業界におけるサステナビリティ向上への動きが始まって久しい。サステナビリティやサーキュラリティを高めたとされる商品が日々販売されている。その反面、「供給過剰」いわゆる「つくりすぎ」の問題は依然として存在している。ファッションコンサルタントの小島健輔氏は、2019年の供給数量28億4600万点に対して消費数量は13億7300万点、48.2%が消化されたと分析(90年は96.5%)。約半数は売れ残る。もちろんすべてが廃棄されるわけではなく、来シーズンに持ち越すなどされるというが、今に始まったことではないこの問題は、サプライチェーンのグローバル化やいわゆるファストファッションの台頭など構造的な要因が根付いており、一筋縄ではいかない。

ここに少しでも風穴を開けようと業界は腰を上げ始めている。ファッションサプライチェーンの50社以上が加盟するサステナブルファッションに向けた企業連携プラットフォームであるジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)は、2050年までの二大目標の一つに「適量生産・適量購入・循環利用によるファッションロスゼロ」を掲げる

JSFAの正会員である株式会社ユナイテッドアローズは2022年、サステナビリティ目標のなかで廃棄率とその達成目標の公表に踏み切った。大手では株式会社ワコールが廃棄率の公表をしている例があるが、国内では珍しいという。背景にどんな想いがあるのか。同社のサステナビリティ戦略「SARROWS」について、同社経営戦略本部サステナビリティ推進部部長の玉井菜緒さんに話を聞いた。

廃棄「率」の公表。その真意は?

廃棄率公表を含む全体のサステナビリティ活動を「SARROWS」という名のもとで再定義し始めたのが2022年。より親しみを持ちやすいように、UNITED ARROWS の「ARROWS」にサステナビリティの頭文字「S」をつけた。SARROWSは、Circularity、Carbon Neutrality、Humanityの3本柱で構成。それぞれの柱に具体的数値目標も設定した。廃棄率目標はCircularityのなかの目標として位置づけられる。

「量」こそ公表していないが、廃棄「率」の明示は、「まず商品を廃棄していることを認めることになるので、業界としては珍しいのではないか」と玉井さんは話す。 

環境省による令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務を担った日本総研は、最終的に総販売点数のうち売れ残り品は13.61%で、同じく総販売点数のうち約0.3%は廃棄されると試算している(回答数:29社)。これがいわゆる「一度も着られずに捨てられる服」だ。ユナイテッドアローズは、2030年までに商品の廃棄率0.1%(繊維製品は0.0%)を達成する目標を掲げる。


株式会社ユナイテッドアローズ 経営戦略本部サステナビリティ推進部部長 玉井菜緒さん

「この数値を達成させるためには、大量生産して、セール販売して、残ったものを廃棄するというビジネスモデルではなく、お客様から求められている必要な量を必要な時期に適切な価格(定価)で販売し、売り叩くことはせずに、定価での消化率を高めるというサイクルをつくる必要があります。当然廃棄率は減りますし、経営にも寄与します」

2021年の廃棄率は1.0%、2022年は0.4%(靴やアクセサリーなどを除く繊維製品に限ると0.3%)という結果を公表済みだ。調達から販売までの計画を練った結果、2022年には定価販売比率が過去10年間で一番高い数値を記録したという。

SarrowsのCircularity 目標と2022年時点での進捗状況(株式会社ユナイテッドアローズ提供)

「ようやくできた。」経営層が納得

同社は2023年5月に、長期ビジョン「美しい会社 ユナイテッドアローズ」(2033年3月期目標)と、その実現に向けた中期経営計画「感動提供 お客様と深く広く繋がる」(2024年~2026年3月期目標)を発表。長期ビジョンのなかでサステナビリティの考え方が示されている。 以下、一部を抜粋する。

「限られた資源で最大限の企業価値を創出すること」 であり、適正量の商品をサプライチェーンに配慮して適切に調達し、無駄なく販売していくこと、つまりプロパー消化率を改善させていくことでもあります。

この結論に至るまでには議論の積み重ねがあったようだ。「経営会議の下部組織として2020年4月にサステナビリティ委員会を発足させて以来、毎月1回1時間以上は必ずサステナビリティに関して議論しました。これが長期ビジョンにおけるサステナビリティの要諦がスムーズに結論づいた要因にもなっているかと思います。ようやくできたという感じです。数値が出ると逃げられない。客観的事実として突きつけられます。これが一つの進むべきとして社内では定着しつつあります」

重要なのは、これはサステナビリティ戦略でもあり経営戦略でもあるという点だ。取材ではこの言葉が幾度となく発せられた。同社は、現在のプロパー消化率(定価販売率)は目標水準とは開きがあり、売上総利益率向上に向けて、消化率の改善余地は残されていると分析している。

「自然環境に対するインパクトはもちろん、経営にもプラスになると考えています。プロパー消化率を高めていくことで結果的に企業経営に直結する、という見立てです」

廃棄率目標達成に向けた道筋

これまでも同社では、いわゆる5適(適時・適品・適所・適価・適量)を商品基本計画内で実施していたが、それを改めて具体的な数値目標を立てて打ち出した。社内でも廃棄率目標に対しての反応があったようだ。

「指標の設定は、社内の推進力になったと感じています。たとえば、廃棄処理を担当するメンバーには、まだ使えるものが廃棄されている現状をなんとかしたいという想いを持つ者もいます。彼らは今回の会社としての指針策定を前向きに捉えてくれていて、これまでやっていた業務でありながらも、さらに細かい分別に取り組み、声掛けをし合うなど、モチベーションを高めて取り組んでいる様子を目の当たりにします」

オフィスのごみステーションでも、SARROWSの目標やコメントを掲げることで、サステナビリティに関する会話が生まれているという (写真:ユナイテッドアローズ提供)

廃棄率0.1%目標は、服やアクセサリーなどすべての商品を対象にしている。同社の業態は主に2つだ。一つは、セレクトショップとして他ブランドの商品を仕入れて販売する小売としての形態。もう一つは、オリジナル品として商品企画・設計のうえ、提携工場に製造を依頼して、製品化された商品を再び仕入れるというブランドとしての形態だ。

廃棄率算出の対象範囲として、商品の所有権が同社にわたった時点から顧客に販売するまでの間で、サーマルリカバリー以下を廃棄の定義に含める。売れ残り商品や何らかの原因で傷モノになった商品、サンプル商品、調達したが品質基準に合致しないと判断されたもののうち、アウトレットや次シーズンに回されるもの以外は主に廃棄されるという。当然、入り口から考えていかないと0.1%は達成できない。

では、廃棄率減に向け、前述の適量調達・プロパー消化率を高めることに加えて具体的にどんな活動を想定しているのだろうか。

「サンプル品の試作を3D上で行うことや、傷モノでも修繕のうえまだ販売できる商品はアウトレットで販売するなど、入口から出口まで取り組まなければなりません。ただ、足元では傷モノ品が多くなっているので、次の打ち手として傷モノの発生抑止に注力する必要があります」

「たとえばボールペンや化粧が付着してしまったなど、社内の工程で傷モノ品が発生する要因を調査して、手立てを考えているところです。これには店舗スタッフとの対話を積み重ねていくしかありません。傷がつくと廃棄率、もっというと業績につながってくるという対話をしていくことですね。数値達成は、地道な作業の積み上げの結果実現できるものと考えています」

ちなみに、傷モノ発生の防止に力を入れることにはほかにも理由があるようだ。ちょっとした顧客の変化だという。

「最近はお客様が購入される際、二次流通に回す(再販する)ことを前提にお買い上げになるケースが出てきているようです。たとえば、きれいなボックス付きで C to Cマーケットなどで売ることも考えているような場合は、傷モノに対してより厳しい見方をされます。ですので、一次流通時はできるだけきれいな状態で購入したい方も出てきているという変化がありますね」

サステナビリティに対する意識の高まりから、傷モノに対する許容度が高まっている購買層もいれば、上記のように再販という角度から一次流通時の商品を厳しく見る顧客もいる。目指すところは同じではあるが、こういった多様な顧客ニーズにも対応していかなければならないようだ。

廃棄率目標達成に向けた道筋

ファッションは「流行」と訳されることとは裏腹に、ファッションのサステナビリティを語る際、「シーズン」や「流行り」と「サステナビリティ」は両立しないと見る向きもある。その商品はまだ使えるのに、流行が終わったことなどを理由に着られなくなるという理由からだ。この議論に対する玉井さんの見方はこうだ。

「ファッションはその時々の世の中に対して、私たちがありたい姿を反映していることを自負しているところがあります。たとえば、窮屈な世の中になった際には、ゆったりした服を着たい気分になるというようなことですね。ただ、やはり流行を打ち出すことが廃棄につながるというよりも、やはり量と質の適正化が重要と考えます」

同社ではいわゆる「シーズンレス」商品も増えている。「弊社では、シーズンを立てたくないという理由で、『2023年春夏コレクション』といった形ではなく『5回目のコレクション』などという回数で打ち出しているレーベルがあります。少しずつシルエットが変わるといったようなことですね。このように、弊社では『今これが流行りだから買ってください』というよりも『トラッドマインド*』をベースに展開をしてきました」

*トラッドマインド:流行やシーズンにとらわれないデザイン性に限らず、厳しい品質基準でこだわりをもってモノ作りに真摯に向き合う姿勢のこと。

「お客様と関係性を深める」

今回は、同社のSARROWSの取り組みでも特徴的な廃棄率を中心に伺ったが、当然使われずに廃棄される服の率を下げるだけではサーキュラリティは達成できない。それ以外の大部分を占める、購入されて着られる服の製品ライフサイクルへの対処が必要なことは言うまでもない。

SARROWSのCircularity目標のなかには、環境配慮商品の割合を2030年に50%に高める(2022年は16.2%)という目標もある。これはオーガニック素材やリサイクル素材など「環境配慮された素材は何か」を独自で定義し、サプライヤーに提示していくものだ。

SARROWSツリー(環境に配慮した原材料)(株式会社ユナイテッドアローズ提供)

「業界では環境配慮素材の基準がありません。基準ができるのを待っていても進まないので、私たちとしての意思表示として出しています。文章として可視化すると、これをベースに議論ができるんだということを実感しています」

仕入れ先からはどんな反応があるのだろうか。

「実際仕入先様からは『現実的ではない』といった声や『なかなか大変です』という声をいただくこともあり、調整をしている最中です。ただ、そういった議論を通じて業界全体が変わっていくきっかけになればと思います」各レーベルから数値目標や素材に関する議論が活発に行われている実感を持っているという。バイイングパワーを逆手に良い影響を与えられる領域ともいえる。

ほかにも、長く着られるように修理などアフターサービスの強化にも努めている。利用した後に出る廃棄については2008年から株式会社JEPLANのBRING™を通じてリユース・リサイクルしている。

これらはすべて経営に直結する。「お客様ニーズを捉えたときに、今は環境に対する意識と実際のアクションがつながっていないことが多いのですが、将来これがつながってきます。その価値観に見合った商品を今のうちからトライして提供していかないと、そうなったときには追いつけないと考えています」

商品が長く使われることが販売機会減少につながるのでは、との一般的な懸念に対しては、

「私見ですが、アフターサービスについて、一人のお客様との接点を多く持ち、長くお付き合いをして、ブランドに対してより信頼していただいたり、関係性を深めていただいたりすることにつながりますよね。長い目でみたら売上もついてくるのではと見ています。修理やリユースなどについては、マーケティングの世界でいうライフタイムバリューを高めることにつながるのではないでしょうか」と、真正面から答えてくれた。

編集後記:蛇口を閉めることと経営のトレードオン実現なるか

先述した5適や同社が大切にする「トラッドマインド」などに代表されるように、もともと高付加価値の商品を提供する文化を持つユナイテッドアローズ。今回のSARROWSはこの文化を背景に、サステナビリティを経営戦略に統合させ、具体的目標数値とともに長期戦略としてアップデートした点に大きな特徴があるのではないだろうか。単なる意識による資源節約の延長線上ではなく、適量販売を業績へ直結させるという構図を描くことで、システム的解決を図ろうとしているともいえる。結果的に、もともと持っていた価値観を昇華することにもつながっているようだ。

どの業界においても、素材の変革など製品自体へのアプローチも重要課題だが、そもそもの「つくりすぎ」、すなわち蛇口を閉める必要性に迫られている。ただ、蛇口を閉めることと企業の経営をトレードオンにしていくことは至難の業だとされる。ユナイテッドアローズがそれを体現してくれるのか、期待したい。

【参考】SARROWS
【参考論文】マネー現代『アパレル「大量の売れ残り」はどこへ消えるのか…その意外すぎる「現実」』(2020年06月25日付)
【参考】ジャパンサステナブルファッションアライアンス
【参考】長く愛されるものづくりと、独自の総生産・総在庫・総販売システムによる製品廃棄ロスの低減(株式会社ワコール)
【参考レポート】環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務 -「ファッションと環境」調査結果(株式会社日本総合研究所 2020年3月)
【参考】【一部店舗限定】BRING衣類回収