サーキュラーエコノミーは、日本が先頭を切って推進してきた3R(リデュース・リユース・リサイクル)の範疇を超えた環境・経済・社会のあり方を変革していくシステムといえる。業界・バリューチェーン・ビジネスモデル・法規制など取り扱う範囲は幅広い。日本でもサーキュラーエコノミーの認知度は高まっているが、今一度その本質に立ち返っておきたい。ここでは、「サーキュラーエコノミーの基礎を理解する書籍」「サーキュラーエコノミーの理解を補完する書籍」「実践編」「番外編」の4つに分けて、おすすめの書籍を10冊紹介する。なお、各書籍情報の項目には、優先的に日本語版と電子書籍版を掲載している。
サーキュラーエコノミーの基礎を理解する書籍
1. 新装版 サーキュラー・エコノミー デジタル時代の成長戦略
コンサルティングファームのアクセンチュアがサーキュラーエコノミーの概念やビジネスモデルを包括的にまとめた書籍。アクセンチュアは、サーキュラーエコノミーを生産と消費のあり方を変える今世紀最大の資本主義革命であると位置づける。本書は、サーキュラーエコノミーの基本理念を説明し、5つのビジネスモデル(「再生型サプライ(Circular Supply-Chain)」、「回収とリサイクル(Recovery & Recycling)」、「製品寿命の延長 (Product Life-Extension)」、「シェアリング・プラットフォーム(Sharing Platform)」、「サービスとしての製品(Product as a Service)」)を紹介している。サーキュラーエコノミーの入門編としておすすめの一冊。
書籍情報(日本語版)
新装版 サーキュラー・エコノミー デジタル時代の成長戦略
ピーター・レイシー (著), ヤコブ・ルトクヴィスト (著), 牧岡 宏 (翻訳), 石川 雅崇 (翻訳)、日本経済新聞出版(2019年10月3日)、360ページ
2. The Circular Economy: A Wealth of Flows: 2nd Edition (English Edition)
1. に比べるとやや応用本ではあるものの、こちらもサーキュラーエコノミーの概要が説明されている。サーキュラーエコノミーの歴史や基本的考え方から始まり、シェアリングエコノミー・DDT(ダイレクト・デジタル・マニュファクチュアリング)・都市鉱山・環境再生型経済(Regenerative Economy)・サーキュラーエコノミーの教育など、幅広いテーマが取り上げられている。解説書というより読み物としての要素が強く、楽しみながら学べることが特徴だ。英エレン・マッカーサー財団のエレン・マッカーサー氏が編集している。
書籍情報(英語版)
The Circular Economy: A Wealth of Flows: 2nd Edition (English Edition) Kindle版
Ken Webster (著), Ellen MacArthur (編集)、Ellen MacArthur Foundation Publishing; 2版(2016年11月22日)、210ページ
3. The Circular Economy: A User’s Guide (English Edition)
サーキュラーエコノミーの概念の形成に重要な役割を果たしたパフォーマンスエコノミーの提唱者Walter Stahel氏による著書。パフォーマンスエコノミーは、ものとしての製品自体ではなくサービス(パフォーマンス)を売り、経済成長や雇用創出と資源活用を分離(デカップリング)する意図をもつ。この概念をサーキュラーエコノミーの文脈で語られている。ループを閉じる・資源の回復(RとDの段階)・拡大生産者責任など、著者の40年にわたる研究がこの一冊に凝縮されている。
パフォーマンスエコノミーの理解をさらに深めたい方は同氏による『The Performance Economy Second Edition』(Palgrave Macmillan, 2014)もご参照いただきたい。
書籍情報(英語版)
The Circular Economy: A User’s Guide (English Edition) Kindle版
Walter R Stahel(著)、Routledge; 1 edition (2019年6月3日)、118ページ
サーキュラーエコノミーの理解を補完する書籍(サーキュラーエコノミーの概念を形成した考え方)
4. サステイナブルなものづくり―ゆりかごからゆりかごへ
Cradle to Cradle®︎(ゆりかごからゆりかごまで)の概念を提唱したウィリアム・マクダナー氏とマイケル・ブラウンガート氏による著書。ごみという概念がない生態系の循環をモデルとしたアプローチ。環境破壊を遅らせるLess Bad (さほど悪くない)ではなく、設計の段階から自然界にとってプラスの製品を作るMore Good(より良い)を目指す。生物資源の生物的代謝と枯渇性資源の技術的代謝をお互いが汚染し合うことがないように分けて考え、それぞれのループで循環させることを提唱。ちなみにウィリアム・マクダナー氏は幼少期を日本で過ごし、その経験に影響を受けていると回顧している。
書籍情報(日本語版)
サステイナブルなものづくり―ゆりかごからゆりかごへ
ウィリアム マクダナー (著), マイケル ブラウンガート (著), 吉村 英子 (監修), 山本 聡 (翻訳), 山崎 正人 (翻訳), 岡山 慶子、人間と歴史社 (2009年06月25日)、315ページ
5. 自然資本の経済―「成長の限界」を突破する新産業革命
原題は「ナチュラル・キャピタリズム」。自然資本が提供する生態系サービスは最も優れた経済システムであるとし、これを維持しながら人間が営む経済活動の再定義を図る考え方。すなわち生態系サービスと資本主義の融合を意図する。「自然資本の生産性の向上」「バイオミミクリー」「サービス型ビジネスモデルへの転換」「自然資本への再投資」の4つの考え方から構成されている。自動車・テキスタイル・建築・都市計画などの豊富な事例も満載。
書籍情報(日本語版)
自然資本の経済―「成長の限界」を突破する新産業革命
ポール ホーケン (著), L.ハンター ロビンス (著), エイモリ・B. ロビンス (著), 佐和 隆光 (翻訳), 小幡 すぎ子 (翻訳)、日本経済新聞出版 (2001年10月1日)、597ページ
6. ブルーエコノミーに変えよう
エコ洗剤で有名なエコベール社を率いたこともあり、サステナビリティのスティーブ・ジョブスとも呼ばれる起業家・教育家・教授のグンター・パウリ氏による著書。自然には廃棄という概念がないことからヒントを得て、資源をカスケード的(連鎖的)に利用していくことで、ゼロエミッション(廃棄物排出ゼロ)を実現する経済モデル。競争のレッドでも援助のグリーンでもなく、連鎖のブルーエコノミーへの転換を図ることが必要であるとし、自然界から学んだ100のイノベーションを提唱する。
書籍情報(日本語版)
ブルーエコノミーに変えよう
グンター・パウリ (著), 黒川 清 (翻訳)、ダイヤモンド社 (2012年6月29日)、360ページ
7. ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト
サーキュラーエコノミーの理解を補完する書籍としておすすめ。従来の経済のみに焦点を当てた仕組みから脱却し、環境・経済・社会をバランスよく発展させ、豊かで幸福な社会を目指す概念。社会的な土台(ドーナツの内側)に立ち、環境的な上限(ドーナツの外側)を守る。このドーナツの内側でも外側でもなく、その間のドーナツの部分に暮らすことで、自然環境と人間のニーズを満たせるという考え方。アムステルダム市のサーキュラーエコノミー戦略にも正式に取り入れられている。
書籍情報(日本語版)
ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト Kindle版
ケイト・ラワース (著), 黒輪篤嗣 (翻訳) 、河出書房新社 (2018年2月14日)、 438ページ
実践編
8. A Circular Economy Handbook for Business and Supply Chains: Repair, Remake, Redesign, Rethink (English Edition)
サーキュラーエコノミーを導入したい企業に向けて、サプライチェーン構築の観点から解説した実践的ハンドブック。前半はサーキュラーエコノミーの概要について、後半はサーキュラー型サプライチェーンについて解説。サプライチェーンの川上から川下までが網羅されており、業界は、「食」「ファッション」「電化製品」「自動車・化学製品・家具などの工業製品」を取り扱うとともに、70以上のサーキュラービジネスの事例が紹介されている。
書籍情報(英語版)
A Circular Economy Handbook for Business and Supply Chains: Repair, Remake, Redesign, Rethink (English Edition) Kindle版
Catherine Weetman (著)、Kogan Page; 1版 (2016年12月3日)、406ページ
9. The Circular Economy Handbook: Realizing the Circular Advantage (English Edition)
本記事の1冊目で紹介した前著『新装版 サーキュラー・エコノミー デジタル時代の成長戦略』では、サーキュラーエコノミーの概要とその革新性が示されたが、実際にどのように取り組めば良いかを豊富な事例を交えて解説された実践ハンドブック。前著で紹介された5つのビジネスモデルのアップデート・各バリューチェーンや10の産業別の解説・サーキュラーエコノミー導入ステップやツールの3つのパートで構成。サーキュラーエコノミーを自社戦略と位置づけ、規模感をもって実践し、優位性を確保することを意図して書かれた本である。
書籍情報(英語版)
The Circular Economy Handbook: Realizing the Circular Advantage (English Edition) Kindle版
Peter Lacy (著), Jessica Long (著), Wesley Spindler (著)、Palgrave Macmillan; 1st ed. 2020版 (2019年12月31日)、350ページ
番外編
10. 江戸時代はエコ時代
日本でも古くから循環の考え方を発展させてきた。「ほぼ完全な循環型社会」が江戸時代の日本だったと著者は言い切る。「太陽エネルギーだけで」経済が回っていた江戸時代において、季節に応じた工夫や紙くず拾いなどのリサイクルの概念が面白い語り口で紹介されている。江戸時代の「ほぼ完全な循環型社会」から学び、現代のサーキュラーエコノミーの土俵に乗せると、日本型のサーキュラーエコノミーが見えてくるのではないだろうか。
書籍情報(日本語版)
江戸時代はエコ時代 Kindle版
石川英輔 (著)、講談社文庫 (2008年11月14日)、182ページ