食品大手のネスレは7月3日、IBMリサーチと提携し、持続可能な食品包装材料の開発を加速させるため、生成AIを活用した新たなツールを開発したと発表した。この技術は、食品の品質と安全性を保ちながら、リサイクル適性やコストといった要件を満たす新しい素材の分子構造をAIが提案するもので、従来数年を要することもあった研究開発プロセスの短縮を目指す。

食品包装は、製品を保護し食品ロスを防ぐ上で不可欠な一方、その環境負荷の低減は業界全体の課題となっている。ネスレはバージンプラスチックの使用量削減や代替素材への移行を進めているが、製品ごとに異なる機能要件を満たし、かつ食品としての安全性と品質を確保できる新素材の特定は、時間のかかるプロセスだった。

今回の共同開発では、まずネスレとIBMの科学者らが、AIベースの処理技術を活用して、公開情報や社内の独自データから素材に関する知識を整理しデータベースを構築した。その上で、このデータベースを用いて、化学分野に特化した言語モデルをファインチューニングし分子構造の表現を学習した。さらに、その知識を基に、IBMリサーチが最近開発したリグレッショントランスフォーマー(regression transformer)というAI技術を活用し、分子の構造的特徴と、それがもたらす物理化学的特性との相関を学ばせた。

この一連のプロセスを経て開発されたのが、既知の材料データから新たな分子構造を生成できる新しいAIモデルだ。このモデルは、湿気や温度変化、酸素から製品を守るための高い遮断性(ハイバリア性)を持つ、全く新しい包装材料を提案できる。ネスレは今後、この技術を用いて、コストやリサイクル性、機能性を考慮しながら将来の包装材料を特定していく方針だ。

この取り組みは、ネスレが全社的に進めるデジタルトランスフォーメーションの一環でもある。同社はすでに、原材料、栄養、コスト、持続可能性といった要素のトレードオフを管理しながらレシピを最適化するツールや、製造プロセスを最適化するためのデジタルツインなどを開発・活用している。最近では、食品・栄養業界では初となるディープテックに特化したR&Dセンターの設立も発表しており、AIやロボットなどの先端技術を研究・イノベーションの効率化に活用する姿勢を示している。

ネスレの最高技術責任者であるステファン・パルツァー氏は、「IBMリサーチと共同開発したこの新しいAI言語モデルは、ネスレが食品・飲料業界のデジタルトランスフォーメーションをいかに主導しているかを示すものだ。将来的には、このような画期的な技術を製品カテゴリー全体で、より持続可能な包装ソリューションの開発を最適化するために活用できるだろう」と述べた。

また、IBMリサーチの欧州・アフリカ担当バイスプレジデントであるアレッサンドロ・クリオーニ氏は、生成AIが科学的発見に革新をもたらし続けるとの見解を示し、あらゆる知識集約型産業に影響を与え、差別化と持続的成長を可能にするとコメントしている。

【プレスリリース】Nestlé R&D is partnering with IBM Research to develop new tools that leverage the power of Artificial Intelligence and deep tech to bring breakthrough innovations to life
【関連記事】EU理事会、「包装と包装廃棄物に関する規則」を採択
【関連記事】デジタルサーキュラーエコノミー市場、2034年に248億ドル規模へ。AIとSaaSが牽引し、年平均23%超で急拡大予測 
【関連記事】UnileverやAsahiも試用。Greyparrot、AIで包装の循環性を高めるデータプラットフォーム「Deepnest」を提供