オランダの循環型経済のイニシアティブである循環型会計連合(Coalition Circular Accounting)は9月10日、建築業界の循環型経済に関する報告書を発表した。サービスとしての製品(Product-as-a-Service、以下PaaS)ビジネスモデルの機会とリスクについて言及し、新しい契約システムやPaaS推進のための法規制変更などを提案する。
世界におけるモノの消費は増加傾向にあり、史上初めて原材料利用量が1000億トンを超えた。しかし、資源の循環率は2019年の9.1%から2020年には8.6%に低下。年間424億トンもの原材料を消費する建築業界は、モノの消費量を減らし再利用を促進するうえで重量な役割を担う。建物とインフラの寿命を維持または延長し、建物の将来の資産価値を評価することは、CO2削減と循環性向上に大きく貢献する。
同報告書で、循環型会計連合はオランダに本拠を置く3社の計画について考察した。この3社はAlkondor社と Blitta社 、De Groot & Visser社で、建物の顔でもあり投資において重要な役割を持つファサード(建物の正面部分)の建設に重点を置いている。3社は、アムステルダム市のバイエスクォーターエリアの開発におけるパイロットプロジェクト「ファサードのサービス化(Facade-as-a-Service)」の実現を目指して取り組んでいる。
このプロジェクトで3社は、廃棄物を削減し建物の循環性を高める方法として、ファサードをサービスとして提供することを計画している。ファサードはカスタマイズと解体ができ、建物の換気や太陽光とエネルギー創出の調整をすべて遠隔操作できる。そして、ファサードを販売する代わりにサービスとして提供することで、建築会社が所有権を保持し続ける。3社は建物の寿命を延ばし、貴重な資産の管理を続け、長期的に高い収益を生み出すことを目指している。
PaaSモデルは、製造者が製品の製造前から寿命が終わる頃までの製品とパフォーマンスおよび環境への影響についての責任を持つことで、循環型建築に向けてメリットをもたらす。しかし、現在の資金調達モデルは循環型ビジネス志向を持つ企業に大きな障壁となる可能性がある。
そこで、循環型会計連合は、この「ファサードのサービス化」を普及させるため、会計や業績評価における環境整備について、以下の5つの提案をまとめた。
1. リニア型の視点からの転換を図る
私たちは、循環型ビジネスモデルを従来の視点から見る傾向がある。PaaSの特徴は製品へのアクセス、製品のパフォーマンス、および製品に関するサービスを提供するモデルであり、消費者にとっての価値は製品の所有ではなく、サービスを利用することである。
2.バランスシート拡大は負債ではなく、業績好調を示す
PaaSの場合、所有権が消費者からサービス提供者に移行するため、PaaSを採用する企業を従来の企業と単純に比較できない。PaaS企業の資産管理はバランスシートの拡大として反映されるが、これは危険であると解釈されるのが現在の大勢の見方だ。循環型経済では企業が自社製品に対して長期的な責任を負っていることを示す。
3.「残存価値」という言葉を変える
循環型経済の基本原則は、既存の原料を無限に使用することだ。残存価値(減価償却が終了した時点の資産価値)という言葉は循環型の考え方と相容れないため、「収穫価値」という言葉を使うようにする。収穫価値は融資の担保として機能し、新しいビジネスチャンスを創出するため、循環型ビジネスモデルの成功の決定的要因にもなる。
4. 建築部門で新しい法律や規制を定める
建築部門でのPaaS導入を容易にする新しい法律や規制を定める。
5. 金融に関する規制基準を変更する
PaaSモデルはまだ一般的に使用されておらず、金融業者は規制当局の規制のなかで運営する必要があるため、同ビジネスモデルへの資金提供に消極的である。そのため、財務比率と原証券の解釈を循環型思考に適合させる必要がある。
建築業界の循環型経済への移行を目指して、根本的な視点や契約システム、企業の業績評価や法規制の変更などを提案する同報告書は、循環化を目指す他の業界に示唆を与えるものとなるだろう。
【プレスリリース】ASSET OWNERSHIP; LIABILITY OR KEY BUILDING BLOCK FOR CIRCULAR CONSTRUCTION?