環境省は5月1日、国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)の国内措置として、「公海等における環境影響評価の実施に関するガイドライン(案)」を公表し、同日から5月31日までの期間で意見公募(パブリックコメント)を開始した。このガイドライン案は、日本の管轄権が及ばない公海や深海底で行われる活動が海洋環境に与える影響を事前に評価するための手続き等を定めるものだ。

BBNJ協定は、正式名称を「海洋法に関する国際連合条約に基づくいずれの国の管轄にも属さない区域における海洋の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定」といい、2023年6月に採択された。同協定は、これまで包括的な国際的規制が手薄だった公海や深海底(国家管轄権外区域)の生物多様性を守るための歴史的な国際協定だとされる。

背景には、地球の海洋の約3分の2を占める広大な公海や深海底が、これまで規制の目が届きにくい状況に置かれていたため、気候変動、海洋汚染、持続可能でない利用といった人間の活動が、その生態系にも深刻な影響を及ぼしているという国際的な懸念がある。この協定は、海洋遺伝資源の利用と利益配分、海洋保護区の設定、環境影響評価の実施、開発途上国への能力開発・技術移転などを柱とし、国家管轄権外区域における海洋生物多様性の保全と持続可能な利用のための包括的なルールを確立することを目指している。協定は、60カ国が締結してから120日後に発効する。

今回意見公募に付されたガイドライン案は、BBNJ協定の第4部に規定される環境影響評価を日本国内で実施するための具体的な手続きを定めるものだ。これにより、日本の事業者等が公海等で活動を行う際に、計画段階で海洋環境への潜在的な影響を調査、予測、評価し、その結果を公表して協議を行うといったプロセスが想定される。

ただし、環境影響評価の対象となる具体的な活動の選別基準や、評価に用いる科学的な基準など詳細については、BBNJ協定が発効した後に開催される締約国会議で審議され、採択されることになっている。今回のガイドライン案は、これらの国際的な決定を踏まえつつ、国内での円滑な制度運用を可能にすることを目指すものだ。

環境省は、このガイドライン案について広く国民から意見を募り、今後の協定締結に向けた国内準備を進める方針だ。この取り組みは、日本が国際的な海洋環境ガバナンスに積極的に貢献し、海洋生物多様性の保全と持続可能な利用という地球規模の課題解決に寄与するものとして期待される。

今後、締約国会議で決定される国際的な基準との整合性を図りつつ、日本の事業者による公海での活動が真に持続可能な形で展開されるよう、実効性のある制度設計と運用が期待される。また、これは海洋資源の利用に関わる産業界にとっても、新たな国際ルールへの適応と、環境配慮型ビジネスへの転換を促す契機となるだろう。

意見提出は、電子政府の総合窓口(e-Gov)の意見提出フォーム、または郵送により受け付けている。

【プレスリリース】国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)の国内措置としての「公海等における環境影響評価の実施に関するガイドライン(案)」に対する意見募集(パブリックコメント)について
【関連記事】環境省、自治体向けリユース促進手引きを改訂
【関連記事】環境省と廃棄物・3R研究財団、二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金の公募を開始
【関連記事】環境省、リチウム電池ごみ火災対策を強化