現在、サーキュラーエコノミー領域に特化したスタートアップ企業の創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO(サーキュラースタートアップ東京)」第2期が進行中だ。

同プログラムは、「Circular Economy Hub」を運営するハーチ株式会社と東京都が共同実施し、最終Demo Dayは3月7日に予定されている。

本記事は、2024年11月に開催されたキックオフイベントについてレポートする。

インプットトーク

最初に、株式会社ナカダイホールディングス(以下、ナカダイホールディングス)代表取締役の中台澄之氏は「廃棄物処理業とサーキュラーエコノミー」というテーマで、事業を通してサーキュラーエコノミーに取り組む際に抑えておくべき考え方や廃棄物処理に関わる法律について話した。

ナカダイホールディングスは、株式会社ナカダイと株式会社モノファクトリーの両輪で事業を展開する。株式会社ナカダイは、「不要なものを必要な人や企業につなぐこと」を使命に掲げ、すでに出てしまった廃棄物の処理やリユース・リサイクル事業を進める。株式会社モノファクトリーは、そもそもの廃棄物の量を減らすことを目指し、循環型に移行したい企業へのアドバイザリーやコンサルティング事業を行う。

株式会社ナカダイホールディングス 代表取締役 中台 澄之 氏
株式会社ナカダイホールディングス 代表取締役 中台澄之氏

まず、中台氏はサーキュラーエコノミーの全体像について解説した。

「資源循環を含むサーキュラーエコノミーは、脱炭素社会に向けた省エネや再生可能エネルギー利用、サステナブルな社会を作る自然共生や地域社会への取り組みとともに包括的に提供することで、地域やお客さまのウェルビーイングな状態を作れると考えています。この3つはそれぞれがつながっているため、資源循環やサーキュラーエコノミーと直接的には関係がないと感じても、意識する必要があるのです」

サーキュラーエコノミーの両輪を表す図

そのうえで、サーキュラービジネスの展開には、廃棄物処理法の基本的な知識を持っておくことが不可欠だと語った。

「既存の廃棄物処理法では企業は自社の廃棄物をまず自社で処理することを求めており、それができない場合に初めて廃棄物処理業者に頼むという選択肢が出てきます。その際、廃棄物処理の許可を持っていない業者に処理を委託した場合は、罰金や懲役を受けることになります。これは、絶対に違反してはいけない道路交通法と同じだとイメージするとよいでしょう。サーキュラーエコノミーに取り組むのであれば、こうしたことをしっかり頭に入れてビジネスを構築する必要があります」

中台氏は、「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律」について、サーキュラーエコノミーを大きく広げる可能性があるものとして紹介した。

「不要なものを必要な人につなごうとすると、ほとんどの場合は正式な許可が必要な廃棄物処理のプロセスを踏まなくてはなりません。しかし、これから循環型社会を拡大していこうと考えたときに、既存の廃棄物処理業者はそれをすべて担えないでしょう。

そこで、環境省が2024年5月に発表したのが『資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律』です。これは、一定量以上の資源を循環できる場合、廃棄物処理業の許可を持っていない事業者も廃棄物処理を許可されるという法律です。これにより、廃棄物処理が全産業に広がっていくと考えられます」

最後に、中台氏は「サーキュラーエコノミー実現には、最終製品の提供のために組まれた『産業サプライチェーン』ではなく、業界を超えて連携する『資源循環サプライチェーン』が必要だと考えています」と強調した。

参加者の様子

続いて、鎌倉投信株式会社(以下、鎌倉投信)の江口耕三氏は、「リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへ苦難の道にようこそ!」というテーマで、投資家とのコミュニケーションの仕方や、これから事業を営むうえで必要な心構えについて話した。

鎌倉投信は「いい会社へ投資する」という理念を掲げる投資信託で、主に上場企業の株式を対象とした公募型の投資信託「結い2101(ゆいにいいちぜろいち)」や、これからの社会を創発するスタートアップを対象にした「創発の莟(つぼみ)ファンド」を運営・販売する。

江口氏はサーキュラーエコノミーを実現する難しさに触れ、参加者を激励した。

「まず、これまで数百年間リニア型だったものを循環型に変えていくのは、とても難しいです。循環型で良いものを作っても、より安い代替品を買ってしまうなど、生活者の行動変容を起こすのは難しく、こうした中で事業として売上を上げていかなければなりません。

そうした時に意識して欲しいのが、変えたい現実や人に対してNOと言うのではなく、『こっちの方が良くないですか?』と常に『問いかける』こと。そして、簡単には変わらない現実も、現実としてきちんと受け入れること。そこから、どうすれば良いのかを考えていく。これをみなさんにやっていただきたいと考えています」

江口耕三氏
鎌倉投信株式会社・創発の莟ファンド運用責任者 江口耕三氏

そのうえで、今後参加者が大きな資金を調達する際に出会う機関投資家について、彼らが考えていることや、話題にしていることについて話した。

「事業の時価総額が500億円になった時に、皆さんが出会うのが機関投資家です。彼らは最初は倒すべきラスボスのように見えるかもしれませんが、一度投資すると一気に味方になってくれる存在でもあります。お金だけではなく、世界中の企業を紹介してくれますし、情報もデータも提供してくれる。ですから、起業家は何としても彼らを味方にしていかないといけません。

では、彼らは何を考えているのでしょうか。機関投資家は、人々から預かった年金を数十年後に返すために長期目線を持つ必要があるため、常に50年、100年先を見据えてバックキャスティングをしています。

そうした中で、彼らが注目しているのが『気候変動』と『サーキュラーエコノミー』です。気候変動は人間の手に負えないリスクになりつつありますから、彼らはいま、企業や政府に気候変動を抑制するためのさまざまな規制をかけています。

その解決策となり得るサーキュラーエコノミーが、機関投資家の間で非常にホットトピックになっています。欧州ではすでに大きな波が起こり、その波は今後3年〜5年で日本に押し寄せて来ます。だから、皆さんがサーキュラーエコノミーをやろうとしている今は、とても良いタイミングなのではないかと思います」

では、機関投資家は起業家をどのような視点で見ているのだろうか。

「彼らが最も知りたいのは、起業家が『これから高い山をどうやって登るのか』です。つまり、起業家がこれからぶつかる障壁や制約をどのように乗り越えるのかということですね。

高い山を登るには、あなたやあなたの会社にしかない強みが必要です。自分たちの強みを聞かれて、パッと答えられますか?なかったら、今日から強みを作りましょう。たとえば、人や技術、ノウハウといったリソースや、ブランディングや立ち位置といったポジショニングなどさまざまなものがありますが、大事なのはナンバーワンになれるオンリーワンを作ることです。

そのうえで、強みをどう表現したら周りに伝わるのかもよく考えましょう。業界のカオスマップやトレンド予測図を使うなど、方法はいろいろあります」

「最終的に壁を乗り越えられるかどうかは、実行力にかかっています。投資家は、1度話した起業家が4カ月後にどう進化しているのかを見ています。

ですから、これからこのプログラムを通して投資家から言われるさまざまなことを酸いも甘いも全部吸収して欲しいと思います。聞きたくないことも言われると思いますが、グッと堪えてそこを考え抜いて欲しい。

その中で大事なのが、創造的仮説を立てることです。投資家からもらった意見の中からピンとくるようなものに対してできるだけ多くの仮説を立てて、リスクを取って実行できるかどうかが大事です」

江口氏は最後に、「まずは投資家をビジネスやプロダクトのファンにすること。ファンになってくれれば、もう仲間だからです。これは、顧客を増やすプロセスとまったく同じです」と締めくくった。

講義後は、参加者と講師2名との間で質疑応答が行われた。自身の事業と関わる部分や、今後活かしたい内容について質問があり、参加者の強い熱意を感じた。

参加者からのピッチ

中台氏と江口氏のトークの後は、参加者からのピッチが実施された。各参加者は自社のビジョンや強み、ビジネスモデルなどを3分間で紹介した。以下は、各社の発表の概要。

参加コースA:スケールアップ&資金調達・IPO準備コース

清水雅士氏/マイクロバイオファクトリー株式会社

「廃棄物のサーキュラー事業化」というミッションを掲げ、デニム業界における廃棄物増加の問題やEU改正廃棄物枠組み指令などに対応するため、デニム工場で発生する廃繊維からインジゴ染料を回収して、染料として再利用する技術開発に取り組んでいます。CSTを通じて持続可能なビジネスモデルの構築や事業拡大のための資金調達につなげていければと考えており、将来的には海外展開を目指しています。

平間亮太氏/株式会社4Nature

食の未来を守る地産地消プラットフォーム「neoharu」は、有機野菜を中心としたこだわりある農家を対象に「地産地消プラットフォームの構築」を進め、有機野菜に限らずこだわりある農家を対象に既存の農業のサプライチェーンからの転換を目指して活動しています。「CSA(Community Supported Agriculture)ループ」の事業拡大、リブランディングができればと思い、CSTに参加しました。

鶴崎祐大氏・朴旻氏/株式会社Seafood

仲介業者を必要とせずテクノロジーを活用した漁業のマッチングサービスを提供し、水産業の課題解決に取り組んでいます。CSTを通じて事業推進に弾みをつけ、資源循環型モデルの確立を図り、持続可能な水産業の実現を目指します。

中村周太氏/株式会社Circloop

「サステナビリティをあたりまえに」をミッションに、オフィスやコワーキングスペースなどの働く空間向けにリユースカップサービスを展開しています。容器リユースは企業における大きなソリューションとなるものの、日本ではまだ普及していないという現状に対して、カップの洗浄・配送・回収をフルサービスで実施し、使い捨てと変わらない気軽さと体験で環境貢献できるサービスを提供します。CSTを通じて資源循環加速を実現していきます。

荒裕太氏・原田雄司氏/株式会社Ripples

フィルムを剥がすことできれいな状態で容器を回収できる「水平リサイクル」可能なプラスチック容器を使った取り組みを展開しています。プラスチックポジティブな取り組みを通じ、障がい者雇用、こども食堂への持続可能な寄付モデル構築など、環境・福祉・防災・教育を軸に社会へ貢献していきます。

坪沼敬広氏・野田英恵氏/合同会社渋谷肥料

渋谷を「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」にシフトできないか?という問いを掲げ、都市を起点としたサーキュラーエコノミーモデルを実装しています。CSTを通じて事業拡大の可能性を見出し、渋谷から東京、さまざまな地域にブランドストーリーを展開することで、中核都市と周辺地域を結ぶ仕組みの構築を目指します。

参加コースB:社会インパクト創出&事業基盤構築コース

須藤簡子氏/ブルーバード

障害のある方の雇用機会を作りたいという思いと、サーキュラーエコノミー分野で貢献していきたいという2軸があり、CSTに参加しました。サーキュラーエコノミーに社会全体で取り組むべく、家事代行サービス業という立場から個人に関わり、家事代行業が個人の意識を変えていく挑戦ができればと思っています。

八神実優氏/株式会社Gaiapost

生分解性の幼児用おむつを開発し、使用済み紙おむつを焼却ではなく堆肥化し、畑の土にして野菜や果物を育てるという循環に取り組んでいます。使用済み紙おむつは、し尿を含むと約4倍の重さになり、リサイクルが難しく、一般廃棄物の約5%を占めています。ステークホルダーをいかにつないで循環を作れるかという点が鍵であり、地方自治体と一緒に実験を積み重ねながら広げていきたいです。

磯部宙氏/Next Newman Networks株式会社

ファッション産業のサーキュラーエコノミーを実現するため、サステナブルファッションを社会に浸透させるソリューションの開発に取り組んでいます。サステナブル製品の購入やシェアリングが可能なプラットフォームを構築し、サーキュラーエコノミーへの行動変容を促します。購入顧客はリファービッシュを通じて製品をできるだけ長く使い、購入した製品をユーザー同士でシェアし、再びリファービッシュすることで、製品の長寿命化に向けた仕組みを考えています。このような循環型の利用を実現するプラットフォームを構築していきたいです。

守田篤史氏・和田由里子氏/株式会社ペーパーパレード

デザイン業界が消費を促すと見られている現状に課題を感じ、デザインファームとして都市型サーキュラーデザインやパッケージブランディングを事業として提案型のビジネスを展開しています。屋外広告は素材としての耐久性に優れ再生の可能性があるにも関わらず、知的財産権の問題によってほとんどが廃棄されてきました。知財を隠すシークレット地紋を施すことで権利の問題を解決し、街とファッションをつないで、廃棄されゆく屋外広告にまち由来の素材という新たな価値を提案していきたいです。

王振江氏/株式会社東芝

AIの力で粗大ごみのリユースを促進するべく、リリース可否の自動判定機能付きの受付システムを使い、粗大ごみを削減できるプラットフォームを構築したいです。削減したごみに成果報酬料を付与するサブスク形式を検討しており、自治体と協議を進めたいと考えています。デジタル化を通じて、サーキュラーエコノミー・カーボンニュートラルの実現に貢献できるよう事業を進めていきます。CSTを通じて、サーキュラーエコノミーを目指している仲間と共に循環経済実現に貢献します。

長末雅慎氏/有限会社GMGコーポレーション

藻類を活用し、CO2削減、藻類タンパク質の利用、堆肥化を通じた循環型農業の実現、藻類オイルを使った化粧品原料の開発などを進め、サーキュラーエコノミー実現を通じて社会に貢献したいです。将来起こりうる食料問題・休耕農地問題・環境問題の解決を目指します。CSTへの参加を通じて、多様な知識を持つ方々と交流し、ビジネスモデル構築やプロトタイプ作成、収益計画について勉強できればと思います。

李哲揆氏

企業から出た食品コンポストを人工木材にアップサイクルすることで廃棄物削減と資源循環を促進させる事業を進めています。これまで燃やされてきた「生ごみ」を資源として捉え直すビジネスを成立させ、持続可能な社会の実現に貢献します。

松江明葉氏

炭化装置による使用済み紙おむつのリサイクルや、超高齢化社会の次に来る多死社会を見込んだCtoCの訪問介護マッチングサービスに取り組んでいます。持続可能な社会づくり、地域経済と環境保護の新しい循環型システムを創造します。

平田健夫氏/合同会社サイクラス

ケアと修理によってモノを大切に使い続けることを軸に、スローで豊かな循環型社会を目指しており、衣類の修理や循環型イベントの運営、サーキュラーエコノミー支援事業を展開しています。CSTを通じて事業の形をより明確にするとともに、企業や産業の枠を超えた協働につなげ、自然のサイクルに寄り添う本質的で豊かな循環型社会の一助となることを目指します。

榎本剛司氏/静岡県立大学

新たに開発した分析技術を用い、安全安心という新たな価値を再生プラスチックに付与します。再生プラスチックの価値を高め、マテリアルリサイクルを促進させることで、プラスチック問題解決を目指しています。CSTを通して、他の参加者の皆様やメンターの方々から得られる新たな視点や知識を取り入れ、事業を一気に加速させたいと考えています。

参加者のピッチ後には、会場全体でのネットワーキングが実施された。参加者同士・メンター陣との名刺交換や、各自のビジネスについて議論し合う時間となった。

それぞれが思いやビジョンを持って臨む「CIRCULAR STARTUP TOKYO」。サーキュラーエコノミーを推進する事業アイデア、そして参加者自身がこれからのプログラムでどう変容していくのか、成長が期待される。

※本記事は、ハーチ株式会社が共同実施する「CIRCULAR STARTUP TOKYO」からの転載・加筆記事です。