FCNT株式会社は2月10日、同社スマートフォン「arrows」ブランドのリニューアル第一弾として、持続可能性を高めることを意識した「arrows N F-51C」をドコモショップ、ドコモオンラインショップ、ドコモ取扱店から発売した。

このほど開催された製品発表会で、同社代表取締役社長の田中典尚氏は、「多くのパートナーの協力により実現できた」と話した。その言葉通り、国内メーカーとして多くのパートナーと協力して「永く使える」スマホの実現に尽力してきたという。同社事業企画やアライアンスを担当するプロダクト&サービス企画統括部 プリンシパルプロフェッショナル 外谷一磨氏も、「携帯電話・スマートフォンがコモディティ化する中、次の30年に向けて何ができるのかを考えた」と語る。その問いへの解が、サステナビリティ・サーキュラーエコノミーという軸というわけだ。

同製品のサステナビリティに関する主な特徴は下記の通り。

【製品面】

  • リサイクル素材適用率約67%(電気電子部品を除く)。(※1)素材のサプライヤーの一つは、サウジアラビアのSABIC社。各部品のリサイクル素材適用率は下図のとおり。
  • 使い始めの電池もちが4年間(※2)続く充電制御技術の搭載。(充電による電池劣化の進行を軽減し、電池の長寿命化を実現する Qnovo社のインテリジェントバッテリーソフトウェアを搭載(下図))

同社HPより

  • 水濡れにも衝撃にも強い(※3)泡ハンドソープによる本体の丸洗いが可能(冒頭画像参照)
  • 個装箱には、FSC®認証紙やバイオマスインキを採用
  • 国内製造工程(組立、試験、梱包)では再生可能エネルギーを使用
  • 「飽きのこない」シンプルなデザインを意識

【サービス面】

  • 購入後には、個人のCO2削減度を見える化するサービスである「カボニューレコード」アプリ(株式会社NTTドコモ提供)や、サステナビリティ関連情報などを提供する「arrows ポータル」アプリを通じて、サステナビリティに貢献する生活を提案
  • アドビ社の文書スキャナーアプリ「Adobe Scan」搭載により、名刺や書類の文章、ホワイトボードなどをキャプチャし、 PDFに変換することで、ペーパーレスのさらなる汎用化を目指す
  • OSアップデート最大3回・セキュリティ更新最大4年の実現(※4)

【その他】

  • ドコモオンラインショップご購入の場合、機種代金の1%相当を公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)に寄付
  • 伊藤忠商事・Closing the Loopの提供する「E-waste Compensation」を活用し、1台販売ごとに、アフリカの携帯電話端末1台をリサイクル
  • 株式会社Gabが運営する、エシカルブランドに特化したコミュニティ型の実店舗「エシカルな暮らし LAB」に2月7日より出展

リサイクル素材適用率(FCNT株式会社提供)

売った後のことも考える

arrows N F-51Cは、耐久性を一つの「売り」にしている。サーキュラーエコノミーに移行していく上で持たれることの多い、「製品が長く使われれば、販売機会が減少するのではないか」というメーカー側の懸念。これには、サーキュラーエコノミー移行により「製品」の循環性を高めることはできても、それに見合う「ビジネスモデル」の検討が追いついていないことが背景の一つにある。

この点、製品開発担当のプロダクト&サービス企画統括部 プリンシパル クリエイティブ プロフェッショナル荒井厚介氏は、「ユーザー向け会員サービス『La Member’s』などを通じて、売り切りではなく、ユーザーに寄り添う」と話す。さらに外谷氏によると、製品販売後のアフターサービスのモデルを模索し、「携帯電話のサーキュラーエコノミー市場を作る」構想を描くという。

製造業において、製品の循環性と収益性を合致させていく一つの方向性に、修理業者などのアフターサービス関連業者によるシステム構築がある。荒井氏・外谷氏の発言は、そのことを示唆するものと受け取れる。

一方で、NTTドコモでの本体価格9万8780円という価格設定については一部ユーザーから指摘されているところだ。その理由について外谷氏は、「価格はNTTドコモ様が決定しており、一概にどこにコストがかかっているかは差し控える」としながらも、「耐久性や性能などをトータルに見てほしい」と強調した。価格が消費者の製品購入に作用する大きな要素であるという現状を踏まえると、長く使えることが実績としてついてくるようであれば、プレミアムとして受け入れられる可能性はゼロではない。仮にそうなった場合、モノ売りモデルでも循環性向上と収益のバランスを保つことに貢献する。

arrows N F-51C(FCNT株式会社提供)

社会への課題提起

外谷氏は、「arrows N F-51Cが、携帯電話業界におけるサステナビリティの指針を示す『矢』となる」と意気込みを述べた。一歩踏み出した製品を世に出すことで、主に業界への課題提起ともなるということだ。

海外では、すでにアップルやサムスンなどが製品ライフサイクル全体での取り組みを進めているのはよく知られるところだ。パーツを自分で交換できアップグレードできるスマートフォンであるFairphoneは、この分野におけるスタートアップの代表格である。

日本でサステナビリティを意識したスマートフォンが製造できない理由の一つに挙げられるのが、「オリジナルな部品を一つ作ることですら大量にロットを求められる」ことだという。外谷氏は、「FCNTはグループに製造拠点を国内で持つ強みを生かし、トータルでサプライチェーン全体で環境配慮型のモデルがつくれるのではないか。小ロットでもお客様のニーズにあった製品を開発できる条件は揃っている」と話す。その真の目的は、「日本のモノづくりの価値を再定義」することにあるようだ。

社会への課題提起になるという側面は他にもある。たとえば昨今欧米中心にグローバル各地で確立またはその議論が始まる「修理の権利」について、電波法等の規制により現状そのまま日本に適用することは難しい。この点について、同社によると、修理を容易にする構造設計についてはarrows Nでも取り組みをはじめており、製造プロセスの途中や故障や破損などへの対応時にも少しでも廃棄物を少なくなるよう、現状の枠組みの中でも取り組んでいるという。さらに、サステナビリティ向上については修理という側面に限らず総合的に取り組むべく、多方面に働きかけをしているようだ。加えて、こういった製品を発表すること自体が、業界ならびに取り巻くシステムを変えていける一歩となるとの見方だ。

課題を認識すると同時に、「まずは一歩踏み出す」

上記に挙げた海外メーカーと比較・批評されることはあるかもしれない。希少金属を含めたリサイクル材含有率向上や販売後のリサイクル、より長く使うための施策など、まだできることは多いようだ。実際、外谷氏も「ただ、すべてできるわけではない。今回できることをやりきった」と新機種の現在地について自己評価している。製品発表会を通じて度々強調されてきたフレーズ「まずは一歩踏み出す」が象徴するように、FCNTの取り組みがサプライヤー・投資家・消費者・政策立案者などのステークホルダーにさらなる行動の必要性を訴えかけ、社会のシステム変革を促すドライバーとなることを期待したい。

※1 本体重量から、バッテリーやディスプレイなどの電気電子部品を除いた部品総重量に対する、リサイクル素材総重量の割合

※2 同機種と同性能バッテリーを用い、充放電を繰り返すシミュレーションに基づく結果。バッテリーの寿命は利用状況によって変化。 (シミュレーション内容) 1.5日に1回の頻度で1サイクルの充放電(1サイクル=0%から100%まで満充電にし、その後、0%まで電池を 使い切る)を行った場合、1000サイクル(約4.1年)時点において電池容量が初期容量の80%残ることを確認。(2022年11月現在。FCNT株式会社調べ) 

※3 防水性能 IPX5/8 に対応。IPX5 とは、内径6.3mm の注水ノズルを使用し、約 3m の距離から 1 分あたり 12.5 リットルの水を最低 3 分間注水する条件であらゆる方向から噴流を当てても、通信機器としての機能を有することを意味する。 IPX8とは、常温で水道水、かつ静水の水深 1.5m のところに携帯電話を沈め、約30分間放置したあとに取り出したときに通信機器としての機能を有することを意味する。 IP6X とは、保護度合いを指し、直径75µm 以下の塵埃(じんあい)が入った装置に商品を8時間入れて撹拌させ、取り出した時に、内部に塵埃が侵入しない機能を有することを意味する。

※4 発売開始されたタイミングから起算して3回、最新OSへのバージョンアップが適用される。OS バージョンアップの適用回数は、購入時期によって変わる。 また、最新OSとは、arrows Nに搭載されているAndroid™ OS に対して、OS バージョンアップが可能な時期に おいて適用される Android™ OS の最新版を指す。 発売開始されたタイミングから起算して、4年間のセキュリティアップデートを保証。保証年数は、購入時期によって変わりうる。 

冒頭画像は、FCNT株式会社提供

【プレスリリース】「arrows N F-51C」を2月10日より発売
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