傘の出番が増える季節は、使い捨てされる傘が増えるという社会的な課題が生まれやすい時期でもある。特に、耐久性が低く安価なビニール傘は、数回の利用で壊れても修理してまで利用されることは少なく、電車内への忘れ物も多いが引き取りに来ることはまずないという。所有者が愛着を持ちにくく、廃棄されやすい物の代表例といえる。また、台風翌日などに駅構内や道路脇などで見られるビニール部分と骨格が剝がれて捨てられている傘など、街の景観を損ねそれを処分する人的・経済的な負担がかかるなどの課題がある。

傘の所有・利用方法を変えることで脱プラスチックやCO2排出量削減への貢献を目指すプロジェクトの発表会が6月8日、東京都千代田区神田明神ホールにて開催された。主催は、日本初となる傘のシェアリングサービス「アイカサ」を展開する株式会社 Nature Innovation Group(東京都渋谷区、代表取締役 丸川照司)。2022 年度に発表した「2030年使い捨て傘ゼロプロジェクト」の途中経過を報告し、オフィスビルを対象にした新しい取り組みを発表した。

「アイカサ」立ち上げの背景

丸川氏は、「アイカサ」を展開するに至った背景を下記のように振り返る。

日本全国で、毎年約8000万本のビニール傘が消費されている。日本は雨が多いという気象特性があり、また通勤や通学など、自宅から目的地までの一部を、歩いて移動することが多いという文化がある。雨が降った際には傘が必需品となるが、傘の利用者は傘自体を購入・所有したいわけではなく、“雨に濡れない”という体験を購入することを望んでいる。1回の降雨で150万人が傘に困り、そのうち15万人が仕方なく傘を買っているという現状があった。消費者自身も望んでいない“傘を買う”という消費行動の代替として同サービスを開始した。

駅にアイカサを設置するパートナー企業:鉄道会社

サービスの利用を増やすためには利便性が必須であり、利用者の生活動線上に傘の貸し借りを出来るスポットがあることが重要と考え、首都圏の鉄道会社にアイカサ設置の協力を呼び掛けた。当初はその需要に対し懐疑的な鉄道会社もあったが、これまでに首都圏の大手鉄道会社10社(小田急電鉄、京王電鉄、京急電鉄、京成電鉄、相模鉄道、JR東日本、西武鉄道、東急電鉄、東京メトロ、東武鉄道、都営地下鉄)との連携を完了している。

アイカサと連携した鉄道会社を代表して、JR東日本スタートアップ株式会社 阿久津智紀氏がこの日の説明会に登壇。「使い捨て傘が捨てられるほとんどの場所は、鉄道の駅なのではないか、その廃棄をどうにか減らせないか、という課題は以前からあった。その解決に向け、JR東日本では、アイカサの設置を山手線から開始し、現在121駅まで広げてきた。最近は、地方の駅、特に観光地などからも導入を希望する声が出てきており、今後の拡大を検討している」と、追加出資に至った背景などを述べた。

アイカサに傘を提供するパートナー企業

説明会前半は、アイカサにオリジナルデザインの傘を提供するパートナー企業7社が登壇。一例として、旭化成ホームプロダクツ株式会社は、同社の代表製品のひとつであるジップロック®の使用済み製品を再利用したビニール傘を紹介。サントリーホールディングス株式会社は、同社の「南アルプスの天然水」ラベルがデザインされた、傘をさすと青空が広がるという特徴を持つビニール傘を紹介。他5社も含め、各社個性のあるデザインが施された傘を紹介した。(各社の傘デザインは、冒頭の写真を参照)

アイカサの設置場所を拡げるパートナー企業

説明会後半は、新プロジェクト「2030年使い捨て傘ゼロプロジェクト for ビルディング」が発表され、アイカサの新たな設置場所となるオフィスビルなどを多く持つパートナー企業が登壇した。オフィスビルには、通勤する従業員を持つテナント企業が多く、また飲食店や各種店舗などの商業施設が入居している場合には、不特定多数の利用者が訪れる。それらの場所もまた、鉄道の駅同様、アイカサの利用者の生活動線上にあり、傘の貸し借りの利便性を向上させる重要な役割を果たすと期待される。

2023年度の参画企業12社
  • 旭化成ホームプロダクツ株式会社
  • 株式会社関電工
  • サントリーホールディングス株式会社
  • ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント株式会社
  • 東急不動産リート・マネジメント株式会社
  • 東京ガス株式会社
  • 東京建物株式会社
  • 100BANCH​​(パナソニックグループ主催)
  • 三菱地所株式会社
  • MIRARTHホールディングス株式会社
  • 森トラスト株式会社
  • Rethink PROJECT(JT主催)

個人でできるビニール傘の処分方法

説明会は、環境省サステナビリティ広報大使をつとめ、ごみ清掃員としても活動する、お笑い芸人「マシンガンズ」の滝沢秀一氏が進行を務めた。滝沢氏は、ごみ清掃員としての実績から培った、手間のかかるビニール傘処分の適切な方法を舞台上で実演した。けがを防ぐために軍手を着用し、可燃ごみとして出されるビニール部分をはさみで切り取る。骨部分はそのままでは危ないため、テープでまとめて不燃ごみとして出す方法が紹介された。(ごみの出し方は自治体により異なる場合があります。各自治体のホームページなどをご確認ください。)

ビニール傘の処分方法を実演する滝沢秀一氏

「アイカサ」サービス概要

“雨の日を快適にハッピーに”と“使い捨て傘をゼロに”をミッションに2018年12⽉にサービスを開始した傘のシェアリングサービス。現在のアプリ登録者数は約44万人。首都圏をはじめ、関西、愛知、岡山、福岡、佐賀、札幌などで展開し、鉄道沿線を中心にスポット数は1,250か所以上。

2022年の実績として、アイカサの利用により、年間約23,543kgのプラスチック量、同じく約192,126kgのCO2排出量を削減したと報告している。

【プレスリリース】傘シェアの「アイカサ」2030年使い捨て傘ゼロに向けた成果発表。大手不動産、J-REIT運用5社も参画。首都圏大手鉄道会社全10社と連携を達成。JR東日本グループなど既存株主からの追加資金調達も実施。
【公式サイト】アイカサ
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