2020年という新たな10年のスタートは、新型コロナウイルス感染症の流行により未曾有の世界的危機で始まった。コロナ禍は、ウイルスの脅威だけではなく社会のあらゆる分断を浮き彫りにし、政治経済の混乱を招いた。世界がもう一度つながるため、私たちはどう未来を描くべきか?持続可能な社会モデルにおいて、シェアリングエコノミーが果たす役割は何か?こうした問いが今投げかけられている。

そんななか、2020年11月16日、日本最大のシェアリングエコノミーの祭典「SHARE SUMMIT 2020」がオンラインで開催された。同祭典は年に一度、一般社団法人シェアリングエコノミー協会が主催するカンファレンスで、2020年のテーマは「Co-Society(共生による持続可能な社会)」。普段はなかなか同じカンファレンスに揃うことがない、あらゆるセクターのキーパーソンが登壇した。

本記事では、セッション「『SDGs 2030年の社会』〜セクターを超えた持続可能な社会モデル〜」をレポートする。同セッションでは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、企業におけるサステナブルな価値創造モデルが事例とともに提示された。

モデレーター 

天沼 聰 氏株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 CEO

登壇者 

長谷川 雅也 氏(自然電力株式会社 代表取締役)
春田 博己 氏(外務省 地球規模課題総括課 課長補佐)
田原 純香 氏(株式会社メルカリ Branding team manager、ESG lead)

左から順に天沼氏、長谷川氏、春田氏、田原氏

SDGsにおいてシェアリングエコノミーが果たす役割

まず、モデレーターの天沼氏による、持続可能な開発目標(SDGs)の認識の共有からセッションはスタート。

持続可能な開発目標は、2015年9月に国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であり、17の目標と169のターゲットから構成されている。天沼氏はSDGsについて、環境問題へのアプローチと捉えられることが多いが、もっと広義に持続可能な社会の実現を目指す目標であると解説した。

また、1972年にマサチューセッツ工科大学の教授であったデニス・メドウズ氏が『成長の限界』で残した「地球資源をふんだんに使いながら拡大してきた世界経済の成長は、このままでは100年以内に限界を迎える」という言葉を引用し、現代における持続可能な社会への取り組みの重要性について言及した。

では、持続可能な社会の実現においてシェアリングエコノミーが果たす役割はどのようなものだろうか。天沼氏は、同協会と株式会社情報通信総合研究所が共同で実施し、今回のサミットで初公表された「シェアリングエコノミー関連調査 2020年度調査 SDGsへの貢献、幸福度、社会とのつながり」の計測結果により、福祉・教育・経済・気候変動など、シェアリングエコノミーがSDGsの多くの項目に貢献することが明らかになっていると述べた。

シェアリングエコノミーのSDGsへの貢献効果(天沼氏提供)

SDGsをどのように受け止めているか

続いて、さまざまなセクターから見たSDGsの定義と、それをどのように受け止めているかについて考えが共有された。

春田氏:「SDGsは、さまざまなステークホルダーが存在する中で、皆一丸となって取り組んでいくもの。世界を変えるための17の目標を見ると、リストの1列目は社会、2列目は経済、3列目は環境に関連する事項が並んでいる。天沼氏が述べたように、SDGsは環境問題への目標と捉えられがちだが、実はさまざまな要素を含んでおり、これらをバランス良く進めていくことが重要だ」

田原氏:「SDGsは、日常のリアルな課題を見ることで、個人・企業で何が出来るかを考えるきっかけになる共通言語のようなものだと考える。そのきっかけに対してどのように行動に移すかが重要ではないか」

長谷川氏:「現在、一人ひとりが幸せに生きることが当たり前ではなくなってしまった。日本だけに着目しても、地方で学校やスーパーがなくなっている現状がある。企業がSDGsを基本とした経営をすることで、地域に何か還元できるのではないか」

ここで一貫して発信されたメッセージは、業種の垣根を超え、SDGs を共通の目標や基準として捉えるという観点である。また、SDGsが環境問題のみへの目標ではない点も強調され、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)に比べると、経済的な側面が出てきているとも捉えられるだろう。

シェアリングエコノミーと環境負荷の可視化

2030年の持続可能な開発目標の達成に向け、具体的な取り組みに踏み出す企業が増えてきたことを受け、セッションの最後には、サステナブルな価値創造モデルの事例と未来へのメッセージが述べられた。

田原氏:「当社は、新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスの提供を目指しているが、配送の梱包資材が多く発生し、目指しているものとの矛盾が生じている。そこで、リユース可能な『メルカリエコパック』を配布し、梱包材の削減に取り組んでいる。さらに、『メルカリ』という企業が存在することによる環境負荷へのプラスとマイナスを可視化する取り組みも試みている。人々の物欲がある程度満たされており、社会に対して何か貢献したいという想いが強くなってきている現代において、その想いをどのように満たせるかについて考えていきたい」

天沼氏:「田原氏が述べた、環境負荷の可視化は重要な視点だと思う。弊社もレンタルした衣類を一着あたり何回着てもらえるか、配送回数はどれくらいかなど、数値を可視化する取り組みを実施している」

長谷川氏:「弊社は、太陽エネルギーはシェアできるという考えのもと、世界で電気を必要としているあらゆる場所に、再生可能エネルギー発電施設を建設する取り組みをしている。ユーザーが、『電気が何によってつくられるか』を意識し、使う電気を選択できる社会が構築されるよう、再生可能エネルギー発電施設を1つでも多くつくっていきたい」

春田氏:「SDGsは、『誰も取り残さない』という概念のもと取り組んでいるが、これは『誰しもが何かできる』という意味も示すと考える。政府としてもできることに取り組んでいく」

今回モデレーターを務めた天沼氏は、シェアリングエコノミーは業界で分断されるわけではなく 1つの概念であるため、セクターを超えた横の繋がりを大切にしたいと述べ、このコメントとともにセッションは幕を閉じた。

編集後記

セッションを通して、SDGsは環境だけではなく、社会や経済などの要素を含んだ目標であることが再認識された。また、リユース可能なエコバッグの利用や、環境負荷の可視化、再生可能エネルギー発電施設の建設など、各社のサステナブルな価値創造モデルの事例も提示された。さらに、シェアリングエコノミーがサーキュラーエコノミーの有効な手段として位置付けられていることも感じ取られた。

今回共有された考えや事例を振り返ると、SDGsの受け止め方や持続可能な社会モデルに絶対的なものはなく、それぞれの立場から定義できるものといえるのではないだろうか。そして、持続可能な社会へ移行するうえでシェアリングエコノミーに求められていることは、政府・自治体・企業・個人などのあらゆるセクターが課題を抱える中で、SDGsを共通言語として同じ目標に向けて取り組むことだろう。

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【参考サイト】外務省 JAPAN SDGs Action