本記事は、2021年9月13日から3日間にわたってカナダからオンラインで開催された「THE WORLD CIRCULAR ECONOMY FORUM 2021」(世界循環経済フォーラム2021)のプログラムの一つ「Game Changer Session #3 – Unleashing Entrepreneurship: Scaling and Financing Circular SMEs(起業家精神を解き放て!~サーキュラーエコノミーを推進する中小企業への支援のあり方とは?~」の内容をお届けする。
サーキュラーエコノミーをさらに推し進めるには、ボトムアップによるイノベーションが欠かせない。本セッションでは、サーキュラーエコノミーの実現に寄与する技術やビジネスモデル、製品を市場に広げていく上での中小企業にとっての可能性と課題は何か、さらには大企業や行政が果たすべき役割は何かをテーマに議論した。
◆基調講演:「サーキュラーエコノミーにおける中小企業の役割」 ウエスタン大学教授・Tima Bansal氏
中小企業の雇用は、世界の雇用全体の50%を占める。途上国の新たな雇用の7割は、中小企業によるものだ。サーキュラーエコノミーの推進には「アジャイル」が欠かせない。現在のリニア経済において資源利用の大半は大企業によるもので、彼らは効率性を求めるあまり柔軟性に欠けている。だからこそ、中小企業の役割がある。
カナダを例にお話ししたい。カナダでは食品の40%が無駄になっており、損失は270億ドルにものぼる。オンタリオ州南西部の都市ゲルフにあるウェリントン・ブリュワリーでは、醸造の過程で生じる穀物かすを昆虫を飼育する団体で昆虫の餌として使ってもらっている。その昆虫はマスの餌となり、マスのふんはジャガイモ畑で肥料として使われている。ジャガイモやフィッシュアンドチップスは、ウェリントン・ブリュワリーのパブで味わえる。こうしたことは、中小企業が典型的に実現できることだ。
中小企業とパートナーシップを結ぶことには3つのメリットがある。まず何よりも、すぐに関係性を構築できて、早く物事を進められること。次に、中小企業はプロダクトデザインに長けている。さらに、サプライチェーンの調整も容易にできる。
現在のシステムは、大企業中心からサーキュラーエコノミー、さらには中小企業へとシフトしている。大企業は効率性を追求しているが、中小企業はさまざまな目的のために貢献しようとしている。
◆対談1:サーキュラー志向の中小企業の成長に向けて
スピーカー
- UNEP(国連環境計画)消費・生産ユニット長 Elisa Tonda氏
- テラサイクル創業者兼CEO Tom Szaky氏
UNEP Tonda氏:このパートでは、サーキュラー志向の中小企業の成長には何が必要なのか、さらにはサーキュラーエコノミーのビジネスモデルの一つである「リユース」について詳しく見ていく。
テラサイクル Szaky氏:私たちは今年、創業20種年を迎えた。企業やブランドから排出される容器などの廃棄物について、これまでリサイクル困難とされてきたものをリサイクルし、再使用を可能にするサーキュラーエコノミーのシステムを構築し、現在世界21カ国で展開している。
Tonda氏:創業20周年、おめでとうございます。ここまで、どのようなプロセスを経て成長してきたのか。
Szaky氏:それはまさに、ミッションを真ん中に据えて運営してきたからこそ実現できたと言える。最初は、廃棄物をリサイクルした製品づくりに取り組んでいた。しかしそれは、再びごみを作ることと同じだと気付いた。そこから「廃棄物こそヒーロー」という考え方に沿って、リサイクルが困難とされてきたものに注力して回収し、リサイクルするだけでなく、再び製品に戻すまで取り組んできた。しかし、4年ほど前から果たしてリサイクルすることがすべてなのかと思うようになった。リサイクルするのではなく、廃棄物をなくす必要があるのではないか。ただし、それは消費を抑制することになるため、事業として運営する上で果たしてどうなのか、考え続けているところだ。
Tonda氏:今の課題は?
Szaky氏:ブランドや小売業にサーキュラーエコノミーやわれわれのミッションについて理解してもらうともに、消費者に参加してもらうことだ。単に回収、リサイクルの仕組みを作るから資金を出してほしいというだけでなく、それぞれのブランドや企業のニーズに応じた形での仕組みを構築することで受け入れられやすくなっている。
また、われわれは消費者に対して高い期待をしているが、実際には期待ほどの行動が生まれていない。できるだけ受け入れられる価格で製品やサービスを提供することが必要だ。
この間学んだこととして大きかったのは、それぞれの立場の人たちがどのように動くのかを把握することだ。
幸いパンデミックの間も成長できており、消費者のマインドがいよいよ立ち上がって来たと感じるし、これは数字としても表れている。われわれはこれからも、最終処分場で廃棄されるものを少しでも減らして循環のプラットフォームに乗せることで、捨てることから人々を解放したい。
◆対談2:中小企業によるサーキュラーエコノミー技術をいかに資金支援するか?
スピーカー
- クリーンテック・エコシステム ディレクター Tyler Hamilton氏
- ジェネシス・バイオインダストリー CEO Luna Yu氏
Hamilton氏:官民パートナーシップであるMaRS Discovery 地区にあるクリーンテック・エコシステムは、カナダ国内のスタートアップ約1000社をネットワークする非営利の支援団体だ。本日のテーマはサーキュラーエコノミーにつながる中小企業による技術開発をどのように資金支援するか、そのために重要な正しいビジネスモデルについて考察する。
Yu氏:ジェネシス・バイオインダストリーは、コンポストから生分解プラスチックを加工している。この会社を始める前、食品残渣によるバイオガスプラントを運営する会社に所属していたが、入社してすぐにこの事業で利益を上げるのに苦労している現実を見た。この時、もっと分解効率の高いバクテリアを使って付加価値の高い製品を作れないかと気づいた。起業当初はバクテリアの分解装置を購入できずに自前の炊飯器を使ってやっていたり(笑)、分解装置を置ける実験空間を確保できずにいた。
Hamilton氏:初期の段階での苦労はサーキュラーエコノミーによる起業でも例外ではない。開発段階の苦労を乗り越えるモチベーションは何だったのか?
Yu氏:あと2週間分の資金しかなくなった時にちょうど、クリーンテック・エコシステムが実施してくれた女性によるクリーンテックベンシャー支援プログラムがあり、困難な時期を支えてくれました。ファイナリストに選ばれた一週間後、受賞賞金25万ドルを担保に融資を受けることができ、会社を救ってもらった。そして今日までに1100万ドルを調達し、25人のフルタイムスタッフを雇えるまでになった。
Hamilton氏:今の課題は?次の段階に行くために必要な支援とは?
Yu氏:市場が爆発的に拡大している中で、いかにビジネス領域を絞り込むかだ。昨年はPHA(ポリヒドロキシアルカン酸)プラスチックの需要が拡大し、売り上げがゼロから数百万ドルになり、数千万ドルを見通せるまでになった。このためさらに多くのPHAを生産することが求められているが、それに応じられるまでに生産規模を最大化できておらず、われわれの成長を鈍化させている。それに加えて、他のプロジェクトにも同時に目配りしなければならないため、プロジェクトのほうでも成果を出せずにいる。このため、一部を外注するなど優先度を整理しているところだ。
Hamilton氏:次の段階の成長をどのように見通しているか?
Yu氏:私たちは今後も、顧客からの売り上げと助成金、株式による資金調達のバランスを保ちながら売り上げを上げていきたいと考えている。これまでに株式で350万ドル調達する一方で、750万ドル以上の助成金を得た。これぐらいの割合を続けていきたい。
Hamilton氏:助成金の獲得を通じたいわゆるnon-dilutive(希薄化防止)な資金調達を政府も支援していますが、効果はある?
Yu氏:もちろんだ。これにより、助成金を最大限に活用しながらベンチャー支援も得られる。
Hamilton氏:サーキュラーエコノミーのスタートアップに限らないが、スケールアップの戦略が求められる。ジェネシス・バイオインダストリーではどのように戦略を描いているか?
Yu氏:これは本当に重要なことだ。バイオテクノロジー業界で大量生産を行おうとすると、5年間で5億ドルをかけて一つのプラントを立ち上げることになる。われわれは、分散型による拡大、具体的には既存のバイオマスプラントにわれわれの技術を上乗せする形でこうした大きなチャレンジを克服しようとしている。有難いことに、われわれはカナダ最大のバイオガスプラントで600万ドル相当の実証プロジェクトを受注できた。これが成功すれば、われわれのような規模の企業が5倍のスピードで成長できる方法を確立できる。
Hamilton氏:世界規模でこうしたバイオガスプラントに技術提供することに関心はあるか?
Yu氏:もちろん。世界には20万以上のバイオガスプラントがあり、年間13億トン余の食品残渣を処理している。
Hamilton氏:PHA(ポリヒドロキシアルカン酸)プラスチックでどのような製品を作っているのか?
Yu氏:PHAは現在流通するプラスチックの6割を代替できる。われわれは高付加価値帯の製品、例えば映画や食品包装、医薬品業界向けに提供している。さらにコストダウンして日常的な製品でも代替できるようにしていきたい。
◆対談3:サーキュラーエコノミーへのイノベーションを拡大させるために
スピーカー
- カナダ政府イノベーション・科学・経済・開発省 Michelle Brownlee氏
- サーキュレート・キャピタル 副社長 April Crow氏
Crow氏:サーキュレート・キャピタルはサーキュラーエコノミーを推進する企業への投資会社で、海洋プラスチック問題の解決を目指すスタートアップや地元企業へ投資している。先ごろ1億ドルを調達してファンド化し、バリューチェーン全体から海洋プラスチック問題の解決を目指そうと南アジアや東南アジアのスタートアップに投資したばかりだ。サーキュラーエコノミーへの挑戦が、金銭的リターンをもたらすことも証明していきたい。
ファンドでは当面、インドやインドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンに注目していく。いずれの国々も経済成長のスピードが廃棄物処理インフラの容量を超えているとともに、プラスチックの海洋への流出量が多い。今回の投資を通じて、一連のバリューチェーンにおける投資機会の可能性を探っていく。
また、素材開発における潜在的な技術開発への投資に特化したファンドも先日発表したところだ。
Brownlee氏:多くのグローバル企業がファンドに投資しているが、なぜスタートアップに注目しているのか?
Crow氏:上流から下流までプラスチックのバリューチェーンに注目しているからだ。バリューチェーンの多くは各地域の地元企業によって管理されており、この部分を事業化することで自然環境や地域コミュニティに利益をもたらせる。
Brownlee氏:300社以上と対話したと聞いたが、どのような視点で投資先を選んだのか?
Crow氏:ビジネスモデルのあり方、長期的な戦略、財務状況とともに、リターンを得られる可能性を重視する。その際、スケールアップと他地域での展開可能性については特に重視する。もちろん気候変動対策への寄与度、地域社会の成長への貢献度も。他のファンド等と連携しながら投資することも大切にしている。
われわれのファンドに投資するグローバル企業は、資金支援だけでなく、技術支援やサプライチェーンについての情報提供においても投資先をサポートしてくれている。
Brownlee氏:投資先の印象的なスタートアップの具体例は?
Crow氏:例えば、AIビジョンを搭載したごみ拾い・収集ロボットを開発した企業に投資している。イノベーティブなリサイクル技術の実装はサーキュラーエコノミー実践のカギを握るもので、環境負荷を低減した事業運営に欠かせない。一方で、開発途上国の多くで一般的なインフォーマルセクターによる収集システムに、より高付加価値の最終製品にする技術を組み合わせたシステムにも投資している。このほか、これまでリサイクルが困難だった種類のプラスチックのリサイクルを目指す企業や、いわゆるe-waste(電子機器ごみ)の電子取引プラットフォームにも投資している。
Brownlee氏:力を入れている南アジアや東南アジア地域の政府が果たせる役割は?
Crow氏:金融業界はやはりまだ短期志向なので、環境・社会への貢献と経済性との両立の実現に向けて長期的に支援できる環境を整備して欲しい。
◆パネルディスカッション:中小企業によるサーキュラーエコノミー志向のビジネスを加速させるために
スピーカー
- 国際商工会議所(ICC)国連大使 Crispin Conro氏
- 持続可能な開発のための起業促進パートナーシップSEED エグゼクティブ・ディレクター
- Dr. Arab Hoballah氏
- フィールディング・エンバイロメントCEO Ellen McGregor氏
- ABNアムロ銀行 グローバルサステナビリティアドバイザー Jan Raes氏
モデレーター
- 世界資源研究所(WRI)ディレクター Kevin Moss氏
―どのようにしてボトムアップによるサーキュラーエコノミーを実現できると思うか?
Hoballah氏:まずは実現できる環境を整えることだ。SEEDは国連諸機関との連携で2000年に発足し、グローバル規模で考え、ローカルで行動を起こすことを訴えてきた。20年を経て、世界で数百もの中小企業を支援した。グリーンでイノベーティブな中小企業は、サーキュラーエコノミ―への移行を進める重要なアクターだ。ただし、CEへの移行が時間軸とともに政策の中で適切に反映されていないのは問題で、それは中小企業支援が主流化されておらず金融業界や市場のエコシステムが不適切であることに原因がある。
Conro氏: ICCには、世界100カ国以上の中小企業4500万社が加盟している。今日の国際的な貿易はリニア経済が支えてきたが、国際貿易においてもサーキュラーエコノミーへの関心が高まっている。そこで、われわれは国際貿易投資研究所(ITI)と協定を結び、国際貿易とサーキュラーエコノミーとの関連性についての調査を始めた。われわれは国際貿易機関(WTO)にもその内容を提案する予定だ。
Raes氏:規模を問わず企業がサーキュラーエコノミーに取り組む動機として、 まずはビジネスチャンスがあり、すでにそれなりの数の企業がすでに取り組んでいる。廃棄物管理の領域だけを見ても、5年で5兆米ドル相当の国際貿易額にのぼる。一方で、コンプライアンスやリスク官営の面から取り組む必要性も動機づけになっている。透明性へのニーズも高まる中で、中小企業のCE以降への金融支援、さらには大手企業から中小企業への金融支援も求められる。
McGregor氏:一度きりに終わらない継続的なモニタリングや支援が必要だ。
【世界循環経済フォーラム2021レポート】繁栄、包摂、そして平等な循環型の未来へのゲームチェンジャーとしてのサーキュラーエコノミー(世界循環経済フォーラム2021レポート)
【同セッションページ】Game Changer Session #3 – Unleashing Entrepreneurship: Scaling and Financing Circular SMEs
セッション映像ページ:このセッションは6時間38分ごろ~最後まで