国際協力機構(JICA)はこのほど、ケニアに本拠を置くSanergy, Inc.(サナジー)に250万ドル(約2億8,000万円)を投資した。サナジーは、同国の首都ナイロビのスラムに設置された衛生トイレの排泄物や市中の有機廃棄物を回収し、自社工場でアメリカミズアブ(BSF)を用いて昆虫飼料・有機肥料・バイオ燃料にリサイクルする事業を展開している。
同事業は、廃棄物処理・公衆衛生・農業生産性・食料増産など複数の社会課題の解決に貢献するとJICAはみている。サナジーは、米国国際開発金融公社(USDFC)から融資を受け東アフリカ最大(JICA調べ)の昆虫飼料工場を建設し、2021年に稼働を開始した。
サナジーのナイロビのリサイクル工場の外観(出典:JICA)
JICAはケニアの廃棄物処理や農業開発を長年支援しており、その経験をもとに同社工場の操業や事業展開を支援していく意向だ。廃棄物処理や農業生産性はケニアだけでなくアフリカの多くの国々共通の社会課題であり、同社は東アフリカ諸国をはじめとした他国への展開の準備も進めている。JICAはアフリカ各国でもこれらの社会課題の解決に取り組んでおり、そのネットワークを活用していくとしている。
今回、JICAはオルタナティブ投資を世界で牽引する仏AXA IM Altsが運営するインパクト投資ファンドなどの民間投資家と共同で投資する計画だ。サナジーには、アフリカで計約2億ドル(約228億円)以上のベンチャーキャピタル(VC)ファンドを運用するケニアに本拠を置くNovastar Ventures・フィンランドの開発金融機関であるFinnfund・日系のアフリカ向けVCであるKepple Africa Venturesなどが出資参画している。JICAは今後も民間・公的部門のさまざまな主体と共同で、革新的な事業モデルで開発途上地域の社会課題解決に取り組む企業を支援していく構えだ。
JICAは今回の投資決定に至った背景として、ケニアおよび世界の現状についての見解を以下のとおり発表した。今後、ケニアでは人口・廃棄物の増加が予測されているが、廃棄物管理・下水システムの整備が遅れていることから、水や衛生への影響が懸念されている。農林水産業は同国の主要産業であるが、飼料・肥料資源に乏しく割高な輸入製品への依存が農業生産拡大を妨げる要因とされている。世界全体でも人口増加が予想されており、タンパク質源の確保が急務とされている。家畜・魚養殖の増産には飼料生産の拡大量産化が必要で、供給量と価格の確保、および水産資源保全などの観点から、現在昆虫飼料が注目されている。昆虫飼料のなかでも、世界中に生息し有機廃棄物を食べて育つBSFの活用・研究が進んでおり、BSFの世界の市場規模は2020年から2030年まで年平均成長率34.7%で増加し、2030年までに34億ドル(約3,800億円)に達すると予測されている。
昆虫を用いて飼料を生産するスタートアップは、日本やドイツでも設立されており、国家機関や州政府およびEUからの支援をもとに、資源を効率的に使用する地産地消の実現とサーキュラーエコノミーへの移行を目指している。有機廃棄物を回収し昆虫飼料・有機肥料にリサイクルするサナジーのJICAなどとの協働が、ケニアおよびアフリカ諸国の社会課題解決に貢献していくことが望まれる。
【プレスリリース】ケニアで有機廃棄物を回収し昆虫飼料・有機肥料にリサイクルする Sanergy社に対するインパクト投資の実施(海外投融資)