誰もが毎日のように見ているにも関わらず、それを意識することはほとんどない素材。それが「ガラス」だ。まちで暮らしていれば、360°周りを見渡してみてガラスが視界に入らないほうが難しい。住宅やビルの窓にも、自動車にも、そしていまこの記事を読んでいるあなたのパソコンやスマートフォンの画面にも、ガラスが使われている。私たちはガラスに囲まれ、ガラスに守られ、ガラスに支えられて暮らしているのだ。
そのガラスは何でできているか、ご存じだろうか。ガラスの主原料はシリカを主成分とする珪砂(けいしゃ)、つまり「砂」である。しかし、ガラスのサプライチェーンを辿っていくと、人口増加に伴う建設需要の高まりなどを受けて、世界は「砂不足」に直面している。一方で、ガラスは寿命も長いうえ、溶かせば何度でも繰り返しリサイクルできるにも関わらず、その資源循環はなかなか実現していない。環境省によれば、板ガラスのリサイクル率(リサイクルカレット利用率)は36%にとどまっており(2013年時点)(※)、これは生産工程で出るNG品などのカレット利用も含んだ数字であることから、実際の建築物の解体現場から回収されたガラスのリサイクル率はまだまだ低いのが現状だ。
遠い国から砂を輸入し、大量のエネルギーで板ガラスを作っているにもかかわらず、建物よりも寿命が長いはずのガラスが建物の解体とともに粉砕され、循環することなく埋め立てられていく。こうしたガラスのサプライチェーンが抱える課題を解決し、地域のなかでガラスが循環し続けるサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けた挑戦が、諏訪湖で知られる長野県・諏訪市の一角で静かにはじまっている。一歩を踏み出したのは、世界大手のガラスメーカー、AGCだ。
AGCは、これまでにも資源の有効利用に向けてリサイクル可能性の高いガラス製品の開発をはじめ、太陽光パネルカバーのガラスリサイクルの実証実験など、様々なガラスの循環プロジェクトに取り組んできた。2024年9月にはセブン-イレブンとの協業により日本初となる店舗資材向けガラス部材の資源循環にも成功するなど、ガラスの循環経済の実現に向けた新たな挑戦を続けている。そんなAGCは、2023年3月から諏訪の「SUWAガラスの里」と連携し、ガラスの資源循環実現に向けた地域協創プロジェクトを開始した。
グローバルなガラスメーカーのAGCがなぜ諏訪で、ガラスの循環プロジェクトを始めたのだろうか。その先に、どのような未来を描いているのだろうか。諏訪におけるガラスの循環プロジェクトを推進するAGCの経営企画本部サステナビリティ推進部マネージャー・中川浩司さんに、諏訪の取り組みについて詳しくお話を伺った。
ガラスの「見える」を再定義する
「このまま大量に透明なガラスを作り続けていてよいのだろうか。透明なガラスの原料となる砂にも限りはあるのだから、価値観を変えない限り、いつか行き詰まるのでは?」諏訪での活動の原点となったのは、中川さんのふとした疑問だった。
透明なガラスが大量に生産されて大量に廃棄されていく現状に違和感を覚え、新しいガラスのありかたを模索していた中川さんは、「例えばアフリカの砂漠にはたくさん砂があるのだから、その土地の砂でガラスをつくる産業は作れないか」と考え、リサーチを重ねていた。そのとき、たまたまサハラ砂漠の砂を溶かし、透明ではなくその土地の色を反映したガラスを制作している芸術家、海馬ガラス工房の村山耕二氏の存在を知る。
すぐに村山さんに連絡をとった中川さんは、AGCとして村山さんが展開するモロッコでのプロジェクトと連携できないかと申し出て、ともにアフリカにおけるガラス事業のビジョンを描き始めた。2019年のことだ。その後、コロナによりアフリカでの活動はストップしてしまったが、村山さんとの交流は続いていた。中川さんは、村山さんとの出会いを通じ、「改めて自分たちが使っているのは天然資源であり、地球資源なのだ」と実感したのだという。
また、ちょうどときを同じくして、AGCの社内では中川さんと同じ部署で働く河合洋平さんが、サステナビリティなど答えの見えないこれからの課題に対して、感性を大事にしながら向き合うための社内コミュニティ「UNOU JUKU(右脳塾)」を立ち上げていた。透明なガラスではなく、その土地の色を纏ったガラスを制作する村山さんの活動に共感を覚えた二人は、村山さんとともに、様々な土地の砂を溶かし、土地が持つ記憶を素材に込めるプロジェクト「素材のテロワール」プロジェクトをはじめた。第一弾では鳥取を舞台に鳥取砂丘、荒金鉱山、上地鉱山のガラスを制作し、第二弾では富山を舞台に神通川の砂を主成分としたガラスを制作した。
「テロワール」とは、もともとは「土地」を意味するフランス語 terre から派生した言葉で、ワインなどの品種における生育の地理や地勢、気候による特徴を意味する。
ガラスといえば、多くの人が思い浮かべるのが、後ろの景色がはっきりと見える無色透明なガラスだろう。しかし、素材のテロワールで制作されるガラスは無色透明ではなく、その土地の砂が持つ色がしっかりと反映されている。色がついているので、後ろの景色は元の色とは異なって見えるかもしれないが、素材の背景はより鮮やかに「見える」のだ。
ガラス製造が工業化するなかでいつの間にか失われてしまった素材と土地とのつながりをもう一度取り戻し、その価値を人々に問いかける。「素材のテロワール」は、まさにガラスという素材の本質と向き合う中で生まれたプロジェクトだ。
SUWAガラスの里との運命的な出会い
2021年になり、中川さんと河合さんは社内外の人と連携しながらサステナビリティ課題に取り組む企画、「サステナラボ」を立ち上げた。その第一回目のゲストとして招かれたのが、ゼロ・ウェイストのまちと知られる徳島県・上勝町で活動する大塚桃奈さんだ。
その中で、リサイクル率が80%を達成している上勝町だが、ガラスが地域内では循環できていないことを教わった中川さんらは、現地で開催された「GREEN WORK 上勝」に参加した。上勝町の中で小規模なガラスの溶解炉をつくり、地域でガラスを循環させるというアイデアを思いついたが、設備投資などリソース確保が壁となり、実現までにはいたらなかった。
引き続き地域の中でガラスを循環させ、土地の素材とのつながりを感じられる新たなガラス産業のありかたを模索していた中川さんは、2022年7月29日、運命的な出会いを果たす。それが、諏訪にある現代ガラス工芸作家の美術館「SUWAガラスの里」の会長を務め、県宝下諏訪宿本陣岩波家28代目当主でもある岩波太佐衛門尚宏氏との出会いだった。
中川さん「そもそも、以前から交流のある東京藝術大学のガラス造形研究所の地村先生がきっかけです。地村先生はガラスの里との連携プロジェクトを模索していました。その際に、諏訪湖で浚渫(水底をさらって土壌などを取り除くこと)により砂を捨てていることを聞いて、村山さんとAGCで取り組んでいる『素材のテロワール』プロジェクトを思い出して、お声がけいただきました。そして、忘れもしない7月29日に、諏訪を訪ねたのです。そこでガラスの里の岩波さんにお会いし、翌日の30日には現地をご案内いただき、そのときはじめてガラスの里に遊休状態にあるガラス工房があることを知りました。稼働していない小型のガラス溶解炉を見て、これを動かしたら、上勝町でも実現できなかった地域の中でのガラスの循環が実現できるのではないかと考えたのです」
諏訪でインスピレーションを得た中川さんは、夏休みを使って8月に再び諏訪を訪問。時代の変化もあり、稼働が止まっていた溶解炉をもう一度動かしたいと考えていたSUWAガラスの里の岩波氏と意気投合し、AGCとして諏訪を拠点にガラスの循環プロジェクトを始めることを決意する。
そして、社内での合意も取り付けた中川さんは村山さんとともに炉の改修を進め、岩波氏との出会いからわずか半年後の2023年4月23日、長らく眠っていたガラスの里の工房に、再び火を灯すことに成功した。当日は、諏訪市長や諏訪大社の宮司なども集まり、地域にとっても歴史的な1日となった。
諏訪湖の砂からガラスをつくる
プロジェクトをスタートした中川さんが村山さんとまず取り組んだのは、諏訪湖の砂を使ったガラスの制作だ。諏訪湖では、浚渫(しゅんせつ)により毎年大量の砂が取り出され、廃棄されている。しかし、最大水深がわずか4.7メートルしかない諏訪湖では、砂を取り除かなければ船の航行にも影響が出るため、漁業という地場産業を維持するうえでも浚渫は欠かせない。また、水深が浅いと太陽光の影響で富栄養化が進みやすくなるため、浚渫により湖の深さを維持することは、湖や周辺環境の生態系保全・再生という意味でも重要となる。
もし浚渫した砂を活用して地域のガラスを作ることができれば、ガラスを作れば作るほど諏訪の自然が再生されていくというリジェネラティブなガラス産業につながる可能性も秘めているのだ。実際に諏訪湖の砂を使って作られたガラスは、美しい黒の輝きを放ち、高級感のあるガラスとなっている。今後は地域産品として展開することもできるだろう。
このように環境を破壊するのではなく環境を再生するガラス産業という未来が描けるのも、砂からできており、自然物とも人工物とも言いづらいガラスならではのサーキュラーデザインであり、特徴だと言えるだろう。
中川さんは同時に、地域の人々のガラスに対する固定観念を覆す取り組みも始めた。
中川さん「ガラスは危ない、リサイクルが難しい、という固定観念を変える必要がありました。例えば、太陽光パネルのガラスを溶かし直すと緑のガラスになる。それを実際に見て、なぜそうなるのかを理解してもらったり。また瓶ガラスもそれぞれの色で分別して溶かし直せば、また綺麗な色のガラスが作れることを知ってもらったり。逆に混ぜたらどうなるか。実際にガラスを見てもらうことで、地域の廃棄物処理会社さんや施工会社さんも興味を持ってくれて、仲間になってくれました」
素材メーカーとリサイクラーがつながり、循環の輪を閉じる
1年目は地域の人々との丁寧な関係づくりと、ガラスが持つ可能性についてのリサーチ、共有に時間を割いた中川さんは、2年目から本格的にガラスの地域循環に向けた実証実験に取り組み始める。
中川さん「2年目からは、板ガラスの回収に取り組み始めています。もともとAGCでは試験的に高層ビルの解体時にガラスを引き取り、リサイクルする取り組みをはじめていたのですが、実は板ガラスの数量ポテンシャルがあるのは、一般家屋を含む低層住宅なのです。低層住宅では常にどこかで解体が行われており、地域の解体業者がその仕事を担っています」
「そのため、低層住宅のガラスの廃棄ルートを特定し、板ガラスのまま回収し、リユース、アップサイクル含めた出口の選択肢を作る検討を進めています。これは地域の中で使えるものは使う取り組みであると同時に、実際には使いこなせないほどのガラスが廃棄されている実態を考えると、大量にリサイクルできるAGCに丁寧に分けたガラスを戻してもらうことにも繋がると考えました。次の出口の選択肢の一つにAGCが入っていることで地域にとっても回収の価値が生まれてくる、Win-Winの協創活動の可能性を感じているポイントです」
「実際に住居の解体現場も見せていただきました。解体業者さんもアルミサッシは有価物なので回収したいため、ガラスは現場でバキバキと割って、ガラス陶磁器くずとして他のガラスや焼き物と一緒に集められるのが普通です。これだと、コンタミネーション(異物混入)が起こりリサイクルが難しくなるのですが、板のまま回収すれば、リユースもリサイクルも可能になります」
「そこで、地域の廃棄物処理企業の1つの信州タケエイさんの協力を得て、まず、一般家屋の解体案件でどういった種類のガラスがどのくらい出ているのか解体前に調査し、そこから、様々な年代、種類のガラスを窓サッシのままサンプリングしてもらうことを始めています。そして割らずにガラスを回収するために、窓サッシを1つずつ解体しながらその作業性などの改善を図り、解体作業プロセスとして設計し、地域の中の処理工程として、プロトラインを作ろうとしています」
従来のリニア(直線)型バリューチェーンにおいては、最も遠い位置にいる素材メーカーとリサイクラー。両者は、循環型バリューチェーンにおいては隣合わせの存在となる。お互いに製品ではなく素材単位での会話ができる両者が連携することで、よりスムーズに地域の中に循環インフラをつくることができるようになるのだ。
中川さん「解体プロセスの設計にあたってはAGCにとっての品質基準を明確に用意し、分別ルールを作る必要があります。そこで、現在は回収したガラスを一つ一つサンプリングし、ガラスの組成を調査・分析しています。また、AGCではガラスを溶かしたときの欠点なども調査できるため、現在はそのサンプルを収集しているフェーズです。汚れがあれば洗浄する必要がありますし、付着物が問題であれば検査機を入れる必要があります。それらがなければ解体作業だけで済むため、これらを明らかにした上で地域の中でプロトタイプのラインを作れるとよいなと思っています」
地域の中でガラスを循環させるためには、素材メーカーとなるAGCだけではなく、住宅の施工店やリサイクラーなど、地域の循環を担うプレイヤーとの連携が欠かせない。関わる全員が幸せになる絵を描きつつ、一方では一つずつ手作業で泥臭く丁寧に仕組みを作り上げていく。こうしたプロセスを通じて得られる地域とのつながりや信頼関係も、地域の循環経済を実現する上で欠かせない財産となる。
お守りが戻ってくるように、素材が戻ってくる未来
また、AGCにとっての大事なステークホルダーは、地域の企業だけではない。中川さんは、ガラスの循環を実現するために、諏訪湖に並ぶ地域の宝、諏訪大社とも対話を重ねている。
中川さん「諏訪大社さんも含めて地域の皆さんと、諏訪湖の砂でできた黒いガラスで新しいお土産を作れないかといったワークショップをしていました。神社では、お守りやお札はしっかりと戻ってきますよね。戻ってきたものは炊き上げて燃やされてしまいますが、ガラスであれば、溶かせばもう一度ガラスとして使えます。もしお守りやお札をガラスで作れば、すでに回収率が高いので、神社が回収の拠点になるかもしれません。私たちは『持続』を『自ら続ける』という意味で『自続』と書いているのですが、こうしたそれぞれの土地の砂からつくるガラスの活用方法については、地域の皆様が自主的にアイデアを出し、動いてくださっています」
日本では、お守りやお札を神社に返納するという文化がある。この「返す」という古来より根付く日本人の行動習慣を、素材の循環と重ね合わせることで、地域産品の新たな循環モデルを作ることができるかもしれない。日本文化の視点から循環をデザインする、非常にユニークなアイデアだ。
諏訪湖は、諏訪の自然を映し出す「鏡」
循環の仕組みを地域のなかに長く根付かせるためには、その土地が持つ自然や文化、歴史の延長線上に未来をデザインしていく必要がある。その意味で、諏訪における循環を考える上で欠かせないのが諏訪湖の存在だ。
中川さん「諏訪の方々にとって、諏訪湖は宝でもあり、地域の方々の生活の写鏡にもなっています。少しでもまちの暮らしや環境が変な方向にいくと諏訪湖が汚れ、頑張ると綺麗になるのです。その意味で、諏訪湖のようにこれからも一緒に共生していきたい自然が目に見て周りにあるという環境は、循環の活動を進める上でとてもよいなと思っています」
諏訪湖は、地域の人々にとっての大切なコモンズであり、地域の状況を映し出す鏡でもある。鏡の素材もガラスであることを考えると、AGCが諏訪での活動を通じて作ろうとしている最も大きなガラスは、美しい諏訪湖なのかもしれない。
ガラスの先にある、見たい景色をつくるために
諏訪湖の周りにはぐるりと住宅や宿泊施設が並んでいるが、当然ながらそれらの施設の窓の多くが諏訪湖の方角を向いている。諏訪湖を中心とする美しい諏訪の自然が保たれる限り、人々はその美しい自然を見ようと自宅に窓を取り付け、ガラス越しにその景色を楽しむのだろう。
そう考えると、これからもガラス産業が持続可能な形で発展していくために必要なことは、ガラスをつくるというよりも、その先にある「見たい景色」をつくり続けることなのかもしれない。中川さんは、これから諏訪でどのような景色をつくろうとしているのだろうか。
中川さん「地域の未来はやはり地域の人が考えないといけないと思うので、その意味で諏訪の未来を描くのは僕ではなく地域の方々だと思うのですが、イメージとして良いなと思っているのは、ガラスの里の岩波さんらが掲げている『風土とともに生きる』という言葉ですね。素材のテロワールの活動もそうした考え方が根底にあるから受け入れてもらえたと思うので」
地域の未来は、地域の人々がつくる。「風」である中川さんが「土」である地域の人々と出会い、その交差により様々な化学反応が生まれ、それらを再び地域の人々がその土地の未来の中に編み込んでいく。その繰り返しによって地域の風土が育まれ、長く受け継がれるようになるのだ。中川さんの話す「自続」という言葉にも、同じ思いが込められている。
それでは、諏訪でのプロジェクトの先に、AGCとしてはどのような未来を描いているのだろうか。最後に中川さんに聞いてみた。
中川さん「これまでは、地域のなかで協創の仕組みをしっかりと作り上げることに注力してきましたが、今後は信州タケエイさんとパートナーを組んでラインをつくり、少量でも良いので諏訪からAGCにガラスが戻ってくる仕組みをつくり、いずれはこのモデルを他の地域にも展開していきたいなと」
「また、ガラスの循環については思っていることが二つあります。一つ目は、どこまでを設計すべきなのかについてです。ガラスは確かに循環させながら何度も使えるのですが、そもそも寿命が長いので、2周目、3周目ともなれば50年、60年後の話となり、それほど先の未来を描けるかというとそれもなかなか難しい。だから、まずは少なくともガラスが戻ってくるというところまでは設計し、30年後にはまた新しい技術も出てきて違うやり方もあるだろうから、次の人が次の循環を考える。そんなふうに、人と技術を繋いでいくということを持続可能にしなければだめだなと思っています」
「もう一つは、AGCの役割です。AGCは目標としてリサイクル率のアップを目指しており、相当量のガラスの生産設備を持っているのですが、それでもカバーできるのは国内で廃棄されているガラスの3割程度です。仮にAGCの窯が100%稼働しても、問題の7割は解決されないのです。その意味で、板ガラスのまま回収をしてリユースの仕組みを作る、地域の中で他の使い道を提案できるようにするなどして、残りの7割に対する解決策を考えるのも、素材メーカーとしての役割なのではないかと思っています。そこまでできるのがAGCだと思うので」
ガラスの循環サイクルを考えれば、今大事なのは回収の仕組みのデザインであり、その先でどのように素材を循環させるかについては、その時代を生きる人々が、そのときの技術を使って最適な方法を考えるべき。また、ガラスの循環のデザインにおいては、リサイクルだけではなく多様な選択肢を用意して、産業全体の問題を解決できる仕組みを作る。いずれも、ガラスの本質的な循環を追求し続ける中川さんならではの視点だ。
編集後記
ガラスの素材となる砂や、その砂がある土地だけではなく、その土地を生きる人々とも向き合いながら、ガラス産業の持続可能な未来のブループリントを描こうとしている中川さん。諏訪でのプロジェクトは残り1年で一旦の目処を迎えるが、AGCとしての挑戦はまだ始まったばかりだ。
ガラスはもともと重量もあるため、環境負荷の観点からも遠距離の輸送が必要となる大きな循環モデルとの相性が良いとは言えない。逆に、地域の中の小さな循環を考えるための素材としては、最適な素材でもある。ガラスの循環を考える中で人々が地域の自然や文化、そしてともに生きる人々と出会い直し、ともに新たな未来を築いていく。中川さんの取り組みからは、地域における循環をデザインする上で大切なことをたくさん教わった。10年後の諏訪湖という鏡には、どんなまちの姿が映っているのだろうか。いまからその景色が楽しみだ。
※ マテリアルリサイクルによる天然資源消費量と環境負荷の削減に向けて(環境省)
**:Photo by masako kato
【参照サイト】AGC
【参照サイト】SUWAガラスの里
【参照サイト】海馬ガラス工房
【参照サイト】信州タケエイ
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。