廃棄物の100%再資源化や循環型コミュニティデザインなどサーキュラーエコノミーに関わる事業を展開するアミタホールディングス株式会社(以下アミタHD)の新しい代表取締役社長兼CIOO(Chief Integrated Operations Officer:最高統合執行責任者)に、前取締役の末次貴英氏が就任した。同社は2030年を見据えた事業ビジョン「エコシステム社会構想2030」を2022年11月に発表し、23年1月には持続可能な企業経営や地域運営への移行を支援するアミタ株式会社とサーキュラーマテリアルの開発・製造に特化したアミタサーキュラー株式会社を傘下に置く組織改編も行った。末次氏に「エコシステム社会構想2030」が見据えるこれからの社会のあり方や、構想実現に向けた戦略などについて聞いた。

末次貴英氏プロフィール:九州大学大学院卒(修士)、2005年にアミタ入社。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の分散型エネルギー供給システムの受託研究や牧場・農業等の新規事業開発、サステナブル経営への統合支援等に携わった後、2020年1月代表取締役に就任。2023年3月23日付でアミタHD代表取締役兼CIOOに就任。趣味は料理。人生を変えた一冊は『ハチドリのひとしずく』(辻信一監修)

MEGURU PLATFORMは循環型社会のOSの機能を果たす

末次氏にとって最大のミッションは「エコシステム社会構想2030」の具現化となる。同構想は▼無駄を生まない循環設計▼一つの問題を解決する部分最適ではなく、社会全体としての調和につながる全体最適▼常に変化しながらも全体で均衡を保とうとする動的平衡――という、生態系の特徴でもある3つの要素で構成された社会システム像である。その実現に向けては、全国の地域に設ける互助共助コミュニティ型の資源回収拠点である「MEGURU STATION®」(以下ステーション)と、良質な資源と情報を集めて新たな製品やサービスを生み出すサーキュラーマテリアル製造所である「MEGURU FACTORY」(以下ファクトリー)を軸とした、ひと・自然・もの・情報をつなげる「MEGURU PLATFORM」(以下プラットフォーム)をいかに構築できるかがカギを握る。

MEGURUプラットフォームの概念図(AMITAホールディングス提供)

末次氏は、MEGURU プラットフォームを「モノだけでなく情報と気持ちもめぐる新しい循環型社会を実現するためのOS(オペレーティングシステム)」と表現する。その背景には、国内外で進行する不可逆的な変化がある。

「今回のウクライナ侵攻をきっかけに資源が高騰し、国際的な覇権争いも激しくなり、資源が安定・安価に調達できる時代ではなくなったことが明らかになりました。このような状況で、資源のない日本がどうすれば産業や暮らしを持続可能にできるか、不安になりますよね。人口も減っていくばかりですし、高齢化も進んでいます。バブルがはじけた後にもう何十年も停滞していると言われ、右肩上がりの成長も難しい。そんなさまざまな制約がある中でも、産業や暮らしが豊かであり続けるためには、自然も人間関係も豊かになる循環のプラットフォーム、OSのようなものが必要なのです」

 

「MEGURUプラットフォームで循環する資源や情報を活用し、関係性がより豊かになったコミュニティで、企業や個人が自社らしい商品やサービスを生み出し、自分らしい暮らしを表現できる。プラットフォームをOSとして活用し、そこから企業や個人が自由な発想でアプリケーションを生み出すイメージです。人やモノや資源の流れが見える起点と仕組みを作って、資源を最適に無駄なく使えて、産業や暮らしの変容につながる新しいものが生まれやすくする社会を見据えています」

ステーションで人々の関係性を増やし、ファクトリーで資源の価値を上げる

MEGURU プラットフォームを構成する資源回収拠点「MEGURU STATION®」では、プラスチックをはじめとする資源の分別・回収だけでなく、地域住民の交流を促す場を併設することで、地域内での互助共助の基盤となる人々の関係性の増幅を目指している。また、サーキュラーマテリアル製造所「MEGURU FACTORY」では、ステーションで回収された資源を高品質な素材に加工し、持続可能な調達を目指す企業に出荷。集まる資源の発生場所や頻度、材質、加工時のCO2排出量などの情報が一元管理されるため、企業にとっては需要予測に基づく製品製造の最適化や安定的な原料調達ができるようになる。

2023年初頭現在MEGURUステーションは全国3自治体7カ所で稼働しており、「MEGURU FACTORY」はパートナーとの共同運営も含め今後稼働を予定している。「エコシステム社会構想2030」ではステーションとファクトリーについてそれぞれ具体的な設置数の目標値が明示されており、末次氏はプラットフォームの実現に向けて「パートナーシップを含めた外部経営資本との連携」と「ステークホルダーとの合意形成」をポイントとして挙げる。

「エコシステム社会構想2030」における2030年の目標値(同)

「まずは、プラットフォームを広げるために、私たちが直接資本を投入したり、国や自治体のプロジェクトとして別の資本を活用したりするなど、アプローチの仕方を変えながら進めていきます。ステーションやファクトリーがいろいろな場所にあってこそ、プラットフォームとして一定の価値やインパクトを残せるので、優先順位を上げて進めていきたいです」

さらに、プラットフォームそのものの質を高めるために、さまざまな業種業態の企業との提携を次々と進めている。NTTコミュニケーションズとは資源循環プラットフォームを支えるICTシステム構築で、三井住友信託銀行とはステーションの社会的インパクト評価の実施で提携したほか、芙蓉総合リースとは、両者の特性を活かし、リサイクル事業者のサーキュラー化を促し、MEGURUファクトリーの確立に向けた事業開発を共同で行う。防災事業を手掛けるBELLグループ(東京都新宿区)とは、防災備蓄品の可視化と共有化のクラウドシステムとMEGURUステーションの連携で、地域の安全を高める事業創出の検討を進める。

「私たちだけではプラットフォームに必要となる要素が埋まらない中で、プラットフォームは参画いただけるパートナー企業にも意義のあるものにしなければなりません。新たな商品やサービスの提供が可能となったり、顧客との関係性が深まったり、企業価値が高まることで、人財の確保につながったり、各社が目的に応じて活用できるようにしたいですね」

一方で、各地域の公共空間としての側面を持つMEGURUステーションでは、関係するステークホルダー間での合意形成が重要だと末次氏は考えている。

「企業の文脈だけで勝手に作られるわけではなく、住民や行政の皆さんにとっても意義のあるものだと認識していただかなければ普及していかないので、客観的かつ定量的な社会的・経済的・環境的価値を示す必要があると思っています。人口も減り、税収も減り、縦割りの行政では、複層的なさまざまな課題に対応できなくなっていきます。行政も企業もこれまでのやり方では、立ち行かないことは認識しているので、今後は革新的な連携を模索する必要があると思います。そのために、新たな産官連携に向けた組織の準備も進めています」

福岡県大刀洗町におけるMEGURU STATION🄬の様子(同社提供)

時代の変化を起点に、社会ニーズを市場化する

新型コロナの影響をようやく脱して新たな時代のフェーズに入ろうとしている2023年春。ウクライナ侵攻の長期化や気候変動の深刻化など、地球規模での先行き不透明感が残るこのタイミングでのチャレンジには、同社が1977年に創業した時から宿していたDNAも大きく作用しているようだ。

「私たちの経営スタイルとして、時代ごとの社会や価値観の変化をとらえ、新しい会社を作ったり、東京へ進出したりするなど、次の展開に前のめりにチャレンジしてきました。創業当初には第二次オイルショックがあり、その後はプラザ合意、相次いだ金融破たん、米同時多発テロ、東日本大震災、そして今回のウクライナ侵攻やパンデミックです。こういう変化の節目には社会の中に不安や負のエネルギーがたまっていきます。リスクの中にこそチャンスがあり、これらの変化を起点にしながら、次なる社会ニーズを予測し、市場開拓してきました」

東日本大震災が起きた2011年、事業目的に関わる定款を「自然資本と人間関係資本の増加に資する事業のみを行う」と変更し、2015年には被災地である宮城県南三陸町でバイオガス施設の運営を始めた。パリ協定、SDGs、ESGの流れの中で明らかに潮目が変わってきていることを感じると末次氏は言う。

「私たちはこれまでも、常に社会ニーズを市場化するということに着眼して、それを一つの競争優位性として認識しながら事業を展開してきました。社会の価値観が変容する中で、今こそ世の中に対して事業会社らしく希望のあり方を示す必要があると思っています。そのために、使命感を持って旗を振り、ステークホルダーから共感を集め、良質な経営資本を増幅させていく必要があります」

経営資本増幅の仕組みイメージ図(同)

命の尊厳が守られ、幸せな関係性を築ける包摂的な社会へ

エコシステム社会構想2030を推進するに当たっては、構想が目指す社会のあり方にふさわしい組織に変えていくことも求められる。今年1月から正式に始めた週32時間就労は、その一つの解でもある。

「最近話題のChatGPTなどAIが急速に浸透して社会が変わっていこうとしているなか、結局のところ人間って何だろう、生きる意味って何だろう、という話に行き着くと思うのです。そこで、私たちに必要になってくるのは自分の存在の意味などについて考える力や自分を表現する力です。週32時間就労もそうした力をつけるために必要な準備運動で、いろいろな制約の中で工夫を生み出し、新たな結合によってイノベーションを起こすための一つの試みだと思っています」

 

組織を挙げた試行錯誤の積み重ねを経てもたらされるエコシステム社会とは、一体どのようなものになるのだろうか。

「何かをすることによって、何かが犠牲になることのない、自然や人間関係が豊かになり続ける新しい社会のメカニズムを作っていきたいのです。人の命をコストと考えるのではなく、命の尊厳が守られて、豊かな関係性の中でそれぞれの人が自分らしく生きられる社会にしていきたい。そのために、多層的なコミュニティやプラットフォームを通して、他者や社会とのつながりが感じられるものや場所が自然にある暮らしを実現することが、私たちの使命だと考えています。2030年には、人々の不安を打ち消すだけの希望と安心をもたらせるプラットフォームに育てていきたいですね」

アミタホールディングスは、事業ミッションとして「自然資本と人間関係資本が増幅する持続可能な社会」を掲げる。20世紀の高度成長期を経てもたらされた経済偏重の豊かさは、「環境破壊」と「人々の孤独」という大きな社会課題をもたらした。エコシステム社会構想2030の中核をなすMEGURUプラットフォームの普及を通じて、近代の誤作動を正し、真に持続可能な社会を残すことができるのか――末次新社長の舵取りに注目したい。

【参考サイト】
アミタグループ、「エコシステム社会構想2030」を発表
- 社会の持続性と関係性を向上する社会デザイン事業の2030ビジョン -
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