皆さん、毎日の「ごみ出し」は楽しいですか?どちらかと言うと、必要に迫られてやるものと捉えている方々が多いかもしれません。しかし、そんなごみ出しを通じて近所の人たちと仲良くなれたり、地域の環境を良くしたり、困難を抱えている地域の人たちをほんの少しでも助けたりできるとすれば――。

全国各地でごみ出しをきっかけとした地域コミュニティづくりに取り組んできたアミタホールディングス株式会社 未来デザイングループ グループマネージャーの宮原伸朗さんにお話を伺うと、地域内でサーキュラーエコノミーにつながる取り組みを行うことで私たちが作り出せる社会の未来像が見えてきます。

アミタホールディングス株式会社の宮原 伸朗さん(本人提供)

来れば来るほど元気に! 互助、共助が増える起点としての「MEGURU STATION」

アミタがそもそもごみ出しをきっかけとした地域コミュニティづくりに事業として取り組んだのは、東日本大震災に見舞われた直後の宮城県南三陸町でした。「南三陸町バイオマス産業都市構想」の策定・実践を、官民連携(PPP)の事業として実施したことにさかのぼります。これまで他市町村で焼却・埋め立て処理されてきた町内の廃棄物系バイオマス(生ごみ、し尿、下水汚泥等)を有効活用するために、2015年にPPP協定の下でバイオガスプラント「南三陸BIO」を開設。町内にある約250カ所のごみ集積所で分別回収された生ごみからバイオガスと液体肥料を生成し、地域に還元しています。

その後、同町が取り組む焼却・埋め立てゼロの町づくりの次の一歩として、「包括的資源循環の高度化実証実験」を2018年に開始。住民主体のコミュニティ力によるさらなる資源化率向上を目指し、同実証実験を始めることになりました。

南三陸町はごみ焼却を町外に委託しているため、生ごみの量を減らすだけで委託コストの削減につながりました。しかし、減らすべきは生ごみだけではありません。そこで、資源ごみ(16品目)と可燃ごみ(6種類への分別依頼を実施)も持ち込んで分別できる「MEGURU STATION(以下ステーション)」を町内の高齢者生活支援施設の一角に約2カ月間にわたって設置しました。

南三陸町に設置したMEGURU STATION(以降の写真はすべてアミタ・ホールディングス提供)

その際、単にごみを持ち込んで分別したら終わりという分別回収ステーションにはしたくなかった、と宮原さんは言います。

「『発展すればするほど自然資本と人間関係資本が増加する持続可能な社会を創る』という当社のミッションに沿って、来れば来るほど元気になり、互助、共助が増えて防災にもつながるような日常的な関係性が生まれる場所にしたかったのです。そうした関係性によって街が豊かになるという仮説を立てて取り組みました」

ステーションでは、地域住民が資源ごみを持ち込んだ際、ステーションに設置しているQRコードリーダーにスマートフォン専用アプリのQRコード画面、またはQRコード付き専用カードをかざすことで感謝ポイントが付与されます。資源ごみの持ち込みだけでなく、ステーションで行われるイベントへの参加時にも感謝ポイントをもらえます。さらに、専用アプリでは地域住民同士が親切な行動に対して感謝の気持ちを伝え合うことでも感謝ポイントが付与されるようにしました。感謝ポイントは、住民の皆さんの役に立つものや、つながりを感じられるものと交換できるよう設計しました。

スマートフォンやカードを使ってステーションにチェックイン
感謝ポイントの一部は地域の幼稚園に寄付、子どもたちはクリスマスツリーとして使うもみの木を植樹しました

南三陸町での実証実験は成功した一方で、東日本大震災での甚大な被害を経てコミュニティを一から立て直す地域だったから成功できたのではないかとも言われたそうです。しかし、宮原さんはそうした見方を覆したかったといいます。

「コミュニティの分断という点では、日本全国同じような課題を抱えています。人は誰しも誰かの役に立ちたいという思いを持っているはずで、そんな思いを活かしてごみ出しをきっかけにコミュニティをつくるという趣旨に奈良県生駒市が共感して下さり、2019年に同市から「日常の『ごみ出し』を活用した地域コミュニティ向上モデル事業」を受託し、実証実験としてMEGURU STATIONをスタートしました」

MEGURU STATIONの入り口

生駒市は、京都や大阪へ通勤するビジネスパーソンを多く抱えるベットタウンとして知られる人口約12万人の都市。この実証実験が始まる以前から、生駒市はSDGs未来都市に選定されており、地域コミュニティ活性化の重要性を行政としても強く認識していました。実証実験では、大小2つのステーション(常設と移動式)を設置するとともに、自治会館での100歳体操や卓球教室など既存の活動とも連携させ、どのような相乗効果があるかについても検証しました。

 

MEGURU STATION概念図

地域のためになるごみの循環のあり方とは?

常設の実証実験を行った萩の台住宅自治会は、戸建てが密集した地域で、約700世帯の住民が住んでいます。ここでの回収品目はプラスチックごみと生ごみ、紙おむつなど20品目。このうち、生ごみについては、2021年4月からその場で資源化できる小型(100世帯モデル)の生ごみ処理設備「スマートコミュニティバイオ」のパイロット版を初めて実装しました。ディスポーザーで粉砕した生ごみを発酵させてメタンガスと液肥を生成、メタンガスは自治会館で開いているカフェでガスコンロの熱源に使ってもらいました。また、液肥は住民が持ち帰って家庭菜園で使ったり、移動販売に来ている周辺の農家に渡して使ってもらったりしました。

こうして完結した生ごみの地域内での循環は、実証実験を行った生駒市だけでなく、他の地域にとっても意義深いものです。その理由を、宮原さんはこのように話します。

「生ごみは水分量が多いですが、スマートコミュニティバイオはコンポストに比べると発酵までの時間が短いです。また、臭気問題もほぼなく、安定してガスや液肥といった資源を生成できる点が特徴です。液肥を移動販売に来ている農家の方が使ってくれるようになり、住民の皆さんも自分のごみから作られた野菜だと思うようになり、それが購買動機につながっています。どこかに大きな生ごみ回収設備をコストをかけて導入するのではなく、コミュニティ内でごみの出口をコントロールすることで、ごみが自分のためだけでなく、みんなに役立つものになるのです」

こみすてに移動販売にやってきた農家から野菜を買い求める人たち。肥料は農家からも好評で、特に葉物に使うと全然違うと評価してもらっているそうだ

「誰かの役に立ちたい」思いを後押しして、人と資源の循環をつくる

宮原さんはじめアミタのスタッフは、回収ごみを抱えて、あるいは自治会館で行われる講座などに参加するために歩いてやって来る住民の皆さんにMEGURU STATIONを身近に感じてもらえるよう、あることに気を配ったといいます。

「開催曜日やステーションでのチェックイン方法、分別方法といった最低限のルールは設けましたが、それ以外は自由にしました。すると『ここを飾ってみよう!』『ワークショップをやってみよう!』『ステーションの名前は“こみすて”にしよう!』など、市民の皆さんがどんどん提案し、運営も手伝って下さるようになりました。『おらがステーション』という誇りを持っていただけたのでしょうね」

住民手作りの「こみすて」の看板

すると今度は、地域の人たちの間に驚くような変化が生まれ始めました。

「ふだん地域活動に参加するのは高齢女性が中心になりがちですが、薪ストーブを設置したところ、薪割りや修理のためにと男性たちも外に出てくるようになりました。ステーションに毎日来られる方の中には、このような場所に顔を出すことが少ない方や、そもそもあまり外出をしない方もいました。ステーションに資源を出しに来てくれて、そこで笑い合いが生まれていることに、自治会長さんも驚いていました」

車移動でステーションに来る人たちが多かった南三陸町とは対照的に、徒歩での来場者が多かった生駒市では地域の子どもたちが数多く立ち寄る場にもなりました。

「学校帰りにステーションで宿題をやったり、トランプをやったり、さらには分別が分からずに困っている人がいればお手伝いまで私たちと一緒にやってくれるようになりました。子ども同士でシフトを組んだりもしていました(笑)。人の役に立ちたいという思いは子どもも同じように持っていて、ステーションが子どもと社会をつなぐ場になれたことは非常に良かったと思います」

 

こみすてにやって来た子どもたちを迎えるスタッフ
子どもたちはお手製の名刺を作ってこみすてをサポートしました!
住民に分別説明を行う子どもスタッフ

子どもたちがやって来ることで、日ごろは仕事が忙しくて地域活動に関われない現役世代の保護者もやって来る。ごみ出しをきっかけに、多世代交流が生まれたのです。それは、とても素晴らしいこと。しかし、宮原さんはそれだけで終わらせないことが大切だと言います。

「MEGURU STATIONのような循環型プロジェクトを、何となくいいよね!という状態から、事業として継続させるためにも、データを収集して効果を見える化させることが不可欠です。このため、私たちはNECソリューションイノベータ株式会社と「『持続可能な社会の実現』のための事業推進に関する包括連携協定を結んで、多くの皆さんにとって使いやすいLINEアプリをインターフェイスとしたプラットフォームを構築しています。その中で、ステーションにチェックインすると感謝ポイントを授与、ポイントで寄付できるように設計しています」

参加すればするほど、まちが良くなる。得られた“利益”は自分のためだけでなく、地域のためになる。誰かの役に立ちたいという社会的動機を、地域全体の暮らしが良くなるという社会的報酬に変えられる「循環するコミュニティ」の一つのあり方を、MEGURU STATIONは私たちに提示しているのです。

こみすての看板づくりを見守る大人の皆さん

「循環するコミュニティ」を持続可能にするために

生駒市での実証実験の結果、参加登録者の91%がステーションを続けてほしいと回答。実証実験の成果を受けて、同市は「複合型コミュニティ事業」を開始。萩の台住宅自治会では、2020年度から生駒市の補助金で自主運営を始めました。宮原さんは、事業の成果をこう振り返ります。

「週2回の自治体の資源回収を待たなければならないストレスから解消された、居場所が増えた、などの反応をいただきました。単なる資源循環ではなく、ごみをきっかけにコミュニティが良くなるという仮説は間違っていなかったと考えています」

一方で、人々の想いも資源も循環するサーキュラーコミュニティを持続させるにはまだまだ課題があると指摘します。

「私たちはボランティアではありませんので、どのように事業費をねん出して継続させるかが大きな課題です。想定しているのは、衛生費(ごみ処理費)と社会保障費(医療費、介護費)を原資とすること。例えば、それぞれの年間コストが数億円かかっていたものが半分になったことが証明できれば、削減できた金額の半分を成功報酬として事業運営者に回してもらう、いわゆる成果連動型民間委託方式(Pay For Success方式)を適用できないか、現在生駒市で実証しているところです。萩の台住宅自治会でアンケートを取り、MEGURU STATIONが設置されている地域で要介護、要支援の新規認定者数が有意に削減できると言えるかどうか、千葉大学と共同研究中です。変化とコスト削減度合いを評価して、エビデンスとして事業で使えることを目指しています。日本で実現した地域は、まだありません」

地域住民主体でのステーション運営にも改善の余地があると、宮原さんは言います。

「生駒市は京都や大阪に通勤する人たちのベッドタウンで、新型コロナウイルスの影響で多くの企業でリモートワークになったことで、こうした企業で働く人たちが生駒市内にとどまるようになっています。萩の台住宅自治会館にはWi-Fiも設置されているため、将来的には自治会館で仕事ができるということも考えられます」

せっかくのワークスタイルの変化を、地域での暮らしを良くするための活動に活かすには何が必要なのだろうか――。MEGURU STATIONは、これからの時代の企業の組織文化のありようや私たちの働き方に対しても、大きな問いを投げかけています。

地域のとまり木のような場所をどのように育てていくか――

企業のパーパスと社会課題解決アイデアとを橋渡しする

循環型社会の実現に向けて、アミタは行政との連携とともに、資源循環を進める上でもう一つの大きなプレーヤーである企業との連携も深めています。それが、北九州市を拠点に2020年2月に設立した「九州サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(通称K-CEP)」です。日用品やエネルギー、IT企業など23社(2021年9月現在)が加盟しており、アミタはNECソリューションイノベータとともに事務局を務めています。

「資源循環ビジネスは1社では限界があり、業界の垣根を超え、勉強会や意見交換を超えた事業化を目指して一歩踏み出した」という宮原さんの言葉通り、2021年7月からK-CEP加盟の日用品メーカー10社によるプラスチック容器包装の水平リサイクル実証実験を始めました。北九州市内のスーパーマーケットや市民センターに無人の回収ボックスを設置、回収したものを容器から容器へリサイクルできるように研究開発を進めています。する水平リサイクルを実施。拡大生産責任として消費者に再び届けるために必要となる、リサイクルについての情報共有やコスト試算などを行う予定です。

MEGURU BOXと設置場所のスーパー店頭の様子

企業が主体となって進む今回の実証実験でも、南三陸町や生駒市で実施したMEGURU STATIONと同じように、住民に還元されたポイントは北九州市内の暮らしの向上につながる取り組みを行う団体に寄付できる仕組みをしっかりと組み込みました。そこには、アミタの存在価値とも言える考え方が刻み込まれています。

MEGURU BOXに持ち込めば持ち込むほど、地元の社会支援団体を応援できる「ご縁の寄付」がめぐるようにした

「参加各社はSDGsにもつながる取り組みとして、他の地域でも水平リサイクルの実証実験を進めています。しかし、水平リサイクルに取り組むだけで本当にいいのでしょうか。資源循環したその先に何が待っているのかという部分からしっかりと議論していきたいです。サーキュラーエコノミーを進めることで、その先の人々の暮らしをどのようにしたいか、どのようにあるべきなのか――。参加各社のパーパス(目的)と社会課題解決アイデアとを紐づけし、橋渡しをする。これこそが、アミタがやるべきことだと考えています」

共創プラットフォームでエコシステム社会を作る

K-CEPは、プラスチックの削減とリサイクルの推進を目指して施行されたプラスチック新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)の動きも見据えながら、プラ容器回収だけでなくリデュースやリユース、リフィルなどサーキュラー文化とでも言うべき循環のあり方のスタンダードを作り上げていくことを目指しています。

さらに、10月にはK-CEPを発展的に展開する形で「ジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(J-CEP)」を設立、より多くの企業の参画を呼びかけていきます。J-CEPの下で、北九州市などMEGURU STATIONやMEGURU BOXを起点とした全国各地のコミュニティ回収プロジェクトも運営されることになり、11月からは100万人都市での初の実施となる神戸市での拠点回収の実証も動き出します。

「J-CEPでは、主体性をもった企業が集まっているので、これからも様々なプロジェクトを立ち上げていきたいと考えています。共創のプラットフォームとして、1社ではできないことをやりやすい場にしたいですね」

J-CEPが目指す共創プラットフォームというあり方は、アミタが目指す企業としてのあり方とも重なり合います。

「私たちは、自治体とともに暮らしのReデザインを、企業とともにサプライチェーンを最適化する産業のReデザインを行い、社会デザイン事業を展開してきました。この2つに統合的にアプローチするのがJ-CEPで、暮らしと産業を統合させたいと考えています。そうすることで環境と暮らしと経済が生態系のように統合した社会、エコシステム社会を作り上げたいです」

<インタビューを終えて>

環境と暮らしと経済が生態系のように統合したエコシステム社会――。これこそが、地域コミュニティを基盤にステークホルダーの共創を通じてサーキュラーエコノミーを推進する意義ではないかと改めて感じています。(編集部:木村麻紀)

【参考プレスリリース】
アミタ(株)含む6社が宮城県南三陸町で共同実施した、町内の一般ごみの100%資源化およびコミュニティの活性化を目指す「包括的資源循環の高度化実証実験」が終了
(2018年12月27日付プレスリリース)

奈良県生駒市の「日常の『ごみ出し』を活用した地域コミュニティ向上モデル事業」が終了
(2020年6月29日付プレスリリース)

K-CEP、7月9日より北九州市にて、使用済みプラスチック回収実証実験「MEGURU BOX(めぐるボックス)プロジェクト」を開始

(2021年7月8日付プレスリリース)

アミタ(株)、神戸市より「令和3年度 プラスチック資源の地域拠点回収モデル事業運営支援業務」を受託

(2021年9月2日付プレスリリース)