サーキュラーエコノミー実現の中で欠かせない事業の一つが、一度不要となったものを再び活用できる資源に生まれ変わらせるリサイクル事業である。環境省によると、そんな廃棄物処理や資源リサイクル業界は、約5000億円規模の横ばい市場である。一方、中古品等を再利用するリユース市場の規模は約2兆円と拡大している。今回、「リサイクル業界の市場規模を10倍にしたい」そんな想いを持つ企業を訪ねた。
その企業とは「サーキュラーエコノミー実現の推進」という理念を掲げるサイクラーズ株式会社(旧:東港金属株式会社)の事業会社の一つであるトライシクル株式会社(以下、トライシクル)だ。同社の取り組みについて、代表取締役の福田隆氏に伺った。
2018年5月に創業したトライシクルは、中古品の販売や加工などを手掛ける。同社設立の背景には、産業廃棄物を処理している親会社のサイクラーズ株式会社が引き受ける廃棄物のなかに、まだ使用できる状態のものが多いことにあった。まだ活用できる資源を再利用し、循環経済(サーキュラーエコノミー)を実現したいという想いでトライシクルで不用品リユースサービスを展開している。
「弊社の工場に廃棄物として運び込まれるもののなかで、まだ使えるものは少なくとも1割はあります。それらをリユースやリサイクルに回すだけで市場が大きくなると見込み、リユース品交換プラットフォームの『ReSACO(リサコ)』に取り組んでいます。」
企業で発生する廃棄物を引き取るプラットフォーム「ReSACO」
従来は企業が不要になったものを手放す際には、リサイクル業者への売却、産業廃棄物を取り扱う業者が引き取る、あるいは粗大ゴミに出す等が主な方法だった。しかし、それらの手続きに想像以上の時間や費用がかかり、複雑な法体系も相まって最良な判断をすることが難しく、選択肢がない中での対応をしていた企業が多かったのだという。
そこで、不用品を廃棄物として処分される前に最適な方法と価格で買い取り、リユースやリサイクル、(それらができないものは廃棄)の取引ができるサービス「ReSACO」が2019年2月から運用開始された。
ReSACOでは同社が長年培ってきたノウハウや流通網を活用し、不用品を無料で回収できるスキームを構築した。企業側は廃棄コストを抑えることができ、有料回収と変わらない高い信頼性を担保した回収サービスを実現している。
「大企業が一点一点写真を撮り、手続きをして不用品を出品するのは作業も膨大で難しいのではないかと、サービス開始当初に感じました。そこで、我々が不用品を引き取りに出向くサービスに注力する方針に決めました。」
不用品を処分する際の手続きに手間がかかるという課題から、ReSACOを使って不用品を引き取り、それらをリユースやリメイクし、買取先とのマッチングを専門とした。2020年は新型コロナウイルスの拡大により、2020年の10月から12月期は、対前年比で160%増、回収個数は2.5倍に伸びたのだという。
「私たちが多種多様な品目を買い取ることで、お客様は今までは『捨てる』しか選択肢がなかった不用品の廃棄コストを大幅に削減できます。また、多数の専門業者と国内外で連携しているため、買い取り後のマッチング先も豊富にあり、製品を廃棄することなく有効活用できる方法を創出しています。」
回収したものは、国内外で中古品としての販売やパーツ品としての再利用、あるいは資源リサイクルを親会社を通じてグループ会社で再資源化、そして再利用が不可能とみなされたものもグループ内での資源化に繋げる形で処理している。
製品を集めるダム機能を果たす「ReSACOリサイクルセンター」
近年、町中でリサイクルショップを見かけることが増えているが、日本の中古品業の弱みのひとつに、倉庫機能を持っていないことが挙げられると福田氏は話す。買い取りした品をストックしておく場所がない場合、すぐに売らなければいけない。
「実際はリユース品が売れるまで時間がかかります。そこで、我々はリサイクルセンターというダム機能を保有し、不用品を一拠点に集積させることで、大規模な製品の有効活用が可能になり、サーキュラーエコノミーの実現が可能になると考えています。」
実際に訪れると、23,000坪という広大な敷地の中に大きなステーションが5つ併設されていた。
太陽の光を通し、明るく開放的な印象があるリサイクルセンター内には、同社が回収した製品を仕分け、補完することでリユース、リペア、リメイク、アップサイクル、部品取り等、最善の選択をし、資源が持つ価値の最大化を図っている。
「傾向として、回収元は飲食店や理容室、オフィスが多くなっています。ここでは、現在はまだ市場が形成されていない中古家具や什器などを中心に扱っています。ブランド品はリサイクルショップでも売れますが、売れないものは中古品業者が廃棄物として持ってくるので、それらも有効活用するために一部修復させて再利用しています。」
リサイクルセンターでは、トライシクルの社員を中心にシンプルなリメイクも行っている。
「まだ実験段階ではありますが、色を一部塗り替えたり、布地を貼り直したりするだけで印象が変わるので、私たちは試行錯誤をしながらリメイクやアップサイクルして再度使ってもらえるよう、トライアンドエラーを実施しています。」
同社は一般家庭向けに期間限定の不定期即売会を実施し、これらの回収されたリユース品を一般消費者に買ってもらう場を提供しているのだという。
「製品を安い価格で購入したい人に向けた受け皿があまりないと私たちは考えています。そのため、現段階では、売れるかわからない製品も受け取り、販売してみることでニーズがあるかを見極めています。弊社の場合はニーズが無く売れなかった場合でも、自社で一気通貫して処理が可能なため、余分なコストをかけずに製品を扱うことができます。だからこそ、無駄を発生させずに循環を実現できています。」
テクノロジーを活用し、新しい再循環の構築を目指す
ReSACOのようなテクノロジーを使うことで、サーキュラーエコノミーを実現させる世の中を作ることが、このサービスの目指す社会だと福田氏は話す。
「今は資源の半鎖国時代です。中国が廃棄物を輸入しない規制を作ったことから再利用の動きが広まってきました。それらの国の動きもあり、数年前から言われている3R(リユース、リデュース、リサイクル)だけではなく、シェアリングエコノミーなどといった様々な手段を使って資源循環させることが求められています。そして、テクノロジー無くしてはサーキュラーエコノミーを実現することはできません。」
また、『環境に良いから』というフレーズで人へ行動を変えるよう促すよりも、人々の生活のなかで発生するニーズに直結するソリューションを提供すべきだと福田氏は強調した。
「欧米の若者が作った不用品をマッチングするウェブプラットフォームが話題になったことがありました。この事例からも見て取れるように、弊社のリサイクル事業も生活に密着したシェアリングエコノミー業界やサーキュラーエコノミーとの親和性が高いと感じており、我々の強みが活かせる領域として今後も力を入れていかなければならないと考えています。」
編集後記
今は動脈産業や静脈産業が一概に切り分けにくい時代となっている。例えばサントリーが設立したアールプラスジャパンなど、製品を作る製造業側が製品の使用後にリサイクルする業界にも関与し始めている。
「廃棄物処理をしていた業界も、処理をするという視点から、より高品質な再生材からできたプロダクトを作る方法を考えるようになり、動脈・静脈産業関係なく取り組まれる潮流になっています。」と福田氏も話す。
このように、従来は分断されてきた業界ごとの役割は、業界の持つ独自の視点や技術を活用して、資源の価値を保ったまま循環させていく姿勢がサーキュラーエコノミーを実現する上で重要なのではないだろうか。