エシカルファッションのグローバル市場規模は、2023年の81.7億ドルから2024年には88.3億ドルに拡大し、年平均成長率8.0%となっている。要因には、新興市場の成長、外国直接投資の増加、持続可能なファッションに対する顧客の関心の高まりがある。2028年には市場はさらに成長し、120.5億ドル規模に達すると見込まれる。

同期間の業界の主なトレンドとして、顧客に対して魅力的で具体的なストーリーを提供すること、廃棄物を減らし環境負荷を最小限に抑えるためにリサイクルやアップサイクルを取り入れること、天然素材の使用を検討することなどが挙げられる。ヴィーガンファッションへの投資やパートナーシップ、協業の拡大なども注目すべきトレンドである。(The Business Research Company「Global Ethical Fashion Market Size 2024, Forecast To 2033」より)

国内でもこのような動きが急ピッチで進んでいるのはよく知られているところだ。

CRAFSTOは、ヴィーガンレザーやアップサイクル素材を使用した、バッグや財布、衣類などのアパレル製品の企画生産販売をD2Cで行うブランドである。シンプルな日常着で、年齢・国籍・性別を超えて長く愛されるベーシックかつモダンな製品がラインナップの主軸となっている。

同ブランドを運営するヘリテッジ株式会社 代表取締役 久保 順也さんに、同社がCRAFSTOを通じて解決したいと考える社会課題、今後目指していく事業の展開についてお話を伺った。(以下は久保さんのコメント)

久保 順也 さん:ヘリテッジ株式会社 代表取締役

大手VCのジャフコを経て2011年に革鞄メーカーの株式会社ヘルツに入社。2014年の取締役に就任。M&A、資金調達、生産管理、EC、マーケティングなどの製造小売企業の経営管理を経験。フルオーダーブランドECの立ち上げを経てCRAFSTO(crafsto.jp)を創業

ヴィーガンレザー、アップサイクルレザーの採用

Q:CRAFSTOの製品で使われている素材には、どのような特徴がありますか

サボテン、アップル、バナナ、キノコなど植物由来の原料を使用したヴィーガンレザーや、廃材を利用したアップサイクルレザーでバッグや財布などの製品を作っています。他にも、皮革産業から発生する廃材を活用したアップサイクル製品も製造、販売しています。

アニマルレザーの製品については無償修理保証を行っており、それ以外の製品についても、有償での修理をお受けしています。店舗の資材や製品を梱包する袋には、サトウキビを原料としたバガス紙を採用するなど、製品以外の部分についても環境負荷を下げる配慮をしています。

アパレル製品から生まれる環境負荷の低減ができる職人を育てたい

Q:CRAFSTOを通じて解決していきたい社会課題は何でしょうか

アパレル製品から生み出される環境負荷を下げていくことが大前提にありますが、それができる職人を育てられるブランドを作りたいと考えています。若い世代の職人の育成が日本では遅れぎみであるという現状を見ると、10年後には通用しなくなるのではと懸念されます。職人の賃金が低かったり、ものづくりをしたいと希望する人達を受け入れる土壌がなかったりするなか、職人が高齢化してきています。

若い世代の中に、ものづくりを仕事にしたいと希望する人達は実はたくさんいます。彼らが、ものづくりを目指してメーカーに就職しても、実際にやっているのは販売の仕事であるなど、つくることを仕事にできていないケースが多いのです。アパレル工場の採用メディアや採用にかけられる予算がないという背景があると思います。

CRAFSTOでは、自社で職人を抱え、育て、技術を蓄積しています。ヴィーガンレザーやアップサイクルレザーを使った製品の製造事例は国内ではまだ少なかったので、この技術を高め、広めていきたいと考えています。

浅草橋本店に併設する工房では、自社の職人が修理を行う

環境負荷の低い製品を作ることと、製品の価格を抑えることの両立

Q:環境負荷を下げながら、製品を手の届きやすい価格帯に設定できている背景とは

小ロットで生産、或いは製品によっては受注生産を行い、在庫を持ち過ぎないようにしています。自社で作り手を抱えているので、製造原価が高くなっても売上原価も高くすることが可能で、粗利を確保できます。ロングテール商品や急激な在庫変動には自社工房で素早く対応し、定番商品などボリュームの大きなものは提携工場で大量生産するなど、製品に応じた機動的な生産が可能な体制をとっているため、多品種を適正在庫を維持しながら生産・販売することができ、創業以来高い100%近いプロパー消化率を保っています。(*)

(*)アパレル業界では一般的に、商品を定価で販売できるのは全体の30~40%が平均であるとされる。残りの60~70%は、商品鮮度が維持できる期間内に定価で販売できず、値下げして販売される場合が多い。プロパー消化率(製品を定価で販売できた金額の割合)が高いほど企業は利益を得られる。

100%近いプロパー消化率を維持するビジネスモデル(図:ヘリテッジ)

また、CRAFSTOの製品はシンプル、ベーシックなデザインが主流であり、トレンドに左右されない定番スタイルの製品を安定的に作っているため、シーズンによるリスクを減らすことにもつながります。

製品によっては外部の工場で作る場合もありますが、デザインをする者が社内にいることにより、製造にかかるリードタイムを短縮できることも価格を抑えられている一因になっています。

内製化された生産体制による効率的な商品開発(図:ヘリテッジ)

環境に特に関心を持っていない顧客層に対しても、魅力的なブランド・製品であること

Q:環境にあまり関心のないお客様に対して、製品の魅力をどのように伝えていますか

お客様が服やバッグなどを購入される際に、素材から選ぶ方は多くないと思っています。デザイン、着心地、使い勝手、世界観などから選ばれるケースが多く、「環境対応をしています」というメッセージを前面に出していくことには無理があります。ハイブランドの製品価格が高騰しているこのご時世、かっこいい製品をこの価格で購入でき、飽きのこない定番のデザインであるがゆえに長く使えて、結果環境負荷も下がるという状態を目指せればよいと思っています。

店頭では、ヴィーガンレザーはアニマルレザーと比べて汚れが落としやすい、手入れがしやすいという扱いやすさをお客様に伝え、よい状態で長く使えることを理解して頂くような接客をしています。

サボテンレザー、アップルレザー、コーンレザーなどの素材で出来た製品が並ぶ店内

B to B向けのアップサイクルプラットフォームのような存在へ

Q:ヘリテッジ株式会社が目指す今後の展望を教えてください

CRAFSTOとしての製品の製造・販売のみでなく、BtoBの取り組みとして、企業向けに素材の開発・提供も行っています。一例として、国内の生地工場で発生した残反を活用した企業のノベルティTシャツの企画・製造があります。企業のノベルティというと、現状の慣習としてイベント開催のためにその日だけ着用されるTシャツになってしまう可能性もあるのですが、使用を終えたノベルティをリサイクルするなど、廃棄につながらないような解決策と共に提案しています。それにより、売って終わりという一度きりの関係ではなく、その企業との長期的な関係の構築にもつながり、協業して雑貨ブランドを立ち上げようという新たな機会も生まれています。製品のコンサルから始まり、販売のためのマーケティング施策を一緒に考えるような取り組みにもつながってきました。

ライフスタイル系の製品や自動車の内装の一部など、アパレル製品以外の分野にも、アップサイクル素材を提供していく計画もあります。

こういったアップサイクル製品は、本当に使われるものを目指されなければなりません。廃棄された素材が持つストーリーの価値を最大化できることはファッションの強みであると考えていますし、それができるブランドを目指しています。企業から与えられる廃材等のお題は難易度が高いのですが、我々はデザインから製造まで内製化できることが企画・製品化に向けた強みでもあります。こういった企業・工場由来の廃材を活用したアップサイクル事業を伸ばし、収益の半分を占めるくらいにまで成長させたいと考えています。

【CRAFSTO 公式サイト】https://crafsto.jp/
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