近年、インターネットの普及をきっかけに、生活必需品や嗜好品まで自宅からほしいものをネット上で気軽に購入できるECが急激に拡大している。国土交通省によると、令和元年度の宅配便取扱個数は、43億2349万個。2010年は32億1983万個、25億7400万個と急増していることがわかる。

EC利用と同時に増加してしまったのが、再配達問題だ。国土交通省は、2017年から再配達率の調査を実施しているが、17年10月時点の15%から2年間ほぼ変わらず横ばいで推移していた。そんななか、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い在宅率が高まり、20年4月の再配達率は8.5%へと大幅に低下した。しかし、緊急事態宣言が解除されると再配達率が再び増加に転じ、20年12月には再び11.4%に上った。年々宅配便取扱個数が増えていることを勘案すると、再配達問題の根本的解決には至っていないことがわかるだろう。宅配サービスの担い手であるドライバーや配達員不足や気候変動の観点からも、早急に対策を進めることが求められている。

この「再配達」がもたらす課題を解決しようと奮闘している企業がある。それが今回取材した、Yper(イーパー)株式会社だ。Yperは、荷物を指定した場所に置いてもらう、「置き配」という宅配方法で荷物を受け取ることができるサービスOKIPPAを展開している。

OKIPPAとは?

はじめに、OKIPPAの特徴をご紹介したい。

  • 畳むと手のひらサイズになる、軽量でコンパクトなバッグ
  • 玄関のドアノブなどにワイヤーで固定して吊るすことができる
  • 配送員は、ドアノブに吊り下げられたバッグを広げ、そのなかに荷物を入れて鍵で施錠
  • スマートフォンアプリと連動すると、荷物が到着した時にスマホへ通知が届く
  • 非対面で受け渡しが可能なため、受取人と配送員の双方にウイルス感染リスクが少ない
  • アプリユーザーには無料の盗難サポートが保障されている

このような多くのメリットがあり、さまざまな社会課題にもアプローチできるOKIPPAだが、今回、編集部は同社代表取締役の内山智晴さんに設立の想いや、OKIPPAを通じて目指す未来についてお話を伺った。

社会インフラを整えたい想いから設立

なぜ、OKIPPAというサービスを開発しようと思ったのか。まずOKIPPAというサービスにたどり着くまでの過程について伺った。

内山さんは、大学時代から環境政策で気候変動に適応したインフラ開発を研究し、そして環境系のNGOや国際機関でのインターンにて海外のインフラ開発に関わっていた。しかし、実際に社会を変革するインフラ開発をするためには、ビジネスの要素が重要になると思い、伊藤忠商事に就職し、航空機の販売及び改修、そして航空機装備品の国際開発案件に従事しつつ、ビジネスを学んだという。

株式会社YPER 代表取締役社長の内山智晴さん
Yper株式会社 代表取締役の内山智晴さん

「ビジネスを通じてインフラ開発をしたいと考えるようになり、当時米国のスタートアップが全世界にスピーディーにビジネスを展開している状況を見て、物理面だけでなく、ソフト面で生活基盤になるインフラのサービスにポテンシャルを感じました。」

自らが新しいことを始めるのであれば課題解決型のサービスを作っていきたいと考えた内山さん。そこで、学生時代から深く関わっていたインフラに改めて目を向け、国内に存在する課題を見つめ直した。

「海外から見ると、日本の配送システムのレベルは非常に高いのですが、宅配サービスを見ると再配達という深刻な社会課題がありました。そこで、その課題をスタートアップとしてスピーディーに解決したいと思いました。物流の市場は海外にもあるので、いずれは海外にも広げられる点も魅力に感じ、会社を立ち上げました。」

そう話す内山さんは、物流は単なる入り口に過ぎないと強調した。社会インフラを整備するためには物流だけではなく、様々な分野のインフラサービスを作っていきたいという思いを持つ。

そこで、内山さんは起業を決意し、最高なサービスを世の中に出したいという想いを込め、Creating HYper serviceから「Yper(イーパー)」という会社を設立した。

再配達による様々な「ムダ」を無くすOKIPPA(オキッパ)

当初は、街なかに自動販売機のように設置する宅配ボックスを検討していた。しかし、宅配ボックスは製造コストもかかり、日本には無料で再配達できるサービスが存在するため、お金を払ってまでロッカーに荷物を取りに行かないと考えた。ビジネスモデルを検討する過程で内山さん自身も実際に配送員として働き、配送員のニーズにも応えられるよう誕生したのが、アプリ連動型置き配サービスOKIPPAだ。

場所の「ムダ」を無くす

先述のとおり、OKIPPAは畳むとコンパクトなサイズになるバッグ型で、普段は玄関のドアノブなどにワイヤーで固定しておくだけでよいためスペースを取らない。

この「場所のムダをなくす」という観点について、内山さんはこう話す。

「日本の戸建ての玄関前は都市部になればなるほど狭く、宅配ボックスを置くほどのスペースがない家が多く存在します。しかも、調査によると、ネット通販を使うのは1か月に1回ほどで、多い人でも週に1回程度です。たまにしか届かない荷物を受け取るために玄関の狭いスペースに箱を置きたいとはなかなか思いませんよね。そのスペース分で自転車などを置きたいと思うので、宅配ボックスの優先順位が下がります。そこで、玄関に固定してぶら下げておくだけのOKIPPAであれば導入しやすいことが特徴の一つです。」

受け取る際の時間的「ストレス」を無くし、二酸化炭素排出量の削減に貢献

2020年1月~2月にYperとの実証実験で、大阪府八尾市の約700世帯がOKIPPAをモニター利用した。感想はどうだったのだろうか。

「荷物を受け取るために待つ必要がなくなったため、時間の縛りがなくなり、精神的に楽になったという意見がありました。また、八尾市ではOKIPPAを導入することで二酸化炭素排出量の削減に貢献できることを広報されていたため、再配達問題と二酸化炭素排出削減とのつながりを初めて認識したという声もありました。」

このように、便利さだけではなく、OKIPPAを利用することで利用者の環境に対する意識に変化があったのだという。

同実証実験では、OKIPPA導入により7割以上の再配達を削減できたという。再配達の割合は期間全体を通して平均12.57%と、全国平均の15%(国交省調べ)を下回った。

再配達率が70%も削減されたことを表すグラフ
出典:株式会社Yperプレスリリース(2020年3月26日リリース)

また、同社の試算によると、トラックからの排出二酸化炭素削減量に換算した場合約528kgとなり(※1)、スギの木約60本が1年間に吸収する二酸化炭素量に当たる(※2)。これを八尾市内全世帯が1年間OKIPPAを使用した場合で換算すると、再配達削減によって抑制できる二酸化炭素量は、スギの木約185,000本が1年間に吸収する量に相当するそうだ(※3)。OKIPPAは、地球温暖化の防止に大きく寄与するということが実証実験から明らかとなった。

配送員の負担を無くす

「また(八尾市の実証実験では)、配送員にとっても精神的負荷が少なくなり、配送効率が良くなったという意見もいただきました。OKIPPAの操作方法も手間がかからないため、結果として配送員の95%が普及を希望するというアンケート回答を得られました。」「また(八尾市の実証実験では)、配送員にとっても精神的負荷が少なくなり、配送効率が良くなったという意見もいただきました。OKIPPAの操作方法も手間がかからないため、結果として配送員の95%が普及を希望するというアンケート回答を得られました。」

OKIPPAによる再配達削減効果の期待や普及への期待を示すグラフ
出典:Yper株式会社 2020年5月20日リリース)

実際、日本では無料で再配達を頼むことができる。しかし、大手配送会社以外に属する配送員は再配達分にかかるガソリン代などのコストは、自腹で負担しなくてはならないという現状がある。そのため、希望する配送員にOKIPPAを普及してもらうというシステムもある。

OKIPPAは、使い方も簡単で軽量であるため、容易に持ち運ぶことができ、手渡しできる。配送員は販売するために自ら使い方を理解し説明してくれるだけでなく、メリットまで話してくれるのだという。配送員たちが担当地域の家庭にOKIPPAの利用を勧めると、必然的に配送効率が地域全体で上がることにもなる。

実際に公表されている再配達率が平均で10%台で推移するなか、OKIPPAの利用者はその数値よりも5~2ポイントずつ低く、効果が発揮されているのがわかる。さらには、新型コロナウイルス感染症対策として非対面配送のニーズが高まり、民間主導でも置き配の導入が加速している。

伊藤忠のRENU®️を使って、気軽におしゃれに循環型を目指す

そんな利用者にとって利点が多いOKIPPAだが、宅配ボックスの市場性が低いことに内山さんは頭を悩ませていた。

「宅配ボックス市場は非常に小さく、普及率は戸建てで2%、集合住宅で半数ほどしかありません。一方OKIPPAは、2019年度戸建て宅配ボックス市場の販売量の約4割を占めるまで普及させることができましたが、宅配ボックスとして年間20~30万個程度の小さな市場のままでは限界があると考え、市場を大きくするためのアイデアを考えていました。」

OKIPPAのバックという特性を活かし、宅配ボックスのずっしりした重量感のあるイメージを脱却すべく、もっと気軽に誰もが玄関前に吊り下げられ、玄関先のアクセサリーとして使ってもらう方法を考えた。

そこで、服を選ぶ時と似た感覚でOKIPPAもデザインを楽しめるような環境を作りたいと、新たなコラボレーションのアイデアに行き着いたのだ。それが前職の伊藤忠商事が扱っていたリサイクルポリエステル素材「RENU®️(レニュー)」だった。

RENU®️素材、OKIPPA製造の循環イメージ
RENU®️素材、OKIPPA製造の循環イメージ(Yper提供)

「デザイン性を追求するためにアパレルブランドと提携したいと考えていました。アパレルブランドとコラボレーションするためにどうすればいいか考えたところ、ポリエステル100%で作られているOKIPPAをリサイクルして再生し、循環する流れを作ることを着想しました。」

 

RENU®️は、伊藤忠商事が衣服の製造過程で出る残布を再生ポリエステルとして展開している。Yperは、RENU®️の導入により、衣料品廃棄というアパレル業界の課題に共同で取り組むことができるのではないかと考えたそう。RENU®️についての詳細は、こちらの記事をご覧いただきたい。

相模原市の色『みどり』をベースから―に、市の木『けやき』や、市の鳥『ひばり』などをイメージした相模原市オリジナルデザイン
相模原市の色『みどり』をベースカラーに、市の木『けやき』や、市の鳥『ひばり』などをイメージした相模原市オリジナルデザイン

おしゃれなデザインでユーザー利便性を向上させるのと同時に、その素材まで環境に配慮され、循環を目指している点では特筆すべきポイントだ。

再配達問題は配送会社だけでは解決できない

使いやすくて導入しやすいOKIPPAの特徴に触れてきたが、OKIPPAの導入だけでは再配達をゼロにすることはできない。この点について、内山さんはこう話す。

「再配達問題は、配送会社だけが原因であれば、解決しやすい問題だと思います。ただ、再配達が社会課題になっているのは、実際は不動産やECサイト、そして個人の事情が複雑に絡み合っているからなのです。再配達の問題を解決するには、より広範囲の業界やステークホルダーと共に解決策を模索する必要があります。」

再配達がなくなる効果的な方法は一つだけではない。例えば、インターネットで商品を購入する際に宅配の受け取り方を選べるようになることも望ましい方向性だと内山さんは話す。

「ECサイトがたくさんあるなか、置き配を実装している会社はまだあまり多くありません。現状、購入者は自分で置き配という受け取り方法を選ぶことができない状況ですが、受け取るタイミングや方法の選択肢を増やすことが理想的です。確かにシステムの改修が伴うので大変ですが、改修をする以上にメリットがあることを荷主さんへ伝え、変わってもらいたいと思っています。将来的には、購入者が毎回自分で置き配を選べるようになり、OKIPPAで受け取った購入者にはポイント還元できるような仕組みを作りたいと考えています。」

アパレル業界へのアプローチを

今後は、アパレル業界に積極的にアプローチしたいと内山さんは考える。

「今まで、アパレルブランドが積極的に再配達問題に取り組んだ事例はそれ程多くないと思います。アパレル企業が、製造工程で出る端材の再生ポリエステルで製造したオリジナルのOKIPPAバックを展開することによって、衣料廃棄物削減に貢献できます。それと同時に、OKIPPA利用を通じた再配達削減によって、物流における二酸化炭素排出削減にも貢献していることになります。

実店舗からネット販売にシフトしたアパレル企業が顧客体験を改善するなかで、顧客の商品受け取りの段階までもを視野にいれた環境負荷低減を設計することとなり、OKIPPAを使うことで顧客体験を向上させるアプローチができます。」

実際に、コロナの影響でネット販売が急増している多くのアパレル企業では販売時の配送効率化にはまだ手をつけられていないという反応をもらうそうだ。また、アパレルだけでなく、例えばペットボトル由来の再生ポリエステルを提供している飲料メーカーとも親和性が高いのではないだろうか。彼らはペットボトルの再利用にも取り組んでいるうえ、飲料水の配送は再配達となると配送員にも負荷がかかるだけでなく、荷物も重いため配送する環境負荷が大きい。廃ペットボトルを再利用するOKIPPAバッグのユーザーが増えれば、配送効率が上がり、現場の負荷が減る。

「こうしてEC利用率が高まるにつれ、物流のパッケージへのこだわりだけでなく、商品を届ける体験設計において、再配達を無くす取り組みをOKIPPAとのコラボで実現することができます。商品のライフサイクルによる環境負荷を意識する企業ほど、一緒に取り組む意義があるのではないでしょうか。」

意図せず「良い」と思った選択肢で、環境や社会に貢献できるプラットフォームを目指す

OKIPPAを通じて、社会課題の解決と同時に、環境配慮型サービスを提供することも意識している。先述したリサイクルポリエステルRENU®️採用のほか、バッグを3, 4年使っても壊れない設計にしている。万が一破損した場合はアプリで一報するだけで、無料で交換することができる。そして、役目を終えたOKIPPAは再生紙になり、OKIPPAの説明書や制作物として活用するといった、廃棄をなるべく減らす仕組みを作っている。

「OKIPPAはサステナブルな社会を作るためのプロダクトというよりは、生活のインフラの一部として使っていただくことで、自然と環境に貢献しているような仕組みにしたいと考えています。我々の想いに共感していただけるのであれば、ぜひ必要としている周りの人に勧めていただきたいと思います。

OKIPPAを通じて業務改善や顧客体験の向上が期待できるのと同時に、エシカルでサステナブルな社会を創る活動にもつながりますので、興味がある方と一緒に取り組めていけたら幸いです。」

OKIPPAの進化は続く。2020年12月2日には、消耗品としてではなく簡易宅配ボックスとして長く使い続けられる、置き配サブスク 「玄関前プラットフォームOKIPPA」をリリースした。無料盗難補償・永久交換保証を付帯したOKIPPAサービスの拡充を通じて、さらに利用者を増やしていきたい構えだ。

取材後記

人の意識を変えるのは簡単なことではない。ましてやサステナブルな文脈では特に関心の度合いは人それぞれで、課題があることを知っていても自分がどう取り組めばいいかわかりにくいところもある。無理に環境にいいからと行動を変えてみても、それが心地よいことでなければ継続することは難しい。

しかし、OKIPPAでは再配達の手間がなくなるという需要を満たす役割が先にあり、使うことで再配達を減らすことができる。それだけでなく、配送員にとっても負荷が減り、環境への負荷も減る、とてもエシカルでサステナブルな仕組みなのだ。今後とも、どのような企業とコラボレーションし、社会インフラを変えていくのか注目していきたい。

 

(※1)国土交通省「宅配の再配達の削減に向けた受取方法の多様化の促進等に関する検討会報告書」を参考に算出。
算出方程式: X個 x 0.58kg/個 x 25% x 1t x 808/1000000
(宅配物1個あたりの二酸化炭素排出量0.46864kg)×(削減した再配達個数1,126個)

(※2)
林野庁ホームページを参考に算出。(二酸化炭素排出削減量528kg)÷(スギの木1本が1年間に吸収する二酸化炭素量8.8kg)

(※3)実施期間4週間(28日)を1年間(365日)に変換。令和2年1月末時点での八尾市内全世帯数125,448世帯として算出。

【参照サイト】OKIPPAサービスページ
【参照記事】宅配バッグOKIPPA、大阪府八尾市と実施した実証実験で再配達7割削減に成功
【参照記事】宅配バッグOKIPPA 95%の配送員が「普及してほしい」と回答 非対面配送の実証実験で再配達7割削減
【参照記事】置き配バッグ™️OKIPPA専用アプリで予測。宅配便再配達率は再度上昇傾向に
【参照記事】Yper、再生素材RENUで置き配バッグOKIPPA製造開始。再配達削減とともに循環型経済に貢献
【参照記事】相模原市、再生ポリエステル素材を利用した置き配バッグOKIPPAを採択。一宮市も3000個無料配付
【参照記事】OKIPPAのLCA実施、利用20回でカーボンニュートラル達成。再生ポリ100%で環境負荷低減をさらに加速