米コロンビア大の研究グループは5月6日、し尿からアンモニアを抽出して肥料に変換すると同時に、し尿を無害化した形で処理システムに排出する技術をACS Sustainable Chemistry & Engineering 誌で発表した。循環型のし尿処理システムは、都市化に伴う人口増加や、下水処理システムの未整備地域での衛生インフラ構築による環境汚染を食い止めるものとして期待されている。本技術がそのカギとなるかもしれない。

疎水性微多孔膜によって低環境負荷でアンモニアを抽出

アンモニア抽出は21世紀における大きな挑戦として、日本も含め世界中で研究が進められている。約100年前に登場し今も主流となっているアンモニア抽出法「ハーバー・ボッシュ法」は、世界のエネルギー消費量の1-2%に相当する膨大なエネルギーを使うことが課題だといわれてきた。一方、コロンビア大のNgai Yin Yip准教授率いる研究グループが開発した今回の技術では、酸性の物質を集める等温MD装置によって、し尿中のアンモニアは疎水性微多孔膜を通って肥料となり、残ったし尿は無害化した形で下水システムに流せるとしている。


循環型し尿処理システム概要図(出典:Columbia University in the City of New York

同研究グループによると、本技術はハーバー・ボッシュ法の約5分の1のエネルギー使用で済むとともに、循環型でアンモニアを抽出できるため、アンモニアを肥料だけでなく家庭用や産業用のクリーナーとしても利用できる。

「現在、アンモニア生産は、高コストで製造・利用・廃棄をし、環境への負荷がかかっています。この持続不可能なリニア型アプローチの代わりに、窒素が回復・リサイクルされるサーキュラーエコノミーモデルへ移行するためにパラダイムシフトが必要だということは明らかです」とYip准教授は述べた。

さらにYip准教授は、システムの意義をこう強調する。「持続可能な形でし尿から窒素を抽出できることが示されました。人口が増加し、衛生への関心が高まっているなかで、現在のシステムを改良・修繕する方法ではなく、栄養素を回復させるための分散型し尿迂回装置の導入機会を提供することにつながります。結果として、汚水処理システムをさらに持続可能で効率的なものとするでしょう」2050年までに25億人もの都市人口が増えると考えられているが、衛生環境を良化させる抜本的対策に、分散型・循環型の処理システムが一役買うことを示した。

同研究グループは次の段階として、肥料に欠かせないもう一つの物質であるリンをし尿から抽出する技術の開発を目指している。今後の研究に注目したい。

【参照記事】Sustainable Recovery of Nutrients from Urine