一般財団法人電力中央研究所(以下、電力中央研究所)はこのほど、従来のセメントを使用したコンクリートに比べてCO2排出量を約70%削減できる次世代コンクリート「EeTAFCON(イータフコン)」を中川ヒューム管工業株式会社と一般財団法人石炭フロンティア機構と共同開発した。

セメントはインフラ構築に不可欠なコンクリートの主原料だが、製造過程においてCO2を多く排出するため低炭素なコンクリートの開発が求められている。そこで、電力中央研究所らはセメントを使用せずフライアッシュ(※1)や高炉スラグ微粉末(※2)などの産業副産物を原料とするCO2排出の少ないEeTAFCONを開発した。加えて、EeTAFCONをさまざまなプレキャスト製品(※3)として実用化することを目的として製品量産化技術を確立し、製品の実用性実験を実施して鉄筋コンクリート部材としての構造性能も確認したとしている。

電力中央研究所が発表した研究手法および成果の特長は、以下のとおりだ。

EeTAFCONの開発

EeTAFCONは、フライアッシュや高炉スラグ微粉末などの産業副産物をアルカリ水溶液と混ぜ、蒸気養生(※4)によって製造するコンクリートだ。産業副産物を1m3当たり500kg以上利用でき、副産物の有効利用にも貢献する。

(出典:一般財団法人電力中央研究所)

製品量産化技術の確立

工場におけるコンクリートミキサーや蒸気養生設備の仕様や大きさなどに合わせて研究室レベルで構築したEeTAFCON製造技術を最適化し、既設工場設備を活用した製品量産化技術を確立した。建築基準法が定めるコンクリート圧縮強度の最低基準である12N/mm2を大きく上回る、60N/mm2以上の強度が確保できたため、さまざまな構造物に利用できると判断した。

(出典:一般財団法人電力中央研究所)

製品の実用性実証

工場で製造したマンホールなどのプレキャスト製品を一般環境・寒冷環境・酸劣化環境(※5)に施工し、施工後の外観や強度の変化を2年間監視した。全施工箇所において、製品として十分な耐久性が認められた。特に酸劣化環境である下水道で、従来のセメントコンクリート製品に比べ高い耐久性が示された。

(出典:一般財団法人電力中央研究所)

鉄筋コンクリート部材としての構造性能の検証

研究グループは、実構造物の1/2~1/3程度の寸法の鉄筋コンクリート梁を約40体作製し、構造性能を試験検証した。同検証によって、EeTAFCONでつくる鉄筋コンクリート部材は曲げ強度・せん断強度(※6)がセメントを使用した従来の鉄筋コンクリート部材と同等で、構造部材として十分活用できることが証明された。

(出典:一般財団法人電力中央研究所)

同研究結果により、EeTAFCONの社会実装に向けて大きく前進できたと電力中央研究所はみている。同コンクリートの社会実装・普及は、低炭素社会や循環型社会の形成などSDGs達成に向けた重要課題の解決に貢献すると考えており、今後、耐久性や構造性能に関するデータを増やして現場への適用を進めていく予定だ。

建設業界はCO2排出量削減の取り組みを進めている。大成建設株式会社は工場の排気ガスなどから回収したCO2を使用したカーボンリサイクル・コンクリートを、東京ガス株式会社と鹿島建設株式会社は都市ガス機器利用時の排ガスを利用したCO2吸収型コンクリートを開発した。東京大学は、野菜や果物などの廃棄食材から建設材料として十分な強度を有する素材製造技術を開発している。CO2排出量削減に向けた技術開発が、これからますます推進されていくことが予想される。

※1 フライアッシュ:石炭火力発電所などにおいて、石炭燃焼によって副産される灰の一種。「資源の有効な利用の促進に関する法律」において、指定副産物として再資源化が求められている
※2 高炉スラグ微粉末:製鉄所において高炉での製銑過程で副産される高炉水砕スラグを微粉砕して製造される粉末。フライアッシュと同様に、「資源の有効な利用の促進に関する法律」において指定副産物として再資源化が求められている
※3 プレキャスト製品:建設現場ではなく、工場で事前に製造されたコンクリート製品。プレキャスト製品の利用により、建設現場での省力化や工期短縮・生産性の向上が図れる
※4 蒸気養生:高温の蒸気を充満させた空間でコンクリートを数時間養生し、早期に強度を生み出す方法。プレキャスト製品製造において脱型を早め生産効率を高めるため、従来から一般的に利用されている
※5 酸劣化環境:下水道内では細菌活動などに起因し硫酸が発生する。従来のセメントコンクリートは酸により変質・溶解しやすいため、下水道や酸性温泉地などの酸環境では劣化が問題となっている
※6 曲げ強度・せん断強度:破壊に至るまで変形能力に優れ、一般的に安定した破壊形態となる「曲げ破壊」が発生するときの強度を「曲げ強度」と呼ぶ。一方、小さな変形で急激に破壊する「せん断破壊」が発生するときの強度を「せん断強度」と呼ぶ

【プレスリリース】サステナブルな次世代コンクリート製品の量産化技術を確立―鉄筋コンクリート構造部材としての活用に期待―
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