伊NPOエネル財団、および伊シンクタンクのヨーロピアンハウス・アンブロセッティは9月5日、伊大手電力会社エネルやエネルXと共同で、欧州におけるサーキュラーエコノミーの影響に関するレポートを発表した。このレポートではイタリアとルーマニア、スペインに焦点を当てながら、欧州(27のEU加盟国と英国)における過去5年間のサーキュラーエコノミーの現状分析が行われた。

同レポート作成の背景は次のとおりである。欧州委員会は2020年3月、新循環型経済行動計画を採択した。しかし、サーキュラーエコノミーにおける欧州諸国の進展は一律でなく、多くの国で国家戦略が示されていない。そこで、欧州のサーキュラーエコノミーの現状評価を目的として、エネル財団とヨーロピアンハウス・アンブロセッティが同レポートを発表した。

分析にあたっては、欧州の経営層300人に自社内の循環型モデル構築に向けた行動を起こす必要性について質問した結果を補足として活用した。経営層の95%は、サーキュラーエコノミーは自社の戦略的選択において、多様化や市場拡大、コスト削減における競争上の優位性を得るためのツールであると回答した。しかし、経営層のほとんどが自国はサーキュラーエコノミー移行への準備ができていないと感じている。欧州のサーキュラーエコノミー発展を妨げる原因として最も多かった2つの回答は、価値創造に対する不確実性(回答の43.6%)とスキルの欠如(35.9%)であった。

一方、サーキュラーエコノミーへの移行は欧州に経済・社会・環境的なメリットをもたらすことが報告された。

経済においてサーキュラーエコノミーは2018年、欧州全体で3,000~3,800億ユーロ(約37兆8,000億円~47兆9,300億円)、イタリアで270〜290億ユーロ(約3兆4,000億円~3兆6,500億円)、ルーマニアで100〜120億ユーロ(約1兆2,600億円~1兆5,100億円)、スペインで330〜350億ユーロ(約4兆1,600億円~4兆4,100億円)のGDPをもたらした。

同じく2018年にサーキュラーエコノミーがもたらした投資額は、欧州全体で900〜1,100億ユーロ(約11兆3,500億円~13兆8,700億円)、イタリアで80〜90億ユーロ(約1兆円~1兆1,300億円)、ルーマニアで10〜20億ユーロ(約1,200億円~2,400億円)、スペインで90〜110億ユーロ(約1兆1,300億円 ~1兆3 ,800億円)であった。

さらに同年、サーキュラーエコノミーへの移行の過程で欧州全体で最大250万人、イタリアで約20万人、ルーマニアで2万人、スペインで35万人の雇用がもたらされた。

労働生産性においても大きなメリットがあることが明らかになった。労働生産性は欧州全体で従業員1人あたり年間570〜940ユーロ(約7万1,000円~11万8,000円)、イタリアで560〜590ユーロ(約7万1,000円~7万3,000円)、ルーマニアでは欧州最高額となる1,210〜1,270ユーロ(約15万2,000円~16万円)、 スペインで640〜670ユーロ(約8万円~8万4,000円)であった。

環境においては、バージン原材料である一次原材料から再生原材料である二次原材料への移行により、温室効果ガス排出量を大幅に削減できることもあわせて言及された。鉄とアルミニウム、亜鉛と鉛について、1kg製造する際に生じる温室効果ガス排出量を平均73.5%削減できる。また、エネルギー生産における再生可能資源の利用が1%増加すると、欧州全体で最大7,260万トン、イタリアで630万トンの温室効果ガス(ローマ市の年間温室効果ガス排出量の約50%)が削減される。ほかにも、再利用とリサイクルや、製品ライフサイクルの初期段階からのサーキュラーデザイン、将来のライフサイクルや有効寿命の延長、商品や製品の使用頻度の増加などが、環境の再生に寄与するものとして挙げられた。

しかしながら、サーキュラーエコノミーへの移行にはいくつか考慮すべき点があり、報告書では具体的な政策アクションを伴う以下の10項目が提案されている。

  • EU加盟国のサーキュラーエコノミー発展のための国家戦略を定義する
  • 全分野にわたる包括的な移行をサポートするために、サーキュラーエコノミーの管理を再定義する
  • 移行を促進するための法律を活用する
  • 非循環型ソリューションに関して競争条件を設定する
  • 研究開発とサーキュラーエコノミーの効果的な実践を促進するために金融を利用する
  • 明確な定義と一貫性のある包括的な指標が欠如しているため、対策を講じる
  • 廃棄物が発生するビジネスモデルを循環型モデルに変える
  • サーキュラーエコノミーへの移行によって影響を受けるすべての分野において、幅広い調整措置を講ずる
  • サーキュラーエコノミーを活用して都市と都市空間を再形成する
  • サーキュラーエコノミーの利点についての文化と認識を醸成する

サーキュラーエコノミーのメリットだけでなく、抱えている課題や解決策の提案も含まれた同レポートは今後、欧州だけでなく他の地域においても重要な指標となり、世界のサーキュラーエコノミー推進に貢献していくことだろう。

【プレスリリース】“CIRCULAR EUROPE” STUDY BY ENEL AND THE EUROPEAN HOUSE – AMBROSETTI. FOR THE FIRST TIME THE STATE OF THE ART OF CIRCULAR ECONOMY IN EUROPEAN COUNTRIES HAS BEEN MEASURED: THE TRANSITION TO A CIRCULAR ECONOMY WILL BRING ECONOMIC, SOCIAL AND ENVIRONMENTAL BENEFITS THROUGHOUT EUROPE