EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(以下、EYSC)は5月12日、環境省と共に、水資源の保全と持続可能な利用を目指す「ウォーターポジティブ」に関する報告資料「自然資本の経済的価値評価の活用可能性について - ウォーターポジティブに資する取組の価値 -」を取りまとめ、公表した。本資料は、自然資本の中でも特に水に焦点を当て、その経済的価値を可視化・定量化する試みとなる。
水の供給は、地域や企業の経営に不可欠な生態系サービスの一つだ。水は上流から下流へとつながるネットワーク性を持ち、地域の取水・排水状況や自然資本の整備状況が流域全体の水量・水質に直接影響を及ぼす。そのため、多様なステークホルダーが連携し、流域一体となって水資源の保全と持続可能な利用を推進することが求められている。近年、水の消費量よりも多くを供給するウォーターポジティブの重要性は浸透しつつあるものの、自治体や企業が一体となって取り組む上では、「適切な評価指標を設定できず、政策の意義を明確に示せない」「自社へのメリットが不明確」といった課題も多く、取り組み価値の可視化・定量化が重要視されていた。
本報告資料は、このような背景のもと、自然資本の中でもウォーターポジティブに特化して取組を定義し、その価値の可視化・定量化を行ったものだ。具体的には、ウォーターポジティブな取組を「森林の人為的な整備及び保全」「農地の確保、農地の生産条件の維持及び向上」「工場の排水浄化」など9つに細分化した。そして、取組ごとに発生する「企業にとっての価値」(原材料コストの削減など)と「社会的価値」(豊かな生活の基本資材の確保など)をロジックモデルによって網羅的に整理した。
さらに、栃木県那須野が原を対象としたケーススタディでは、ウォーターポジティブな取組を実施した場合に新たに発生する経済価値を年間最大約1,200億円+αと試算した。この評価には、森林保全による洪水防止効果(約275.6億円)、水質浄化による企業の対策コスト低減効果、生物多様性の維持(約132.1億円)などが含まれている。
本報告資料は、ウォーターポジティブな取組の価値評価を活用することで、地域主体のアライアンス発足などを通じて、地域・企業双方のウォーターポジティブのさらなる促進や価値向上につなげることができると結論付けている。
EYSC公共・社会インフラセクター ディレクターの長谷川啓一氏は、「経済・社会活動の基盤である自然資本への関心が高まる中で、特に水資源の重要性がクローズアップされています。日本は世界的にみると水資源には恵まれていますが、これを将来にわたり戦略的に維持・活用するため、今後は『ウォーターポジティブ』の考え方が不可欠です。水は共有財としての性格が強く、持続的な価値創造には地域全体での取組が求められます。官民一体となり、地域の重要な資本として水資源を守り育て、共に発展していく活動が広がることを期待しています」とコメントした。
【プレスリリース】EY Japan、水資源の保全・持続可能な利用(ウォーターポジティブ)に関する報告資料を環境省と取りまとめ
【報告書・要約版】「自然資本の経済的価値評価の活用可能性について - ウォーターポジティブに資する取組の価値 -」
【報告書・詳細版】「自然資本の経済的価値評価の活用可能性について - ウォーターポジティブに資する取組の価値 -」
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