金融庁は6月18日、「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」を公表した。今後の金融行政におけるサステナブルファイナンス(持続可能な社会を実現するための金融)の推進を目指して、同会議における議論の結果を提言としてとりまとめている。

サステナブルファイナンス(持続可能な社会を実現するための金融)の世界的な拡大を受け、世界のESG(環境・社会・企業統治)投資額の残高は3000兆円に上る。一方、日本政府は2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)、30年度までの温室効果ガスの排出量を13年度比46%削減する目標を打ち出している。これらの目標実現に向け、世界のESG投資資金を日本に呼び込み、成長資金が脱炭素の取組みに活用されるよう、金融機関や金融資本市場が適切に機能を発揮することが重要という機運が高まり、2020年12月、同庁にサステナブルファイナンス有識者会議が設置され、21年1月から8回にわたり検討を行った。会議でサステナビリティを巡る議論を進めるにあたっては、広く環境・社会課題を対象としたが、当面で最も喫緊・重要な課題である気候変動を中心に据えた。

報告書は①総論②企業開示の充実③市場機能の発揮④金融機関の投融資先支援とリスク管理の4章で構成。総論では「基本的視点」として「サステナブルファイナンスは、持続可能な経済社会システムを支えるインフラ」と定義。民間セクターが主体的に取り組むとともに、政策的にも推進すべきとして、「横断的論点」で「ESG要素を考慮することは、受託者責任を果たす上で望ましい対応。インパクトファイナンスの普及・実践に向け、多様なアイディアを実装していくことが望ましい。タクソノミーに関する国際的議論への参画、トランジション・ファイナンスの推進(分野別ロードマップの策定等)が重要」と、次章へ導入している。

ここで記載されているタクソノミーとは、サステナブルな経済活動を分類する基準のこと。これまで定義が曖昧だった「グリーン」や「サステナブル」といった概念に関して明確な基準を制度化するものだ。報告書は「環境改善効果が伴わないにもかかわらず、あたかも環境に配慮しているかのように見せかける、いわゆるグリーンウォッシュやSDGsウォッシュを防止し、真にサステナビリティ目標に資する資金フローを実現することを目的としている」と明記する。

タクソノミーを「サステナブルファイナンスを推進する政策ツールとして可能性を秘めたもの」としながら「有効性を確保するには、いくつかの課題が解決される必要がある。その基準は適切な科学的根拠を持って設定されなければならないが、その基準設定に伴うプロセスの中でそうした科学性をいかに担保するか」など、策定に関するいくつかの課題を指摘。そのうえで「EU等の動向を注視するとともに『サステナブル・ファイナンスに関する国際的な連携・協調を図るプラットフォーム(International Platform on Sustainable Finance:IPSF)』などでの国際的な議論に日本への影響等も考慮しながら適切に参画していくことが望まれる」と示唆した。

また、市場機能の発揮の項では「個人の投資機会」に言及。人気を集めているESG関連投資信託だが、「ESG関連投資信託の銘柄選定基準は、個々の運用会社や商品によって異なっている。例えば、資産運用会社や投資信託ごとに定められた独自のESG評価基準に基づき選定した後に、定量分析等により投資対象企業を決定する場合が多い一方、あくまでもESGを複数の評価基準の1つとして位置付けている場合もある。また、一般的に、ESGの取組みに対する評価方法や具体的なESGスコアの算出基準は、目論見書等の顧客向けの資料において説明されていないことが多い」と指摘する。

このため、ESG関連投資信託の組成や販売に当たっては「投資銘柄の選定基準も含めて丁寧に説明を行うとともに、その後の選定銘柄の状況についても可能な限り具体的な指標を用いて継続的に説明することが必要」と主張。特に「投資信託に『ESG』や『SDGs』等の名称をつける場合には、顧客がその名称の趣旨を誤認することのないよう、その商品が当該名称の示唆する特性をどのように満たしているかを可能な限り指標等も用いて明確に説明すべき」とした。

環境的・社会的インパクトの創出を当該商品の重要な特性とするものについても「『インパクト投資』等の名称を付ける場合には、当該インパクトをどのように実現していくかを、可能な限り指標等も用いて明確に説明すべき」と提言している。

【参照URL】金融庁『「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」の公表について』

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する金融投資メディア「HEDGE GUIDE」の「金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」を公表。ESG、SDGsの明確化にも提言」より転載された記事です。