農林水産省は5月12日、「みどりの食料システム戦略」を策定した。同戦略は、生産から消費までサプライチェーンの各段階において新たな技術体系の確立とイノベーションで、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を実現することを目指す。策定にあたって、同省は生産者・団体・企業など幅広い関係者と意見交換会を実施した。

同戦略策定の3つの背景と見解について、農林水産省は以下のように発表した。

  • 日本の食料・農林水産業が直面する持続可能性の課題:日本の食料・農林水産業は、大規模自然災害や地球温暖化、および生産者の減少などの生産基盤の脆弱化・地域コミュニティの衰退・新型コロナウイルスなどによる生産・消費の変化などの政策課題に直面している。今後の食料安定供給には、災害や温暖化に強く、生産者の減少やポストコロナも見据えた農林水産行政を推進していく必要がある
  • 今後重要性が増す地球環境問題とSDGsへの対応ESG投資市場の拡大に加え、EUの「農場から食卓戦略(2020年5月策定)」や米国の「農業イノベーションアジェンダ(2020年2月公表)」など諸外国が環境や健康に関する戦略を策定し、国際規則に反映させる動きが出てきた。今後、SDGsや環境を重視する国内外の動きが加速していくと見込まれる
  • 持続的な食料システム構築の必要性:日本が持続可能な食料供給システムを構築し、国内外を主導していくことが急務である

上記を踏まえて策定された同戦略の主な概要は下記である。【】内はEUと米国の目標数値

  • 2050年までに化学農薬使用量を50%削減
  • 2050年までに化学肥料の使用量を30%削減【EU:2030年までに20%削減】
  • 2050年までに耕地面積に占める有機農業の面積を25%に拡大【EU:2030年までに25%に拡大】
  • 2050年までに農林水産業をゼロエミッション化【米国:2050年までに農業部門のカーボンフットプリントをゼロに】
  • 2030年度までに事務系食品ロスを2000年度比で50%削減【EU:2030年までに一人当たりの食品廃棄物を50%削減、米国:2030年までに食品ロスと食品廃棄物を50%削減】
  • 2030年までに食品製造業の自動化などを進め、労働生産性を2018年度比で3割以上向上
  • 2040年までに高層木造技術を確立し、木材による炭素貯蔵を最大化
  • 2030年までに漁獲量を2010年の444万トン(2018年は331万トン)と同程度まで回復

目標達成への取り組みとして、同省は以下の4項目を挙げた。

  • 調達:資材・エネルギー調達における脱輸入・脱炭素化・環境負荷軽減の推進
  • 生産:イノベーションなどによる持続的生産体制の構築
  • 加工・流通:ムリ・ムダのない持続可能な加工・流通システムの確立
  • 消費:環境に配慮した持続可能な消費の拡大や食育の推進

これら4項目を循環させることにより、輸入から国内資源への転換・化石燃料からの脱却・持続的な地域の産業基盤構築などが期待され、最終的に雇用拡大・地域所得の向上・豊かな食生活の実現を目指すとしている。特に日本の食料自給率は諸外国と比較するとカロリーベースで38%と低い水準にあるため、同戦略による効果が望まれるところだ。他国のカロリーベースの食料自給率は以下である。カナダ255%、豪233%、米国131%、仏130%、独95%、英国68%(2017年の統計)。

2016年、日本における有機農業の面積の割合は0.2%であったが、同戦略で2050年までに25%と野心的な目標を定めている。有機農業の推進に関して、農林水産省は数年ほど前から新規参入・転換支援・販路拡大・理解増進支援などを進めているが、目標達成にはさらなる取り組みが必要となるだろう。農林水産省は、アジアモンスーン地域の持続可能な食料システムのモデルとして同戦略を打ちだし、2021年9月に予定されている国連食料システムサミットなどの国際規則の策定に参画する考えだ。

【プレスリリース】みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~
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