欧州委員会はこのほど、公平で健康な環境配慮型の食料システムを目指す「農場から食卓まで戦略(Farm to Fork Strategy)」を公表した。

「農場から食卓まで戦略」は、農家・企業・消費者・自然環境が一体となり、共に持続可能な食料システムを構築する戦略だ。同時に新たに発表された「生物多様性戦略2030(Biodiversity Strategy for 2030)」と同様、欧州グリーンディールの中核をなすものとして位置づけられる。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、当初発表が予定されていた3月から2ヶ月ほど遅れての発表となった。同戦略が取り組む主な領域は下記の通りだ。

  • 持続可能な食料生産
  • 持続可能な食品加工と食品流通
  • 持続可能な食料消費
  • 食品ロス発生抑止

さらに注目される目標も明記されている。以下はその例である。

  • 2030年までに殺虫剤の使用を50%削減
  • 2030年までに化学肥料の使用を少なくとも20%削減
  • 2030年までに畜産と水耕栽培で用いられる抗菌剤の使用を50%削減
  • 2030年までに農地の25%を有機農地に転換

その他、消費者への情報アクセスの強化を図るため、健康的で持続可能な食に関する情報を届ける環境を整える。商品ラベル表示の改善などを予定する。

欧州委上級副委員長 Frans Timmermans氏は同戦略の重要性をこう語る。

「新型コロナ危機により、私たちはどれほど脆弱であり、人間活動と自然のバランスを維持することが大切か気づかされました。欧州グリーンディール・生物多様性戦略・農場から食卓まで戦略の3つの戦略の中心には、より良い自然と食のシステム、生物多様性のバランスがあります。消費者の心身の健康を守り、同時にEUの競争力とレジリエンスを高めることを目的としています」

欧州保健衛生・食の安全総局(Health and Food safety)理事のStella Kyriakides氏は、加えてこう述べた。「EUはさらに一歩進んで、食料システムを持続可能なものにしていかなければなりません。農場から食卓まで戦略は、食の生産・購入・消費の方法に良い変化を与えることで、人・社会・環境により良い健康をもたらすでしょう。地球の健康を守りながら食の安全を保障する新しいシステムは、健康で公平、そして環境に配慮した食品を求めるという欧州の人々の需要を満たすと考えています」

同戦略自体は、同じく欧州グリーンディールの中核をなす欧州循環型経済行動計画との相乗効果を図るものだ。サーキュラーエコノミーの農畜産版といっても過言ではないが、特に有機性廃棄物を肥料としてリサイクルすることや有機農業を促進すること、食品包装への取り組み、食品ロス発生抑止などがサーキュラーエコノミー、特にサーキュラーバイオエコノミーに直接貢献するだろう。

新型コロナ危機により、同戦略の位置づけもレジリエンスな社会基盤を構築するという方向に変わってきた。同戦略に対するQ &Aサイトでは、新型コロナ危機は社会基盤を脆弱にさせる脅威のほんの一例だとし、干ばつ・洪水・森林火災など食料システムを脆弱にさせるものに対して、より持続可能なシステム構築を目指すべきであると明記している。

いずれにしても、同戦略は今後のEUの食全体の方向を導くことになる。同戦略と関連法案の動向を引き続き追っていく。

【参照レポート】農場から食卓まで戦略(Farm to Fork Strategy)
【参照レポート】EU生物多様性戦略2030
【参照サイト】Questions and Answers: Farm to Fork Strategy – building a healthy and fully sustainable food system