国立大学法人東北大学と住友商事株式会社は5月14日、二酸化炭素(CO2)とシリコン系産業廃棄物を原料とするカーボンリサイクル型炭化ケイ素(SiC)合成技術の共同開発を開始したと発表した。この取り組みは、CO2排出削減と廃棄物の再資源化を同時に実現し、次世代パワー半導体材料であるSiCの新たな製造プロセス確立を目指すものだ。
自動車や半導体分野では省エネルギー化が求められており、SiCは電気自動車(EV)や再生可能エネルギー機器の高効率化に貢献する次世代パワー半導体材料として需要が急速に拡大している。しかし、従来のSiC製造プロセスは高温加熱を伴うため、大量のエネルギー消費とCO2排出が課題であった。また、シリコンウエハ製造時に発生するシリコンスラッジの再利用も長年の課題だった。
今回の共同開発では、東北大学大学院工学研究科応用化学専攻の福島潤助教らの研究チームが有する先進的なカーボンリサイクル技術、特許、学術知見を活かし、反応条件の最適化や高純度化プロセスの検証を行う。一方、住友商事は、原料となるシリコンスラッジやCO2の安定調達ルートの調査研究、国内外の市場開発・販路構築を主導する。両者の強みを融合することで、早期の実用化と事業化を目指す。
本技術は、CO2を資源として有効活用する「カーボンリサイクル」と、シリコンスラッジという産業廃棄物の再資源化を同時に達成するソリューションとして期待される。これにより、環境負荷を低減した新しい材料製造モデルを提示し、SiCの高純度用途への展開も可能にする。
このプロジェクトは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発/研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業」(基礎研究エリア)として委託事業に採択された。今後、中国電力株式会社大崎発電所内にNEDOが整備したカーボンリサイクル実証研究拠点にて、実証試験が進められる予定だ。
プロジェクト期間は2025年4月から2028年3月までの約3年間を予定しており、この期間を通じて高純度化手法やスケールアップ技術などを確立し、カーボンリサイクル型SiC粉末の品質・コスト競争力・環境貢献度の向上を目指す。この成果は、環境配慮型新素材産業の創出、採用企業のグリーン調達、Si資源の有効活用、そしてSiCの国内製造による半導体資源の戦略的確保に貢献する見込みだ。
東北大学と住友商事は、本共同開発を通じて、2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けた高度なサーキュラーエコノミーの構築にも寄与することを目指す。この技術は、半導体業界のみならず幅広い産業への波及効果が見込まれ、SiCの一部国産化による国内サプライチェーンの強化や地政学的リスクの低減にも貢献すると考えられるとしている。
【プレスリリース】CO₂と廃棄物から生まれる次世代SiC 東北大学×住友商事がカーボンリサイクル型SiC合成技術を共同開発
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(※画像の出典:株式会社メニコン)
