ニュースや雑誌を見ればサステナビリティ、エコ、SDGsといった言葉が並び、今や目にしない日はない。気候危機が広く理解されるようになると同時に、環境意識を高く持つ消費者コンシャス・コンシューマーも急増。消費者側がブランドに対して、より緊迫感をもった行動を要求するきっかけとなるなど、企業の気候危機対策が加速する一員にもなっている。

実際に、サステナブルな取り組みを行うブランドの製品であれば多少金額が高くても購入したいと考える人は約8割にも上るというデータもあるほどだ。ブランドにとっては「サステナブル」な取り組みを続け、「サステナブル」なブランドであると伝えることによってより多くの人に自社製品を買ってもらうことができ、ブランド価値向上を図ることができる。

一方で、グリーンウォッシュであると指摘されるケースも増加している。

グリーンウォッシュとは、環境に配慮したイメージを連想させる「グリーン」と、ごまかしや上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語だ。一見、環境に配慮しているように見せかけて、実態はそうではなく、環境意識の高い消費者に誤解を与えるようなことを指す。

カナダのグリーンマーケティング・エージェンシーのTerrachoiceは、企業によるグリーンウォッシングが顕在化し始めた2010年に調査レポート「グリーンウォッシュの罪」を発表。グリーンウォッシュの特徴を7つの罪という言葉でセンセーショナルに表現した。この報告書によると、グリーンウォッシュは大きく分けて次の手法で行われる。

  • 隠れたトレードオフの罪:良い一点について主張するものの、他方でより大きな環境負荷が発生することに言及しない
  • 根拠を示さない罪:「サステナブル」「環境に良い」と言いながら十分な根拠を示さない
  • 曖昧さの罪:何がどれだけ良くなったのか具体的に示さない
  • 無関係の罪:製品や企業が引き起こす環境負荷とは関係のない事実を引き合いに出し、あたかもすごいことであるように伝える
  • 悪を比較するだけの罪:環境負荷を生み出す根源2つを比べ、まだマシだと主張する
  • 不正確の罪:不正確な情報に基づいてサステナブルだと主張する
  • 誤ったラベル崇拝の罪:ありもしない第三者機関からお墨付きをもらったように見せかける
imageTerrachoice社発表のレポート“The Seven Sins of Greenwashing”より

実際にこのような手法で展開される広告を目にしたことがある人も多いだろう。

例えばH&Mは2019年に「コンシャスコレクション」を発表し、オーガニックコットン・リサイクルポリエステルを使用した環境にやさしい持続可能なファッションだとするキャンペーンを世界で展開した。すると、ノルウェー消費者庁によってこれは「グリーンウォッシュである」と指摘を受け、違法であるという判断を受けてしまった。

imageImage via H&Mウェブサイト

コンシャスコレクションは、実際にどの製品のどの生地に何%リサイクル素材を使用したのかといった具体的な根拠が示されておらず、また、リサイクルポリエステルを使った環境に優しいTシャツを謳うもポリエステルTシャツは製造工程で約2万リットルと多量の水を使用することなどから、本当にサステナブルであると言ってよいのか疑問視する声が上がっていた。

ノルウェー消費者庁は、同社の情報開示は「不十分」であり、根拠を示さないまま販促のために環境に良いと広告するグリーンウォッシングにあたると指摘した。ノルウェーのマーケティングに係る現行法では、製品の主な品質に関する主張は、消費者が容易にアクセスでき、理解できるものでなければならないとされている。根拠なしに環境に良いと表現し、販促につなげる行為は違法に当たるのだ。

アイルランドの格安航空会社ライアンエアーは、2019年9月に公開された広告の中で自社こそがヨーロッパの大手航空会社の中で最も環境負荷が低いと主張した。イギリスにある広告基準局(Advertising Standards Authority)はこの広告の主張は誤解を招く恐れがあり、正当な裏付けがないと断定。さらに2020年2月この広告はグリーンウォッシュであることを理由に英国の監視委員会によって禁止処分を受けた。

imageRyanair ウェブサイトより(なお現時点ですでに同社ウェブサイトからは削除されている)

主張を裏付けるために利用されていたデータは2011年までのものであり2019年の現状に即していなかった点や、「ヨーロッパで最も」と主張するもののヨーロッパの大手エアライン複数社が比較対象に挙げられておらず、この主張の根拠となる情報が報告書から抜けていた点が理由だ。

近年飛行機による移動は環境に大きな負荷をかけることが広く知られるようになり、エアライン各社はなんとかして環境にやさしい取り組みをアピールしたい思惑があった。少しでも環境に配慮したブランドであることをアピールし、客足を伸ばしたかったライアンエアーだが、むしろ顧客の不信感を募らせ逆効果となってしまった。

この例からもわかるように、グリーンウォッシュを行うことでブランドも社会も大きく損失を受ける。現在のグリーンウォッシングが横行する状況から世界の消費者は疑心暗鬼になっており、5人に1人が「ブランドのサステナブルであるという主張を信用しない」と考えるほどである。実際にブランドとして環境負荷を減らし、自然を再生する取り組みを行っていたとしても、取り組みに関する情報発信を誤ると何もしないよりもネガティブなイメージがつきかねない。

さらに、消費者からの共感を裏切るだけでなく、投資資金の呼び込み失敗・優秀な従業員の維持・獲得も困難になる。企業として掲げるビジョン・ミッションは遠のき、気候危機への対策が遅れることで環境破壊・資源枯渇は加速する。

この原因は、これまで環境・社会に対する取り組みに関する情報発信における定義付けや法整備が追いついていなかったことにある。結果現在のような混乱を招いてしまっているといえる。世界の多くの国が最優先順位に位置づけ推し進める気候危機対策を取り巻く混乱が続けば、各方面への影響も当然避けられない。この混乱に歯止めをかけ、作為的であろうとそうでなかろうと、企業によるグリーンウォッシングを排除し、きちんと取り組む企業は活動を続けられるよう、ガイドラインを策定する動きがある。

イギリスの競争・市場庁(CMA)は今年9月20日、企業が消費者保護法を遵守すること支援するための「グリーン・クレーム・コード(グリーンな主張に係る規範)」を発表。この規範に従うことで消費者に誤解を与える可能性が低くなり、法律に違反する可能性も低くなるとしている。逆にこれらの原則に従わない場合企業にとっては訴訟リスクが高まることを意味する。これはイギリスの外に拠点を置く企業にとっても非常に参考になるだろう。このグリーン・クレーム・コードが定める規範は次のとおりだ。

  • 主張は真実かつ正確でなければならない。
  • 主張は明確で、曖昧であってはならない。
  • 主張は、重要な情報を省略したり隠したりしてはならない。
  • 比較は公正で意味のあるものでなければならない。
  • 主張は、製品またはサービスの全ライフサイクルを考慮しなければならない。
  • 主張は実証されなければならない。
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いくつかの国でガイドライン策定や法整備を進める動きもある。

前述の通り、「グリーンウォッシング」が次々と非難され、時に「違法である」といった判決を受けるといった流れを見ると、企業にとっては環境や社会に良い影響を与えるための取り組みや情報発信自体やめた方が良いのだろうか、といった考えが頭をよぎるかもしれない。

そんなあなたに伝えたいことがある。

「沈黙はグリーンウォッシュよりも危険である」

先日イギリス・グラスゴーで開催されたCOP26の場で、イケアグループ(インカ・ホールディングB.V. およびその管理下にある事業体)の社長兼CEOにジェスパー・ブロディーン氏が語った言葉だ。

ブロディーン氏は他企業に対し、情報を開示しないこと、未来図を示さないこと、そのための企業努力をしないことはブランドにとっても環境にとっても危険だと訴えたのだ。

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Image viaインカ・ホールディングB.V.のウェブサイト

ブランドにとって必要なのは、「グリーンである」と主張することでもグリーンウォッシュを恐れて歩みを止めることでもなく、正直に現在の環境負荷や目指す未来までの道のりを開示し、「何が正解であるかわからない」と認め、正解を探すために対話と協力を呼びかけるコミュニケーションを取っていくことのはずである。

※本記事は、ミテモ株式会社が運営する世界視点で課題を掘り下げるウェブメディア「Deeper」の「ブランドにとってグリーンウォッシュ以上の危機とは」より転載された記事を一部編集したものです。