Circular Economy Hubでは、サーキュラーエコノミーが各業界に及ぼす未来像を学ぶオンライン学習プログラム「Circular X(サーキュラーエックス)」シリーズを毎月開催している。

2024年11月は、「医療・ヘルスケア業界と循環は両立できる?サーキュラーデザインの可能性を探る」をテーマに設定した。

医療は、私たちができるだけ健康に生活していくうえで、そして生命をつないでいくうえで大変重要な役割を果たす。一方、現在および将来の主要産業の一つである医療・福祉業界は多くの廃棄物を排出するなど、さまざまな課題に直面している。

今回、医療機器リサイクル・リユース事業を通して資源循環促進を目指す東京エコリサイクル株式会社 医療機器ユニット 事業主管の伊藤陽一 氏と、医療材料の効率的使用やフードロス対策などの取り組みを通じて持続可能な社会への積極的参加を目指す社会医療法人柏葉会 常務理事・医学博士の小林浩之 氏が登壇した。

本記事では、イベントの概要をレポートする。

ゲストスピーカー

伊藤 陽一 氏:東京エコリサイクル株式会社 医療機器ユニット 事業主管

日立製作所の医療画像診断機器の会社でMRIのマーケティング部署に在籍。そこで、市場から回収した部材を製造の一部に還元するスキームつくりに関与し、2018年から日立系の家電リサイクルを主事業とする東京エコリサイクルに移り、新たに医療機器リサイクル事業を立ち上げ従事。動脈系企業と静脈系企業を知ることでサーキュラーエコノミーには強い関心を持っている。2019年には「令和元年度資源循環技術・システム表彰」で経済産業省大臣賞受賞。


小林浩之 氏:社会医療法人柏葉会 常務理事、医学博士

1993年北海道大学脳神経外科学教室入局、基幹病院等での勤務の後、2019年社会医療法人柏葉会 柏葉脳神経外科病院(札幌市豊平区)入職。最先端医療や働き方改革、介護事業、業界を超えたパートナーシップに取り組みつつ、環境問題、食品ロス解消などSDGsにも積極的なオールラウンダー。

 

 

イベント冒頭、Circular Economy Hub 編集部は医療業界の経済的・社会的状況について解説。現在日本では、医療・福祉業界は就業者数において主要産業の一つとなっており、少子化・高齢化に伴い今後ヘルスケア業界は市場拡大が予測される。一方、世界的なサプライチェーンの不安定化、医療従事者・材料の不足、大量の廃棄物の排出など、医療業界は多くの課題を抱えている。編集部は、ヘルスケア業界の環境負荷を紹介するとともに、世界で展開されている医療業界の循環の取り組み例として、英国政府が発表したMedTechの循環移行推進ロードマップ、サーキュラーデザイン採用に取り組むヘルステックの蘭フィリップス、欧州の病院での循環の取り組みなどを示した。

伊藤氏は、東京エコリサイクルの事業内容・医療機器のリサイクル・動静脈連携の必要性・医療ビジネスのサーキュラーエコノミー移行の必要性などについて説明。中古医療機器の国内循環に向けた課題を提示するとともに、医療機器の循環移行実現に向け、メーカーの協力会社の設立、動静脈一体を目指す静脈系企業業界団体の設立、効率の良い設計と市場回収、法的拘束力などの必要性を強調した。

小林氏は、医療現場の最前線である病院が使用する資源を実際の画像とともに提示し、医業収益による環境負荷軽減活動の支援として取り組むさまざまなカーボンオフセット事業を紹介。柏葉会は、寄付だけでなく医療材料の効率的使用やフードロス対策などの取り組みを通じて持続可能な社会への積極的参加を目指している。環境負荷に関する課題を病院運営の枠組みで解決することは困難としながらも、「社会医療法人として環境負荷に対する責任を果たしたい」という想いのもとで展開するユニークで画期的な取り組みを説明した。

編集後記

医療業界は衛生面への配慮が必須であることなどから、「医療の質の向上」と「環境負荷削減」の両立は難しい。しかし、医療・ヘルスケア業界の循環移行に向けて、多くの組織が世界で取り組みを展開している。

イベントの最後に、両氏はさまざまなステークホルダー(患者、患者の家族、従業員、取引先企業、同業他社、地域住民など)との協働によるサーキュラーデザインの可能性を示した。

本イベントは、患者を含む全ステークホルダーが医療・ヘルスケア業界の循環移行において取り組めることついて、新たな考えを呼び起こしてくれる機会となった。

本イベントの内容は、アーカイブ動画をこちらより購入・視聴可能。

【参照記事】【アーカイブ動画購入可能】医療・ヘルスケア業界と循環は両立できる?サーキュラーデザインの可能性を探る~オンラインイベントCircular X