「サーキュラーエコノミー」という言葉を国内でもよく聞くようになってきた。サーキュラーエコノミーは、「廃棄物という概念をなくす」ことで環境負荷を低減または環境を再生し、経済や社会を繁栄させていくための手段である。しかし、その理解は一筋縄ではいかない。これまでの認識を大きく変える必要があるからだ。では、具体的にどう認識を変えていけばいいのか。そんな問いについてじっくり考える機会があった。
今回レポートするリゾートカンファレンス「GREEN WORK HAKUBA」は、スキーリゾートで有名な長野県白馬村で、2020年9月14日から17日に開催された。サーキュラーエコノミーの分野で活動する講師から学び、ワークショップを通じて実践に生かすことが目的だ。美しい白馬村の自然に囲まれ、21社50名が参加。サーキュラーエコノミーと同時に、コロナ禍における働き方そのものを考えた。同カンファレンスの様子を、4回に分けて連載する。
実施概要
名称:GREEN WORK HAKUBA
公式ウェブサイト:http://www.vill.hakuba.nagano.jp/greenworkhakuba/index.html
期間:2020年9月14日(月)~17日(木)
場所:長野県白馬村
主催:白馬村観光局
プロジェクト事務局:株式会社新東通信/株式会社インフォバーン
参加者数:21社50名
GREEN WORK HAKUBA実施後動画(時間:1:49)
GREEN WORK HAKUBA ロゴ(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)
同レポートはGREEN WORK HAKUBAの報告だが、同時に全4回シリーズを通じて、サーキュラーエコノミーの全貌を明らかにすることを目的として構成している。サーキュラーエコノミーを学び始めた方にとっては基本を理解するためのものとして、ある程度理解を深めている方にとっては振り返り用としてご一読いただきたい。
連載全4回 目次
連載① サーキュラーエコノミーの概念編
連載② サーキュラーエコノミーの事例編
- 【国の事例】国際競争力強化のためのサーキュラーエコノミー
- 【企業事例】企業の取り組みも加速。スタートアップだけではない。グローバル企業も
- PaaSモデルとは?
- 日本が海外から学べることと、海外に発信できること
連載③ サーキュラーエコノミーの実践編
- サーキュラーエコノミーを切り口としたビジネスが生まれる。〜サーキュラーエコノミーデザインワークショップより〜
- 午前:サーキュラー・ストラテジー・ワークショップ
- 午後:サーキュラー・ジョイントベンチャー
- ビジョンとパッションでサーキュラーエコノミーに取り組む、参加者の事例発表
連載(最終回) 白馬村で考えたサーキュラーエコノミー
- 白馬村で考えたサーキュラーエコノミー
- サーキュラーエコノミーの目的を確認
- サーキュラーエコノミーのビジネス構築のための5つの要素
- サーキュラーエコノミーという切り口で新しいビジネスができる
- サーキュラーエコノミーを切り口とした「協働」
- レジリエンスと分散型を象徴する「白馬村」
- おわりに:「絵空事」から「実現可能なこと」へ
連載①では、サーキュラーエコノミーの基礎を学ぶ「サーキュラーエコノミーの概念編」をお届けする。
1. なぜ白馬村なのか?
GREEN WORK HAKUBAの開催場所となった長野県白馬村。なぜ、白馬村でサーキュラーエコノミーを考えるのか。まずは、白馬村の概要と課題を知るところからカンファレンスは始まった。今回の主催者である白馬村観光局事務局長の福島洋次郎氏は、次のように白馬村を紹介した。
「白馬村は、特に欧米のスキーヤーが憧れる国内有数のスキーリゾートとして知られています。これまで、冬に訪れる地として不動の地位を固めてきたのですが、実は海以外の川や山、湖が揃っていて、夏にも楽しめるマウンテンリゾートとしても適した場所なのです。
そのため近年は、『スキーリゾート』から『マウンテンリゾート』として、通年で楽しめるようにブランディングやマーケティングに注力しています。
しかし、自然が目の前にある白馬村だからこそ、少しの自然の異変が大きな変化をもたらします。その一つが雪不足問題です」
白馬村観光局事務局長 福島洋次郎 氏(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)
福島氏は2枚の写真を私たちに示した。1枚は2014年冬の写真。車が隠れるくらいに雪が積もっている。もう1枚の2016年冬の写真では、明らかに雪が少ない。白馬村では、2016年から雪不足が深刻化したという。
「山の雪が積もり、それがとけて湖に流れる自然のサイクルに明らかに異変が起こっていることが感じとられたのです。そこで、2019年12月4日に『白馬村気候非常事態宣言』が発出されました。実をいうと、この宣言は、白馬村の高校生によるグローバル気候マーチが一つのきっかけになったのです。未来の社会を担う高校生の一つの意思表示に対して、行政側が動いたということです」と白馬村の動向を紹介。
さらに福島氏は、白馬村で同カンファレンスを開催する理由について、「白馬村は9,000人弱の人口ですが、村外の方々とも白馬村の課題を一緒に考えていきたいということが、白馬村で開催する理由の一つです」と説明した。
さらに、プロジェクト事務局の株式会社新東通信 クリエイティブ本部 ソーシャルデザインユニット長 榎本裕次氏からも、「気候変動が深刻化するなか、(その影響を受ける)白馬村でサーキュラーエコノミーを考えることに意義がある」と付け加えられた。
そして、もう一つ、このカンファレンスには目的がある。「新しい働き方」である。コロナ禍の今、リモートワークやワーケーションというキーワードが飛び交うが、白馬村はまさにこれらにうってつけの場所なのである。
気候変動の影響を直接受ける白馬村の課題と、コロナ禍での新しい働き方。この2つをサーキュラーエコノミーの視点で考える機会にしよう、というのが今回の主旨だ。
ワークショップ会場 (提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)
2. サーキュラーエコノミーの全体像
今回のテーマであるサーキュラーエコノミーとは何か。日本でもこの言葉が浸透され始めているなか、何を目的としているのかを理解することは、ビジネス構築や施策立案を行ううえで非常に重要だ。
その全体像をのべ1日かけて、アムステルダム在住で Circular Initiative & Partners 代表の安居昭博氏と一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン代表理事の中石和良氏より共有された。まずは、その内容を紹介する。
サーキュラーエコノミーがなぜ求められているのか
今、サーキュラーエコノミーがなぜ求められているのか。その背景について安居氏は、人口増加による資源過剰採掘・利用による環境悪化を挙げた。
「産業革命期(1750年)の人口は7億人、2020年は約77億人。2100年には100億人近くになるといわれています。現在の人口が当時の10倍以上に膨れ上がった結果、資源枯渇や環境悪化が私たちに負の影響を与えます。循環の仕組みを通じて資源を積極的に活用していくことが、経済・社会・環境に有益であるとされます」
中石氏も、人口爆発や廃棄物排出量の増加(現在の20億トンから2050年の34億トンへ)や、世界の中間層の拡大などにより、「このままのシナリオだと、2050年に今の暮らしができなくなるといわれています」と、同じように警鐘を鳴らす。
両氏が口を揃えるのは、現代の経済が持続不可能であるということだ。そこで、2050年以降も見据えた形で、持続不可能から可能へと転換させる手段としてのサーキュラーエコノミーが求められている。
Circular Initiative & Partners 代表の安居昭博 氏
サーキュラーエコノミーとは何か?
環境悪化によって、持続可能なモデルが模索されるなか、欧州主導で構築されたサーキュラーエコノミーが日本でも注目を浴びる。では、サーキュラーエコノミーの目的とは何か。安居氏や中石氏は、「廃棄物という概念をなくすこと」「経済成長と環境負荷の分離を図ること」だと強調した。
廃棄物という概念をなくす ーリニアエコノミー・リサイクリングエコノミー・サーキュラーエコノミーの違い
地球上の資源を取って、作って、使って、捨てるのが従来型のリニアエコノミー。サーキュラーエコノミーは、捨てるというフェーズがない。すなわち廃棄物という概念をなくすということだ。そのため、設計や仕組みづくりの段階から、廃棄物を資源として捉える。そのうえで、経済的利益も確保する。
廃棄物の概念をなくすには、あらかじめ設計や仕組み構築の段階から取り組まなければならない。これが日本がトップランナーとして走ってきた、廃棄物を前提とした3Rを推進するリサイクリングエコノミーとの大きな違いだ。
出典:「From a linear to a circular economy」(オランダ政府公式ウェブサイト)リニアエコノミー・リサイクリングエコノミー・サーキュラーエコノミーの違いを表した図
中石氏は、「サーキュラーエコノミーは、リニアエコノミーやリサイクリングエコノミーの延長線上にはありません。これが、3Rで先頭を走ってきた日本で誤解が生じやすい点なのです。廃棄物から何かをつくるという発想ではなく、廃棄物という概念をなくすという、大きなシステム変更が要求されます。従来型のリサイクリングエコノミーの延長線上として推進していくと、間違った取り組みにもなりかねません」と語気を強めた。
一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン 代表理事 中石和良氏
経済成長と環境負荷の分離
出典:国連環境計画:Decoupling Natural Resource Use and Environmental Impacts from Economic Growth
(上図のように、)サーキュラーエコノミーでは、経済成長と環境負荷を「分離」させることが重要であると安居氏は説く。具体的には、「新しい資源の使用量を抑えていくこと」と説明する。
中石氏も加えて、「環境影響をマイナスにする、つまり環境を再生していかなければ間に合わない」と強調した。さらに、中石氏は「持続可能性目標とサーキュラーエコノミーの関係」図(下図)を示し、SDGsやパリ協定など、持続可能な地球・社会経済を形成する手段として、サーキュラーエコノミーが存在すると明言した。
「持続可能性目標とサーキュラーエコノミーの関係」(出典:中石和良氏作成資料)
さらに、サーキュラーエコノミーは経済成長と環境負荷の分離にアプローチしながら、雇用創出や公正な労働などの「社会」的側面にも取り組んでいく。中石氏は、経済・環境・社会にアプローチするサーキュラーエコノミーへの転換を「資本主義の歴史における最大の革命」と表現した。
エレン・マッカーサー財団「サーキュラーエコノミー3原則」と「バタフライダイアグラム」/アクセンチュアによる5つのビジネスモデル
安居氏と中石氏より紹介されたエレン・マッカーサー財団の「サーキュラーエコノミー3原則」と「バタフライダイアグラム」は、サーキュラーエコノミーの根幹をなす概念である。
サーキュラーエコノミー3原則(エレン・マッカーサー財団)
エレン・マッカーサー財団が提唱するサーキュラーエコノミー3原則は下記の通りだ。
Design out waste and pollution(廃棄物と汚染があらかじめ出ないように設計する)
「廃棄物が出てから対処する」という視点は、「design from waste(廃棄物から設計する)」ことになってしまい、従来型の取り組みとなる。一方、「design out waste(廃棄物があらかじめ出ないように設計する)」は、廃棄物や汚染という概念をなくすために、設計段階からアプローチする。
Keep products and materials in use(製品と原材料を使い続ける)
製品と原材料を使い続ける。製品や原材料は資源だけではなく、資源採掘に要したエネルギーや労働力なども含まれているため、使い続けることがこれらを維持するために重要となる。
ここでのもう一つのポイントは、製品だけではなく「原材料」という言葉が入っていることである。製品としてそのまま、あるいは形が変わっても使い続けることが優先されるが、その後は分解や溶解を通じて原材料にまで戻しても再び使うことが重要だということである。
Regenerate natural systems(自然の仕組みを再生する)
サーキュラーエコノミーを最も特徴づけるのが同原則である。同時に、理解やアプローチが難しい分野としても知られる。これは、廃棄物を「栄養」として、周りにポジティブな影響を与えていくものだ。主に農業分野で取り組みが先行するが、例えば生物多様性を利用して土壌回復を図ることや、アグロフォレストリー(森林農法)などを通じて自然を豊かにしていくことなどが事例として挙げられる。中石氏は、有力なグローバル企業はすでにここに踏み込んでいると分析する。
会場から見える景色
バタフライダイアグラム (エレン・マッカーサー財団)
エレン・マッカーサー財団「システムダイアグラム(通称 バタフライダイアグラム )」を筆者が和訳
次にバタフライダイアグラム。正式には「システムダイアグラム」と呼ばれ、サーキュラーエコノミーを表す概念図としてよく使われる。その蝶のような形から別名「バタフライダイアグラム 」として知られる。建築家ウィリアム・マクダナー氏と化学者マイケル・ブラウンガート氏が提唱した「ゆりかごからゆりかご(Cradle to Cradle)」の考え方に最も影響を受けた。バタフライダイアグラムのポイントは下記3点だ。
- 技術資源と生物資源を混ぜない
木材・綿・食料など自然界に還された際に分解・再生する性質を「生物資源」、そのまま自然界に戻すと環境に悪影響を及ぼす枯渇性資源(鉄・プラスチック・化学物質など)を技術資源とここでは呼ぶ。生物資源のサイクルを「生物サイクル」、技術資源のサイクルを「技術サイクル」とする。これらを混ぜてサイクルを回してしまうと、焼却か埋め立てになることが多い(例えば、アルミと繊維を混ぜてしまう、家具と化学接着剤を混ぜてしまう、など)*近年は、両資源の分離技術が確立しつつある分野もあることに留意する必要がある。 - 小さい円が優先順位
小さい円が優先される。回収よりも再利用、再利用よりも長寿命化など、小さいサイクルを回す方がエネルギーや資源を維持でき、環境負荷を抑えられるからだ。リサイクルやエネルギー回復は最終手段として位置づけられる。 - キャッシュポイントの創出
バタフライダイアグラムには直接描かれていないが、1、2のポイントを踏まえたうえでキャッシュポイントを生み出し、システムを持続可能にしなければならない。修理から課金、シェアリングエコノミーの手数料、サブスクリプションの継続的課金、循環型原材料の利用によるコスト低減など、すでに多くのものが生み出されている。
なお、バタフライダイアグラムについては、こちらでも詳しく解説している。
2020年7月にオープンしたスノーピーク LAND STATION HAKUBA。今回の懇親会場ともなった。
アクセンチュアの5つのサーキュラービジネスモデル
戦略コンサルティングファームのアクセンチュアが出版した書籍「Waste to Wealth(無駄を富に変える)」のなかで、サーキュラーエコノミー型のビジネスモデルが下記5つに分類されている。
- 循環型原材料・素材供給:循環型原材料を利用してバージン素材の利用低減を通じて、調達コスト削減や安定調達を実現する
- シェアリング・プラットフォーム:遊休資産を共有し、有効活用することで、需要に応える
- サービスとしての製品(PaaS):製品を所有せず利用に応じて料金を支払うビジネスモデル
- 製品寿命の延長:修理やアップグレード、再販による利用可能な製品を有効活用
- 回収とリサイクル:廃棄予定の設備や製品を(分別)回収する。それを再利用やリサイクルによって生産・廃棄コストを削減する
上記5つのビジネスモデルは、製品ライフサイクルの各ステージにアプローチするもので、例えば、単なるシェアリングエコノミーの採用のみが、必ずしも全体としてサーキュラーエコノミーに直結することにはならない中石氏は話す。大切なことは、すでに述べてきたサーキュラーエコノミーの概念や原則を適用し、全体を俯瞰しながら、これらのビジネスモデルを手段として採用していくことである。
この点は非常に重要な点である。というのは、ある一つのビジネスモデルを採用したからといって、サーキュラーエコノミーが目指す「廃棄物や汚染をなくす」こととは遠ざかるかもしれない。全体の相互関係に留意するシステム的思考で考えていく必要がある。
また、製品ライフサイクルの全てのステージに取り組むことになるため、業界を超えた水平統合・融合(業界内・サプライチェーン内の協働)が必要だということも、あわせて強調された。
最後に中石氏は、上記5つのビジネスモデルに加えて、「サーキュラーデザイン」が6つ目の戦略として取られるべきであるとした(サーキュラーデザインの例は中石氏が引用したLayla Acaroglu氏の図を参照)
Layla Acaroglu (2020) “Quick Guide to Sustainable Design Strategies”
このように、サーキュラー型の取り組みをする場合には、まずは目的を把握したうえで個々のビジネスモデルに取り組むという流れが重要だ。
3. 連載②「サーキュラーエコノミーの事例編」へ
以上、連載①ではサーキュラーエコノミーの概念について考えた。概念を理解したところで、実践に向けて国内外の先行事例を知る必要がある。連載②では、「サーキュラーエコノミーの事例編」をお届けする。
【関連記事】Circular Economy Hub Learning #3 (動画「Dame Ellen MacArthur: food, health and the circular economy」よりバタフライダイアグラムの解説)
【関連記事】サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデル・戦略「循環型原材料の利用」とは?
【関連記事】サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデル「PaaS(製品のサービス化)」とは?
【参照】GREEN WORK HAKUBA
【参照レポート】What a Waste 2.0 : A Global Snapshot of Solid Waste Management to 2050(World Bank Group)
【参照】From a linear to a circular economy (Government of the Netherlands0
【参照】Decoupling Natural Resource Use and Environmental Impacts from Economic Growth (UNEP)
【参照ページ】Circular Economy System Diagram (エレン・マッカーサー財団)
【参照ページ】Cradle to Cradle Products Innovation Institute
【参照ページ】無駄を富に変える:サーキュラー・エコノミーで競争優位性を確立する(アクセンチュア)
【参照】 “Quick Guide to Sustainable Design Strategies” Layla Acaroglu (2020)