環境負荷を低減し経済性を向上させ、サーキュラーエコノミーに貢献するビジネスモデルとしても知られるシェアリングエコノミー。コロナ禍においては、環境面・経済面のメリットのみならず、シェアリングを通して生まれる人の「つながり」が、ウィズコロナ時代に欠かせない価値観の一つとして大きな注目を集めている。

そんなシェアリングエコノミーの概念や考え方、トレンド、最新事例や企業の取り組みについて学ぶことのできるイベント「SHARE SUMMIT 2021」が10月5日、オンラインで開催された。

本記事では、セッション「DXで起きるビジネスシフト 〜しなやかな経済発展と社会課題解決の両立は可能か〜」をレポートする。同セッションでは、コロナ禍によって消費のデジタル化が加速し、データとIT技術を駆使してサービスを届けるビジネスモデルへの変革が求められる時代において、持続可能なビジネスモデルと日本が抱える社会課題をDXはいかに変えることができるのか、その先にある消費体験やライフスタイルはどう変容していくのか、などについて議論された。

モデレーター

  • 中山 亮太郎 氏 : 株式会社マクアケ 代表取締役社長

登壇者

  • 島田 貴博 氏 : 三菱商事株式会社 物流開発部 デジタルロジスティクスプロジェクト マネージャー
  • 加形 拓也 氏 : 電通デジタル サービスイノベーション事業部 事業部長
  • 清水 孝治 氏 : SREホールディングス株式会社 執行役員 兼 DX推進室 室長

DXは様々な業界、企業において既に実践フェーズにあるが、成功事例ばかりではない。DXを成功に導くうえでの思考やアクションのコツなどについて、登壇者3名と各社における事例を交えながら議論が行われた。


セッションの様子

島田氏(三菱商事)

三菱商事株式会社が展開しているサービスSUMARIは、町なかにあるコンビニエンスストアなどで利用可能な非対面の商品返品サービスである。コンビニに対して商品を配送した後、荷台が空いたトラックを活用し、コンビニから倉庫に返品された商品を回収し、各EC事業者に戻されるという流通網になっている。このサービスの提供を開始した当時、ECの普及により利用者による購入済み商品の返品というニーズが高まってきていたものの、返品に特化した物流サービスは存在していなかった。同時に、既存の物流においては、商品を届けた後の空き便問題(空のトラックを走らせるだけでも二酸化炭素を排出してしまう)があり、これをデジタルで解決できないか、という出発点からサービスの検討を開始した。EC物流の増加、コンビニ店舗数の増加、配送ドライバーの人手不足という課題の解決と、環境意識の高まりに応えようという点が導入の背景にあった。ステークホルダーは上記に対する共通の課題意識を持っていたため協議は進めやすかったが、コンビニの運営に際しては、フランチャイズオーナーの手元にどのように利益を残せるか、という点が導入を考える上で難しい点であった。

加形氏(電通デジタル)

顧客企業に対しコンサルという形で事業に参加するケースが多いが、DXに目的をおいてしまうとうまく進みにくいケースが多い。DXによってビジネスモデルそのものが変わり、結果、人の動きを大きく変えることになる。AIの導入が従業員の仕事を奪うことになるかもしれないし、既存の得意先との関係を壊す可能性もあるかもしれない。新しいビジネスモデルを創ることに成功すると、DXに関しては一歩踏み出せたと言えるだろう。

清水氏(SREホールディングス)

清水氏の所属するSREホールディングスは、ソニーグループ内の子会社として設立されたソニー不動産が社名変更して現在の形になっている。社内で成功したDXを他社にも広げることに成功しており、不動産会社をターゲットとして提供されるクラウドビジネスは1,000を超える企業に導入されている(*)。もともとソニーグループ内の研究所でAIの技術を持っていたが、何に使うかという具体的なアイデアがなかった。一方で、不動産業界にはデータが多く存在するが、属人的なデータの持ち方(担当者によって価格付けが変わるなど)をしていたため、この部分にAIを活用しよう、という考えからスタートしたプロジェクトである。

全国に12万社存在する不動産会社のうち95%は従業員10人以下のスモールビジネスであり、DXを自分ごととして捉えにくい状態にあったが、コロナ禍により対面での営業が出来なくなり、オンライン営業や内見などにシフトする必要に迫られ、業界全体でのDXが後押しされた。

(*)ディープラーニング(深層学習)技術に不動産取引特有のデータやノウハウを導入し、同社が独自に開発した不動産価格推定エンジンなどを用いた業務支援型クラウドサービスを不動産業界や金融機関向けに提供している。

議論の中で、DXを成功させるための事業の始め方として「出島」というキーワードが登場した。三菱商事における返品サービスやソニーグループにおける不動産サービスのいずれも、その企業がもともと展開していた本業とは異なるフィールドを「出島」として、そこでデジタル技術を活用して何かしらの社会課題の解決を図るサービスを開始した結果、それらが成功につながったという事例である。

また、今後の消費行動の変容をどう予測するか、という議論においては、島田氏より「二次流通」を重要視するようになるだろうという指摘があった。消費者は商品を購入し、商品を使用し終わった後、メルカリ等で販売するなどの二次流通を視野に入れ、買ったものを再度売る前提で「売る時に高く売れるか」を考えて購入するようになる、という予測である。再販を視野に入れれば新品購入時に少し価格が高いものでも買うようになる可能性もあるし、不動産や自動車などを購入する際のリセールバリューという考え方が、それ以外の分野にも広く浸透していくという視点は、商品を作り販売する側のビジネスにどのように影響を及ぼすか、大変興味深い。サーキュラーエコノミーという視点においては、ほぼ使い捨て目的でトレンドの商品を安く購入し、ワンシーズンで廃棄する、といった消費行動の変容につながることが期待できる。

同セッションのグラフィックレコード(一般社団法人シェアリングエコノミー協会提供)

【参考】SHARE SUMMIT 2021公式ページ