株式会社インフォバーンが運営するイノベーターハブ「Unchained」とベルリン発のテクノロジー・カンファレンス「Tech Open Air(TOA)」は2021年2月15日(月)・16日(火)の2日間にわたって、オンラインイベント「TOAワールド・ショーケース2021」を開催した。今回の全体テーマは「Re-Inventing Everyday 〜日常を”再発明”する〜。」テクノロジーが社会をどう変容させ、社会のあり方を変えていくのか。学際的視点からさまざまな意見が交わされた。
今回は、ディスカッション「The Momemt Of New Transformation-Innovating The Circular Economy-今そこにある大転換、サーキュラーエコノミーをイノベートする」のなかから、特に印象に残った部分をご紹介する。
モデレーター
遠藤祐子氏(MASHING UP 編集長)
登壇者
田原純香氏(株式会社メルカリ Branding team manager、ESG lead)
稲継明宏氏(株式会社ブリヂストン Gサステナビリティ推進部長)
間内賢氏(みんな電力株式会社 事業本部マネージャー)
冒頭写真の左から順に遠藤氏、田原氏、稲継氏、間内氏
なぜ、今サーキュラーエコノミーに取り組むのか
まず、モデレーターの遠藤氏による、企業が現在求められている価値転換の共有からディスカッションはスタート。日本の企業はこれまで、コストを抑えて効率良く生産し、大量に販売するというモデルと共に成長してきたが、環境問題や働き方などさまざまな社会課題に直面したことで、価値転換が強いられていると説明した。
こうした状況を踏まえつつ、なぜ今サーキュラーエコノミーに取り組むのか、サーキュラーエコノミーの文化を企業内でつくるためにどのような取り組みを実施しているかについて、各社の考えが紹介された。
稲継氏:当社がサーキュラーエコノミーに着目したのは2015年頃だが、実際にそれが経営と結びついてきたのはここ数年だ。当社の課題は、創って売るというビジネスモデルからの変革だった。顧客はタイヤを買いたいのではなく、移動手段として求めていることを踏まえ、タイヤの価値をいかに最大限に活用していくのかを考えたときに、サーキュラーエコノミーの概念がビジネス変革の意味でもマッチして経営戦略に組み込まれた。社内の経営層に対しては、サーキュラーエコノミーは単なる資源循環ではなく、ビジネスモデルの変革や経営ツールであることを、当社の取り組み事例と合わせて説明していった。
田原氏:当社の創業理念は、サーキュラーエコノミーを目指すところにある。メルカリは売る側と買う側の両方がいないと成立しないサービスであることから、創業当初はいかに多くの人に使用してもらえるかに注力しており、サーキュラーエコノミーを目指していることをあまり押し出していなかった。そんななか、ESGというスキームを活用して企業価値を社会に伝えるため、2年前にESGチームを発足した。サーキュラーエコノミーについて社外に発信したり、社員が楽しく参加できるようなB級品のマグカップをリユースするワークショップなどを開催したりしている。
間内氏:電力業界は、発電・送配・小売部門や、市場を監視する委員会など、ステークホルダーが極めて多いという特徴がある。そんななか、ユーザーに対して「コンセントの先を考えたことがありますか?」という問いを当社はいつも投げかけている。なぜなら、無関心なユーザーが多い一方で、全国には非常に熱い想いを持った多くの電気生産者がいるからだ。当社はこれまで、そういった生産者を見える化し、どんな想いで電気をつくっているかをユーザーに伝えることで、価格だけではない価値提案を心掛けてきた。自然エネルギーは価格で判断されがちだが、ESGやSDGsにも目を向けることが重要だ。また、社内の若い世代に当社の取り組みの意味が伝わっているかを意識している。
そもそも、サーキュラーエコノミーとは何なのかを理解しないままに行動に移すのは難しい。そのため上記のように、サーキュラーエコノミーの概念やその実現への取り組み事例を消費者や社員にいかにわかりやすく伝えられるかという点を各社は重視している。
また、サーキュラーエコノミーに関する社内でのギャップについて、田原氏より国籍の違いが言及された。特に欧州出身の社員は環境に対する意識が強いため、メルカリが目指すべき社会について、自主的に社外に発信する人が多いとしている。稲継氏は、年齢によるギャップを感じると述べ、そのなかでもミドル層による理解がカギを握るとしている。
サーキュラーエコノミーの実現に必要な価値転換
続いて、サーキュラーエコノミーの実現に必要な価値転換について、各社の考えが共有された。
間内氏:価値転換というよりは変革であると考える。一般消費者であれば、電気を切り替えるだけでもCO2排出量の削減につながり、サーキュラーエコノミーに貢献できる。企業に関しては、これまで再生可能エネルギーの電気をコストとして見ていた考え方をアップデートし、どのように価値に変換していくかが重要になってくる。
稲継氏:サーキュラーエコノミーを、いかにビジネスモデルとして捉えるかが焦点だ。当社は現在、タイヤを販売して使用した後に原材料に戻すことを考えており、こうした取り組みは社会や当社の事業モデルをより持続可能なものにする。しかし、それは当社だけでは成し遂げられないため、さまざまなパートナーと共創しながらどのように実現していくかが挑戦といえる。
田原氏:価値転換には、強制的なものと自発的なものの2つがあると考える。前者の例として政府が主導するレジ袋有料化があり、こうした取り組みにより私たちの価値観が変わらざるを得なくなるのも一つの効果だ。一方で企業としてやるべきことは、自発的な「こっちの方がいい」という状態をつくっていくことであると考える。そのためには、生活者にとってのメリットを企業がいかに提案できるかが重要だ。
価値転換は企業だけでは成し遂げることが難しいため、上記で紹介されたように、業界全体における考え方のアップデートや企業間連携、消費者による自発的な取り組みの促進などが必要となってくる。
最終消費者に何を求めるか
最後に、最終消費者にどのようなことを求めるかについて、各社からメッセージが送られた。
間内氏:食品の原料を見るのと同じように、自分が選んでいる電力会社の電源構成を知ってほしい。払ったお金は何に使われるのか、再生エネルギーはどこから調達しているのかなどを意識して見てほしい。
稲継氏:常に選ばれる会社であり続けたい。当社のタイヤを選んでもらうことでどのような価値が生まれるのか、タイヤづくりへの想いをわかりやすく発信していきたい。
田原氏:どんなものにも価値があることに気付いてほしい。多様性に富んだ人たちが市場に参加することが、モノを滑らかに循環させるには必要なことだ。メルカリで出品し、モノとの出合いを感じてほしい。
普段利用している製品・サービスの内容はどのようなもので、どこから調達しているのかといった問いを自分自身に投げかけて、私たちの身近にあるものに目を向けていくことが重要といえるだろう。
編集後記
なぜ、いまサーキュラーエコノミーに取り組むのか。この問いに対する各社の考えから見えてきたことは、サーキュラーエコノミーが、製品・サービスの価格や使いやすさだけではない企業の「価値」を最大限に発揮・活用するための一つの軸になりつつあるということだ。ディスカッションで紹介されたように、サーキュラーエコノミーを経営戦略に組み込んだり社外に発信したりする動きは、今後あらゆる業界に広がっていくことが予想される。
今回のディスカッションでは、サーキュラーエコノミー実現のための価値転換についての考えも紹介された。「価値転換」というと大きなものに捉えられがちだが、基本に立ち返ると「いかに自分ごと化できるか」がその成功のカギとなると感じた。企業では自社製品やオフィスで使うアイテムを活用したワークショップを開催したり、消費者においては普段利用しているサービスを見直してみたりするなど、さまざまな社会課題が顕在化して関心が高まっている今だからこそ取り組めることがあるだろう。
【参照サイト】TOAワールド・ショーケース2021
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